【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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35話 バラムガーデン④

 

私はある日、囲まれていた。

 

「トゥリープ様最高と言いなさい」

「トゥリープ様最高!」

「トゥリープ様最高!」

「トゥリープ様最高!」

 

この男女入り混じった狂信的な集団はトゥリープファンクラブ(通称トゥリープFC)の会員達である。

現在バラムガーデン内の派閥はマスターが居なくなった為、学園長派に続きキスティスファンクラブが勢力図を拡大し台頭してきているらしい。

教師を辞めたからといって別に人気が落ちた訳ではなかったようである。

 

補足情報だが、細々とスコール委員長派も存在するようだ。

しかしこちらはひっそりと隠れ住み、一度入信しても偽装棄教して潜伏するという。

表向きではそのような派閥は無いとされている。

主に彼の余計な負担になりたくないという配慮と、リノアとの時間を静かに過ごさせてあげたいという非常に自己抑制の効いた人達である。

 

因みにこれらの話はスコール委員長派のアーヴァインから聞いた。

 

 

何故現在トゥリープFC会員に囲まれているかというと、どうやら私は以前からマークされていたのだとか。

 

バラムの街でデートしてる所を捕捉した。

一緒に秘密の場所に入っていく姿を目撃した。

ダンスホールで踊っている姿を確認した

炎の洞窟で連携しながら戦っている所を見た。

 

さまざまな目撃が寄せられて、こいつは誰だとなっていたらしい。

最後の情報に至っては、確実にストーカーしか知り得ないシチュエーションである。

私よりよっぽど記者に向いているのではなかろうか?

そういう経緯で私の顔写真が一部熱狂的なトゥリープFCの間で出回り、密かに指名手配を受けていた。

 

スコール派よりも統率の取れていない彼、彼女等は愛故の暴走をしでかしてしまっているようだ。

不覚にもその心理はよーく理解できてしまうので、被害者となっても責める気になれない。

むしろ私もトゥリープファンクラブに入会したい。

キスティスについて語り合える、そんな夢のグループがあるなんて最高だった。

 

私は彼らに自分が持つ情報を教える代わりに入会させろと交渉を持ちかける。

 

彼らは私の知らないキスティスの情報を教えてくれる。

私は彼らの知らないキスティスの情報を教えてあげる。

WIN-WINだ。

ファンクラブに入会したら、抜け駆けでトゥリープ様と付き合うのは禁止のルールがあると忠告を受けるが、私はそれを鼻で笑った。

内情を知らなくとも、その禁止事項を守る気がある奴は確実に居ないと断言できるし、私自身も守る気が無いので、問題無い。

 

会員達は心の中でまだ私を仲間だと受け入れてはいないのか、その不服そうな瞳から敵視する感情がありありと伺える。

 

 

さてと……敵対するというならば仕方ない。

秘蔵のキスティス情報で学生諸君の脳味噌を破壊してやるとするか……。

 

「ここは人目につく、ついて来い同志達よ……。

場所は……そうだな。今はガーデン移動中で使われていない駐車場で良いだろう。

あそこなら人が来る心配は少ない」

 

 

軍団を引き連れて目的地にたどり着いた私は、キスティスとの出会いからダンスホールまで一部始終を事細かに語った。

ナンパで仲良くなった事を知ると彼等は「信じられない!」と現実逃避の声をあげる。

ダンスが終わった時、互いに目を見つめ合った所のエピソードなんて悲鳴が上がったぐらいだ。

秘密の場所についての話だけは、あえて詳しく語らずに勿体ぶって濁す。

まあこれを話すのは流石に野暮だと思ったからだが、丁度よかった。

「話すのは彼女に悪いから言いたく無い」の正論一点張りで想像力を掻き立てて煽った。

 

拳を握りしめて唇を噛み手や口の横から血が流れ出ている男子生徒がいた。

怒りの炎に身を焦がし、氷のような目線で私を睨んでくる女子生徒もいる。

 

自分達もお前の知らない情報があると宣言し、戦いを挑んでくる会員達。

 

 

「ほう……怒りというものは、人間を強くするか。 だが私の属性防御Jは、冷気すら受け付けぬぞ!

さあ! 回復してやろう! 全力でかかって来るがいい!」

 

私は彼等にケアルガをかけ、悔しさで出来た細かい傷を治してやった。

これから死にゆく者への最後の慈悲であり、万全の状態をもって全力で戦わせてやるという魔女の騎士道精神だ。

もっとも、心の傷は回復魔法では癒せない。

それは彼らがこれから私を倒して勝ち取るべき物なのだ。

 

 

ファンクラブの情報は確かに凄かった。

常人が手に入れられるとは思えない数々の戦闘履歴から、好みの定食まで。

普段から接していなければ知り得ない情報の数々。

教師をしていた頃、どれほど生徒達の事を思って授業に取り組んでいたかという、細かいエピソードを聞いた時は正直ちょっと感激した。

まあ一般人にしては良くやった方だと褒めてやる。

 

 

「それで……キスティスが子供の頃、誰に憧れていたのか知っているか?

誰が好きでどういう気持ちで頑張っていたのか、そんな初歩的な事すら答えられる奴はいないのか?」

 

ん? 反論が無いなら俺の勝ちだぞ?

 

私は原作知識で情報を手に入れただけという事実を棚に上げて見下した。

 

 

「君達は何時からキスティスを好きになった……?

