【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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22話 バラムガーデン

 

バラムガーデン、それは憧れの施設。

その見た目は、青と白で構成された巨大な巻貝と形容すべきだろう。

他の物で形容する事もできるが……。あまりこの学校の事を不適切な言葉で例えたくはない。

まるで魔法陣とも天使の輪とも取れる光のリングが真上に浮かぶそれは、この世界で唯一G.F.の使用を推奨している傭兵学校だ。

夕陽が沈みかけて薄暗くなってきた中で見るバラムガーデンも乙なものだ。

リングの放つ優しい光の輝きは心を落ち着かせてくれる。

そんな憧れの建物に、私は再び足を踏み入れる事となった。

 

 

 

ダンスホールに入り、早速リノアと別れて行動する事にした。

 

「ちょっとお腹痛くてさ……トイレに行くから誰かと踊るかシド学園長でも探しててよ、結構長くなりそうだから気にせず楽しんできて」

 

私はゾーンをリスペクトした完璧な言い訳をしてその場を離れる。

森のフクロウの姫様は、何のためにダンスの練習したの? とプンスコ可愛らしく文句を言っていた。

 

観葉植物の影に隠れながら辺りを見渡すとダンスホールの壁側にいるスコールを発見した。

産まれたての頃の彼は知っているが、あの皺くちゃの赤ん坊がこんなスタイルの良いイケメンに育つとは生き物の神秘を感じる。

 

リノアの動きを陰ながら観察する。

 

そろそろ二人の馴れ初めになる例のシーンが始まる筈だ。

私はジャンクションで視力と聴覚を強化して目を凝らしながらその現場を隠れて見守っていた。

その時、女性が背後から私に声をかけてくる。

 

 

「あなたこんな所で何してるの?」

 

「いや、知り合いがいるので影ながら見守っていまして……」

 

私は今、誰かに構っている暇は無い。目線を外さず必死に名シーンを焼き付けようとしていた。

 

 

「あの黒髪の彼女? もしかして貴方の恋人かしら?」

 

うるさいな……。そんなに話したいなら壁にでも話してろよ。

お誘いは嬉しいが警備関係者じゃないのなら今は放っておいてくれ。

そう思いながらも態度には出さず目線はそのままで適当に返事を返す。

 

 

「そういう訳じゃ無いんですけどね、まあ保護者に近い立場になるのかな」

 

「へぇーそうなんだ、ん? スコールも一緒にいるわね……」

 

「うおっ! 来た……」

 

例のナンパが始まった!

リノアは指をぐるぐるまわした!

スコールはこんらんしている!

 

 

「なんだか見た事のある気がする声のかけ方……。あれは貴方が教えたの?」

 

「いや、逆ですね。むしろ私が彼女に教わった側というか……」

 

強引にスコールをつれていくリノア。

新しいダンスのBGMがかかりだす。この曲がまたたまらんのよなぁ〜……はぁ〜。

 

 

「貴方、見てばかりいるけど参加はしないの? 踊る相手が居ないなら一曲どう?」

 

やけにしつこい女だな、全くはっきり言ってやらなければわからないんだろうか?

そう思いながら振り返ると、そこには呆れ顔のキスティス・トゥリープがいた。

 

「はい、喜んで」

 

私は速攻で心変わりした。

 

 

 

彼女の腰に手を添える。

握り合った手を揺らしながらリズムをとり、私とキスティスは踊り出した。

ステップでお互いの波長をすり合わせながら動きを慣らしていく。

 

 

(リノアにダンスを習ってて良かった……)

 

私よりも小さい手、細い腰、整った顔、控えめにつけられた上品な香水の匂い。

それらが気になっていたのは踊り始めた最初の頃だけだった。

 

好きな音楽で好きなキャラクターと一緒にダンスする。

私は次第にその状況に嬉しさと楽しさを抑えきれないようになり、ノリノリで社交ダンスを踊っていた。

小手調べで牽制し合うような時間を終わらせるためにテンポを上げていく。

キスティスも何かを振り切ったように私のステップについてきた。

 

当然だ、彼女ならこの程度ついてくるだろうという信頼の上で動きを加速させたのだから。

ところが彼女は更にテンポをあげていく。

「今度は私の番よ? ついてこれる?」

口に出さずとも、キスティスの挑発的な瞳と笑顔が言いたい事を物語っていた。

声の代わりに笑顔を深めてOKの返事をする。

追い縋った私は足並みを揃えた。

 

 

 

時間も忘れて踊り合う。

普段使わない筋肉を使用したせいで少し汗が出てくる、心拍数が上がっていくがむしろそれが心地よい。

 

踊りの練習はしていたが、実際にダンスホールで複数の人達に囲まれながら踊るのは初めての経験だった。

周りの邪魔をしそうになるとキスティスが私をリードして立ち位置を調整してくれる。

そんな彼女がとても頼もしく思えて、私は体の指揮権を目の前のSeeDに委ねた。

 

