【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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38話 バラムガーデン⑤

 

美人ではあるが個性の薄い顔つきは、悪く言えば特徴が無い一般人である。

SeeD服を着ているのでかろうじて誰かわかる。

そんな彼女の名前は……。

 

「シュウ先輩!」

 

「見覚えがないけど、あんた誰? 私の後輩?」

 

「うす! 今年から後輩になりました、クレイズと言います! 先輩のお手伝いをしたいと思い、馳せ参じました!」

 

当然ながら私は後輩じゃない、しかし後輩というポジションで敬いたくなる女がシュウ先輩だった。

深い理由は無い、そっちの方が彼女の事を可愛く感じられると思うからである。

こういう時に制服の着用が自由なこの学校の規則は、身分を偽装するのに便利だ。

 

 

「ふーん、なんか歳上みたいに見えるけど……まぁいいか。とりあえず学園祭のパンフレットができたから運ぶの手伝ってよ」

 

「了解です! 先輩!」

 

元気の良い後輩を演じる。

誰かの後輩になった経験は今まで殆ど無い。

強いて言うなら村を出た直後に数回だけ、モンスター退治を専門にしている人達と一緒に戦った時ぐらいだろうか?

珍しい武器を使っているから声をかけられて、一緒にやってみようという話の流れになったのが当時の記憶だ。

結局数回そのような事を行ったが、G.F.をジャンクションしている私の戦闘についてこられる者はおらず。

たまに世間の風潮に逆らってG.F.を使用している人が居たとしても、それは同じ事だった。

 

 

「あーもう、うるさいからもう少しテンション下げなさい」

 

「分かりました……先輩……」

 

「落ち込めとは言ってないでしょ……ほら動け!」

 

「はい! 先輩!」

 

後輩といえばこんな感じで良いだろうか……。

とりあえず立場を示す為にひたすら先輩という単語を連呼していると、どうやら目的地の部屋に到着したみたいである。

 

「あら、シュウ、パンフレットはそこに置いといて……って何してるの? クレイズ……」

 

私が素直で人懐っこい後輩ムーブをかましていると、運良くキスティスに会ってしまった。

いや、この場合は運悪くと言った方が適切か?

あまり見られたくない場面を見られてしまった。

冷静になると今の自分は、身分を偽り女子生徒を騙して取り入ろうとする不審な成人男性でしかない……。

 

「やぁ……久しぶりだね、キスティス先輩」

 

「いつから私が貴方の先輩になったのかしら?」

 

「キスティス、あんたこの後輩と知り合い?」

 

「ええ、ちょっとね……彼は後輩でも何でもないからまともに相手しなくて良いわよ」

 

キスティスは私と知り合いかと聞かれた時、濁す様な反応をする。

確かに私と彼女の関係性はなんと説明すれば良いのか……難しい。

友達と私は思っているが、実はそれほど会った回数が多く無いのだ。

両手の数に収まる程度である。

 

まあ今回ばかりは単純に関係者だと思われたくないだけかも知れないが……。

 

 

「なんで貴方はここにいるのかしら……? ってこの疑問、何時も思ってる気がするわね」

 

スコールの過去を見ている時も思ったが、どうやら私は彼らから少しばかりミステリアスに思われているらしい。

神出鬼没な男。

カッコいいではないか。

 

 

「エスタに大統領の知り合いが居てね、学園祭とか平和記念のあれこれでついて来たんだ、キスティスに会いたくて」

 

「そしておまけにこの部屋までシュウのお尻を追いかけて来たって訳よね……理解したわ」

 

シュウ可愛いものね。と言うキスティスに、シュウ先輩はあんたの方が美人だよと返している。

先輩には失礼だが、キスティスに敵う美女というのは中々お目にかかる事は無いので、その意見には私も賛成だった。

そしてどうやら私は間違った見られ方をしている様なので、訂正せねばならない。

 

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、私は別に気になった人には色恋性別関係無く、誰にでもついていくよ」

「自慢気に言う事か?」

 

シュウ先輩のシンプルなツッコミが炸裂した。

 

「ふーん、じゃあ貴方はなんでシュウについて行ったの?」

 

「可愛いと思ったし好きだから」

 

自分に嘘はつけない。

私の返答にキスティスがジト目になった。

 

「だってさ、シュウ良かったわね」

「うーん……。まあ悪くはないか……」

 

複雑そうな顔で私を受け入れたシュウ先輩。

これってもしかして、告白成功とかそういう事なのだろうか?

