【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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過去話


3話 故郷

 

ガルバディア大陸の南に位置する辺鄙な場所にある町、ウィンヒル。

 

花が名産品ののどかな田舎だ。町とは名ばかりで土地のほとんどが花畑なので村に近い。

FF8で重要な役割を担うレインとエルオーネの故郷であり、そして……私の故郷だ。

 

 

私はこのウインヒルで産まれ、クレイズ・オクトーという名をつけられ育った。

この町の大人の男は戦争に駆り出され大勢が帰らぬ人となり、私の父親もその中に含まれていた。

 

私はこの町の住人があまり好きではない。

FF8が好きな私でも善し悪しの好みはあるのだ。なんでも愛して全肯定する訳ではない。

ウィンヒルの人々に好ましい感情を抱いて無い理由、そのひとつはラグナに対して冷たい態度をとっているからだ。

 

 

ラグナは原作の主要登場人物であり、私が5歳の時に怪我人としてウィンヒルに運ばれて来たガルバディア兵だ。

半年間の療養の末ようやく動けるようになった彼は、モンスターが入り放題のこの町でパトロールと称してモンスター退治を行っていた。

 

私はラグナに戦いのやり方を教えてもらいながら訓練し、なんとかバイトバグとケダチクを安定して狩れるようになっていた。

 

 

「おいおいこれでほんとに6歳かよ……、ダイヤの岩石ってやつか? 俺もその戦闘の才能があればエスタのやつら相手にもっとやれてたのになぁ……。カァ〜羨ましすぎるぜ」

 

ラグナは原作通りとても明るく少し大雑把で純粋さのある人物だった。

 

 

「はぁ…ラグナ君、子供に嫉妬するのはよせ、あとそれを言うならダイヤの“原石”だな」

 

最近ウィンヒルに滞在する事になった彼の親友であるキロス・シーゲルが、いつものように冷静なツッコミを入れる。

私達3人は何時もの様に溜まり場となっているBARに入り、カウンター席の椅子に腰を下ろしながら話す。

 

「まあまあ、どっちでも良いじゃね〜か。それにしてもクレイズのさっきの動きなんてすげーぜ! まるで妖精さんが来てる時の俺達みたいだ!」

 

「確かにその才能には目を見張るものがある……。クレイズの強さは既にガルバディアの一般兵ぐらいはあるだろう、となるとラグナ君はそろそろ危ないな」

 

「まじかよ……流石に6歳児には負けたくねぇな……」

 

それを聞いたレインという名の女性がカウンター越しに花の砂糖漬けを用意しながら言った。

 

 

「貴方この前4歳児のエルオーネに泣かされてたじゃない、もう既に負けてると思うけど」

 

例に出された少女のエルオーネはカウンターの椅子によじ登って座り、レインに出された花の砂糖漬けをニコニコしながら食べていた。

 

 

「戦闘だけが全てじゃないと思うよ、本当にラグナに勝てる人はレインとエルオーネぐらいじゃないかな」

 

私は素直な気持ちで褒めた。

私はラグナの凄い所を知っていた。この男は将来大統領になる男だ。

戦闘力はともかく、そんなカリスマ性のある男に勝てる奴はそうそう居ない。

 

 

「おっ、クレイズはこう言ってるぜ、ほら見てみろよクレイズから俺に注がれる尊敬の視線をよぉ〜」

 

やっぱ俺の大人のみりきって奴はわかる奴には伝わるんだぜ。

そう言ってラグナは1人勝手に何かを納得していた。

 

 

「……6歳にフォローされてしまうとはな、確かに既にラグナくんは越えられていたようだ」

 

「僕はラグナの事を確かに褒めたけど大人として尊敬はしてないよ」

 

キロスと私が事実を突きつけ追い討ちをかける。

 

 

「ラグナおじちゃんの事、エルは好きだよ」

 

「そうだよなぁ〜俺のみりきに気付いてるのはエルだけだよなぁ」

 

エルオーネに慰められ、ラグナは4歳児に同調した。

キャッキャと同盟を作り出すラグナにレインがいつもの苦言を呈する。

 

 

「はぁ……貴方がさっきから言ってるみりきってまさか魅力の事? エルオーネに話しかけるなら間違った言葉を使うのはやめてよ? ただでさえ貴方の真似して変な言葉遣いを覚えたりしてるんだから……」

 

「しゃーねーなー」と4歳児2人の声がハモってまたもやレインが呆れた。

 

 

私は転生したせいであまり子供らしく振る舞えない事が多い。

だからエルオーネの子供らしい行動を見ているのは楽しかったし、ラグナの子供みたいな言動を見てるのも楽しかった。

前世の意識と連続している私には出せない純粋さ。

彼等と居て、彼等と話す時間は幸せだった。

 

