【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
バラムガーデンでは様々な派閥があるとされている。
その中で以前一大勢力を誇っていたマスター派は、スコールがノーグを倒してから影も形も存在しない。
しかし……今、そのマスター派が再び息を吹き返し復活しようとしていた……。
「クポー!」
「きゃー!!」
「モーグちゃーん!こっち向いてー!」
「モーグちゃん可愛い〜!」
いつのまにか、ガーデンに連れてきたコモーグリの女子人気がエゲツない事になっていた。
現在コモーグリは元の姿であったノーグの名前を踏襲してモーグと呼ばれている。
姿が変わっても心の内は依然として金にはガメツイらしい。
しかしながら、マスコット染みた見た目と真逆の拝金主義な所もギャップで可愛いんだとか。
容姿に関する認識の差がここまではっきりと待遇に現れるのだ、世の中というのは残酷である。
ノーグは私と出会った当初、落ち込んだ雰囲気で大人しくしていた。
しかし、ガーデンに来てから過ごす中で、側を通りかかった生徒達の反応の良さに気づいたらしい。
可愛い小動物のような扱いを受けつつ、己の立場を理解していったのか、それを利用してアイドル活動を始めた。
以前から養ってきたその経営手腕と、金儲けへの確かな嗅覚による自己プロデュースは、瞬く間に彼をスターダムに押し上げる事となる。
学園祭のステージを作る為にガーデンに乗り込んでいるFHの職人に頼み、持ち運び出来る小型ステージを作って貰ったコモーグリはその上で踊りを披露する。
丸いダンスステージ横に取り付けられたライトがさまざまな色の光を放ち、ピカピカと楽しそうな空気感を演出した。
「クポ!」
気合いの鳴き声と共に羽を羽ばたかせて一回転宙返り。
呼応する様に女子生徒の黄色い声が飛び、今回の簡易ライブは終わった。
お小遣いをおねだりしに行ったコモーグリは、クポクポ鳴きながら早く見物料を出せと客からカツアゲしている。
その馴れ馴れしく明け透けで無礼な振る舞いも、ウケを意識した作戦の内だ。
計算されたあざとさが、女子達の心を鷲掴みにしていた……。
そもそも学園内でこのような商売をしていいのかと言われると、本来ならダメなのだが、コモーグリはそこの所にも抜かりは無かった。
まず学園長夫妻に話を通しに行ったのである。
わざわざ夫婦で居る時を狙って交渉を開始したコモーグリは、イデアを利用し、かつてノーグに反感を抱いていたシド学園長を丸め込んだ。
シドが好意的で無いような反応を示すと、コモーグリが泣きそうな顔と雰囲気になるのだ。
白い獣の健気さにやられたママ先生は「あなた、どうにかしてあげましょうよ。可哀想だわ……」と同情する。
イデアは既にノーグにメロメロだった。
シドを射んと欲すれば先ずイデアを射よ。
その時点で学園長が奥さんに逆らえず、了承の判子を押すのは時間の問題となったのだ……。
ここできちんとメリットも提示するのがコモーグリの上手なやり口である。
元々このガーデンを大きくする事ができたのは、ノーグの経営手腕と資産運用のおかげという部分が大きい。
その経営者を追い出した今のガーデンは世界が平和になった世情もあり、以前の様な順風満帆な経営ができるかわからないという不安材料を抱えている。
それを解消して経営を手伝う事を契約内容に付け加えたのである。
勿論、給料と出来高相応の給金が発生されるという条件でだ。
手に職をつけているとこういう時に強いのであった……。
過去に用済みだと追放された彼は、再びガーデンに戻ってきた。
現在では業績を伸ばし、自分を追い出した男の妻に撫でられながら、その膝の上でまったりと大好きなお金の枚数を数えている。
そして気が向いたら外に出てライブを行い、女子生徒に囲まれてちやほやされるという最高のハーレムライフを送っていた。
何故ここまで詳細について知っているのかと言うと、私は現在コモーグリのマネージャー業務を担当させて貰っているからだった。
私が学園祭に誘った事にノーグは恩を感じたらしい。
信頼の気持ちを抱いてくれたコモーグリはボディガード兼、通訳兼、マネージャーとして一緒にやらないか? と私をヘッドハンティングしてきたのである。
訓練施設で私の戦闘能力を見た彼はとても喜んだ。
以前SeeDに戦いで負けて地位を失ったノーグは二の轍を踏む気は無いらしい。
ボディガードが強いに越した事はないし、彼から見た私には、それぐらい信頼のおける戦闘能力があったみたいだった。
その提案を了承した私は学園長派からマスター派へと鞍替えし、雑誌記者を即刻辞めた。
モンスター喰いなんてきょうび流行らない。
長々と文章を書くのは面倒臭いし、そろそろ記事を書く為のネタも尽きてきた頃だったのだ。
何時までも同じネタを擦りづつけて食っていける程、記者は甘い世界じゃ無い筈だ。
狩りで生計を立てる事に関しても、それが出来るのは若い頃だけだ。歳月を経たら次第に身体が動かなくなる。
これからガーデンがモンスター退治を主軸にしていくと考えると、野良のモンスターハンター需要だって減っていくだろう。
その点この仕事は良い。
バラムガーデンの生徒達は自然と卒業して入れ替わるので、何度でも新鮮な気持ちで金を落とす客層が確保できる。
ぶっちゃけマネージャーとしてやる事なんて殆ど無い。
人を金で操る事に長けたノーグは、必要な時に金払いを惜しむ愚かさを理解していた。
