【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

31 / 57
26話 月の涙

 

ガルバディア軍によって海上から引き上げられ、浮遊しながらエスタ大陸に向かってくる巨大な黒の塊。

月に影響を与える絶望の象徴、ルナティック・パンドラ。

私は遠くからでも視認できるほどの大きさを誇るそれを確認するとレンタカーを走らせた。

 

 

────これから、月の涙が降ってくる。

 

 

 

大石柱によって重力が発生し、月に影響を与え血のような赤黒い濁流を巻き起こす。

空がまるで夕焼けのように染まっていく。

本来なら重力の力で地盤が抉られるぐらい降り注ぐ衝撃があった筈なのだ。

落下ポイントが既に割り出され、科学の力で封印されていたからこそ、この程度で済んでいるのだろう。

 

重力場が弱まっているせいで大気圏にぶつかり広がって行くそれは液体でも気体でも無い、全てモンスターと月の涙の魔力の色だ。

私1人では到底対処しきれない程の量がエスタ大陸に満遍なく広がっていく。

 

当然、宇宙から降って来る大量のモンスター達にエスタの都市も晒された。

 

 

住居を超える巨体を持つ鉄巨人が、自分の身体に匹敵する程の幅広の剣を側面に構えた。

その直後、鉄の権化がエスタの青透明な路上を薙ぎ払う。

 

周りのモンスターすらも巻き込みながら行われた大剣によるなぎ払いは、私のガンブレードが纏う光によって一瞬にして削り切られた。

 

リーチを伸ばしたブラスティングゾーンによって切り落とされた巨大な刃。

鉄巨人ご自慢の大剣は粗大ゴミと化し、半透明の青いプレートに落ちてグワングワンと鈍い鉄の音を立てる。

その大きな音に驚いたモンスター達が一瞬静まり返った。

 

 

「これならアルケオダイノスの方が堅かった」

 

剣を両断された事に対してか、私の言葉に対してか。

狼狽えた鉄巨人はグラビデの黒い球体空間に閉じ込められ、圧縮されたその瞬間を光の刃で一閃されて死んだ。

 

 

少し離れた所からの視線。

小さい悪魔と鞭のような髭を持つヒョウが私を見ていた。

彼等は鉄巨人をたやすく鉄屑にした私を脅威と見做したのか、魔法を放ってくる。

ガルキマセラとクアール、そう呼ばれるこの2種類のモンスターは知能も素早さも高く、様々な魔法を巧みに扱う厄介な相手だった。

 

とりあえず一旦ターゲットを絞り込む事にした。

先程ガルキマセラとクアールが私に放ってきた魔法はサイレスとブレイクだ。

沈黙と石化の状態異常は死に直結するため、ST防御ジャンクションで優先的に対策してある。

しかし、こいつらは上級魔法も他の状態異常系魔法も取り揃えている。

まず初めに手早く殺し切るべきだと判断した。

私はヘイストを自分にかけて剣を構え、エアロによる推進力で思いっきり目標まで突っ込む。

 

G.F.のアビリティとジャンクションで底上げされた身体能力は、異常な速度を生み出す。

風避けに張られたプロテスが大気にぶつかり、風切音を鳴らした頃にはもう既にガルキマセラを切った後だった。

 

 

ガルキマセラを視認して処理。

それを囮にしてこちらを魔法で狙い撃ってくるクアールが小賢しい。

リフレクで対処しながら強引に接近した私の攻撃でヒョウの首は飛んだ。

 

そうして私は赤紫と黄色の死体を量産する。

死に際に放つ彼らのホーリーが私のリフレクで反射されて、幾度となく周囲のモンスターを光に染めて殺していった。

透き通る青だったエスタの地面が血と混ざって紫色になり、その度に自動清掃機能で綺麗になる。

大量の血液で足が滑る事を注意しなくて良いのがありがたかった。

 

 

悪魔とヒョウの姿が周りに見えなくなった今、ようやく本番の始まりだ。

ここまでは前座に過ぎない。

 

反射された魔法で弱った小さめの亀型モンスター、グラナトゥムが花を咲かせるように開いていた甲羅を閉じようとする。

守りを固めるその前に私のガンブレードが突き刺さり、発動された魔法のチェーンソーによって閉じられた甲羅の中で血肉がミンチに変わった。

 

