【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
アジトに戻った私とリノアは戦利品の契約書を見せびらかした。
「じゃーん! シド学園長に言ったらSeeD、来て貰える事になりました! やった!」
「おおおおお!」
リノアの勝利宣言にメンバー達からどよめきが起こる。
「明日来て貰えるんだって、サイファーが来てくれたら良いな……」
私以外全てのメンバーが同じ気持ちだった。
要請を送った半日後に即派遣して貰えるなんてやっぱりプロの傭兵は凄い、とアジトが賑わう。
私はスコール、ゼル、セルフィという主人公メンバーと会える嬉しさや、今後の事など。
明らかに森のフクロウメンバーとは違う事を思っていた。
こんな時こそしっかりと眠らなければいけないが、既に色々な思いで脳がギンギンである。
起きない時はよろしくと脳内のコヨコヨに頼み、スリプルを自分にかけて無理矢理目を閉じた。
普段から野宿して寝ている間にモンスターと遭遇する事だって勿論ある。
そんな時にはコヨコヨに起こして貰うのが常だった。
ついに夜が明けて朝が来た。
スリプルをかけたせいで何時ものように声だけでは起きる事が出来ず、
自力で顕現してきたコヨコヨの頼りになる細腕でペチペチと殴られて起床した。
鏡でヘアセットを確認して、G.F.に叩かれて顔についた赤い跡をケアルで治療する。
寝癖があっても親から貰った顔面偏差値の高さは揺るがないが、今日は森のフクロウにとっても私にとっても大事な日だ。
少しでもカッコよく見えるように、やれるだけの事はやるつもりだった。
いよいよSeeDが派遣され、ティンバーについたようだ。
ワッツの案内でアジト列車に乗り込んでくるSeeDの3人。
実際に近くで見るスコールの顔がイケメンすぎる。
自分とは違うクールなタイプのかっこよさに目が灼かれそうだ。
額の傷が似合う人間なんているんだなと驚愕しかない。
そして何故傷を治さないのか理解した、おそらく治す必要が無いからだ。
残しておいてもかっこよさに何の問題も生じていない、なんならあった方が個性的でカッコよさが上がるまである。
自分の額にも傷、つけてみようかな……。
ゾーンとワッツの隣でそんな事を考えてそわそわしながら、リーダーの挨拶が終わるのを待つ。
「俺はゾーン、レジスタンス森のフクロウのリーダーをやっている。よろしく」
握手を求めたゾーンの手を無視してスコールは冷たく言った。
「馴れ合いはしない、どんな関係でも雇用主に従い命令を遂行するのがSeeDの仕事だ」
スコールの言葉と態度に空気が冷えて現場がピリついた。
お遊び気分が微塵も存在しないプロとしての言葉。
今更ながらプレッシャーを感じたのか、ゾーンが自分の腹に手を当てさすっていた。
しかし当然のように私は、実際に主人公一行に会えた喜びを我慢できない。
前に出て自己紹介をし、微かに震える右手を差し出す。
「SeeDに会えるなんて感激です……! よければ握手してください!」
私の出した手が一瞥されて、先程の焼き増しが行われる。
握手を無視するスコール・レオンハート、彼はラグナとレインの間に産まれた子供だった。
私は生後1年未満の彼しか見たことが無いので……ほぼ赤の他人だ。
ダンスパーティでもそうだったが、懐かしいなとかすら思う事も無く完全に原作主人公だという認識しかない。
でなければこのようなミーハー気分ではいられない。
彼は当然私の事など覚えていないし、今の私に対して思う事など「リーダーが求めた握手をスルーしたのに何を考えてるんだ?」程度のものだろう。
初期スコールらしい冷たい対応、最高だ……これを待っていた……。
普通は初対面で、雇用主の関係者に差し出された握手を無視なんてしない筈だ、常人は。
そういう事が平然とできるというのはある意味才能だ。
それはそれでスコールがやるのはとてもカッコいいと思うのだが、萌ポイントは少し違う。
この他人に頼らず生きるクールで冷たい彼が、リノアのアグレッシブな行動の積み重ねによって心がこじ開けられ、
番組後半では愛に目覚めて理屈を投げ捨てて突っ走り、最終的に仲間の尊さを知って朗らかに笑うようになる。
その感動を思うと、それだけで私の瞳の奥からウォータが迫り上がってくるのだ。
