【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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24話 ドール③

 

ドールに帰った私は何もする気が起きなくなっていた。

これが燃え尽き症候群というやつだろうか。

一応モンスター狩りはしてるがどうも集中していない。

まあそれは当然の事だ、何せ私の見ていない所でリノア達はスペクタクルなストーリーの真っ只中なのだ。

集中力も途切れる。

 

私がトラビアから帰って来た時には既に魔女のパレードは終わり、ガルバディアは魔女イデアが支配する国となっていた。

これから先、未来を変える気が無い私が出来ることなど殆ど無い。

そんな訳で今まで気を張っていたのが緩んだ結果、何をして良いかわからない状態に陥っていた。

 

何処かに行く気にもならない。

原稿も数ヶ月分をまとめて送っている為、急いで何かする必要も無い。

ドールはもう時間圧縮までストーリー上でも何も無い安全地帯だ、スコール達が色々解決するまで大人しくここに居れば問題無い。

 

 

そういう訳で私は友人の家に遊びに行く事にした。

パブのオーナーの家である。

 

 

「あら、クレイズくん、もう用事は済んだの?」

 

「ああ、おかげさまで無事終わったよ。荷物預かってくれててありがとう」

 

ほら入って入って。

そう急かす奥さんが私の数少ない友達だった。

 

ちょうどさっきクッキー焼けたのよ〜とお茶を出してくれる。

私たちがこれからやる事など当然決まっていた。

カードゲームだ。

 

あれから娘さんも大きくなり、そろそろ8歳か9歳ぐらいになるんじゃないだろうか。

娘さんは両親に似て順調にカードゲーマーとして育っているようだった。

今は遊びに行ってるらしい。

 

世間話をしているうちに準備が整う。

 

彼女は強い。

私が強いのはもちろん場数を踏んでいるからなのだが、普段からカードをするときはG.F.で脳の学習機能を上げて上達速度を速くしているおかげでもある。

ズルをしていると言われかねないが……別に思考能力を上げて頭を良くしているわけでは無く、

ヘイストで思考速度を加速させているわけでもないので純粋に養った実力ではあるのだ。

いや……まあ……人によってはこれは許せないレベルのズルかもしれない……。

 

しかしこの奥さん、何年もG.F.でカードゲーム経験値ブーストしてきた私と互角に渡り合う猛者だった。

当然、彼女は世間的に副作用が恐れられているG.F.を使っているなんてことは無い、ただの一般人だ。

そりゃパブのオーナーも勝てない訳だ。

 

一応パブのオーナーだって奥さん以外には負け知らずの強者なのだが、私と彼女の間に入ってくる事ができない。

そのぐらいにはレベルの差があった。

 

 

 

 

旦那さんには悪いが、暇さえあれば奥さんを訪ねてカードゲームをする日々。

まるでカード合宿をしているようだった。

迷惑じゃないかと聞くと、「クレイズくんになら迷惑かけられても良い……かな?」

という返答が返ってきてなんだか照れてしまう。

彼女は自分と対等に戦えるカードプレイヤーがいる事が本当に嬉しいらしく、私の事をいたく気に入ってくれていた。

 

そもそもなんでそこまで強いのか、と聞くと知り合いにカードゲームが大好きな女友達がいるらしい。

その人としこたまカードをしまくっていたら、自然と滅茶苦茶強くなっていたとか。

旦那が経営してるパブの近くに実家があるんだそうだ。

偶然にも、私はその情報に該当する人物に心当たりがあった。

 

 

「もしかしてその人ってカードクイーンさん? だとしたら何年か前取材したよ」

 

聞いてみると、やはりそのようだった。

なるほど、カードクイーンが友達なのか……。

という事は恐らく彼女にカードゲームを勧めたのは奥さんだった訳だ。

 

共通の知り合いが居た事で話が大盛り上がりして、益々カードの方も盛り上がる。

そんな毎日が続き、ただでさえ敵う者が少ない私達の実力は相乗効果で更に上昇していった。

 

 

ある日、モンスター退治に行くついでにちょっと寄ってカードしていくかと思い、パブのオーナーの家に行くと玄関で私の肌がピリピリと総毛立った。

何かがいる。

野生の感など無いと思っていたが、産毛が何かの波動を感じ取っている。

 

ガンブレードを握り、警戒しながら無断で玄関の扉を開けると先客と奥さんがそこに居た。

 

 

「クレイズくん来てたの〜」

 

声だけは呑気に喜ぶ奥さんだったが少し様子が違う。

いつも通り振る舞おうとする彼女は、私と同じく何かを感じ取って冷や汗をかいていた。

私に背を向けていた客が振り返り、こちらを視認する。

 

 

「あら? お久しぶりですね。まさか私の友達とお知り合いだったとは、意外と世間は狭いようですね」

 

振り向いた先客……赤いケープを羽織った女。

カードクイーン、その人が自然体で手を空中に漂わせながら挨拶した。

 

こいつだ、こいつには我々を警戒させる何かがある。

私と奥さんはそれを本能的に悟った。

数年前に取材した時は無かった物をこいつは得たのだ……!