そのまま切り上げ、纏っていたブラスティングゾーンから直接ラフディバイドに移行する。

ガンブレードに突き刺さっていたグラナトゥムの死体が弾け飛び、先程まで剣の形に収縮していた魔法が解き放たれた。

攻撃魔法の光が前方に広がり、複数のグラナトゥムをまとめて屠る。

 

先程撃ち漏らしていたクアールの生き残りがそれに巻き込まれる。

体表の毛が燃えて、しなやかな筋肉をつけた獣の体は魔力に耐えられずボロボロに傷ついた。

瀕死のクアールが魔法を唱えようとするその前に、首に齧り付き生きたまま食い殺す。

生でモンスターを食べるのは随分と久しぶりだった。

ましてや生きている対象を食するなどほぼ初めてだ。

なんだ、意外と猫も美味い。

 

 

私は初めて『たべる』の本当の力を引き出しているのかもしれない。

普段食い切れるはずの無い量の肉を異常な速度で平らげる。

既に自分の体積を超えた血肉はどこに行ったのかもわからない。

 

私はこの世界について何も知らない。

 

何故月にモンスターが居るのか。

何故月から降って来るのか。

何故今の自分が胃を超えた量を『たべる』事が可能なのか。

何故私はこの世に生まれ変わったのか。

 

私が知っているのはただ一つ、FF8は素晴らしいという事だけだ。

もっとFF8を知りたい、だからまずは月から来た目の前のお前らの味を教えてくれ。

 

 

その時、私は急に視界が開けた気がした。

助けた兵士からエスナをかけられ、正気を取り戻したのだ。

 

バーサク、それは大量に殺したガルキマセラ達の唱えた決死の抵抗の一つだった。

私のリフレクは彼らのデスペルでいつのまにか解除されていたようだ。

 

突然モンスターを食い出して、何らかの状態異常にかかっていると兵士に判断されたらしい。

当たってるが当たってないと言いたくなる複雑な心境……しかし助かった。

このまま暴走し戦い続けていたら、必ず何処かで致命的な場面が訪れていた筈だ。

 

(やはり一対多の戦いで、魔法を使う敵を最初に処理しておいたのは正解だったな)

 

 

 

私は周囲のモンスターをあらかた退治して辺りを見回す。

怪我人を助けなければならない。

何人ものエスタ兵が負傷している。

エスタの道は大規模な戦いにも関わらず全く壊れていない、やはり凄い科学力だった。

私の最も強い威力を誇っているブラスティングゾーンでも切る事が出来ないというのは朗報だ。

自由に戦って問題無いという事だからだ。

 

 

 

「くけけけけ」

 

そんな時、負傷した人間を助けようとしていたエスタ兵の驚く声が聞こえた。

黒い姿をした兵士がエスタ兵に掴みかかり襲っている。

 

 

私が即座にエスタ兵に掴みかかっていた黒い腕を切り捨てると、その黒い兵士は姿を膨張させて巨大なモンスターへと変化した。

いや、これは変化じゃなくて元に戻ったのだ、と知識から察知する。

おそらくコイツは兵士に化けていた。

それ程の擬態能力と知能を併せ持つモンスター。

 

その姿は鉄巨人より大きかった。

巨大な竜の翼と人の様な上半身に、ガリガリに痩せこけた細長い腕。

アヒルのような嘴を持ち、下半身は1本の棘が突き出す鉄の様な岩の塊で出来ている。

その奇怪な大型モンスター、エルノーイルはカードでも何度か目にしていた存在だ。

しかしながら実物と遭遇するのは初めてだった。

 

 

エルノーイルは巨大な翼で空に飛び上がり即座に魔法を唱えた。

 

ペイン。

痛みと苦痛の名を冠するその魔法は、あらゆるバッドステータスを付与する状態異常魔法の中でも最上級の物だ。

まるで呪いの様に私個人にかけられたそれを避ける術は無い。

 

急激に視界が狭くなり、身体に痛みを伴う怠さを感じる。

 

万能薬を取り出そうとした私の視界が急に開けて、全ての状態異常が解除された。

先程襲われていた兵士がエスナを使ってくれたのだ。

おかげで目の前に迫る巨大な針を察知して躱す事ができた。

 