故に食いっぱぐれる可能性も圧倒的に少ないうえに、休みも当然あるし大好きなガーデンにずっと居られる。
まさに天職だった。
コモーグリの騎士となった私の朝は早い。
「モーグさん、おはようございます」
「クポ〜」
上司に挨拶する。
しかしながら私と彼の関係は立場に縛られた物では無い。
お互い信頼して心を許し合った仲なのである。
実際には常に付き従う訳ではないし、お堅い上下関係を遵守する必要もない。
これは周りの人間に対するアピールだった。
彼の言っている事はまだ詳しくわからないが、急いでわかるようになる必要もない。
横に突っ立って居るだけで良い簡単なお仕事なのだ。
言いたい事や誰かに伝えて欲しい要件は、ちゃんと紙に書いて渡してくれるのがノーグだった。
コモーグリと一緒に歩いていると、その女性ウケの良さがよくわかる。
なんせ一緒に居る私にも握手してくれという要求がくるぐらいなのだ。
なんなら男ウケも悪くない。
原作メンバーの女性陣達からの反応も良い。
人の言葉を理解するマスコットキャラが現実になるというのは、全人類の夢だった。
思えばムンバに足りなかったのは、彼の様な自我と押しの強さかもしれない。
それさえ有れば、ムンバも良い様に扱き使われるという事にはなっていなかったであろう。
多少自己中心的な方が社会のポジションを守れるのはマスコットの世界でも同じ様だ。
そして私にはこのアイドル活動を更に盤石にする秘策があった。
コヨコヨである。
人気に陰りが出てきた時は、これを投入してテコ入れすれば良いとモーグに提案する。
上司は喜び、今の内からたまに顔を出させて一定の知名度を確保しておくべきだと更なる方針を固めた。
コヨコヨの動きは計算しなくても良い。
その健気さは天然だ。策を弄して売り出すべきじゃないと我々の意見は一致。
それで人気が出そうな辺り、間違いなく私の相棒はこの業界において逸材である。
後はモンスターに間違えられて、生徒や警備員に殺されないかどうか気をつけるだけだ。
コヨコヨ自身も、ちやほやされる事に満更でもない様子だった。
20年以上の付き合いだ、こいつの性格がチョロい事ぐらいは当然知っている。
甘い汁を吸えば転ぶのがこの未確認生命体の良い所なのだ。
僅かな単語を喋れる天然ボケ宇宙人は、コモーグリのあざとい可愛さがイマイチ刺さらなかった層からの人気を獲得した。
「エリクサーちょうだい!」
その言葉は、増長した我が相棒が最近言い出すようになったファンへの要求である。
勿論生徒がそんな良い物を持っているとは限らない。
しかし何かあげた時は喜ぶので可愛いし、あげなかった場合涙目になるので、それもまた面白がられてウケが良いという好循環だった。
「うーん、少し目立ちすぎているかもな……」
「クポポ」
私とモーグさんは顎に手を当てて現状を懸念した。
私の他にも少数のスタッフを雇い入れ、学園内での活動も順調だったのだが、少し人気が出過ぎている。
こちらが提供できるコンテンツは今のところ少し踊るか、金銭や物品をおねだりする事ぐらいである。
その程度の活動内容にも関わらず、休み時間にゲリラライブをすると通行の邪魔になるぐらい人が集ってしまう。
他の生徒に迷惑がかかって出る杭を打たれても嫌だし、あまり調子に乗りすぎて警備関係や教師に目をつけられても面白くない。
そして人気が突発的に出すぎるのも問題だ、いわゆる一発を打ち上げただけの存在に成り下がってしまう可能性が高いのである。
落ち目の存在に人が群がる程タレント業は甘く無い。
会議の結果、我々は地道な下積みを経験してファン層を盤石にすべきだという結論に至り、一旦地下に潜る事にした。
以前ノーグが使用していた地下のマスタールームをアイドル活動の拠点にする。
ここは防音であり、他人の邪魔にもならない。
スコールに壊されたシェルターを舞台に改造してライブができる様にしたのだ。
使いたい生徒は少し使用料を支払えば、ここで何かをする事が出来るという仕様にする。
モーグさんも私も、自分達だけでコンテンツを継続的に用意できるとは考えていない。
そこで他の人間にその役割を担わせれば良いという訳だった。
セルフィ達やトゥリープFCやサイファーの様な、若さが有り余る生徒がライブをすれば良い。
溜め込んだパワーをこの隠れ家的なステージで発散してもらおうという戦略だ。
今はまだ知名度も低いし使う人だって少ないが、コモーグリとコヨコヨの人気があるうちにそれで誘き寄せ、生徒達にこの施設を定着させればこちらのものである。
資産がある内に、一からここで始めていこう。
楽に金が貰えそうだからとノーグの手下になった私は、いつのまにかしっかりやる気になっていた。
今は亡きマスター派の教師達も、始めはこんな気分だったのかもしれない。
音楽は私が奏でる。
ダンスはコモーグリ。
歌はコヨコヨ。
グループ名は『ファイナルファンタジーⅧ』だ。
当然名前は私が提案してゴリ押した。
ファンの名称は『マスター派』
これはコモーグリが。
ガーデンはいずれ私達『FF8』が内部から支配してやろう。
なんせ卒業する必要が無い立場だ、時間は……そう、無限にある。
差し当たっては、与えられた学園祭ステージの出番で結果を残す事から意識していこう。
しかしながら、重大な問題がひとつだけ存在した。
私は記者とモンスター狩りを辞めて音楽で食べていく道を選んだ。
その事実をまだ妻に報告していないのだ……。
–THE END−
この後、2部登場人物紹介兼、後日談があります。