【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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25話 エスタ

 

F.H.の長い線路の先にある終着駅でバイクを降りる。

 

ここまで一緒に乗ってきた相棒は、雨風に晒されないように使われなくなった駅に置いて来た。

しばらくの間お別れだ。

ほぼ無断借用とはいえ、貸してくれた事になっているパブのオーナーへの感謝を胸に抱き、私は目の前に広がる塩の世界を見た。

エスタに入るには、この干からびて塩と化石だらけになった湖の跡地を渡らなければならない。

 

おそらくカードクイーンはここを歩いてエスタまでたどり着いたのだとは思うが……。

モンスターが出てきた時の事を考えると、戦いの心得が無い人間が1人で行くには心細すぎる筈だ。

彼女の情熱には尊敬よりも畏怖を覚える。

 

 

モンスターすらも少ない干ばつ地帯を歩き続け、私はいよいよ大塩湖のほとりまでやってきていた。

端とは思えない程まだまだ続く塩の景色。

ここには光学迷彩とでも言えば良いのかはわからないが、映像が映し出された特殊な板が張り巡らされており、世界の風景を偽装していた。

 

エスタは国の姿を外に見せないために、巨大なエスタ大陸の周囲全てにこのデジタル迷彩を張り巡らせている。

それだけで科学力と文明レベルの高さを想像できてしまう。

私はそんな壁に手を伝って歩き、入り口に入るための梯子を探した。

 

 

…………しかし、全然見つからない。

この壁、目の前で手で触れる距離でも、本当にパネルなのかすら分からないのである。

エスタの科学力が凄すぎて腹が立ってきた。

 

(そうだ、どついて少し壊せば映像が乱れて透明な梯子が分かりやすくなる筈……)

 

私は力にアルテマをジャンクションして壁をドンドンとどつき回し、思惑通りの方法で入り口を見つけてミッションをコンプリートした。

あらゆる状況に則した的確な判断で道を切り開く……それがプロフェッショナルだ。

そろそろエスタが近い、これより私は潜入任務を開始する。

 

 

内部に侵入してリフトに乗り込んだ私は、知識で知るだけのまだ見ぬ未来都市の光景よりも、そこに居るはずの知り合いの事に意識が傾いていた。

 

 

「ラグナ……」

 

それは私が勝手に引け目を感じ、会いたく無いと思っている相手。

しかしここに来たらいずれ会わなければならないのだろう……。そう考えると気が重い。

 

まぁ……考えるのは後だ、そろそろリフトが目的地まで到着する。

 

 

 

沈黙の国エスタ。

世界をガルバディアと二分する超大国。

そして現在、ラグナが大統領を務める国である。

 

エレベーターだかリフトだかわからない機械に乗り市内に入った私は、即座に監視カメラに捕捉され、警備の人間に取り囲まれ拘束された……。

 

 

 

エスタの兵士に名前を答えて、自分は大統領補佐のキロス・シーゲルの知り合いだと身分を明かした。

面会を願い、問い合わせをしてほしいと頼む。

そうして連絡の末に要望が通り、私は円盤型の座れるリフトに案内された。

 

危なかった……もしも話が通らなければラグナの名前を出さなければならない所だったのだ。

そうなると間違いなく連絡が行き、顔を合わせなければならなくなってしまう。

やはりキロスは頼れる大人だ。そして私は情けない大人だ。

 

 

(でも会いたくないんだもん……しょうがないもん)

 

幼児退行した私はまたいつものように疑問を抱いた。

これから大統領補佐に会うのに、ガンブレードを持ったままだが武器を取り上げなくて良いのだろうか?

もしかして、この程度なら何時でも被害を出さずに対処できるという事か……恐るべし未来都市エスタ。

 

 

 

透明な青と黄色とピンクで構成された色彩の未来都市。その世界を座ったまま突き進んでいく。

プレートリフターと呼ばれるらしいそれは宙に浮き、側面を透明な壁のような魔力で覆って一才の揺れを感じさせず私を大統領官邸まで運んだ。

運ばれた先の部屋には見覚えのある黒人の男性がいる……。

 

 

「久しぶり、キロス」

 

本当に久しぶりだった。

ここに案内されたという事は私を憶えていてくれていたのは間違いないだろう……なんだか少し緊張する。

今言った挨拶は簡素すぎやしなかっただろうか?