 

 

「ご、ご友人同士仲良くやっているところにいきなりお邪魔してすみません。──早速ですがやりますか……?」

 

正体不明の恐怖に急かされ、我慢できなくなった私の言葉にカードクイーンは頷いて言った。

 

 

 

「私はこのエリアには無いルールを知っています。此処と宇宙のルールを混ぜて勝負をしましょう」

 

 

 

この女、いつのまにか鎖国しているエスタの宇宙ステーションにまで足を運んでいたのだ。

 

私と奥さんはランダムハンドの暴威に晒され、しこたまカードをむしり取られた。

宇宙ルールとは全てのルールを適応するという事である。

奥さんも私もルールには精通していたはずだった。全てのルールを試してプレイだってしていた筈だ。

だが私達がいつもやっていたルール全乗せとは明らかに違ったのだ。

何が違うのかわからない、宇宙ルールという言葉だけしか違いが無いはずなのに。

 

私達はおそらく、カードゲーマーの魂に刻まれた恐怖に敗北した。それだけはかろうじて理解していた。

 

 

カードクイーンは荒らすだけ荒らして帰っていった。

後に残された私達は、半泣きになりながらテーブルに散らばったカードを片付けて、崩れるようにソファに腰を掛ける。

 

カードクイーンはドールに帰ってくると必ず奥さんの所に寄るらしい。

まあ友達だという以上に私と同じ目的だろう、中々強者に出会い辛いのがこの世界のカードゲームである。

何故、強い人が少ないかというと情報伝達に滞りがあるからだ。

 

電波は宇宙から放たれている強力な磁場で使えない、地下に引いたケーブルはモンスターによってボロボロ。

国や都市の外部を跨いだ情報伝達は、手紙と雑誌と口伝えがメインだ。

戦術もセオリーもカード情報すら共有されていない。

これが何を引き起こすかというと、地域ごとに実力の平均値が全く別物になる。

 

 

しかし、これは恐らくという想像でしか無いがエスタは違う。

突き抜けた科学力と、エスタ大陸以外全ての世界の街を合わせても敵わないほどの大きさを誇る広大な都市。

 

それはつまり都市の内部に張り巡らせたケーブルにより、他国よりも膨大な情報が共有され、セオリーが研究されているという事に他ならない。

いわば私達は型落ちの戦術でお山の大将をして喜んでいるだけの田舎者だったという訳だ。

 

突き抜けた文明力に圧倒的な人口量。

その全てが最先端の教育を受けており、その中からカードゲーム好きが集まって共有された情報を基盤に戦術を練り上げる。

 

…………勝てる訳がない。

 

 

 

しかし、それを知らない奥さんの心は折れていなかった。

 

 

「こんなに負けたのは何時ぐらいぶりかしら……。私も置いていかれないようにもっと頑張って強くならなきゃいけないわ」

 

残酷かもしれないが、私はカードクイーンが強くなった理由を想像しうる限り述べた。

彼女は納得したようで、「じゃあもうエスタに行く以外どうしようもないのかな」と意気消沈していた。

エスタは鎖国しているので交通機関は使えない。

それに時間をかけて歩いて行った所でいつ月の涙が降ってくるかわからないのだ。

原作が終わるまで行くのは危険すぎる。

 

私も彼女も諦めたく無い気持ちは同じだ、だが圧倒的な数の暴力と国力の差という現実の前に押しつぶされそうになっていた。

 

その時、私の脳内に悪魔のような閃きが走った……。

倫理的にこれを口に出してはいけないと理性が止める。

しかし……それでも私は悪魔に負けて声に出してしまっていた。

 

 

 

「奥さん、もしも子供の頃の記憶が無くなる代わりにカードクイーンに勝てるようになるかもしれない。と言ったらどうしますか?」

 

「え……? クレイズくん……?」

 

いきなり雰囲気が変わり、普段友人相手には使わない敬語になった私に彼女が困惑する。

だが、もっと困惑させるような説明をこれからしなければならない。

 

 

「私がここまでカードゲームが強くなった理由があります。奥さんは知っていますか、G.F.という存在を」

 

もしかしたら聞いた事があるかもしれませんね。各国が使用を非推奨しているエネルギー生命体の事を。

そう続けた私の言葉に彼女は息を飲んだ。

 

 

「G.F.を使う事でさまざまな能力を得ることができます。それは戦いに関してだけではありません。私はその力を応用して自分のカードゲームの上達に役立ててきました」

 

私の告白に動揺する彼女が口を開く。

 

 

「G.F.……一応聞いた事はあるわ、詳しい事は知らないけど記憶を失う危ない物だって。でも……そんな物を使ってそこまで変わる物なの……?」

 

愚問だった。

ジャンクションの力は凄まじい。それは何より私が身をもって知っている事だ。

使用の否定より先に出てきた効力に対する疑問。それが奥さんの心を物語っていた。

 

 

「G.F.の効果は目に見えて違うというレベルの話ではありません。数分でダンスをマスターし、一夜にして楽器を習得できるのがG.F.をジャンクションするという事です」

