【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
世界がうねりだし、波打つ水面のように全ての存在が不定形に引き伸ばされては縮む。
人も街も、時の圧縮に飲み込まれて存在をあやふやにしていく。
自分の存在が時の奔流に乱され消えていく最中、走馬灯の如くこの世界の体験を思い出し噛み締めていた。
ティンバーで読んだとなりのカノジョ、魔女の騎士の映画鑑賞、トラビアの学園祭で聞いた演奏、キャバクラの化粧が濃い姉ちゃん、モルボルに食べられた事もあった……。
…………そして、カードゲームで勝たなければいけない相手がいる事を思い出した。
私はカードクイーンと一緒に荒野に居た。
トリプルトライアドを愛する者同志としての仲間意識と、私がカードクイーンに対して抱いていた敵愾心がお互いの存在を繋ぎ止めていた。
奇跡だった。
そういえば、原作でも時間圧縮後の世界でカードクイーンは脱出ポットに居たし、カードゲーマー集団のCC団も互いを意識しあって存在を確立していたなと思い出す。
トリプルトライアド恐るべしといったところか……。
エスタでの戦いから一息つく暇も無く、カードクイーンという新たな刺客と連戦しなければならないらしい。
日差しを遮るために森でカードをしていると、そこにはちょこ坊とチョコボが現れた。
どうやらここはチョコボの森だったようだ。
ちょこ坊もチョコボと心を通わせ、お互いの存在を繋ぎ止めている。
彼のその献身性が種族の垣根を超えて評価されたのだ、凄い事だった。
奇跡か必然か、ここに私の最終パーティメンバーが集った。
イカれたメンバーを紹介するぜ。
死してなおチョコボ狂いのちょこ坊。
トリプルトライアドキチガイのカードクイーン。
足代わりのチョコボ。
以上だ!
これからチョコボに乗って世界各地にあると思われる扉に行き、ラストダンジョンに突入する事になった。
私が現在の状況を説明すると、カードクイーンが何故か非常にアルティミシア城に興味を持ったのだ。
未来のモンスター達を見て、それを父にカード化して貰いたいとの事。
「時の狭間に居るモンスター達をカード化するのは私達にしかできない使命です」
彼女は澄ました顔で両腕を大きく広げ熱弁しだした。
「トリプルトライアドは基本的に実際に居るモンスターのみを取り扱っています。これはカードの種類を増やす滅多にない貴重な機会なのです。このチャンスを逃す訳にはいきません」
命知らずな願いだが、私もアルティミシア城は見てみたいのでその気持ちがわからなくもない。
チョコボはイマイチよくわかってなさそうだが、ヒロイックな状況に興奮し我々について行く気満々だった。
ちょこ坊はそんな危ない所についてくる気は無かったようだが、一人でいるのも心細いらしい。
この時間圧縮世界で忘れられて存在が消えないように、チョコボお世話係としてついてくるようだ。
チョコボの森から離れられないんじゃないかと聞いたところ「チョコボの居る所がぼくの居場所さ」という納得の返事が返ってきた。
休みながら他の二人をチョコボに乗せて私は徒歩で大地を駆けるのだが、時間が経っても一向に太陽が沈む気配が無い。
どうやら時の概念が狂っているようだ。
まあ……過去、現在、未来が一緒くたに混ぜられている世界なのだ、時の間隔がおかしな事になっているのは当然だろう。
広大な大地にポン置きされてある石造りの長方形は、意外と早く見つかった。
もっと何十日もかかってもおかしくないが、こういう時にも運ジャンクションと運+50%のアビリティが効いているのかもしれない。
石で出来た謎ワープゲートを通り抜けると、そこには広がる闇と空中に浮かぶ巨大な鎖があった。
問題は……今現在立っている浮かぶゲートの少ない幅の足場から、助走無しジャンプをして微妙に揺れる鎖に飛び移らないといけない事だ。
滑って落ちたりでもしたら多分人生が終わる。
恐怖で足踏みしている内にチョコボは軽々飛び移っていた。
ジャンクション効果で身体能力を上げている私も当然飛び移れる筈だ、問題は後の二人だった。
カードクイーンもちょこ坊もそんな事はできない。
(私がこいつらを両手に抱えてジャンプして行くのか?)