長い者でもせいぜいガーデンで出会って10年かそこらだろうな。

……だが私は、産まれる前から好きだった。────格付完了」

 

転生した人間故の特権が遺憾なく発揮され、静まり返る駐車場。

膝を突くトゥリープFC会員達。

 

弱い物虐めは嫌いじゃない、自分の強さを実感できるから。

楽しく雑魚を痛ぶるのも狩りの醍醐味のひとつだ。

F.H.での激戦を経て、私は強者として蹂躙する側へと生まれ変わったのだ!

 

 

……その時、静寂に包まれる駐車場の中で1人の生徒が呟いた声が聞こえた。

 

「好きな気持ちに優劣なんて無い」

 

んん〜〜? おいおい、誰だ? この俺様に舐めた口を聞く奴は……。

せっかく気持ちよくなってたのに、そんな上っ面だけの浅い台詞吐かれたら冷めちまうよなぁ。

 

しかし次の瞬間、その生徒の顔をしっかりと確認した私は驚愕した。

 

 

「お、お前は……! アーヴァイン・キニアス!」

 

レスバ界最強の男! しまった!

やけに背の高くて肩幅の広い女子生徒がいると思っていたら、貴様が変装していたのか!

 

 

「僕はスコール派だけど、普段はトゥリープファンクラブ会員として偽装活動しててさ〜。今日はクレイズの事を知りたいからバレないように変装して潜入捜査してたってワケ」

 

「髪も結んで無いし、トレードマークのテンガロンハットが無くてわからなかっただろ?」と口紅で発色が良くなった笑みを浮かべながら言うアーヴァイン。

 

 

先程までの圧倒的な優位性は彼の登場だけでひっくり返されかけていた。

落ち着け、まだ状況は何も変わってない筈だ……ここで冷静さを欠いたら確実に負ける。

クレバーに立ち回り現状を打破せねば。

勝てない戦いはしない、それが私だ。ここはとりあえず同調して逃げ道を確保する!

 

 

「アーヴァインの言ってる事は正しいかもね……。確かに誰かを好きという気持ちに優劣なんてつけるべきじゃ無かったよ、みんなキスティスが大好きな事には変わりない」

 

勿論、こんなのは表面上賛同しただけのお為ごかし。

既に周りで倒れている奴らの心には敗北の2文字が刻まれている。

それは今更肯定された所で容易には消えない感情であり、痛みの消えない烙印だ。

防御とダメージを両立させる手応えのある一手、これで私が負ける事はなくなった筈だった。

アーヴァインの口からその言葉が出てくるまでは。

 

 

「僕の言った事はそういう意図じゃない。好きな相手は1人じゃなくて良いって意味さ。

今のはただ、複数の女性を好きになってしまう自分が言う『キスティスが好き』という意見に、

絶対の自信と説得力が持てなかったから、己を鼓舞しただけ」

 

しまった! 罠か!

 

 

「僕は君よりキスティスの事を好きで知ってる自信があるよ〜。

まあ最も……クレイズが『みんなが彼女を好きな気持ちに優劣が無い』と言うのならそれでも良いけどね〜」

 

クソっ、そりゃそうだろう。

なんたって彼はキスティスの幼馴染でパーティメンバーなのだ。得られる知識は格段に多い筈だ。

 

そして私は安易な同調で逃げようとして、逆に逃げ道を塞いでしまったらしい。

 

 

「さっきのクレイズの質問に答えようか、彼女が憧れていた相手はイデア・クレイマーことママ先生だ。

本人から聞いたけどキスティスはスコールの事が気になってたみたいだね〜。

里親と上手くいかなかったせいで、優秀じゃないと行けないと思い込んで努力していた、とも言っていた。

どう? 当たってるかい?」

 

当たっている……。

こいつはパーティメンバーに加入するまでG.F.を使用していなかったせいで記憶を失っていない。

孤児院時代の思い出をしっかりと憶えて、それを支えにしてこれまで頑張って生きて来たのだろう。

言葉の重みが違いすぎる。

そして原作知識から掠め取っただけの私が持つ、薄っぺらくて軽い情報アドバンテージはもう無い……。

 

 

「さて、今度は僕の番だ……。キスティスは恥ずかしいので出来るだけくさい息を使いたくない。と思っている事は当然知ってるよね?」

 

そのデータは私には無かった物だ。

女性としての恥じらい感じさせるその情報は、確かに今まで出た選りすぐりの物に負けず劣らず素晴らしいと認めざるを得ない。

 

「鞭を武器に選んだ理由は? キスティが最近タップダンスのプロ資格を取得したのは知ってるかい?」

 

幼少期の愛称まで持ち出して来た容赦ない彼の言葉の鞭が、私を撃つ。

煌めくアイシャドウがまるで女王様のようだった。

その後も彼は言っていいラインギリギリを攻めていく。

ヒートアップしていくアーヴァインの個人情報拡散行為に全く太刀打ちが出来ず敗北し、私の短い天下は終わりを告げたのだった……。

 

 

私とアーヴァインはキスティスに近すぎる事と知りすぎている事を嫉妬され、トゥリープFCを破門された。

全員が傷ついたこの場に勝者は誰も居ない。

皆に情報が出回ったおかげで、この場に居ないキスティスすらも損をしていた。

 

戦争や争いの不毛さと平和の尊さを、バラムガーデンという学び舎で教えてもらえてよかった。

傭兵学校の真髄を見た気がする。

 

シド学園長、ママ先生。

 

素晴らしい道徳の授業、ありがとうございました。

感銘を受けました。

今日から私は学園長派になろうと思います。

 

 





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