 

 

「デリングシティの東北に遺跡があってその奥にはすんごいお宝が眠ってるらしいぜ、行ってみてぇよなぁ〜」

 

「ラグナ君では間違いなく道に迷って辿り着けないだろうがな」

 

「トラビア地方には地面の深ーーーい所に穴掘って住んでる不思議な種族の村があるらしいぜ、訪ねてみてぇよなぁ〜」

 

「ラグナ君では間違いなく道に迷って辿り着けないだろうがな」

 

「エスタ大陸の上の方にチョコボが集まる不思議な秘境があるんだってよ、見てみてぇよなぁ〜」

 

「ラグナ君では間違いなく道に迷って辿り着けないだろうがな」

 

「うしっ! 今日も大事なパトロールに行くとするかぁ〜クレイズ、行こうぜ!」

 

 

ラグナは持ち前の明るさと、行き当たりばったりな計画性で、子供とすぐに仲良くなれる気さくな人間だった。

両親の居ないエルオーネともすぐに仲良くなり懐かれている。

パブを営みエルオーネの親代わりをしているレインに彼は惚れていた。

怪我人だったラグナを熱心に看病したのがレインだったのだ。

 

脳味噌が若いから子供と気が合うのだろうとキロスは話す。

レインが同意しそれを聞いたラグナは、あんまり褒めんなよな〜と皮肉を理解できずに後頭部を摩り照れていた。

レインは呆れて馬鹿にしつつもそんなラグナの事を愛していた。

それを笑顔で聞くエルオーネと私。

 

幸せな世界を構築している彼等との交流は私を童心に戻してくれていたのだ。

 

 

エルオーネが攫われた。

 

ラグナはこの街を出てエルオーネを探しに行く事に決めた。

複数相手でも問題なくモンスター退治をできるようになった私は、しばらくのあいだ彼に町のパトロールを任された。

 

ラグナが私の母親を含むウィンヒルの住人に冷たい目で見られていた理由のひとつは、私という子供に危険な戦いを教えているから、というのもあるかもしれない。

だがそれでも私にとってラグナ達と一緒に居た期間は短いながらも夢のように楽しい時間だった。

そうして少し経った後、レインの妊娠が発覚した。

 

 

レインが死んだ。

子供を産んだ彼女はラグナに息子を会わせたいと願っていたが、元々弱かった身体が出産に耐えられず願いは叶わないまま衰弱しこの世を去った。

 

 

 

 

 

私は人が死ぬことについて考えるのがあまり好きではない。

自分の罪とどう向き合って良いのかわからなくなるからだ。

 

この世界で何かの拍子に死んだ知り合いがフェニックスの尾で生き返らないなんて想像したくないし、不殺だとか言うつもりも無いが、もしもの状況で敵対した兵士を殺して命を奪うのだって嫌だ。

ゲームの世界という認識があるからか、ストーリーの都合上イベントで死んでいく人達が大勢いると真面目に考えるのは気が重くなる。

 

 

未来を知っている私は、将来死ぬであろう名前も知らない大勢の人達を助けるために頑張らなくてはいけないのだろうか?

 

トラビアガーデンに撃ち込まれるミサイルをどうにかしたり、月の涙が降り注いて壊滅的な被害を受けるエスタを守ったりするために尽力しなければいけないだろうか?

 

人の命を守ることが最上の使命であり、力と知識がある以上犠牲を減らす行動に従事するのは人間として当然の義務だろうか?

 

見ず知らずで興味を抱けない人達を見殺しにするのは仕方ない。

ならば見ず知らずだとしても、私が大好きなFF8の世界の一部分である人達の心を悲しませたり、命を見殺しにして良いのだろうか?

 

 

己の快楽の為、己の怠惰の為、己の趣味に割く時間の為、この世界の運命の為。

 

私が頑張って行動すれば助かるかもしれない人々は、そんなしょうもない理由で死に過去形の存在となり、彼等と親しい人間は二度と会えない悲しみを体験する。

 

私は軍人でも傭兵でも政治家でも無い一般人だ、だから他人の命に関わる責任を負う義務は無い。

下手に手を出してストーリーが行き詰まり世界が滅びるよりは、確約されたハッピーエンドが訪れるまで何も手を出さない方がマシだ。

心の中でそう言い訳して、未来を変える選択肢を持つ責任から逃げる。

 

 

 