FF8のエンディングはやはり最高だ……。そう思いながら瞼を閉じて頷いた私を見て、ゼルが驚いた。
「うおっ! おいおい……スコール、泣かせちまったじゃねぇか……。ほら俺は握手してやるから泣くのやめろって……な?」
ゼルはついつい涙が滴れた私に困惑し、慰めつつ握手に応じてくれた。
気の良い兄ちゃんだ、顔の側面に彫ってあるタトゥーがよく似合っている。
この世界、意外とタトゥーを入れている人が少ないのだが、よくゼルの肝っ玉母ちゃんは入れるのを許してくれたなと思う。
彼は急に涙を流す不審な成人男性と握手をしてくれる勇気ある漢だった。
サイファーに馬鹿にされるようなチキン野郎などではない、立派で勇敢なチキン野郎だ。
掌に当たるゼルのグローブの感触、ここに彼の努力と血と汗が染み込んでいるのだろう。
鍛えられた手を味わうように揉みさすりながら両手で握手すると、めちゃくちゃ怪訝な表情でこちらを見てきた。
「泣くほど握手したかったんだね〜。えへへ〜、私もSeeDだから……はい、どーぞ!」
セルフィもなんだか照れながらも元気に握手に応じてくれた。
トラビアの学園祭では見たがこうして実際に話をするのは初めてだ、いや……顔も仕草もすんごくかわいい。
オーバーオールとワンピースを足して二で割ったような黄色服の露出度が中々高いので普通に緊張する。
流石に女性の手をむやみやたらと揉んだり撫で回すような真似はしない。
うっ……柔らかくて指が細くて本当はもっと長く触りたい……。
我慢しろクレイズ・オクトー、そんな事で両親に顔向けできるのか? 単純にセクハラだぞそれは……!
だが、先程ゼルの手は揉んだ。
私は男女で差別はしない……スコールが相手でも揉んでいた筈だ、セルフィのも揉む……!
そんな言い訳を真剣に探していたら、そろそろ離さないと違和感を覚えるぐらいの時間手を握っていた。
名残惜しいが仕方ない。
少し不自然な長い握手の後、セルフィは「ひゃぁ〜」と照れるような反応で唸っていた。
我々の作戦を説明する前に、ワッツがまだ寝ているリノアを起こしに行って貰う命令をスコールに出す。
無理矢理起こされた時のリノアは機嫌が悪い。
なので美少女の部屋に入れるチャンスなのに、私以外誰もその役目をやりたがらないのであった。
個人的に寝起きのリノアに睨まれたり枕を投げつけられたりするのは完全にご褒美なので、私は機会があれば進んで起こしに行っていた。
私には作戦会議の準備があるので、姫様を起こす大役はスコールに任されたらしい。
まあ、今回ばかりは私に任されても横流ししていた案件だ、後は若いお二人さんでどうぞ……へへへ。
しかし塩対応されたばっかりなのに、そんな命令を出せるワッツは肝が据わっている。
案の定スコールに「こんな命令は最後にしてくれ」と冷たく言われていた。
ゾーンが腹痛でしゃがみ込んだり、ワッツが森のフクロウの事を解説したりと色々していると、
未来の旦那様に起こされたリノアがやって来て、ようやく大統領誘拐作戦の説明が始まったのだった。
ここから先、私がストーリーの流れを変えずに関われる事は少ない。
実際に誘拐ミッションをクリアした彼等は、列車で来る大統領が影武者だった事で作戦失敗となる。
ティンバーはガルバディア兵の警戒網が敷かれ、大統領がテレビ出演し魔女とガルバディアが手を組んだと発表された時、
サイファーの乱入事件が起こり、我々はティンバーを脱出しなければいけなくなる。
誘拐失敗直後、私はリノアからガーデンとのSeeD雇用に関する契約書の控えを借りて、学園東行き列車の切符を確保した。
サイファーが放送に乱入して大統領の演説を邪魔し、現場が騒然となる様子が映像に映る。
サイファーを追いかけて来たキスティスがスコール達に要請を送る放送が流れた。
実際にこの場面を見れたファン心理の嬉しさと、これから魔女の僕となり、凋落が始まっていく
仕方ないとはいえ心地良いものでは無い……。
そんなわけで、ガルバディア軍の包囲網を敷かれたティンバーから脱出する為に駅で列車を待っていると、SeeD達とリノアがやってきた。
おまけにキスティスも追加だ。
「クレイズ! 無事だったんだ!」
「貴方……もしかしてクレイズ!?」
私を見て喜ぶリノアと驚くキスティス。
こんな美人達に言い寄られでもしたらどちらか1人なんて選べない、モテる男は辛いな。