声が裏返って変な風に聞こえたりしてたら嫌だ、一言目はこれで正解だったのかな。

子供時代のように呼び捨てで失礼な対応をしてるんじゃなかろうか。

色々と余計な配慮が渦巻く脳の活動を、彼の懐かしい声が中断させた。

 

 

「ああ、久しぶりだな……まさか再び会うことができるとは、どうやら元気にしていたようで何よりだ。随分と身体も大きくなって……夢も叶えたらしいな」

 

キロスはそう言いながらガンブレードを携えた私を見て笑みを浮かべる。

その笑顔はあの頃と殆ど変わらない。

しかしエスタのゆったりとした民族衣装を着ている彼は、それだけでなんだか別人のように思える。

私には変な服を着ていた昔のキロスよりも、今のキロスの方が変に見えていた。

 

 

「それにしてもよく私がここにいる事がわかったな」

 

エスタに居る事は生まれる前から知っていた、などと言えるはずもない。

一番尊敬できる目の前の人間にも、未来を知っているという事実を話す気にはなれなかった。

本来知り得ない知識がある。しかしそれを言う事で何が起こるか予測がつかない。

私は彼の当然の疑問に答えた。

 

 

「この前、知り合いがわざわざ鎖国しているこの国に旅行しに行ったみたいでね。たまたま話に出た大統領の名前を聞いて驚いたよ」

 

しれっと嘘をついた、こういう原作知識の応用は慣れたものだ。

尊敬する相手に対してこのような対応をするのは少し罪悪感があるが、この程度の事をいちいち気にしててもしょうがない。

 

 

「ラグナが居る所にはキロスも居る」

 

「ああ、道理だな」

 

満足そうに頷く変わらない彼を見て何故か心がホッとした。変な服を着ていなくともキロスはキロスなのだ。

ほぼ17年振りだ、彼と話したい事はまだまだいっぱいあった。

 

 

「あれから色んな事があった。ラグナ君が映画に出たり、ラグナ君が崖から落ちたり、ラグナ君が魔女を倒したり、ラグナ君が────

 

 

大好きな者の話をするキロスはとても楽しそうで相変わらずだなと安心する。

クレイズの事も聞かせてくれないかと言う彼のオーダーに応える。

今度は私が話す番だ。

 

 

「私も村を出てから色んな事があったんだ。ドールに行ってモンスター狩りをしたり、ティンバーに行って反政府組織に所属したり、バラムに行ってナンパしたり、デリングシティでは────

 

 

夢中で好きな物の話をする私達は似たもの同士かもしれない。

これでも花を育てる事が得意なウィンヒル出身だ、思い出話に花を咲かせる事は得意中の得意なのだった。

そうこうしている内に、話が一区切りついた所で何やらキロスの持っている端末が鳴り出す。

 

 

「すまないが仕事の時間が来てしまった……ここで一旦お別れだ。もしまた何かあるなら私の名前を出してくれて構わない、しばらくエスタの都市を堪能して行ってくれ」

 

大統領補佐をしているのだから当然忙しいのだろう、少し寂しいが仕方ない。

 

 

「ああ……それと、今ラグナ君は宇宙に行っているんだ、エルオーネもそこに居る」

 

会いに行くか? と親切心で聞いて来る彼の提案を私は断った。

 

 

「そんなに今すぐ急ぐ必要もない、しばらくこの都市に滞在しようと思うからそのうち会えるさ……。これでも忙しい大統領の手を煩わせないようにするぐらいの気遣いは覚えたんだ」

 

嘘だ、本当はカードゲームの情報を確認したらすぐ帰るつもりだ。

月の涙でモンスターが溢れるエスタ大陸に長居はしたくない。

ラグナとエルオーネに今すぐ会わないのも顔を見せる勇気が無いだけなのだが、キロスは「そうか」と納得してくれた。

 

 

「無理に生き急いで自分を鍛えていたお前も、長い時間の中で大人になったという事か」

 

なんだか過大評価されているみたいで恥ずかしい。

そのような高尚な人間じゃないんです。ただ逃げたいからはぐらかしただけなんです。

 

 

「大きくなった私をいきなり見せて驚かせたいから、今は2人には秘密にしといてくれ」

 

既に連絡が行ってるかもしれないが、会う勇気が出ない私はどこかで聞いた事のあるような嘘を吐き、姑息な時間稼ぎを頼んだ。

私の言葉にキロスは「どうやら大人になったというのは気のせいだったな」と笑っていた。

仕事に戻るため、席を立つ姿を見送りながら私は自虐する。

 

