【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
私達は遂に城の入り口まで戻ってきていた。
既にスフィンクスは倒され、スコール達は他の城のしもべ達を倒しに行ったらしい。
流石プロ、行動が迅速だ。
会えたらアイテムでも渡そうと思っていたが、どうやら私はそんな終盤のお助けキャラにすらなれないようだった。
そして私はまたこの馬鹿デカい鎖を落ちないようにヨチヨチ歩いて、2人を担いでゲートにジャンプしなきゃいけない。
ちょこ坊が「僕はチョコボに乗って移動するから、カードクイーンさんを助けてあげて」と気を遣った提案してくれる。
なんか普通に良いやつだった。
そういえばちょこ坊は今までも別に悪い事をしていた訳じゃないし、誰かに迷惑をかけた訳でもない。
幽霊という色眼鏡を通した先入観を持っていて悪かったかもしれない。
思えば私だって前世という世界からやってきた幽霊みたいな物だ。
そんな奴がオバケに苦手意識があるなんておかしな話だ。
城を出て鎖を歩く。
カードクイーンを背負って長い鎖をゆっくり歩く私は、まるでリノアを背負って長い線路を歩いたスコールのようだった。
背中が暖かい。
女性として意識するというよりはまるで……そう、お婆さんを背負って横断歩道を渡るかのような……。
そんな近頃にしては感心の若者になった気分だった。
おい女……感謝の言葉を述べるのは良いが、背中で手を広げる癖を出すのは危ないからやめろ。
スコール達がアルティミシアに勝利したようだ。
時間圧縮が戻りつつある中で景色が変わっていき、私達は過去のカードクイーンの実家に居た。
どうやら私達3人と1匹は大冒険の末にお互いを強く思い合い、一緒に時間圧縮の波を乗りこなせるようになったらしい。
陳腐な言葉だが絆の力は凄いという事か……。
絵を描いている中年男性は街中にチョコボがいるという光景と、大人になった娘の姿に驚いていた。
カードクイーンはこれ幸いとさまざまなスケッチを渡し、アルティミシアのしもべ達の情報を説明している。
彼女の父親はその話を聴き、インスピレーションがもりもりと湧いてきたと張り切っていた。
世界の過去に魔女のしもべモンスター達の情報が伝わり、これからそのカードが生まれるのだろう。
このような経緯で出来たレアカード達だったのかと驚愕しかない。
もしかして私がカードクイーンをアルティミシア城に連れて行かなくても、自分で足を運び、
しもべ達を見て父親に描かせるという一連のプロセスが行われた可能性は高いのではないだろうか?
カードに対する異常な行動力とバイタリティを持つ彼女ならあり得なくはない。
そうしていると再び空間が歪んで風景が変わる。
どことなく見覚えのある石柱に、若々しい緑が巻き付いている景色……。
青い空の下で私達は互いを意識して存在を維持した、その時。
女性の声が聞こえた。
「魔女は力を持ったまま死ねません、私も魔女だからわかります」
それは知っている言葉、見覚えのあるシーン。
まさか……。
ここはおそらくスコールが過ごした幼少期の孤児院、イデアの家だ……。
死にかけのアルティミシアからイデアが魔女の力を継承しようとする。
目の前のそれは原作のラストシーンだった。
もしかしてFF8のシーンを見てみたいという意識と、アルティミシアを見たいという気持ち。
それがここに私を呼び寄せたのだろうか?
よろよろと歩き出そうとするアルティミシアが倒れ込む様に地に膝を突く。
既に衣類はボロボロで、その紅色が血液なのかドレス本来の色なのかすら見分けがつかない。
未来の魔女は両手で身体を支えてなんとか体を起き上がらせようとするが、その思惑は叶わず、伏せる様に這いつくばった。
まだ終われないと執念で絞り出した声は、気管に入ろうとした血液によって咳を引き起こし中断される。
過去、現在、未来の全てを手に入れる寸前までたどり着いた女の、惨めで哀れな最後だった。
掠れた呼吸音が聞こえる。
失った体力と気力をなんとか取り戻そうとしているが、既に限界を迎えつつある肉体でそれは叶わない。
この場面に居合わせた理由はわからない。
しかしその光景を前に思わず駆け寄り、回復魔法をかけていた。
ボロボロになりながらも死ねず、力の継承先を探して這いずっているその姿を見た私は、居ても立ってもいられなくなったのだ。
突然の乱入者に驚くスコールと魔女イデアをよそに、アルティミシアの傷だらけの身体にポーションを振りかけて少しずつ飲ませる。
死に手招きされていた魔女の肉体が、知識の薄い私の応急処置でどれだけ癒えたかは定かでは無い。
しかし、若干呼吸は安定した気がした。
私と同時に何故か飛び出してきたカードクイーンが、今もなお死にかけのアルティミシアに向かって口を開いた。
「魔女の力は私に継承しなさい」
予想だにしない言葉。
この女……魔女として永遠に生き、カードゲームに尽くそうとしている……!