などと脳内で勝手にハーレム気分に浸っている私をよそに、セルフィが不思議そうな可愛い声で言った。
「な〜に? キスティスはクレイズと知り合い?」
「ええ、少しね……。でもまさか貴方がティンバーでレジスタンスをやってるなんてね」
「まあ、これには深い訳があってね……」
「貴方の深い訳ってどうせ可愛い女の子を追いかけてたとかそんなのでしょ? どう? 当たってる?」
「列車が来たから続きは中で話そうか」
私はそう言って完全に見透かされた事を誤魔化し、車内に乗り込んだ。
ひとつ言い訳するならば、可愛い原作女性メンバーだけじゃなく可愛い男性メンバー達も追いかけていた。
そこの所だけは見くびらないで頂きたい。
乗り物が大好きなセルフィがドアロックを開けろ開けろと騒ぐ。
スコールがカードキーを渡すとそれを引ったくり、即座に車両を探索し始めた。
無邪気なセルフィ、守りたい……この笑顔。
そうしてようやく我々は軍に包囲されたティンバーを抜け出して一息ついたのだった……。
これからリノアとSeeD達はガルバディアガーデンに保護を求める事となる。
同じガーデン関係者として緊急時には最寄りのガーデンに避難して指示を仰ぐ手筈となっているのだが、それについて行く気は無かった。
学園東駅で列車を降りる時、私は口を開く。
「実は……ちょっと外せない用事があるんだ、ここでは降りずにドールまで向かうからリノアは一旦君達に任せるよ。このままSeeDについていった方が安全だと思う」
「用事って……こんな時に? クレイズは一緒に来てくれないの……?」
リノアが不安そうに問う。
原作パーティに入る。そのお誘いはあまりにも魅力的で、私はついていきたくなってしまう。
でも、それはしないと決めていた。
「ああ、どうしても早いうちにトラビアまで行かなきゃダメなんだ、ちょっと寒すぎる土地だからリノアを連れてはいけない」
申し訳ない気持ちはある、しかしこの用事は外せない。
「いきなりで申し訳ないけどリノア、そういう訳でここで一旦お別れだ。また会えたらどこかで」
リノアは寂しそうにしていた。
自分でも勝手で冷たい事を言っているのはわかる。
今の私の行動はどう考えても無責任な大人でしかない。
これはリノアだけじゃなくキスティスにも失望されたかな……。
セルフィは「トラビアは私の故郷だからみんなによろしく〜」と出身地の話題に喜んでいた。
ガルバディアガーデンにいる筈の原作メンバー、最後の一人と会えないのは悲しい。
何時もの自分なら一目見に行っても良いかなと思ってたかもしれない、でもそれもやらない。
森のフクロウに所属して、彼らを隣で見ていたこのおおよそ2年間。
私にとって至福の時間だったが、それと同時に思う事もある。
情勢に流されながらも汗をかいている若者達の姿を見た私は、なんだか己が情けなくなっていた。
時に必死じゃなかったかもしれないが、自分にできる事をゾーン達はやろうとしていた。
生まれ変わって二十数年生きただけの私は、何を偉そうに諦観しながら保護者面をしているのだろう。
未来を変えないためとはいえ、森のフクロウの活動に力を注げないのがもどかしかった。
私だってまだまだ若者だ、彼らと同じ立場なのだ。
この世界のために何もしない……それは正しい事だ。
モンスター狩りをする日々だって、この世の人々のためにはなっている。
しかし、精一杯パトロールとモンスター狩りをやっていた昔と比べて、今の自分には余裕があるのだ。
それは悪い事では無い筈だが、どういう訳だか立ち止まっているような気がしていた。
結構の所、自分は世界各地を回っても何も成していない……。
そうやって感化されてから何かをしたいと思うようになり、準備してこの日を待っていた。
ドールについた私は、知り合いの家に置いてもらっていた荷物をまとめて船に乗る。
港からトラビア大陸にある森へと向い、チョコボに乗ってトラビアガーデンへと向かうのだ。
チョコボにヘイストを付与し雪原を駆け抜ける。
圧倒的な速度に振り落とされないよう私はジャンク屋に用意してもらった鞍に跨り、鐙を踏み締めてチョコボにかかっている手綱を握った。
景色が驚くほど早く流れていく中で、私とチョコボは凍える空気に耐えながら速度を上げ続けた。