私は魔法をガンブレードに集約し、地表間際に降りてきたエルノーイルの下半身を駆け上がる。

細長い手で自身の体を払い、私を振り落とそうと抵抗する化け物。

だが、速さと回避にジャンクションした私の速度はコヨコヨの唱えてくれるオートヘイストによって更に上昇し、その抵抗を掻い潜った。

 

連続で切り付けられる巨大な怪鳥は、私の剣戟で両腕両翼が順々に切り落とされていく。

最後に縦に回転して繰り出したフェイテッドサークルの光輪によって、地上に落下する間も無く真っ二つに両断された。

化け物の巨大な肉体は空中で光の粒となり、四散してその姿を消滅させる……。

 

我流連続剣、それは私がキロスから教わった技をガンブレード用に昇華させた物だった。

 

 

消えていった怪鳥が存在していた地面には大きな結晶体が半分に割れて落ちている。

エルノーイルの正体、それは黒い兵士でも巨大なモンスターでもなく、岩の様な下半身の中に存在するこの結晶体だったのだろう。

私が元の姿だと思っていた怪鳥すらもフェイク、恐ろしい擬態能力だった。

 

 

 

エスタ兵を治療して、モンスターを退治しながらも最寄りのリフレッシュエリアに送り届ける。

それを繰り返して街の中心部近くまでやってきた私は一息ついた。

リフレッシュエリアで身体の疲労を回復させ、科学力で衣類に付着した血液を洗い流す。

その時、声が聞こえた。

 

 

「おいおい……とんでもねぇ事になっちまったぜこりゃあ……」

緊張感の欠片も無い喋り声。

 

「おまけにエルオーネもガルバディアに拐われちまったって……マジかよ」

エルオーネを知っている男の独り言。

 

「これじゃ泣きっ面に恥じゃねーか……」

それを言うなら蜂だった。

 

「お、ちょっとそこの兄ちゃん! これからモンスター退治に行くから暇なら手貸してくんねーかな?」

私に話しかけて来る彼は……。

 

「うぉっ、ガンブレードなんてめっずらしいもん使ってるな〜」

元ガルバディア軍兵士兼、ウィンヒルのモンスターハンター。

 

「あんまり戦いは得意じゃねーんだけど手が足りないんじゃ、しゃーねーなー」

現エスタ国大統領。

 

 

「後ろは俺に任せろ! そのかわり前は任せた!」

 

ラグナ・レウァールがそこに居た。

 

 

 

 

ラグナはマシンガンを放ち敵を攻撃する。

 

「突撃ーっ!」

 

そう言って彼はマシンガンを構えながらモンスターに向かって行く。

少し目を離した隙に、早速調子に乗って前に出過ぎてピンチになっていた。

 

 

「やべっ! おーい助けてくれ〜! 囲まれちまった〜!」

 

後ろは任せろという自分で吐いた言葉を既に忘れていたらしい。

大統領にあるまじき軽はずみな発言と行動はまさにラグナそのものだ。本当にこれで国のトップをやっていけてるのだろうか? 

私は周囲を取り囲んでいたグラナトゥムを蹴散らして息を吐き出した。

 

 

「いやー助かった、ここら辺はもう終わったな。よし! 次行こうぜ」

 

なんだかまるで、ウィンヒルで彼とパトロールをしていた時の様な懐かしいやり取り。

 

 

「そろそろ歳なんだからモンスター退治は引退した方が良いと思うよ」

 

忠告して私は笑う。

それはあの頃に帰ったような気分で、何も考えずに出た笑みだった。

 

彼は私をウィンヒルで一緒にパトロールしていた近所のガキだとは知らない。

しかし、私達のやり取りはあの頃のままだ。

 

 

 

「なんか懐かし〜ぜ、俺も昔はこうやってよくモンスター狩りしてたんだ、村の奴等からはすっげぇ頼りにされててよ〜」

 

碌にG.F.を使ってもいないのに、自らの記憶を書き換えたラグナは嬉しそうに昔の話をしてくる。

 

 

「俺が村を出て行くってなった時はみんな悲しんでくれてさぁ……ウィンヒルの奴ら元気してっかなぁ……」

 

みんなレインに付き纏う油虫がようやく離れてくれた、と大喜びしてたのが真実だ。

 