おそらく先ほどのイデアの言葉を聞いて状況を察したのだろう、無駄に状況把握能力が高い。
どさくさに紛れてとんでもない計画を思いついたキチガイ女に戦慄していると、彼女は語り出した。
「魔女となったわたしはこれから膨大な時を使命に費やすでしょう。
それに比べたら子供が独り立ちするまでの時間など些細な休憩時間と大差ありません」
何時ものように両手を広げ、徐々に稼働範囲が広がって行く腕の動き。
そのボディランゲージは説得力を持たせ、言葉が嘘で無い事を如実に表していた。
既にこの場はカードクイーンの独壇場だ。
「許してくれるかわかりませんが、少しの間は寂しい思いをしている息子の側で休息を取ろうと思います」
指揮者のように腕を動かし演説する彼女は、まだ魔女の力を継承していない。
それなのに既に継承した後の人生設計を決定し、力を受け継ぐ事を確定させていた。
「その後わたしは目的の為にあらゆる困難を排除しうんぬんかんぬん────
私は気付いてしまった。
先ほどからこの女はあえてカードゲームとは一切言わず、まるで壮大な野望があるかのように演技し、永遠の命欲しさに魔女を騙そうとしている……!
本当の気持ちと、おそらく事実でもあるだろう考えを混ぜているのがなおさら信憑性を高める。
演劇の経験を伴った魅せ方が、心理誘導としての効力を更に強めていた。
カードクイーン目がけて、アルティミシアの身体から魔女の力が雷の様に光り、降り注ぐ。
それはアルティミシアが詐欺に遭い、魔女の力と永遠の命をカードゲームキチガイに渡してしまった瞬間だった。
イデアを守るようにガンブレードを構えて私達を警戒するスコール。
彼に対してカードクイーンは朗らかに四角ボタンで話しかける。
「もう警戒する必要はありません。貴方とはバラムで一緒にカードをプレイして以来ですね……。よければ宇宙ルールで一試合やっていきませんか?」
(こんな時に何を言ってるんだ……この女はイカれているのか?)
カードクイーン以外、私を含めたその場の全員が多分同じ事を思っていた。
困惑を隠せないスコールとイデアの表情が何を考えているのかを物語っている。
チョコボだけは暇そうに欠伸していた。
そうしてカードプレイヤー特有のコミュニケーション能力を発揮した彼女は、一瞬で緊迫した雰囲気を困惑させて解きほぐす事に成功した。
それが場を和ませるための狙ってのおとぼけ行動なのか、土壇場でもカードをやりたい天然の本心なのかは、もう私には見分けがつかない……。
「クレイズ、お前は一体何なんだ……? 何故アルティミシアを助けた?」
私は気絶中の魔女が一命をとりとめた事を確認して、スコールの疑問に返答する。
「答えになってないかもしれないけど、それを知りたいのはこっちの方なんだ……自分が
FF8の事を知りたい。
その一心が己をこの場面まで運んできたとしたなら、それはもう誇ってもいいのではないだろうか。
転生した理由どころか己の気持ちも定かでない自分だが、その意識だけには自信があった。
「それでもいま私がスコールの為にやらなければいけない事だけは何となく分かる」
私はレアカード【リノア】を彼に渡す。
それはアルティミシア城に行くまでの間、本気のカードクイーンを相手に戦い頑張って勝ち取った景品だった。
宇宙ルールを背負い、私達が生きていた時間軸の全てのカードを所持する彼女はそれはもう強かった。
だが、私と妻の執念がそれを上回った。
ランダムハンドは微笑む相手を選ばない。全てのカードを所持している事が仇となりそれがカードクイーンの敗因となった。
本当は勝利の証を渡したくは無いのだが仕方ない。
大好きな恋人の顔が思い出せなくなったらこれを見ろと言って手放した。
ちょこ坊はスコールに「また『いつかどこかで』って言ったけどさ〜、こんな所で再会するなんてね〜。さぷらいずってやつ?」と絡み、なんだか喜んでいる。
お前ら知り合いだったのか……。
チョコボは器用にスコールのポケットからギサールの野菜を盗んで食べていた。
大事な場面に乱入した我がイロモノパーティは困惑するスコールをその場に置き去りにして、一足早くチョコボとカードゲーマーの絆パワーで時間圧縮から帰還した。
帰るべき場所を思い浮かべるのは容易だった。
ちょこ坊とチョコボは森に、カードクイーンと私はドールに暖かい家庭があるのだ────。