 

私とキスティスの踊りはヒートアップし、周りの踊りと比べて浮いていたかもしれない。

でもそんな事は気にならなかった。

 

回りながら私に向かってくる彼女を巻き取るように受け止めて私達は組み合い、曲終わりに背を反らせてポーズを決めた。

次のメロディに行くまでの束の間、音楽が止まり打ち上げ花火の音がこだまする。

 

二人は天井の窓ガラスの先にある夜空を見上げて、ホールを照らす花火を眺めた。

夜空を見ていた私達の視線は、いつのまにかお互い瞳に映り込む花火を見ている。

 

図らずしも、スコールとリノアのダンスシーンみたいな事をしてしまっていた。

花火もキスティスも素直に綺麗で……意識していた訳じゃ無く自然と見つめあっていたのだ。

 

 

「貴方ダンスも出来たのね。かっこよかったわよ」

 

彼女は続ける。

 

 

「私ね、今日落ち込む事があったの。でもなんだか貴方と踊ったお陰でどうでも良くなっちゃったみたい」

 

そう話す顔はとってもスッキリとしている、確かに今の踊りは良かった。

私は正直に言った。

 

 

「練習はしてたけど、ちゃんと踊るのは今日が初めてなんだ。実際にダンスホールでやる社交ダンスがこんなに楽しい物だとは思ってなかったよ……」

 

格好をつける気にもならないのは、話しやすい彼女の雰囲気のおかげだろうか?

 

FF8とはまた別の、前世からあった物に対する楽しさを今更知るとは意外だった。

そういえばセルフィからも楽器の楽しさを教えてもらった気がする。

原作キャラから原作とは関係ない事を学ばせて貰う、というのもなんだか不思議な話だ。

 

汗が出てきた私達は誰も居ないバルコニーを選んで、夜風に当たりながら話す事にした。

 

 

「実はね、あれから教員免許を取って念願の教師になれたの……でも1年で指導力不足の烙印を押されてトゥリープ教員はクビ! って言われちゃった」

 

平気そうに話すキスティスは強がっているだけで、心の中ではまだ傷ついているのだろう。

それを想像して私の心は締め付けられた。

 

 

「本当は教師が仕事の時間に踊るなんてよくないんだけど……。もう辞めるから思い切ってルール違反しちゃった」

 

そういう所がダメだったのかもね。そう言って笑うキスティスは夜空を見上げて想いを吐き出した。

 

「あーあ、頑張ってきたつもりだったんだけどなぁ〜」

 

明るく残念がる彼女はその言葉に反して悲しい気持ちを抱いている……という風には見えなかった。

なんか思っていたのと違う。

強がっている様には見えず、むしろ暗い気持ちは既に乗り越えかけているような清々しい表情。

 

想像していたより遥かに強い人だった。

きっと何度傷つき折れても立ち上がるのだろう。

尊敬できる人間というのはまさに彼女みたいな人の事を言うのかもしれない。

私ならこういう人に教え導いて貰いたいと思う。

 

 

「貴方も応援してくれてたし、なんだかそれを無碍にしちゃったのは申し訳ないのよね……」

 

「それなら私もキスティスの言葉を無碍にしてるからおあいこだね」

 

「私の言葉?」

 

不思議そうに尋ねる彼女は無意識に可愛らしく首を傾げた。

不意に出たその仕草は年相応の物なのだが、何故かギャップを感じて新鮮に映った。

赤くなりそうな顔を夜風で冷ますため、外の景色に顔を向けながら私は言う。

 

 

「うん、前に君に相談された時……私はずっと、よくこんな場所でまじめに話せるなって考えていたんだ。だから……その……なんて言って応援したのかも憶えてない」

 

本当は覚えていた。

当たり前だ、私が原作キャラとの思い出を忘れる訳が無い。

酒でも入っていない限り、その相談に軽い気持ちで対応するなんて事も絶対にしない。

私は彼女の心を軽くしたいと思ったのだ。

 

 

「なんか真剣に考えてくれて嬉しいけどごめんね」

 

だから慰めの為に少し嘘を吐いた。

 

「何それ……私は真剣に相談したのに信じられない……! …………なんてね、気をつかってくれてありがとね」

 

怒った振りをした後、笑って感謝を述べるキスティス。

どうやら嘘で彼女の心を軽くしようとした私の魂胆は、完全に見抜かれているみたいだった。

小手先の慰めは簡単に包み込まれて、優しさで受け止め返されてしまった。

前に会ってから3年ぐらい経つだろうか……?