 

完全にキャラが悪徳セールスマンに変わった私は続ける。

 

 

「私達は間違いなくこのガルバディア大陸の中で最も頂点に近い所に位置するプレイヤーです。そしてあなたはG.F.を使う事なくここまで上り詰める才能があった……確実に私よりその潜在能力は上でしょう」

 

「その力を私が使えば……」

 

彼女の緊張と呼応するかのように静まり返るリビングに、ゴクリと喉の鳴る音がした。

 

 

「ええ、エスタの歴史を味方につけたカードクイーンを確実に倒せるとは言いませんが、手を伸ばす事はできる筈です」

 

訪問販売に対する奥さんの答えは既に決まっていた。

 

 

 

 

了承を得た私はコヨコヨを一時的に彼女に渡す事になった。

ジャンクションのやり方を教え、シュミ族の村で購入したアルテマの魔法を渡して精神関係にジャンクションさせる。

 

そうして愛と禁断、友情の人妻強化合宿大作戦が幕を開けた。

 

彼女の上達速度は恐ろしかった。

私は普段ゲーム性を著しく損ねるという理由で使用を禁止していたヘイストを使う。

脳の思考速度を加速させなければとても太刀打ちできない程に、奥さんのプレイヤースキルは上昇していた。

次第にG.F.をジャンクションしていない私の魔力ではヘイストの効果が物足りなくなり、奥さんに譲渡して態々かけて貰うようになっていた。

 

 

私達は寝る間も惜しむなどという愚は犯さない。

キチンと計画して脳を休ませる時間は十二分に確保すると取り決めをする。

栄養確保の食事は私の備蓄を使えば良いと提案し、今日はルブルムドラゴンの肉とモルボルのサラダで補おうという事になった。

奥さんが『たべる』を発動して皿の上にある食材を平らげ、エネルギー回復と同時に精神の基礎ステータスを上昇させた。

 

 

 

当然ながらそんな事をしていたら時間が経ち、彼女の家族が帰宅してくる。

帰ってきたパブのオーナーは私に「そろそろ帰ってくれないか?」と常識を説いて、

奥さんには「カードはそのぐらいにして夕飯を食べないか?」と話しかけていた。

 

 

「夕飯はクレイズくんが用意してくれたわ、それをみんなで食べましょう。私と彼はカードの事で数日間忙しくなるから邪魔しないでね」

 

卓上には私が不利になっている盤面、奥さんが叩きつけた追撃のヘッジヴァイパーでさらに点数差は加速した。

 

 

「あなた、その間は洗濯物と子供の事をお願いね。あ……それと彼、数日間家に泊まるから」

 

奥さんは私の宿泊を決め、旦那さんを困らせている。

娘さんは普段食べる事の無いタイプの料理を喜んでくれていた。

 

 

ヘイストを使っても彼女についていけなくなった。

そうなると前置きは終わりだ……。

今度は私がコヨコヨをジャンクションしよう!

 

 

繰り返される上達の連鎖のなかで私達はさまざまな戦術を編み出す。

それは時に戦術の核となり、時に戦いの中で廃れていった。

 

私と奥さんが当初の予定を大幅に超過し何日も夢中でカードをやっている間、既にパブのオーナーは私達の熱意に負けて応援してくれるようになっていた。

 

 

彼女はG.F.をジャンクションしてる側もヘイストをかければ、更に実力差が開いて上達するのではないか? と容赦無い提案を持ちかけてくる。

何度もヘイストの残量の底が付き、時空魔法精製で補充して脳を加速させて行った。

既に合宿を始める前の私達の戦術は、時の流れのアルゴリズムに溶け込んで消えてしまっていた。

 

 

そして今、私達は壁につまずいていた……。

自分達がどれぐらい強くなっているのか客観的にわからないのである。

そこで一旦練習をやめて強硬手段に出る事にした。

 

私が直にエスタの戦術を見極める。

本末転倒なようだがやはり知らずに物を語る事などできない。

月の涙が降ってくるかもしれない事など既にどうでも良くなっていた。

 

そんな事よりエスタが被害を受けるなら、私達が求めている貴重なカードゲーム関連のデータが失われる可能性があるかもしれない。

その前に早く行かなくてはならない。

 

奥さんからパブのオーナーのバイクコレクションのひとつを借りた私は、行ってきますの挨拶を口にした。

 

 

「それじゃあ行ってくるよ、帰りは多分遅くなると思うから心配しなくていい」

 

「ええ、行ってらっしゃい。燃料は満タンにしておいたから……娘と一緒に貴方の帰りを待ってるわ」

 

ふぅ……やれやれ、彼女は私には勿体無い良い奥さんだな。

お仕事中のパブオーナーには挨拶できなかったが仕方ない……そろそろ行こう。

 

私は手を振って見送ってくれる彼女を背に、

エスタへの想いを燃料にして愛機のエンジンを噴かせ、ドール公国を飛び出した。

 

 




タグにクズが入ってるのは主にこの回のせい。
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