未来の為に命を賭けて戦った主人公達とそのためにガーデンを作ったシド。

エルオーネを助けたついでに成り行きでエスタを救ったラグナ達。

原作のメインキャラクターである彼等は間違いなく英雄だ。

結果を出した事が凄いのでは無い。

自分の愛する者のついでだとしても、見ず知らずの誰かのためにリスクを承知で行動を起こせた事こそが、英雄と呼べる行為なのだ。

 

私にはできそうもない。

FF8が好きだと言っている癖に、その大好きな世界に住む人々の為に行動を起こせない私は、なんと利己主義なのだろうか……。

 

レインが子供を産んで死に、生まれてきた子供が孤児院に引き取られて数年後、この街は警備の為に本格的に傭兵を雇う事になった。

レインの死に目に立ち会えず帰ってこないラグナを街の住人は悪し様に言う。

警備の人手が増え、かつてのラグナのパトロールよりよほどマシになったと街の人々が喜ぶ。

それを聞くのが嫌になった。

だが、自分はどの口で偉そうにウィンヒルの人々を責める事ができるのだろう?

 

 

 

私はラグナ達の事が大好きだったのに、世界の為にという言い訳でエルオーネが誘拐される事を見過ごし、ラグナがレインとの最後の別れに立ち合えないという原作で起きる悲劇を許容したのだ。

 

これでは私もラグナに冷たく対応したウィンヒルの住人と似たようなものではないか。

いや、むしろエルオーネとレインとその子供に悲しい思いをさせてる分、もっと酷いかもしれない。

 

 

この世界を愛している振りをして、その実本当に愛しているのは自分自身なのだ。

FF8というドラッグを摂取して気持ち良くなってる癖に、悲劇からは目を逸らしている薬中でナルシストなごっこ遊び厨二バトル野郎、それが見たくもない己の真実であり罪だった。

 

この町にいるとそうした暗い考えがどうしても頭の中に渦巻くので、私はウィンヒルを出ると決めた。

ウィンヒルで得たものは多いし、育てて貰った事には感謝している。だがそろそろ私も15歳になる。

 

少し早いが、自分の人生を始めるには丁度良い年頃だった。

幸いにもここはFF8の世界だ。

遊び気分で大好きなFF8の事だけを考えて逃避していても、それが生きていく事に繋がっている世界だ。

それが救いだった。

 

 

 

 

────私は久々に実家へ帰省し、近隣住民に適当に買ったお土産を配って一息ついた。

 

ウィンヒルに里帰りすると、まだこの世界を真面目に捉えていた頃の自分が入り混じって、酷く真剣なダウナー思考が過ぎってしまう。

だが私はそもそもできた人間では無いのだ。な〜にが原作で起きる悲劇を許容した、だ。

むしろ未来のために我慢して原作崩壊ムーブしてない事を褒められるべきだ。

 

FF8というドラッグを摂取して気持ち良くなってる?

そもそも元はゲームの世界なんだからプレイヤーが気持ち良くなってもいいだろう。

気持ち良くプレイさせないゲームなんて現代のマーケティングに反している。

 

無関係の奴らが巻き起こす戦争で死ぬ人間達を、なんで私が意識しなければならないのか。

これだけ科学力が発達した世界なんだから、トラビアガーデンはミサイル撃ち込まれる対策ぐらいしておくべきだ。

 

エスタは月の涙発生装置なんて海に沈めただけで放置しておくなよ。

事後処理でちゃんと引き上げて丁寧に解体しろ、危険物を海に不法投棄するんじゃない。

 

ラグナは大好きだが、彼の人生で発生した責任は彼の選択の結果だ。

エルオーネとレインの子供には悪い事をしたかもしれない。

だがその時点では私の年齢も子供だ! 擁護されるべき立場だ!

 

ストーリーが終わり世界が救われた後でもまだまだ人生先はあるし、原作キャラクター達も多少の心の傷ぐらい乗り越えていかなきゃ生きていけないだろう。

何よりラグナも、エルオーネも、レインの息子も、全員顔が良いんだから恋愛面では人生で得してる筈だ。

これは良い顔で産まれた私が日頃から体験しているからこそ説得力を持って言える事だ。

つまり、それぐらいの不幸体験は恋愛強者の揺り戻しだと思って我慢しろ。

 

(はい理論武装完了! はぁ……まったく、これだから実家に帰るのは嫌なんだ)

 

私は隣に住む婆さんが作った花の砂糖漬けを摘みながら、グダグダと考えていた思考を打ち切り母親の小言を聞き流す。

せめて2年に1回はぐらいは帰ってきなさいという母の要望に、やる気の無い生返事を返した。

 

……帰ってきたついでにレインと私の父親の墓参りにも行っておくかな。

 

 

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