なんて事だ……。私の心をぐらつかせるな……。

 

「えっ……そんな……。ダメですよ……先輩……」

 

「なんで貴方が否定するのよ……」

 

「だって……自分、彼女いるんです……」

 

「は? なんだこいつ」

 

詳しく聞くと彼女は別に告白を承諾した訳じゃないらしい。

好意を貰うのは悪い気持ちにはならないけど、別に付き合う事がOKという意味ではなかったみたいだ。

 

「これじゃまるで勘違い男じゃないか」

 

「まるでというかそうでしょ」

 

付き合ってる女が居るのに、女の尻を追いかけて来た私に対する厳しい視線が突き刺さる。

だが私はこんな事ではへこたれない。

普段からアルティミシアの視線で同じような経験をしているから慣れっこだ。

私の人間力を上げてくれる彼女には感謝しかない。

 

 

「でも悪い気はしてないっていうのは嬉しい情報だったよ」

 

「キスティス、もしかしてこいつアーヴァインと同じタイプ?」

 

「うーん……そう言われるとそうかも……」

 

それはちょっと聞き捨てならない言葉だ。

如何にシュウ先輩やキスティスだとしても言って良い事と悪い事がある。

私はしっかりと否定した。

 

「いや、違うよ。私とアーヴァインじゃ格が違う。彼の方が素晴らしい精神を持っているし考え方もカッコいいよ。

彼と同じ評価だなんてアーヴァインに失礼だ、私には烏滸がましい分不相応の評価は撤回してくれ」

 

「……確かにちょっと違うね、こっちの方が変かもしれない」

 

「こんなに変だったかしら……?」

 

困惑しながらも彼女達は、評価の撤回? をしてくれる。

アーヴァインに泥をかけるぐらいなら幾ら変だと思われても良い。

そう開き直る私にキスティスが少し残念そうに言う。

 

「というか……クレイズも彼女できたのね……」

 

「うーん……さっきはそう言ったけど、向こうは恋人だと思って無いかも知れないね」

 

「つまりあんたはストーカーってこと? 確かにさっきから見てると、そういう事しそうな怪しい雰囲気あるかもねぇ」

 

厳しい先輩のご意見。

幾ら変だと思われても良いとは言ったが、そういうミステリアスさは欲しく無いかも……。

 

 

「あんた、キスティスの知り合いじゃなかったら、今頃ボッコボコにして警備員に摘み出してたんだから。寛大な私の心に感謝してよ?

パンフレット運んでくれたのは助かったから、お礼は言ってあげる。ありがとね後輩君」

 

怖い事を言いながらも真逆の対応をしてくれた優しい歳下の先輩は、「それじゃ忙しいから部外者は出て行こうか」と私を部屋から追い出す。

私は満たされた気持ちで何気ないその日の一幕を閉じた。

次に彼女達と再会する時は敵同士になるだろう。

そんな予感を胸に秘めながら……。

 

 

 

「君、どうやらかなりできるね? やるか〜い?」

 

緑の服着て黄色いタオル型ヘアバンドをつけた男が話しかけてくる。

彼は訓練施設でカードをするという危険行為をおこなっていた。

 

 

「僕はCC団カードマジシャン『ジョーカー』。この前訓練施設で一眼見た君の実力を試したいと思っていたんだ」

 

服の内側にある胸ポケットから優雅な所作でカードを取り出し、そのまま決められた5枚のカードを扇状に開いて誘う。

そんなミステリアスな目の前の男に、思わず私の心臓が跳ねた。

 

(羨ましい……)

 

私もこういう人間になりたい。

神出鬼没な謎の男、カッコいい。

ジョーカー、ピエロを気取りながらもその仮面の下には得体の知れない実力が潜んでいる……。

カッコいい……。

 

男はそこまで強くは無かった。いや、私が強すぎるだけか。

彼の話によると、普段からどうすればカッコよく見えるかのテクニックばかりを磨いているらしい。

その思想には共感できる部分があったので、少しばかりその技術を盗ませて貰う事にする。

記憶力も学習能力も上げられるG.F.という存在は、こういう時でも便利である。

 

CC団。

ついに私はその存在を知る事になった。

彼等と遊ぶついでに、そろそろあの時の雪辱を果たす時かも知れない……。

 

 

「君を倒した私は今日からジョーカーなのかな?」

 

「そう名乗っても良いし、名乗らなくてもいい。好きにしなよ」

 