アルティミシアを現代のドールに連れ帰った私は、魔女の力を失った彼女を病室で看病しながら暮らしている。
あの時、瀕死のアルティミシアにかけた回復魔法と上級ポーションの治癒は、その命を繋ぎ止める事に成功していた。
今は毎日のように病院に通い、看病しながら少しずつ彼女の話を聞いている。
魔女の抜け殻となった女は私に問うた。
「何故私を助けたのです……憐れむのはやめなさい……」
憐れんでなどいない……。と言うのは嘘になるかもしれない。
しかし、憐れみ以上にボロボロになっていた彼女を見た瞬間、助けなきゃいけないと思ってしまったのだ。
あのとき実物のアルティミシアと会ってしまった私は、もう冷徹に会った事もない一個人に構ってなどいられない。などと彼女を切り捨てる気にはなれなかった。
これがFF8に対する愛なのか、あの日モルボルに植え付けられたアルティミシア個人に対する情欲なのかはわからない。
だがどちらにせよ明確な目的がひとつある。
「助けた理由は未来の魔女アルティミシアさん、貴女に話を聞いてみたいと思ったからです」
できれば原作で殆ど語られなかったアルティミシアというキャラクターの思いと、バックボーンを詳しく知りたい。
その心がこのチャンスを逃すなと私の身体を突き動かした。
でなければ世界がどうなるかわからない状況で、瀕死のラストボスを回復という後先考えない愚行を冒したりはしない。
彼女はSeeD達との最終決戦で一時の間、魔力装置としてぶら下がっていた体験から、魔女の力に潜むハインの存在を認識したらしい。
力を継承したのは自分の意志ではなく、魔女の力が勝手に抜け出ていったのだという。
つまりハインがカードクイーンの知恵によってやり込められていたという事実が発覚した……。
目指していた時間圧縮で自分1人が存在する世界を作るという目的も、本当に己の意志だったかすらあやふや。
力を失い、背負っていた黒い翼も消えた。
この世界で生活して行くだけのお金も無い。
残ったのは罪と美貌と戦いで傷付いた身体だけ。
悪の魔女の心は既に折れていた。
「魔女を操り多くの悲劇を産んだ私をどうして殺さない……」
「確かに貴女には罪がある、ですが私にだって罪はあります」
誰かに初めて話す。
「私は多くの悲劇が起こる事を知っていました……。なのに、全てを助けられるかもしれない可能性から目を瞑り、足掻こうとしなかった」
自分の口から出るそれはある種の懺悔だった。
「私の場合は罪から目を逸らし、開き直りました……。貴女がこれから何を思うのか、それは私にはわかりません。
ですが魔女の力を失ってから世界を見る事で、何か分かる事もあるんだと思います」
彼女がこれから幸せになるかはわからない。
必ずしも深く考える事が良い方向に行くとは限らない。
これまで通り人を憎んで生きていくかもしれないし、もしかしたら己の罪深さに後悔して自死を選ぶ事だってあるかもしれない。
「貴女が答えを出せるまで、隣でその手伝いをさせてくれませんか?」
でも私は、傲慢にもアルティミシアを幸せにしてあげたいと思った。
アルティミシアは別に己の罪を悔いているわけではないと思う。
おそらく人間が嫌いなのも変わりない事だろう。素直に言葉を返してくれるとは思えなかった。
だが幸い、私の手元にはどんな人ともコミニュケーションを取れる便利なツールがあるのだ……。
「貴女はこのエリアには無いルールを知っているようですね、ここと未来のルールを混ぜてゲームをしませんか」
無言の彼女はどうやらやってくれないらしい。
こういう時どうすれば良いか知っている私は、指を回しながら言った。
「私とカードが……したくな〜る。したくな〜る。……ダメ?」
ポカンとしているアルティミシアの顔が妙に印象的だった────。
この世界には弱った心体を立て直すための栄養豊富な食事と美しい景色がある。
素晴らしい音楽と愉快な人達がいて、罪人を何も言わずに受け入れてくれる街がある。
折れた心はいつの日か立ち直り、人としての人生を歩んでいける未来がいずれ来る筈だ。
悪だった存在が必ずしも死んで報いを受ける必要は無い。
それが私の大好きな……FINAL FANTASY VIIIだ。
THE END
第一部完
このあと、後日談兼キャラ紹介と主人公に対する印象とか裏設定があります。
それから二部があります。