まさか城に入る前から洗礼を受けるとは……。
恐るべしラストダンジョン。
というかちょこ坊は幽霊なら物理法則に縛られるなよと言いたい。
冷や汗をかく2人を抱えなんとか鎖に乗り移る事ができたが、もう一度同じ事をやれと言われてもやりたくはなかった。
巨大な鎖という不安定な形状の足場を一歩一歩踏破してようやくゴールが見えて来る。
このアトラクション、普通の身体能力を持つ人間を連れたままだと本当に大変だった。
鎖の繋がる先、そこには恐ろしく立派だが廃墟同然の古城が威圧感を放っていた。
巨大な月に照らし出され夜の空に浮かぶ悪の総本山、アルティミシア城だ。
人の身で開ける事が想定されているとは到底思えないような大きな扉が、隙間から得体の知れない煙を漂わせ獲物を待ち構えている。
慎重に行かなければならない。
基本的にモンスターや魔女のしもべと極力戦闘はしない、見るだけだ。
くれぐれも騒いだりしないようにせねばならない、そう取り決めた私達は見つからないようゆっくりと扉を開き、ひっそりと城に入った。
その時、突如として城内にアナウンスが流れる。
【しもべの力により侵入者達の一部の力が封印されます】
侵入は早速バレていた。
この城では力を封印されてしまうとわかっていたが、あれってゲームテキストのシステムアナウンスじゃないのかよと驚く暇はなかった。
我々の目の前、エントランスにある正面階段の上にはおどろおどろしい赤紫色をしたスフィンクスがいる。
翼のように背中に生やした4枚の湾曲する板を動かしながら、それは鎮座していた。
(しまった! こいつの事を忘れていた!)
力が封印された状態で魔女のしもべとの邂逅、パーティ一同に緊張が走る。
皆が呼吸を飲み込み音を消した。
固まった空気の中、時が過ぎる……。
スフィンクスは鎮座し動かない。
お互いにリアクションをする事なく更に時が経つ……。
(まさか……この距離で更にアナウンスがあったのにバレてないのか?)
そんな希望的観測に縋ろうとしたその時、スフィンクスの両腕が動き出した。
私達に再び緊張が走る。
スフィンクスは両手で自らの被っている巨大な仮面を持ち上げそのまま脱いだ。
巨体に見合わぬ端正な人の顔が露わになり、大きな手で顔の汗を拭って仮面を被り直した。
そして再開する両者緊張の沈黙。
「どういう事だ……何故こちらを攻撃しない……。バレてないのか?」
パーティメンバー内で小声の議論が始まる。
「なんだか……まだ私達は見つかっていないようですね」
ヒソヒソ声で話しかけてくるカードクイーンの分析に、流石にそんなわけがないと返そうと思ったが……。
まさかとは思うがどうやら本当にそのようだ。
「で、でもどう見ても僕たち丸見えだけど……」
幽霊はせめて見えなくあって欲しいが、ちょこ坊はその利点を投げ捨てた存在だった。
とにかく我々の存在が認識されていない理由はわからない。
えっちぃビデオで自分だけ認識されないアレが現実に起こったのかもしれない。
わかっているのはひとつ、スフィンクスの被っている仮面の中が暑いという事だった。
もしかして頭部を覆うようにあの分厚い仮面をかぶっているから音が遮断されて、先ほどのアナウンスが聞こえなかったのか……?
まさかとは思うが仮面は視界が悪いのか……?
それとも中身の顔であるアンドロの視力が低い……?
(あっ……! また仮面脱いで汗拭いてる!)
「暑そうだねぇ」とちょこ坊がスフィンクスに同情した。
カードクイーンはメモ帳を取り出しスフィンクスの姿をスケッチしだす。
何故かチョコボは一人だけ殺る気満々だった。
この黄色い鳥が、先程話し合った戦いを避けるという作戦会議を忘れてないか不安でしかない。
この場にはもう緊張感もクソも存在しなかった。
スケッチがある程度終わったので次のしもべを見に行こうという事になった。
そんな感じで各部屋を周りしもべ達をチラ見しては描くのを繰り返す。
魔女のしもべモンスター達はアルティミシアに操られているせいか持ち場を動かないし、物音や動く者にすら興味を示さないようだった。
「はいはい持ち場から動かず守っときゃ良いんでしょ」という、どことなく投げやりな感じがする。
アルティミシアは上司としては敬われていないのだろうか?