 

「まあ、長い時の中で私が成長したのは戦闘力と身長ぐらいかな……。

しかしキロスはあんまり変わらないな、あれから17年以上経つにしては圧倒的に若く見える。もう年齢も40ぐらいになる筈だけど……」

 

その私の疑問に歩いていた彼は振り返って言った。

 

 

「時間があるならエスタのリフレッシュエリアに行ってみると良い、それが答えだ」

 

どうやらエスタは美容健康技術も凄かったようだ。

お茶目に別れの言葉をセルフオマージュし「ではまたな」とウィンクして去っていく。

そんなキロスは相変わらずユーモラスでカッコいい人だった。

 

すべてが終わってこの国が平和になったら、母親を美容目的の旅行につれて来てあげるのも良いかもしれない。

 

 

 

私と接するエスタの人々はとても優しかった。

 

キロスの部下のエスタ兵が、街の事と端末の扱い方を親切に教えてくれる。

カードの事を聞いたら詳しい人が集まる場所を紹介してくれて、その人達がまた戦略を熱心に惜しげもなくレクチャーして伝授してくれた。

彼等から聞いた話の中には、当然ドールで修行しただけでは知り得ない知識や考え方もあった。

ついでにエスタのカードの歴史まで教えてくれる。

 

 

基本的にカードゲームは強いカードの高い数字の辺で防御を固めるのがセオリーとなりがちだ。

しかし特殊ルールのウォールセイムを考慮した場合、数字の高いカードが出てくる事を予想して、あえてそれと合わせてセイムしやすい少ない数字で固まった低レベルカードが採用圏内に入ってくる。

 

そこを逆手にとって低レベルを腐らせて狩るのが中レベルモンスターカードの役割なのだが、エスタではここに革命が起きたらしい。

あえて高レベルモンスターの弱い数字を配置する戦術を取る輩が現れたのだ。

 

一部の天才により作り出された一見意味のないように思われるこの戦術は、その実、非常に練られていたらしい。

この新たなやり方は強い面と弱い面の二つを巧みに使い分け、従来のセオリーを臨機応変に蹂躙することとなる。

またもや高レベルレアカード1強時代が来たと思いきや、そこで更なる革命が起こった。

 

どうせレアカード軍団には勝てないんだから、手札をすべて低レベルにして負けで奪われるカードの損害を抑え、

万が一勝てた時には最大のリターンを得るという盤上をひっくり返すような戦略が流行ってしまったのである。

手札がすべてハウリザードやフォカロルフェイクといった、誰もが持っている雑魚で埋め尽くされる対戦が横行し、低レベル内で最も有利なモンスターがどれかという議論が白熱する世界になる。

 

 

そんな不健全な流れが横行していたエスタに現れた1人の女が居た。

赤いケープを羽織った他大陸から来た女。

おそらく奴だ。

 

その女は道ゆく者達に何故そんなに弱いカードばかりを使用しているのか聞いて回った。

エスタの人々は答えた。このような理由で今のエスタで強い奴には絶対に勝てないんだ、と。

 

女は出会った人と対戦を繰り返し、説いて回った。

 

「私がこの国から全てのセイムを消しましょう。一旦スタンダードルールに立ち返ってみるのもいい筈です」

 

最初は何言っているんだ? という扱いだったらしい。

しかし毎日毎日、山のようにカードゲームをプレイする彼女の姿と熱意を見て徐々に視線が変わってくる。

食事をとりながら対戦し、寝る間を削り、リフレッシュエリアで無理矢理身体を稼働させながらカードゲームを繰り返し、トリプルトライアドのあるべき姿を説く女。

 

次第に噂が広まり、彼女の周りには人集りができていく。

それを見て想いに賛同した者たちが徐々に現れ、鼠算式に増え続けた。

最終的にエスタのルールはエレメンタルだけとなり、この大陸のカードゲームは救われたのである。

救世主である彼女は最後に言った。

 

 

「そろそろこのエリアにも飽きました。全てのセイムを消した今、私も消える事にします。どこか良い場所を知りませんか?」

 

その質問に言葉を発したエスタ兵が居た。

 

 

「聞いた話によると宇宙がやばいらしい、どれぐらいやばいかって言うと全てのルールを使う超高学歴エリート同士がカードで殺し合いをしている世界だとか……」

 

そうして話を鵜呑みにした彼女は宇宙ステーション目指してこの国から旅立ったという。

その後おそらく宇宙に行き、更なる強さを手に入れたのだろう。

 