ブリザガを属性防御にジャンクションしていなければ凍傷になっていたかもしれない。
トラビアに落とされるミサイルを止める気は今も更々無い。
だが、被害者を減らすのはストーリーの流れにおいて別に問題無い筈だ。
この日のために持てるだけのテントは用意した。
コテージやテントといったFFお馴染みのアイテムは、この世界の技術でグラビデを応用して小型収納を可能にしている。
そのかわり長期の耐久性には期待できないし、使い捨ての室温調整機能は長くは続かないが……無いよりはマシだろう。
私が用意した物資など森のフクロウに入ってから集め始めた微々たる物だ。
日々の趣味の合間に買い集めただけしかないし、そのために趣味に使う金を削って費用を捻出するなんて事もする気は無かった。
おまけに組織を立ち上げ大規模に物資を集めて継続的な支援、などという人生を注ぎ込む活動もしない。
中途半端だ。
本当はこんな事に自分の時間も労力もお金も使いたくない。
少しトラビアガーデンの人達と温かい会話をしたからといって、強い仲間意識を覚えたわけでも無い。
私自身もいまいち理解していない。
FF8が好きだから絆された? この世界に住む彼らの為に未来を変えたい? 無い無い。
むしろこの世界に住む人の為に未来を変えたくはないので、トラビアガーデンは犠牲になってくれというのが私の考えだ。
何かしたいという以外に被害を減らそうと思ったのは、強いて言うならセルフィの為かもしれない。
あの時学園祭で演奏を見て、彼女の悲しみを減らせれば良いと少し思ってしまった、それだけだ。
そんな言い訳じみた事を考えながら幾つかの夜を越えて、私とチョコボはトラビアガーデンに到着したのだった。
トラビアガーデンの教師、役員、生徒たちにそれぞれ話す。
私はティンバーのレジスタンス組織関係者でセルフィの雇用主兼、知り合いだと説明する。
バラムガーデンとの契約書を提出し身分を証明して続けた。
雇っているSeeDがティンバーの大統領襲撃現場に居合わせ、ガーデンが関与している事がデリング大統領に露呈した。
大統領襲撃にガーデンは無関係と判断されたと一度は通達された。
しかしその後、まだ情報は公になっていないが、私達の雇ったSeeDによってビンザー・デリングを暗殺。
それを知った魔女が各ガーデンに報復としてミサイル発射を決定した、と説明して避難勧告を出した。
ついでに小型に収納されたテントをまとめて入れてあるリュックサックを渡す。
物資というにはあまりにも少ないが100人分ぐらいはあるだろう。
用意したテントを強引に寄付して私はトラビアから逃げ去った。
本当に今起こる筈の流れでは、デリングを殺すのはSeeDでは無くガルバディアの新支配者として君臨する魔女だ。
ガーデンへの報復も魔女暗殺を計画したガーデン側が原因だ。
私はあの時ティンバーから離れたSeeD達をトラビアガーデンに来させる事無く、自分自身をガーデン関係者だとトラビアガーデンに身分証明ができる手段を思いつかなかった。
身分が証明できないままミサイルが来ると言っても信用されるとは思えない。
なので少し嘘をついた。
これで何も持たない奴が言うよりは私の避難勧告の信憑性が上がったのではないだろうか。
信じない選択をして死ぬなら、もうそれは私にはどうしようもないというだけの事だ。
森のフクロウのせいでミサイルが撃ち込まれる、というような図式になってしまったのは少し心苦しいが仕方ない。
もう既にアジト列車は破壊され森のフクロウはほぼ壊滅状態だし、真実はその内平和になった後にでもわかるはずだろうから許して欲しい。
後はトラビアの人達自身が頑張って生き残ってくれ。
私に出来ることなどこの程度だったが、避難誘導を早められただけでも充分だろう。
己が動く理由が定かじゃなかったとしても、被害を減らせるに越した事はない。
チョコボに乗って雪景色を歩き、港を目指す。
ゆっくりと風に揺られながら降る雪。
妖精の贈り物が舞っていた。
ここに来るまで雪原を駆ける事に必死で、そんな事を気にする暇すら無かった。
私の行動はトラビアガーデンの人達にとっての特別な何かになってくれるだろうか……。
降り積もる雪にそう問いかけたが、当然答えは帰ってこない。
そんな私を気遣ったのか、チョコボが代わりに一言鳴いてくれた。