【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
29話 エスタ②
あれから1年弱、アルティミシアの容態があと一歩回復しない。
少し歩けるようにはなっているが、ドールの技術でこれ以上の治療は不可能なようだ。
私は医療が発達している都市に心当たりがあった。
そう、最先端の科学技術を操る大国、エスタだ。
彼女は月の涙を引き起こす指示をサイファーに出してリノアを操り、魔女アデルの封印を解いた。
エスタ大陸全土に被害をもたらした、その首謀者を治してくれなんて虫が良すぎる話かもしれない。
だが私にはコネがある。
深い事を考えてないであろう大統領とのコネクションは、こういう時こそ便利に使うべきだろう。
そろそろ会わなければならないと思っていたし丁度いい。
「ミシアちゃん、身体を治す為にエスタに行かない?」
「その呼び方はやめなさいと何度も言った筈です」
「いや、でもアルティミシアって長いし呼び捨ては無骨すぎるというか……アルちゃん?」
「何故ちゃん付けにこだわる……」
「あっ……そっか、さん付けの方がいいよね。じゃあアルティミシアさん、エスタには車椅子で船に乗って行く事になるからどんなのが良いか一緒に選ぼうよ」
「結局元の呼び方になるなら、今のやり取りの意味は何だったのかしら……」
これでも私は人が嫌がる事はしない主義なのだ。
……嘘だ、嫌がる顔は見たいたいけど、こんな事で嫌われたく無いからできないだけだ。
鎖国が解かれたエスタには現在船でのみ行き来する事が出来る。
世界が平和になり国家間の問題が消えたとはいえ、大陸間鉄道の運行再開はもう少し時間がかかるようだ。
こうしてアルティミシアと外の世界を旅行するのは初めてだった。
船に揺られるだけで何もする事が無い私達は、既に景色も見飽きて部屋の中でカードゲームをやっている。
「このレアカードって実は私が時間圧縮の時にミシアさんの城に潜入したせいで作られたんだ、それでしもべ達について少し話聞けたらな〜と思ってさ」
「貴方は本当に物好きねぇ……。もうあのモンスター達と出会う事も無いでしょうに」
船内で提供されるトロピカルジュースを飲みながらカードを配置し、ゆったりとした気分に浸る彼女の話を聞く。
「コキュートスは私がシャンデリアに見立てて、エネルギー結晶体をかき集めて命を吹き込んだしもべだったわ」
宝石のような見た目の癖に、不細工にでき上がったからあまり好きじゃなかったと言う。
そんなコキュートスのカードは、彼女が大切そうに出したウルフラマイターのカードによって裏返る。
「色が違うせいで群れから捨てられていた赤ん坊の鉄巨人。拾って育ててみたけど……これも失敗だった。でも割と気に入っていたわ……弱すぎるから誰も来ないような所に隠して置いたの」
鉄巨人に赤ん坊時代とかあるんだとか、育てたんだというツッコミどころは色々ある。
群れとは……。
あの巨体が複数が集まるのは、動きづらそうだからやめた方がいいのではないだろうか?
「あのいかにも戦闘者といった図体でペットみたいなものだったのか……」
「そうね、マイターちゃんは少しゴツいけど可愛いペットだった。それもSeeDに殺されてしまった……」
モンスターにしては結構賢くて、勉強を教えたら喋れるようになったり、属性の相性を覚えてくれたのが嬉しかったと懐かしそうに話すアルティミシア。
独りでいるならペットぐらいは飼って当然か……。
なんだか愛情を感じるそのような思い出を聞くと、少し可哀想である。
「私に歯向かう国の統括者を、見せしめとしてモンスターにしてあげた事もあった」
とびっきり弱くして、侵入者に殺させる為にエントランスに配置したらしい。
あえて人の顔だけを残し化け物の仮面を被せて、殺された時に元人間だったとわかる結末を想像すると愉快だったとか。
微笑みながら語る彼女はなんだか楽しそうだ。
どうやら人間に戻った今でも魔女らしさのある一面はご健在の様子。
この一年弱の質問攻めによって、このような話を聞いても私が失望や悪感情を抱かないという事は理解してもらえているようだった。
そうやって出てきたカードにまつわる思い出を聞く至福の時間を過ごしていると、船員がそろそろ到着するという情報を教えてくれる。