 

「俺にはモンスターハントの弟子が居てさぁ……そいつ俺の事を尊敬しててさぁ……」

 

一方的に喋りかけてくる彼の長くなりそうな昔話を聞いていると、エスタ兵が焦った様子で走りながらやって来た。

兵士は拘束具をラグナに付けて怒鳴る。

 

 

「何してんですかあんた!? 大統領官邸に戻りますよ!」

 

「いや、人手が足りないから俺も力になろうと────

 

こんな時に仕事を増やすなと言う兵士に、何やらごちゃごちゃ言い訳をしつつ連行されるラグナ。

全く油断も隙も無いんだからと部下にぶつぶつ文句を言われながら、彼は保育園へと連れ戻される。

そういえば今のこいつは大統領だった。

思い出を聞いていたせいで完全に忘れ、一緒に次の退治に向かおうとしていた己も同罪かもしれない……。

 

少し兵士の人に申し訳なさを感じていると、叫ぶラグナの声が聞こえた。

 

「兄ちゃんモンスター退治ありがとな〜!」

 

私も大きな声で言葉を返す。

 

 

「ほんの少しだけど! 昔みたいにラグナの分ぐらいはパトロールしてやるよ!!」

 

モンスター退治のパトロール、それは彼から任された私の役目なのだ。

 

 

大声を上げて叫んだのなんて何十年ぶりだろう?

慣れてないせいで普段の取り繕った言い回しとはまるで違う言葉が出た、なんだか気恥ずかしい。

 

 

知識を活かさない事に引け目を感じ、顔を見たくないとズルズル引き伸ばして来た。

そんな自分はいざ彼と共闘した途端に、あれほど感じていた後ろめたい気持ちはすっかり何処かに消え去ってしまっていた。

簡単に影響されすぎて笑えてくる。

もしかして私は馬鹿なのだろうか……。

 

 

元々子供の頃から、ラグナと関わっても何もできない事はわかっていた。

それでも知り合いになる選択を選んだのは、彼のこういう“みりき”のおかげだったのだろう。

 

ラグナはおそらく、レインと最後に会えなかった事を悲しんでは居ても囚われてはいない。

キロスの言っていた事は本質を突いていた。

あんまり真剣にラグナの事を考えてもこちらが損をするだけなのだ。

どうやらまた私はFF8の主要人物をみくびっていたらしい。

 

アルティミシアが倒されて全てが終わったら、改めて自分の名を名乗りに会いに行こう。

そう思った。

 

 

 

街中に倒れる負傷した兵士達にケアルガをかけて傷を癒す。

私の戦いを見ていた負傷兵の1人から、ショッピングモールの方で手のつけられない大型のモンスターが暴れているので援軍に行って欲しいとお願いされた。

 

 

ショッピングモールで暴れる全身紫色の巨大な猛獣。

沢山のエスタ兵に囲まれて銃を撃たれたベヒーモスが、角を起点にして防御魔法を即座に張る。

銃弾は獣の張ったプロテスで威力を大幅に軽減されて、その皮膚を突破する事すら敵わない。

数十人のエスタ兵が距離を置いて取り囲む中に私は割って入った。

 

 

ベヒーモスは近づいてくる私に向かって威嚇をする。

 

ここはショッピングモールだ。

客に囲まれてるお前は吠えていないで、いらっしゃいませと言って歓迎するべきだったのだ。

それが集団に殺される時の英雄の作法だ。

 

選択を間違え、店員ではなく食材になる事を選んだモンスターはみんなで食べてやろう。

丁度エスタは月の涙の魔力でしばらくの間は夕暮れ時だ、晩御飯として申し分ない。

 

私はナイフ代わりのガンブレードを取り出して分厚いステーキを切り分けた。

 

 

 

そうして戦いを終えては合間にリフレッシュエリアで疲労を軽減して仮眠をとり、また始める事を繰り返す。

市街で幾度目かわからない戦いを始めようとしたその時。

景色が歪み、人々の輪郭が曖昧になって行く。

 

ルナティックパンドラ内部でスコール達がエルオーネを取り戻し、魔女アデルを倒したのだろう。

それと同時に魔女アルティミシアによる時間圧縮が始まった。

 

 




エスナ兵
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。