 

エスタの人々の中でも特に頭の良い人間が集まる宇宙ステーション、ルナサイドベース。

そんな修羅の世界である宇宙で揉まれたカードクイーンに勝てるかどうかはわからない。

しかし私も人妻合宿を終えてエスタの戦術と歴史を知り、確かな力を得た実感があった。

あの女と次に会うのが何時になるかはわからないが、出会った暁には必ず勝利してレアカードをむしり取ってやると決意を新たにしたのだった……。

 

 

 

この国には必要な物を無人で販売してくれるパネルと、商業施設が集まったショッピングモールがある。

家で買って即座に配達してもらう事も容易なこの都市で、わざわざ足を運ぶ店があるというのも面白い。

 

その理由は主に買い物という行為を楽しみたいという娯楽と、店側の宣伝だった。

自分の店を知ってもらうために紹介されるパネルで商品を見るだけで無料でアイテムをくれるキャンペーンが行われている。

それを巡っているだけでウィンドウショッピングが楽しめて、ついでに様々なモノをお土産として持ち帰れるという訳だ。

田舎者の乞食根性丸出しだが、ハッキリ言って無料で沢山物が貰えるというのは楽しすぎる。

エスタのショッピングモールは正に一種のテーマパークのようなものだった。

 

ただ、店のページにアクセスするだけでG.F.強化アイテムの中で最も良いランクの物を、無料でくれるのは流石に未来都市でもやりすぎだ。

この世界のバランス崩壊していないだろうか……?

 

 

 

総評して、エスタはレビュー点数星5では足りないぐらい良い国だった。

皆が不自由無く暮らせる夢の未来都市。

半透明なプレートでできた地面は埃ひとつ無く、異常なほどの清潔さだ。

民度は極限まで高まり、なんの不安も不満も存在しない人類が目指すべき楽園がここにはあった。

 

 

私の心はまたもや悲しみに支配された。

 

これからこの大陸には月から地獄の権化が降り注ぐ。

ストーリーの流れを重視するならば、月の涙が降ってくるのは止められない。

すなわちこのエスタ市街もモンスターがうろつく世界になってしまう。

都市すべてが崩壊するという訳では無いが、それでも悲しい事だった。

 

元々月の涙を止める気は無かったし、エスタの被害を減らす気も無かった。

でも、今の私にはこの国のためにできる範囲で何かしたい、という意志と思いが芽生えてしまったのだ。

なんて影響されやすいんだと我ながら呆れる。これで何回目だ。

 

(トラビアに味を占めたか? 全く持って同じ流れじゃないか……)

 

 

私は月の涙に備えて腕が錆びつかないように、エスタの外でモンスター狩りをする事にした。

 

ショッピングモールで補充した燃料と物資を積み込み、レンタカーで荒野に降り立つ。

エスタ大陸に生きるモンスターを相手に鞘から抜いたガンブレードを構える。

今までみたいな遊び気分の狩りはしない。今一度、真剣に技術を鍛え直す。

 

私が次にエスタに戻る時は、月の涙を発動させる大石柱ルナティックパンドラが宙に浮いた時だ。

それはまるで勇者の決意のようだったが、ラグナとエルオーネに顔を合わせたく無いが為の逃げの口実でもあった。

 

結局のところ逃避の一種であり、起こる悲劇を見過ごした自分の心を軽くしたい為である。

 

ドール、ティンバー、トラビア、エスタ。

ここ数年で人と触れ合って、心の在り方が少し変わったのかもしれない。

今まで、他人の為に何かをするなんて殆どやってこなかった。

ずっと自分がFF8を味わうためだけに生きてきた。

 

誰かのために何かをするという選択肢を、森のフクロウとティンバーに教わった気がする。

他人の為に何かをしてあげるなんて意識は、上から目線の厚かましくて傲慢な事だと心の何処かで思っていた……。

だが、シュミ族に命を助けられて、エスタの人々に助けられて。

彼らはそんな気持ちでやってるとは到底思えなかったし、例え見下すような心持ちであったとしても私にとっては有り難くて嬉しい事だったのだ。

 

 

今だって自身の心を軽くする為にやろうとしている部分が大半だ、人はそう簡単には変わらないのだろう。

それでも僅かながら、私の中の何かが変わった気がする。

誰かの為になる事がしたい、それもまた本当の気持ちだった。

 

 




大塩湖は大幅カット。
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