「そうか、私は私で名前を決める事にするよ。そうだな……今日から私はカードの復讐者、アヴェンジャーだ」

 

かつてキスティスとバラムで戦って以来、私は強くなり続けた。

だが強くなっているのは彼女も同じ筈だ。

カードに関してだけは驕り高ぶる気になれない。

だからこそ、CC団というカード好き学生の集まりに対しても油断する事は無い。

 

キスティスに対する再挑戦の意味を語った私に対し、ジョーカーは疑問をぶつけてくる。

 

「それってリベンジャーじゃないの?」

 

アヴェンジャーの方が響きがカッコいいと伝えると、彼は納得してくれた。

お互い口には出さないがジョーカーとアヴェンジャーは気が合うのだろう。しかしながらこれ以上馴れ合いはしない。

何故なら、そちらの方が高みを目指せる気がするから……。

こうしてカードの復讐者がバラムガーデンに産まれ落ちたのだ。

 

 

 

私は廊下を歩く何の変哲も無い雰囲気を装った男子生徒に声をかけて、勝負を申し込んだ。

 

「CC団のジャックだな? 我が名はアヴェンジャー。私とカードをしようか」

「いえ、その……ごめんなさい、人違いじゃないですかね……?」

 

人違い……か。

 

 

今度は別の青年に話かけてみる。

 

「CC団のジャックだな? 我が名はアヴェンジャー。私とカードをしようか」

SeeD服を着た一般男子生徒は無言で首を横に振る。

 

人違い……か。

 

 

廊下を駆け回っていた少年に声をかける。

 

「CC団のジャックだな? 我が名はアヴェンジャー。私とカードをしようか」

「お兄ちゃんカードするの? 良いよ」

 

人違い……か。

 

 

顔見知りの警備員のおじさんに声をかける。

 

「CC団のジャックだな? 我が名はアヴェンジャー。私とカードをしようか」

「クレイズ、また何か変な事始めたのか? 何時もみたいに俺達の世話になるような問題は起こさないでくれよ」

 

人違い……か。

 

 

メンバー最初の砦であるジャックは一体何処にいるんだ。

手当たり次第にカードを挑みながらもターゲットに辿り着かず困っていた時、悩みの種は向こうの方からやってきた。

 

「俺の事を探してる変な人がいるって聞いて来たんですが……貴方の事でしょうか……?」

 

特徴の薄い男子生徒が「俺、何かしました?」と若干怯えながら私に声をかけてくる。

 

 

「CC団のジャックか、探したぞ……。私はアヴェンジャー、この復讐を遂げさせてもらう」

 

私は彼を探す間に、不覚にも集まってしまったカードの束を持った。

ジョーカーから教えて貰ったスプリングという技法でカードを飛ばし、離れた両手の間にカードの虹を出現させる。

その言葉を聞き、私のパフォーマンスを見た自称ジャックが更に怯えた。

 

「ふ、復讐!? あ、ああカードね、ははは…………やろうか」

 

しかし、復讐方法がカードだと知った彼の目付きと声は急変した。

先程まで怯えていた気弱そうな男子生徒はもう居ない。

代わりに目の据わった戦士がそこに居た。

 

 

「まさかCC団のジャックである俺を倒すとはね、でも残りのメンバーが何処にいるのかは秘密だ、探し出してみなよ……。

すみませんこれを言うのが決まりなんです! すみません! 授業が始まるから自分はこれで!」

 

私に敗北したジャックはそう言って、逃げる様にこの場を立ち去る。

ふざけるなよ……。

これを後3人繰り返さなければならないのか? ジャックを見つけるだけで何日もかかったのに面倒くさすぎる。

こんな事ではガーデン中のカードを巻き上げてしまうかもしれない。

それにいつまで経ってもトップであるキングまで辿り着けないではないか。

CC団、情報セキュリティ対策が万全すぎる恐ろしい秘密組織だった……。

 

 

私は自由時間に羽を伸ばしているガーデンの人々へ声を掛け続けた。

老若男女問わず、誰がCC団かわからないからである。

アルティミシアが倒されてから1年。

その間にメンバーがどれぐらい変わっているのかもわからない。原作知識というカンニングはどれぐらい役に立つのだろうか……。

 

しかし、トップが誰なのかだけは確信があった。

あの時のキスティスはまだ初心者だった。

そんな彼女に勝てなかった私が、今ではエルオーネと楽しく宇宙ルールで遊べる程に成長している。

G.F.を使っているキスティスも当然強くなっている筈だ。

だがそれを確かめる前に、まず倒さなければならない壁が存在していた……。

 