なんだか部屋のギミックに隠れたりしているしもべ達も暇みたいで、たまに這い出てきては体が鈍らないようにストレッチをしたりしていた。
稀に出くわす普通のモンスターも、相手がこちらに向かってくるなら対処するが……。
どうやら野生のモンスター達も時間の狭間から迷い込んで来ただけらしく、知性の薄いモンスター以外は積極的にこちらを襲う気はないみたいだった。
辺りを伺うようにそろそろと歩いていたトンベリなんかは、こちらの姿を発見した瞬間逃げていったぐらいだ。
不安なのは人間だけじゃないのかもしれない。
礼拝堂にはオルガンと埃まみれのステンドグラス以外に何も無く、存在するかどうかを危惧していたオメガウェポンは居ないみたいだった。
ギミックを介さなければ出会えない隠しボスとはいえ、しもべ達とは違い、暇だから出てきて腰を伸ばすといったシリアスをぶち壊す楽屋裏は無いようだ。
西洋風のお化け屋敷を探索してるような気分で思った以上に怖かったが、既に慣れてきている。
ちょこ坊も最初はあんなに恐怖を感じていたのに今では平気そうにしていた。
流石は死してなお世界中のチョコボの森を網羅するだけの事はある。
驚くべき胆力を持ち合わせている子供だった。
というか何度も言うが本来こいつが怖がらせる側の幽霊だ。
一方カードクイーンも一応はビビる素振りを見せる。
しかしこちらもまた、カードのために世界中を旅する胆力を持ち合わせた驚くべき精神力の女。
恐怖より情熱が上回ったのか即座に適応していた。
チョコボは最初から平気そうだった。
頼りになるパーティメンバー達だ……。
時計塔を登っている途中の部屋に入ると部屋の壁が全て崩れてなくなり、野晒しになった広いスペースがある。
ティアマトという竜型のしもべモンスターがそこにいた。
このドラゴンはおそらく、未来でアルティミシアに支配されしもべとなったG.F.の王、バハムートだ。
宙を羽ばたきホバリングするティアマトの見た目はまさに壮観だった。
背後の巨大な月と合わさり一枚の絵画のような幻想的な光景には圧倒される。
まだしもべ達が倒されていないという事はこれからFF8の主人公一行が来るのだと思うが……これと戦うんだなと想像すると尊敬の念を覚えずにはいられない。
ゲームではその肩書きと見た目に反して、一文字づつ表示される技の詠唱が遅すぎて何もさせずに倒せるのがティアマトだった。
実際に見てみるとこれと戦って詠唱が鈍かったので無傷で勝てました! は絶対に有り得ないと断言できる。
道中見てきた他のアルティミシアのしもべ達と比べても、その迫力とオーラは群を抜いていた。
仮にゲームと同じ挙動だったとしても戦いたいと思えない。
カードクイーンのスケッチが終わったその時。ティアマトの姿が上空に消えた。
「……不味い!!」
動きに気づいたその時にはもう遅かった。
上空から一瞬で背後に回られ、私達は強い羽ばたきの風圧で扉付近から時計塔外部に引きずり出された。
『封じられし力を得んとする者どもに裁きを……』
力を封じられた私達3人と1匹、相対するのは闇に染まったG.F.の王。
絶望の戦いが始まる。
私達は数々のしもべから生還して油断していたのかもしれない。
遠くから見るだけならしもべ達は動かなかったが、それが逆に変な慣れとなって危険を呼んだ。
後悔は後だ、ジャンクションで底上げされた身体能力だけでやるしかない。
おそらくまともに戦闘できるのは私だけだった。
偉大なる竜の濁った瞳が、ガンブレードを構える私を捉えた。
その瞬間、なぜかティアマトの動きが鈍くなり、もがき苦しみ始める。
「今だ! 逃げるぞ!」
訳がわからないが逃げ出す好機だった。私の掛け声と共に全員が元いた扉に向かって走り出す。
時計塔内部の螺旋状に組まれた足場を必死に駆け下りて行く。
暴れる邪竜が扉付近の足場を壊し、衝撃で腐りかけていた柱が1本倒れ、塔の壁をぶち抜いて月明かりが差し込んだ。
あまりの恐怖に震え上がって逃げ足が早くなる。
転びそうなので私はカードクイーンを抱えて、ちょこ坊はチョコボにしがみつきながら時計塔をなんとか脱出した。
その直後、背後から逃した事を惜しむかのような恐ろしい竜の鳴き声と慟哭がこだました。
『久……しいな…………。おも……しろき……者よ……』
ティアマトから命からがら逃げだしてひと息ついたその時、急に城内アナウンスが流れ出す。
【しもべの力により侵入者の能力の一部が封印されます】
……原作パーティ来た! これで勝つる!
アルティミシアを一目見てみたい気持ちになっていたが、流石にそんな無謀な事はできない。
終盤の戦いについていけると思えないからである。
世界が白く染まるショックウェーブパルサーや、星々を中心に集めてぶつけるグレートアトラクター。
そしてアルテマをも越える究極の魔法、アポカリプスを耐えられる気がしない。
私にはもうコヨコヨのように応援することしかできないのだ。
という訳でここに居たら巻き込まれかねないので、我がパーティはさっさと城を脱出することにした。
今更な話をする……。
ゲームの知識を大前提になんとなく城に入った我がパーティメンバー達だったが、アルティミシアに見つかって本人が直接殺しに来たりしたら普通にヤバかったのでは無いだろうか……。
私はなんだかんだで自分も遊園地気分で浮かれていた事に気付き、ゾッとしていた。