窓を開けて覗くと見えるエスタの大陸。
名残惜しいがこの時間も終わりが近づいてきているようだ。
揺れることなく運航してくれる速度の速い船旅は、普段なら素晴らしい利便性なのだろう。
だがこの時ばかりは、技術力が高いというのも考えものだと思ってしまった。
このような風情を求めてしまうのは前世があるが故なのかもしれない。
人々にとってこの速度が産まれる前からの当たり前なのだ。
しかし今の私にとっては、せっかくのデートが早く終わりそうで残念なだけだ……。
エスタについた私達を早速ラグナ達が出迎えてくれる。
大統領自らお出迎えなんてありがたい話である。
もうすぐガルバディアとエスタ合同の世界平和記念セレモニーが行われる筈だ。
そんな予定がある中で、こうしてお偉いさんが会える時間を作ってくれるのは、相手がラグナでなければ恐縮してしまっただろう。
実際ラグナの仕事は宇宙でアデルを監視する事が大半だったので、今は意外と暇なようだ。
というか仕事に関しては部下が信用してくれず、任せてくれないとか……。
キロスとウォードはそっちの方でもちゃんと信頼されているらしく、今日はウォードがラグナくん係として側に付いている。
彼と会うのは初めてだったが大迫力の巨体だった。
とある事件で喉が潰れてしまい、エスタの技術でも治せなかった彼は喋る事ができない。
しかしラグナには何が言いたいのか雰囲気でわかるようだ。
「…………」
「おいおい俺もクレイズも馬鹿じゃねーって、全く失礼な奴だぜ」
「…………」
「まぁ……言われてみれば二人ともちーっとばかしドジな所はあるかもな、ほんのちょびっとだけ!」
「…………」
「まあお前の思う通り良い奴だぜ、何たって俺の事をちょー尊敬してる弟子だからな」
ウォードとの会話に全くついていけない……それにラグナの事は凄い奴だとは思うが、別にそこまでは尊敬していない……。
喋ってないのにここまで意思疎通が図れてしまうのは、逆に心の中を覗かれているような物ではないかと思うのだが……それが苦にならない友情ってやつなのだろう。
もしかしたらラグナが好き勝手に解釈して言ってるだけかもしれない……。
むしろその可能性の方が高い。
キロスは今日はお仕事が忙しいとの事。
合わせたかったけどしゃーねーよなといつもの調子でラグナは言っていた。
そして予想通り、この場にはエルオーネも一緒だった。
今まで彼女には申し訳ないという気持ちがあったのだが、いま私の隣にはアルティミシアが居る。
エルオーネを目的のひとつとしてガルバディアを操り、沢山の悲劇を実際に巻き起こしてきた人物と比べると私は罪悪感を抱いている場合ではない。
起こした実害のスケールが違いすぎて、原作知識を使わない事が申し訳ない気持ちなど、それと比較すると有って無いような物だ。
だからこそ、こうして顔を見せる気になれたという部分もあるのだろう……。
大人になったエルオーネはそれはもう美人だった。
落ち着いた中に可愛らしさと元気さが残り、女性としての魅力に昇華されていた。
船の上で生活して幼い子供達の面倒を見ていただけあって、包容力も感じさせる。
まるで笑顔の練習でも手伝ってくれそうな素敵な女性である。
レインもそうだったがウィンヒルの人間は結構美形が多い。
そこは故郷の数少ない誇れる部分かもしれない。
ぎこちない挨拶を交わす私達は、ラグナの能天気さに救われながら、失った時間の絆を取り戻す。
再び彼らと交流出来る日が来るなんて、なんだか夢みたいだった。
私の中で彼等は既にFF8の登場人物というよりも、故郷で一緒に過ごした知り合いという印象が強い。
憧れの意識は薄れていたが、このような気持ちになるという事はやはり心の何処かで会えない事を寂しく思っていたのだろう。
まあエルオーネに関しては幼かった昔と違いすぎて、初対面のような気持ちなのだが、どうやらあちらも同じように感じているらしかった。
そんな訳でお互い浅い会話をしていると、それを見かねたのかアルティミシアが動き出した。
知人同士と和気あいあいとしている最中、一人取り残した形になったのは悪かったかもしれない。
「私はアルティミシア、全ての存在を圧縮し、全ての存在を否定しましょう」
「えっ、言っちゃうの……」
もう少し段階というものがあるのではないだろうか?