 

「シュウ先輩……」

 

「あれ? クレイズ後輩じゃない、どしたの?」

 

「クレイズ?……ああ、そういえばそんな名前でしたね……」

 

赤黒いチェスターコートを着た私は手に持つリンゴを齧り、LOVELESS第三章から引用した詩を詠んだ。

 

「復讐にとりつかれたる我が魂 苦悩の末にたどりつきたる願望は 我が救済と安らかなる君の眠り……」

 

今の私と今後の未来を予言するかの様な一文。

何がなんだかわからないという表情の彼女。

当然だ、簡単に理解して貰えたらミステリアスではない。

ここまで来るついでに集まったカード達にレビテトをかけ、片翼を広げるが如く真横の空間にばら撒いて宣言した。

 

 

「今の自分は復讐者ですよ先輩……。

そうですね、カードアヴェンジャークレイズとでも名乗っておきます」

 

「アヴェンジャー……そう、ジャックから聞いてる、久しぶりに私の所まで登って来そうな奴がいるってね。

どうやら他の団員は全員倒したみたいじゃない。

噂になってるよ? ガンブレードを持った人が手当たり次第にカードを仕掛けてくるって」

 

私の話を聞いた途端全てを理解したのか、流れに乗ってくれるシュウ先輩はノリの良い人だった。

エアロの応用で散らばったカードを風で巻き取り回収する。

一枚ずつ手の平に重なっていくカードが、まるで砂時計の様に戦いへの猶予を示す。

砂が全て手の上に落ち切った時、私は言った。

 

「始めようか、CC団カードクイーン『ハート』。

カードクイーンという肩書きを名乗る覚悟と実力、私に見せてみろ」

 

「ふふ……挑戦者はあんたでしょ?」

 

カードを取り出しニヒルに笑う彼女。

大袈裟な演出に瞬き一つせず、当たり前の様に戦いに移行する今の私達は、最高にカッコよかった。

 

 

ここまで戦ってきたメンバー達は強いと言っても所詮は学生レベルだった。

しかし『ハート』は『キング』と普段から対戦しているのだろう、明らかに今までの団員と強さの桁が違う。

その牙はともすると私の喉元に届き得るかもしれない……百回に一回ぐらいは、だが。

 

確かにその地力はG.F.で底上げされているし、元々の頭も良いのだろう。

だが私の周りには修羅が3人いる。

 

エルオーネ。

パブのオーナーの奥さん。

カードクイーン。

 

このトリプルトライアド三闘神と日常的に渡り合う私にとって、今の先輩の実力は物足りないと言わざるを得ない。

やはり『キング』でなければダメなのだ。

あるいは……そう、CC団イベントを進めているか定かではないスコールぐらいか。

 

 

シュウ先輩はカーバンクルのカードを失った。

 

「あんた、見かけによらず強いのね……」

 

「良く言われるよ……。それに、こんな私にも負ける訳にはいかない理由がある」

 

ランダムハンドで手札に来たのはアルティミシアのカード。

それは私がカードクイーンの父親に依頼して描いて貰った逸品。

決して奪われる訳にはいかない、世界で一枚のオーダーメイドオリジナルカードだった。

 

 

「あーあ、私の可愛いカーバンクルが奪われちゃった」

 

「返してあげても良いよ、このカードは私よりも先輩の方が良く似合うから」

 

「いや……結構だ。それは私が君から奪い返せるぐらい強くなればいいだけの話かな」

 

見た目にそぐわぬ男らしい宣言をした彼女は、清々しい表情でCC団首領のヒントを教えてくれようする。

私はその言葉を制した。

 

「CC団とカード出来て楽しかった、元々それだけが目的だったんだ。だからキングは目的ではあったけどおまけみたいな物さ」

 

それに首領が誰だかはもう知っている。

そう言って振り向かずに立ち去った。

 

その場に残るのは齧りかけのリンゴと敗者を置き去りにする足音だけ。

ジョーカーの話を参考にアレンジした演出は完璧だった……。

 

 

 

CC団『キング』と対戦する方法を私は知っていた。

その条件は「“彼女”をパーティに入れたまま自室で寝る」だ。

 

これから私はキスティスをデートに誘い、お持ち帰りする。

それこそが「我が救済と安らかなる君の眠り」だ。

 

 

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