【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
巨大な死体が転がる遺跡の中、スコールとサイファーが負傷から回復したその時、周囲で共鳴していた石とアルテマウェポンの剣が眩しく光り輝いた。
(まさか……死に際にアルテマを放っていたのか……!?)
しかし……それにしては何か変だ。
爆発音もなければ破壊音も聞こえない。鼓膜がおかしくなってしまったのだろうか?
可能性を考えながらも収まって行く光に注意しつつ目を開ける。
咄嗟に構えた『ぼうぎょ』を解き、私は驚愕した。
闇の中に星々が煌めく世界。
周囲は先程まで居たはずの大海のよどみでは無い……!
いや、もしかしたらアルテマに飲み込まれ、遺跡諸共全てが消え去ったのかもしれない。
だとしたら今居る場所は地底か深海か……それとも宇宙だろうか?
暗いのに明るいという矛盾が幻想的とも言えるこの空間では、視界確保や空気の確保の問題無いようだった。
パーティメンバーの姿を発見した私は思わず声をかける。
不安もさることながら、彼らの怪我の具合が心配だったのだ。
「スコール! サイファー! 無事か!?」
呼びかけに反応した怪訝そうなサイファーの声。
二人は平気そうにしている。生まれて初めて使ったラストエリクサーの効力は抜群だったらしい。
「ピーピー叫ばなくても聞こえてる……。此処は何処だ……」
「クレイズ、お前なら知ってるんじゃないのか……?」
スコールの問いかけに私は答える事ができない。
何故なら何も知らなかったからだ。
普段ならここで「どうして俺に聞くんだ! 分からないのは俺も同じだ!」なんてスコールごっこに興じていたかもしれないが、そんな余裕すら無かった。
首を横に降る私を見て、答えが得られないと悟った彼らは周囲を見渡す。
「風神と雷神は何処に行った……?」
「アルテマウェポンは何処だ……?」
サイファーが友の安否を確認し、スコールが先程まで脅威だった存在を警戒した。
此処はまるで宇宙空間を見渡せる透明で広大なコントロールルーム。
光でできた謎の文字列や、記号を伴った数式が空間に漂う世界で、ガンブレードを持つ私達は透明な地面の上に立っている。
何の上に立っているのかわからないまま、迂闊な行動を起こす気になれず、全員が硬直した。
私達三人はこの時ようやく認識する。
透き通る地平の彼方に、青と白で構成された巨大な何かが佇んでいる……。
天使の羽と女神の像を乱雑に固め、ひっくり返したバラムガーデンみたいに無理矢理造形し直したかのような奇妙な存在。
生き物かどうかすら判別がつかないそれは、私の知識が確かならばエデンと呼ばれるG.F.……の筈だ。
理解できない言葉で歌うように音を発し続けている謎の巨大オブジェ。
不気味だった……。
スコールもサイファーも理解が追いつかない様子で、前方にいる存在を確認する。
私だってあれがおそらくG.F.だという事ぐらいしか知らない。
何を気にして何処を注視していいか分からない中で、あまりにも多い選択肢が私達を行動不能にさせる。
そしてエデンの背に魔法陣が灯った……。
この状態になってようやく、前方方向に鎮座する謎のオブジェが既に戦闘を始めていた事に気づいたのだ。
致命的な判断の遅れ……このままでは全員死ぬ……!
「なんでもいいからあれを止めろ!」
「わかってる!」
誰が言ったかなんてどうでも良かった。
訳の分からない状況下で、判断ができずに狼狽えるだけの時間は、強制的に終わりを迎えさせられた。
魔法陣の光に戦闘の気配を感じ取り、三人のやるべき行動が否が応でも定められる。
しかし、広い空間の先に居る謎の存在まで、到達する時間が無い。
邂逅した時からエデンが呟いている歌を詠唱だと見抜けず、放置してしまったのが明確な私達の失態だった。
少ないタイムリミットの中で3人がそれぞれ身を寄せ合い、固まって『ぼうぎょ』アビリティを構える。
これまでの戦闘経験から来る状況判断が最適解を導き出し、全員が同じ結論に辿り着いたのだ。
しかし、それでも私は知識による予測から、これから来るであろう必殺の攻撃を耐えられるとは思えなかった。
二人を『かばう』
この行動に後悔は無い。大好きな彼らが死ぬぐらいなら、私が死のう。
決断を下す葛藤は微塵も存在しなかった。
星を媒介にして発動した全てを消し飛ばす力の集約が、私に向かって降り注ぐ。
備えて発動した防御魔法と呼ばれる類のものは、全て一瞬で意味を成さなくなり、私の身体は光に飲まれて消え去ろうとしている。
