【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
私はアルティミシアの追求に晒されていた。
前にエルオーネと歩いてる所を見られてしまったらしい。
あの不貞行為はバレていたのだ……。
謎の洞察力でその日の私のエルオーネに対する心の揺れ動きまで、詳細に看破されていた。
流石は我が主と言ったところか……。
しもべの心理状態を把握する人心掌握能力は、力を失って尚、恐ろしい魔女そのものだった。
「私に至らない所があったかしら……?」
思いの外、理知的な雰囲気で質問される。
怒っているのは確実だ、それだけはわかるが雰囲気が何時もと明らかに違う。
今までのファイアの様な燃え盛る怒りや、ブリザドの様な冷たい怒りとはタイプが違う凪の感情。
表面上は笑顔だが内心から溢れ出る怒気が見えるといった風でも無い。
何も思っていないと言わんばかりの普段通りのローテンションが、逆に致命的な物を感じさせた。
「そうね、毎朝の騎士の就任式は今日からやめましょう」
呆気なく告げられた彼女の言葉に私は動揺を隠せない。
解雇通告。
ただ怒りに任せて叱られたり、暴力を振るわれるだけならどれほど良かった事か。
それは私と彼女の関係性の綻びを意味している。
表す言葉があるとすれば別居、であろうか。
もしかしたら離婚届に判を押されて差し出された状態かもしれない……。
取り返しのつかない事になる前に、なんとか汚名を返上しなくてはならない。
「その……今更だけど私達はまだ付き合っているって事で良いんだよね……?」
恐る恐る私の口から出た情け無い確認に、アルティミシアは呆れながら言った。
「それが決まるのは貴方の行動次第よ」
慈悲深い事にチャンスを与えてくださるらしい。
何をすれば良いのか……、おそらくそれを聞く事すらダメだ。
あらかじめ常に主人を意識して、考えを想定しろと言うのが彼女の思いだった筈だ。
私はそれを常日頃から聞いて知っていた。
しかし、言葉というのはこんな時の為にあるんじゃないのかと言いたい。
口にしなきゃ伝わらないってリノアがスコールに教えてた筈だろ! 教えはどうなってんだ教えは!
にっちもさっちもいかず困り果てていたその時、脳裏に一筋の光明が見えた気がした。
リノアだ……!
リノア先生ならきっとなんとかしてくれる!
あのお方がやっていた事はなんだ……? 早急に思い出せ。
無鉄砲、反抗期、ナンパ、植民地化、ハグハグ……。
ハグハグ?
そう、ハグハグだ!
朧げながらも浮かんできたその4文字。
他に手段を思い浮かばない私は、それを握りしめて賭けに出る事にした。
今更ながらハグハグというのが、どういう行動を指し示すのかは明確にはよくわからない。
文字数通りに複数回、又は2倍の時間ハグをするのか、それともハグを超えたハグをするのか。
しかし私は自らの解釈でそれをやるしか無かった。
アルティミシアにハグをする。
いきなりの事で驚く彼女に耳元で誠心誠意謝った。
「他の人を見てごめん、私が好きなのは君だけだ。許してくれるまで離さない」
その感触、そのときの言葉、そのときの気持ち。
忘れたくても忘れられない程に恥ずかしい物だった。
愛の心を込めたハグ。それが私のハグハグだ。
それは、ともすれば現状の立場を理解していない勘違い男の、キザな戯言でしかなかったかも知れない。
しかし私の言葉を耳元で聞いた彼女は、身体から力が抜け、小さく「うん」と返事をして頷き、抱きしめ返してくれた。
聞いたことの無い素直な一言。
見事正解を引き当てたらしい私は、悪い男のやり口で無事仲直りできたのだった……。
騎士ごっこはそろそろやめよう。
私もごっこではなく愛する彼女と対等な存在になりたい。
「貴方は永遠に私のしもべで良いのに……」
「それじゃ満足できないんだ、己のプライドに賭けて君に相応しいと証明したいのさ。
古来より騎士が力を示す為に倒すのは竜と決まっている。だから君の為に倒してくるよ、竜の王を」
そしてその先に居る魔女の抜け殻を越えて、君と対等だと証明しよう。
幸い竜王の居場所は知っているんだ。
そうカッコつけた私に彼女はため息を吐いた。
「本当はFF8を楽しみたいだけでしょう?」
何気ない彼女の言葉に私は硬直した。
(どうしてFF8の事を知っている……!?)
「貴方、頭の中はそればっかりだものね……。他の女に目移りしないというのなら、それぐらい許してあげます。
だからこれからは私に嘘を吐いたらダメよ?」
私は異なる世界やこの世界の重大な知識を前提に、生きる事を楽しんでいた。
アルティミシアの事を好きなのも、その部分が大きいと自覚している。
それをジャンクションによって最も看破されてはいけない最愛の女性に見抜かれたと悟った。
何を言えばいいかわからなくなっている私の沈黙を気にせず、彼女は言う。
「御守りに騎士を強くする為の、魔女の愛を持って行きなさい」
その瞬間、私の頭に光が入ってきて新たにG.F.が装備される。
ジャンクション、グリーヴァ。
この世界に実在しないライオンという動物を模したG.F.。
湧き上がる圧倒的な力。
ガーディアン・フォースとしての枠組みを超越したその凄まじさは、私に全能感を抱かせる。
まさかグリーヴァが今も存在しており、それを自分が扱える事になるとは思ってもみなかった。
……しかし今はそんな事どうでも良い。
愛。
与えられたその言葉に私はどうしようもなく歓喜し、原作知識が露見した事や獅子の存在は愛の前に霞んだ。
フィッシャーマンズ・ホライズン。
この土地は私が勝手に罪人の流刑地兼、更生施設だと思っている場所であり、その罪人である我が友が静かに過ごして居る町だった。
しばらくの間ガーデンはF.H.に滞在し、ここの職人に依頼して学園祭の設備を整えるという。
私はバハムートを倒しに行く為に助っ人を要請した。
アルティミシアに騎士として相応しくなるとかなんとか言った手前否定したいのだが、なんだかんだでFF8の隠しダンジョンを見てみたいというのも、2割ぐらい本音であり図星だったのだ。
やっぱり3割……。いや、4割はあったかもしれない。
騎士として強さを証明するというよくわからない精神論は二の次になった為、当然ながら安全マージンを取ることにした。
ティアマトを実際に見た私は、あれと一人で戦う気には到底なれない。
私が知る中でおそらく戦闘者として最も突出して強いであろうスコールは、既に私の見事な交渉術によってついてきてくれる手筈となった。
その彼と多少なりとも渡り合う実力の持ち主であったサイファー・アルマシー。
ガーデンがここに滞在している内に会いたいなと思ったので、アポイントメントを取るついでのお誘いの手紙を出しておいたのだ。
顔を合わせるのは久々だが、今はどうしているのだろうか。
そんな私が目にしたのは風神というクールビューティーな女性と、雷神という男らしい肉体をした色黒の男性。
そしてこの二人の学友と仲良く過ごし、憑き物が取れたような笑顔で笑う彼の姿だった。
魔女に操られしもべになるという中々劇的な人生を送っていた彼は今楽しそうだ。
F.H.という更生施設のお陰か少し丸くなった気がするが、意外にも前のような横暴さは残ったままである。
……しかし何故だろう。
ギラギラと輝いていたあの頃の瞳を失ったサイファーは、私の目にはなんだか燃え滓のように映った。