卑怯臭いが正体を明かすなら治療してもらった後とかの方が、万が一の場合にお得だった気がする。
一応エスタに被害をもたらした元凶である事を忘れないで欲しい。
「何故私がコソコソと過ごさねばならないのです。罪を問い、裁きたいなら好きにすればいいわ。どうせその時は貴方が守ってくれるのでしょう?」
信頼されているのは嬉しいが、ストーリーでは裏でコソコソ魔女の意識を乗っ取って暗躍していた癖に、無駄に大胆不敵な女である。
「そうだけど、いきなりだからビックリするって……ほら、ラグナですら驚いて声出てないから」
当然驚くラグナとエルオーネに説明する。
「手紙に書いた治療して欲しい人がいるって言うのは……実は彼女の事なんだ」
今はこの通り、魔女の力も無いし自力で肉体を満足に動かすことすら困難だ。
口と態度だけは達者だが、基本的には無害だと訳を説明した。
余計な事を言うなとミシアさんに脇腹をつねられるが可愛い物だ。
何やら話の流れでアルティミシアはエルオーネにカードを挑んだようだ。
初対面の誰かとコミュニケーションを取るには丁度良い選択だろう。
私は彼女の心境の変化を感じ取りそれを嬉しく思う。
ここは少し離れて2人の様子を見る事にした。
そんな私にラグナが顔を寄せ、口元を手で隠して小声で話してくる。
「なぁクレイズ、アルティミシアって本当に大丈夫なのかよ……」
「ああ、大丈夫……だと思うよ。今の彼女は何もできないし魔女の力は既に継承したからね……」
私も小声で返す。
「というかお前……なんで魔女アルティミシアと知り合いなんだ? 今までの事に関わりあったっけか……?」
「スコールから時間圧縮の世界の話、聞いてないの?」
「んあ! そういやなんか言ってた気がすんなぁ……報告された時、酒飲んでたから忘れちまってたかもしれねぇ……」
アルコールに弱いから普段は飲まないが、色々解決したせいで気が大きくなったのが拙かった。と反省するラグナ。
今後彼の反省が活かされる事は無いであろう。
この件に関してのみ、私は原作知識とは関係無く容易に未来予知が出来た。
「こういう時、なんか大統領の権限で彼女の罪を何とかできないかなーなんて思ってさ……」
久しぶりに会った昔の知り合いにこういう頼みをするのは、現金すぎて自分でも良くないと思う。
友情を担保にした如何わしい取引は、友を失くす可能性が高い。
ましてやなんらかの汚職や犯罪行為に該当しそうなお願いだ。
相手がこの男でなければ絶対にこんな事頼もうとは思わなかっただろう。
しかし、ラグナは良くも悪くもこの程度のお願いを訝しんで関係が切れるような人間ではない。
普段は頼りないが、そういう部分だけは手放しで信じられる男だった。
「ああ、そこんところは多分……キロスとウォードがなんとかしてくれる筈だ。
俺も漏れそうな時に、街中に立ちションした罪を裏で揉み消してもらった事がある……」
この歳になるとトイレが近くなって老いを感じると、染み染み話すラグナ。
月の涙と立ちションを同じ枠組みで考える驚きの柔軟性。
そんな謎の判断基準で許してくれそうなのは、流石尊敬する我が師と言ったところか。
こういう時、歳を経ても皺の無い彼の頭脳がありがたい。
「それに、そこんところは街の人達が知ってもすぐに殺せ、とかにはなんねーと思うぜ」
ラグナが言うには今現在のエスタの民度の高さは凄まじい物があるらしく、この世界では基本的に差別対象の魔女にすら敬意を持って接するそうだ。
エスタが積極的に戦争をしていた魔女戦争の時代、誘拐や人体実験などを平気で行い、最優先で兵器開発に予算を投入していた。
魔女アデルが支配する時代のエスタは、言わばビンザー・デリングが独裁していた頃のガルバディアを更にヤバくしたような国だったのだ。
その反動なのか罪の意識を感じていた後ろめたさなのか、17年前ぐらいにラグナが大統領になってから過去を戒めにしてどんどん民度が高まっていったらしい。
魔女に支配されて酷い国になっていたにも関わらず、魔女に対する敬意があるというのは確かに凄い。
「ただ、ちーっとばかし質問に答えたりする必要はあるかもしんねぇな、司法取引って奴だ」
「まあそれぐらいは当然か……一番被害受けたのってエスタだし、火炙りにされてもおかしくないと思うから、感謝しかないよ……」
司法取引というのはやはり魔女関連の話を聞きたいのであろう。
そこでハインに操られてたと証言すればアルティミシアの無罪判定を貰えるか……?
責任能力が欠落した状態の人を罪に問うのは道徳に反する、という事でなんとかならないだろうか?
その場しのぎのために人を騙そうとする考えばかりが思い浮ぶのは、今の自分の悪い癖だった。
「おい……それにしてもすげー女捕まえたなお前……」
「うん自分でもそう思う……。野生動物みたいな警戒心持ってるから、私以外の人間には刺々しい態度を取るけど……優しさには弱いし、キツい事言われてもあんまり気にしないで良いからね……」
「私ってクレイズお前、自分の事そう呼んでんのかよ……似合ってなくて笑えるぜ……」
ヒソヒソ。
「いやいや……カッコいい顔で一人称私って王子様とか貴公子みたいだし、どう考えても似合ってんだろ……」
「ぶはは、王子様のイメージが既に似合わねーよ……」
ヒソヒソヒソヒソ。
「似合わない大統領やってる奴に言われたくねーよくそっ……」
「汚い言葉使いで王子様ポイントマイナス1点だな。ぷくく……キロスとウォードの気持ちがわかったぜ、あいつら普段から俺を出汁にしてこんな楽しい事してやがったのかよ……」
既に普通の音量でも問題無い内容になっても尚、小声で話をする私とラグナ。
結局私達は職員が医療機関への手配と準備ができたと報告してくるまで、その無意味さに気づかないまま小さな声で話し続けていた。
次回、エルお姉ちゃん視点。