気合いでどうにかなる物では無かった。
盾代わりに構えていたガンブレードすらも消滅した。
私の肉体が辛うじて現世に繋ぎ止められているのは、『ぼうぎょ』に加えて規格外の最高位魔法とグリーヴァがジャンクションされているお陰だった。
それだけだ。
私の真後ろで『ぼうぎょ』を固めていた彼らの声が聞こえる……気がする。
五感が満足に機能していない。音の振動で空間が揺らぎ、何かを喋っている事だけはなんとなく伝わってきた。
回復魔法や蘇生魔法をかけてくれているようだが、既に思考できる事が奇跡と言っていい状態には焼け石に水だった。
(それよりも二人が生きててくれた事が嬉しい……)
私は動けないまま、残っている意識のみでスコールとサイファーに自分のG.F.を託す。
頭の中から譲渡した光の生命体が抜け出て、彼等にジャンクションされたのが分かった。
コヨコヨだけは離れたく無いとワガママを言って、涙目になりながら私の中に居座っている。
もう、それを拒む力さえ残っていない……。
元々軽い気持ちでここまでみんなを連れてきたのは私だ。
二人が生き残ってくれなければ私は永遠に後悔するだろう。
(もうすぐ後悔すらもできなくなる癖に何を考えてるんだ……)
スコールとサイファーならきっとエデンを倒して生き残ってくれる。
FF8の知識に支えられているだけの自分は、誰よりも二人を信じているとは言えない。
彼らには私以上に信じてくれる人が居ると知っているからだ。
しかし、その人達に負けないぐらいには私も二人の勝利を疑っていないのだ……。
死んだ私は幽霊となり、アルティミシアを残して逝く事を悔いながらこの世界を彷徨い続けるのかもしれない。
(FF8の世界を延々と見ていられるならそれも良いかもな)
幽霊になれたらまず何を見て回ろうか。誰にも見えなくなれば原作キャラクターをストーキングし放題だ。
ちょこ坊みたいに実体化できるならそれも良いな……。
そもそも死ぬ事に満足してるなら化けて出るなんて無理か……。
益体もない未来を考えていられたのも一瞬だった。
何時も通りにFF8を考える事すら出来なくなって行く。
もはや人の形を保っているのかすら怪しい私は、ボロボロのオブジェクトとなり、
己が立っているのか、倒れているのかすら認識出来ずに死んだ────。
ここで私の物語は終わりだ。
アルティミシアの事は心残りだが、主役を庇って死ぬというのはFF8に紛れ込んだ不純物の最後にしては上等だったのではないだろうか?
死ぬ事でこの世界から私という不純物が無くなり、本当のファイナルファンタジーⅧが完成するという見方も出来る。
そんな安堵と無念が入り混じる複雑な心境で、人生を終えた事による吐息が漏れて出た。
息ができる……。
あぁ……どうやら私は運が良いらしい。
暖かなフェニックスの炎に包まれて命を吹き返す。
先程まで呼吸すらままならない状態だった体の損傷が復元され、不死鳥が飛び立つ姿が見える。
状況に酔ってしょうもない独白をしていた私を嘲笑うかの様に、フェニックスの鳴き声が聞こえた。
そしてコヨコヨの『運+50%』がジャンクションされたままだった事に気付く。
(私が死んでも出て行かなかったのか……)
馬鹿なG.F.だ。
グリーヴァをジャンクションしたスコールが獅子の心を解き放ち、全てを終わらせようとしている姿が見えた。
星空に囲まれた空間を幾度となく切り裂く魔力の刃。
極限まで鍛え上げられた絶技に晒されたエデンは、体から光り輝く青い血液を撒き散らす。
バハムートをジャンクションしたサイファーの放つ十字の輝きと共に、フェイテッドサークルの光輪が打ち上げ花火の様に広がった。
私の紛いものとは違うスコール本家のフェイテッドサークル。
エンドオブハートという技を締め括る真の終わり。
それを蚊帳の外から鑑賞していた。
ガンブレードという武器を失った私にできる事など、擬似魔法という頼りない手段での補助だけだ。
自分の拳はゼルのように武器として活用出来るほど鍛えられてはいない。
直接戦闘は諦めて、後ろから二人の戦いを見ながらサポートに徹すると決めた。
歯痒いが、出来る事が無いのでどうしようもないと諦める。
最強の技を肉眼で見れた感動以上に、不甲斐なさが勝ってるのは我ながら珍しい事だと思う。
本音を言えば、やはりあの中に参加してみたかったのだ……。
────その時、頭の奥がザワザワしてコヨコヨが勝手にアビリティを付け替えた。
『たべる』
私は笑った。
どうして忘れていたんだ?