その間に彼女は教師という立場を経験し、他人を見る事が上手くなっているらしい。

 

 

(これではどちらが慰められてるのかわからないな)

 

あの頃よりも大人びた彼女の包容力のおかげで、私が先程まで感じていた心配はすっかり消えていた。

やはり彼女は優秀なのだ。

これで教師として失格扱いされるバラムガーデンの競争社会恐るべし。

それともサイファーの問題児っぷり恐るべしか……。

 

 

二人で話しているとリノアが遠くで手紙を持って私を探してるのが見えた。

私たちが休憩している間にいつのまにかシドに会い、目的を達成していたらしい。

そういう訳でキスティスとはお別れだ、名残惜しいが終電が来る前に帰ろう。

 

 

「連れの用事が済んだみたいだ、今日はそろそろ帰るよ。……ダンス誘ってくれてありがとう。とっても楽しかった」

 

「あの可愛い子? 妬けるわね、でも彼女じゃないんだっけ? なら私にもチャンスはあるのかしら」

 

そんな事、軽々しく言ったら駄目だ。

この時点の彼女がスコールの事を好きだと知っている私だからよかったものの、そんな事言われたら男なら誰でも好きになってしまうだろう。

 

もしかして普段こんな事言ってるから教師クビにされた可能性があるんじゃないか、とまで勘繰ってしまう。

私の中で徐々にキスティスは、『イケナイ授業で男児の純情弄び罪』によって教師失格の烙印を押された説が濃厚になってきた。

そんなお茶目なキスティスの冗談に、私も本気か冗談かわからない言葉を返した。

 

 

「私が仮に既婚者だったとしても君に誘われたら断れないね」

 

「ふふっ……私、軽い人は嫌いよ……? じゃあねクレイズ、久々に会えて今日は楽しかったわ」

 

なんて事だ、普通に素気無くフラれてしまった。……弄ばれた。

冗談なんて言わなきゃよかったかなと少し後悔する。

まあ、今日は私とのやりとりを楽しんでくれたみたいだし、それで良しとするか……。

うっ……キスティス先生だいしゅき……。

 

 

気持ちの悪い思考がヒートアップして漏れ出す前にキスティスと別れ、

リノアと合流してティンバーに帰還する。

スコールのダンスシーン見逃したな、そう思いながらも私は何故かその事に全然後悔を感じていなかった。

 

 

 

帰りの電車の部屋の中でリノアと今日の話をする。

 

 

「たまたま知り合いと会ってダンスしてたんだ、まさかちゃんとした場でやる社交ダンスがあんなに楽しいとは思ってなかったよ!」

 

溢れ出す嬉しい気持ちを報告した私に、訝しげな表情でリノアが言った。

 

 

「クレイズ、もしかして……今日依頼しに来た事忘れてナンパしてた?」

 

リノアの話を聞くとどうやら私は今日、ナンパ目的でついて来たのではないか? という疑惑がかけられていた。

まるで私が普段から女に声をかけまくっているようではないか、明確にそういう意識で声をかけたのはキスティスだけである。

それに実際にナンパしていたのはリノア先生の方だった筈だ。

しかしそれを言い返すには今日は何もしてなかったなと気づく。

 

シド学園長に会って依頼の話をする事にも同行せず、任せっぱなしだった。

 

 

「もー頼りにならないんだから……」

 

そう言って呆れるリノア。

 

 

「クレイズは私よりも6歳も年上なんだから、もう少ししっかりしなきゃダメでしょ?」

 

まるでできない兄を叱る母の様な文言。

何時ものリノアママなら怒鳴っている場面だが、今回は声を荒げず落ち着いたトーンで話をしている。

まごう事なきガチ説教だった。

 

 

(違うんですリノアママ先生、貴女が頼りになりすぎるだけなんです)

 

私は内心そう思ったが口から出てくる言葉は、「はい……」と「すみませんでした……」と、

「今後はしっかりとやれるよう努力します……」の3つだけである。

 

 

「森のフクロウの大事な作戦はみんなの思いも詰まってるんだから、ちゃんとしなきゃダメだからね? わかった?」

 

「はい……返す言葉もございません……」

 

本編でスコール達のお荷物のような場面が多かった彼女が、実際はこんなに頼りになると思ってもみなかった。

全くの正論で内心ですら何も言えなくなる。

リノアだってスコールとのダンスを切り上げてシドに話に行ったのだ。

年長者の私がキスティスとイチャイチャしてるのは良くなかったかもしれない。

 

諭されて反省の気持ちが半分、原作キャラに叱られて嬉しい気持ちが半分。

そんな私が凹んでいるように見えたのか、アンジェロが頬を舐めて慰めてくれる。

 

(ありがとうございますアンジェロさん。でも涎でベチョベチョになってきたので、そろそろ舐めるのはそれぐらいにして頂いてもよろしいでしょうか……?)

 

これがアンジェロのヨダレの臭いか、これもまたゲームをするだけでは得られなかった情報だ。

もしかすると、この機会を逃すともう二度と知る事ができなくなるかもしれない。

FFは特定のタイミングによる取り逃がしには厳しいゲームだ。

ならば今はチャンスを逃さず味わい尽くすのみ。

 

結局、私の顔はリノアママ先生が気づいて止めるまで電車の中で舐められ続けたのだった。

 

 




リノアママ先生言わせたかっただけ。
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