今まで散々やってきた筈だったのに……。
そうだ、こんなわけのわからない物、今食べなければ一生味を知る機会は無い。
驚くべき事にエデンはまだ生きていた。
再び魔法陣を起動しようと呪文を詠唱しているそれに向かって私は走る。
ジャンクションを早さに特化させたのだ、これぐらいの距離一瞬でたどり着いて見せる。
例え速度が足りなくとも何時ものように、コヨコヨの唱えるオートヘイストが手助けしてくれるのは知っているのだ……。
こちらを見て驚くスコールとサイファーを尻目に、私は世界の支配者に齧り付いた────。
……失った筈のガンブレードが手元にある。
今のはなんだったのだろう。
石の様に固まり、塵となって空気に溶けて消えていくアルテマウェポンの死体を見ながら私は思う。
アルテマウェポンを倒せた事を喜び始めた風神と雷神は、先程何が起きたのか知らない様子だった。
三人のガンブレード使いは、ただ呆然と大海のよどみに立ち尽くしていた……。
カモメの鳴き声が懐かしい。
なんだか随分と陽の光を浴びていなかったような気がする。
もしかして外に出たらそこは何年も経っていたなんて事になっていやしないだろうか。
そんな事を思いながらラグナロクのコックピットに戻り、我々は一息ついた。
「酷い目に遭った……」
「全くだ……」
スコールとサイファーが操縦席とその助手席に座り、何やら私に対するヘイト感情で意気投合している。
「仲良しだね」
ラグナロクに初めて乗った時と同じく冗談で言ったつもりだったが、驚くべき事にスコールは投げやりな返事でそれを肯定した。
「そうだな」
「はっ、こんな気持ちになるのは今だけだ。スコール、てめぇの事は認めてる。だから馬鹿みたいな奴らに影響されて腑抜けるなよ」
「いつまでもそんな事ばかり言ってないで少しは落ち着いてくれ……。お前は腑抜けていた方がマシだ……」
激戦だったせいか、スコールにはサイファーを拒絶する余裕が無いのかもしれない。
それとも命を賭けた共闘で垣根が取れたと喜ぶべきだろうか。
どちらにせよそんな光景を見られたのは嬉しい事だった。
「そりゃ無理だもんよ。なんたって今のサイファーは夢を思い出したばっかりだもんよ。もう誰にも止められないもんよ」
「制御不能」
「ククク……そうだな、腑抜けてたらその隙に俺がリノアを奪っちまうかもな? 精々ルナティックパンドラの時みたいに攫われないよう側で見張って大事にしとけ」
それは彼なりの激動なのだろう。
そしてスコールもそれを理解しているのか、比較的柔らかい雰囲気で微笑みながら言った。
「言われなくてもそうするつもりだ。それに、俺はここに来てからずっと早くリノアの所に帰りたいと思っていた」
ようやく帰れるのが嬉しいのだろう。
先程の笑みはリノアを想って出たのかもしれない。
「おっと、色ボケ兄ちゃんは既に腑抜けにさせられてたか。そいつは悪かった、無理を言ったな」
皮肉混じりに謝られ、面倒臭そうな表情でラグナロクを発進させるスコール。
それを見たサイファーの笑い声がコックピットに鳴り響いた。
煽り合いの様に見える。事実それは煽り合いではあるのだろう。
しかしながら互いに認め合ってるのも事実なようだ。
子供時代からずっとライバルとして競い合った彼等だけにしか分かり得ない、特殊な友情の姿がそこにはあった。
F.H.に着いた私は別れ際、友に言った。
「サイファー、まだ心のどこかで夢を諦めていない、そんな君を友人として応援したくなった。
魔女イデアの力はリノアが継承した……。しかし私はもう1人魔女を知っているんだ」
「おい……まさか……」
スコールの何か言いたそうな微妙な表情と反応。
比例するかの様に笑みが深まり、期待するサイファーの顔。
「お前は何時も俺の期待を超えてくれる、そういう所が気に入ってるんだ」
思えば彼は私にずっと期待してくれていた気がする。
それに応えられている内は胸を張って友人だと言える気がした。
「彼女の名前はカードクイーン。ドールに居るもう一人の魔女だ」
既婚者だが既に夫は他界して未亡人であり、当然騎士は居ない。
女性の一人旅で世界を放浪するのは危険だ、守ってくれる存在は必要だろう。
12歳ぐらいの息子が1人居るが、乗り越える為の壁があった方が彼も燃える筈だ。
「会うならカードを持っていくのをおすすめするよ。確かサイファーはカードに興味が薄かったよね。
私には必要無くなったカードがあるから、よかったらどうぞ」
それは魔女のしもべ達のモンスターカード。
彼が魔女の隣に立つ騎士となるか、再び言われた事をやるだけのしもべとなるか。
原作が終了した今、私に未来はわからない。
「次会う時には夢が叶った証を見せてやる。じゃあな! カードありがとよ!」
「誘ってくれて感謝してるもんよ! おかげでサイファー元気だもんよ!」
「録画映像、複製、感謝……!」
別れの挨拶を告げて夕陽の中に消えていくサイファーと風神雷神。
三人の後ろ姿は、夕焼けと夢を背負って真っ赤に燃えていた……。
さぁ、そろそろ私もエデンの園に帰還しよう。
愛する人と素晴らしい学園が私達の帰りを待っている。