【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
私はその日ドールの海岸沿いを歩いていた。
すると突然近くの堤防から小さい女の子が海に落ちたではないか。
急いで飛び込み女の子を助けた私はまさに救世主だった。
この世に生を受けてから最も主人公っぽい行動をしたかもしれない。
女の子の母親に感謝され、服を乾かすついでに何かお礼をしたいと言う彼女の自宅へ案内されることとなった。
私は塩水に濡れた服を脱いでシャワーを浴びる。
扉の向こうから奥さんの声が聞こえた
「タオルとガウン、ここに置いておきますね」
ベトベト感から解放されてスッキリした私はタオルで身体を拭き、用意してくれたガウンを羽織る。
「お子さんは大丈夫そうですか?」
「はい……。今は疲れて寝てしまいました。娘を助けて頂き本当にありがとうございました」
「ならよかった、これで奥さんも一安心ですね」
はい、と返事をした彼女は何かを私に言いたいらしく、モジモジしながら口を開いた。
「その……よろしければ……服が乾くまで……どうですか……?」
照れた顔色の奥さんが恥ずかしそうに誘ってくる。
彼女は結婚し子供が出来たにもかかわらず、どうやらあっちの方もお好きらしい。
ハンサムに産まれ育った私の人生では、女性からのこういうお誘いは良くある流れだ。
目の前にぶら下げられた人妻を我慢できるほど私は辛抱強くは無い、当然返事はOKだった。
スピーカーが空気を読んだのか部屋に流れていたBGMがムーディな曲に変わる……。
流れだしたメロディをかき消すように、肌と肌を打ち付けるような音が断続的に鳴り響いた。
「あっ……凄いっ……! 夫は一度も満足させてくれなかったのにっ……!」
話を聞くと旦那のテクニックでは一度も満足できた事が無いとか。
「ハァ……ハァ……こっちの方もお強いんですね……。強い男性って素敵です……」
「奥さんも普段からこういう事、良くやってますね……。手付きが小慣れてますよ」
「うふふ……。私が普段から色んな人とやってる事、バレちゃったかしら」
「……話してるともう一回やりたくなってきました。」
「まだやりたいなんて元気な人……。でもこんなに熱いの初めてだったから私は疲れちゃった……。そろそろ娘も起きて来るから続きはまた今度……ね?」
なんか人妻とイケナイ事をするえっちぃ話みたいな流れだったが、やってることは当然カードゲームだ。
なんかやたらとカードが強い人妻だった。
そして私の脳内がこのシチュエーションに合致するFF8情報を思い出す。
(これ……原作開始前に娘を助ける代わりに死ぬ筈の、パブのオーナーの奥さんだ)
図らずしも原作のサブストーリーを改変してしまっていたらしい。
まあ大筋に全く無関係の小ネタみたいな部分だから、改変してもしなくてもどちらでも良い事だったのだが、人が死なないに越したことはないか。
そうしていると旦那さんであるパブのオーナーが血相を変えて帰ってきた。
どうやら連絡が行ったらしく、娘の心配をして急いで帰ってきたようだ。
大丈夫だとわかると一安心してお礼を言ってくれた。
しかし旦那さんにとっての問題はこれからだった。
若い男と妻が2人きりでカードゲームをしている痕跡がある。
嫌な予感が過ったのだろう、旦那は落ち着きの無い表情で私に訪ねた。
「き……君! 彼女とカードゲームをしたね?」
「はい、やりましたね。奥さんとってもお強かったですよ」
私は人当たりの良い笑みを浮かべて続けた。
しかしその笑みは彼の目にはどう映っただろうか。
「私もこう見えて腕に自信があったんですが、かなりヒヤッとさせられましたよ。彼女と次やったら私は負けてしまうかもしれませんね……」
「なっ……!!」
驚きを隠せない旦那さん。
彼はカードをメインに遊べるパブを経営するほど筋金入りのカードプレイヤーだ。
カードの腕前に並々ならぬ自信がある彼は、なんと出会ってから一度も奥さんに勝った事が無い。
ある日、負け無しで過ごしていた彼は人生で初めてカードで敗北する。
その相手の女性にリベンジを挑むが、何度やっても勝てずに負け続ける日々。
何故この女はこんなにも強い!? どうやったら勝てる!?
そう思い続け負けを繰り返しながら月日は流れ、何時しかプロポーズ。そして2人は夫婦となった。
だがプロポーズしても結婚しても子供ができても負け続けるままだった……。
このままでは尻に敷かれる未来が見えているのでどうにかしなければ……!
というのがこの夫婦の馴れ初めだ。
因みにここまでの話は当事者から聞いた訳では無く、原作で見たカンニング知識だ。
この後、奥さんは海に落ちた娘を助けようとして死に、旦那は失意に暮れるという悲劇があるのだが……偶然にも私がその流れを断ち切った。
しかし、その私によって新たなる苦悩が生まれようとしていたのだ。
奥さんは上気した笑顔で旦那に言う。
「彼、とっても強くて……。私、負けちゃった……」
目を見開いて沈黙するパブのオーナー。
彼の心臓が激しく脈動しているのは火を見るより明らかだった。
その動揺が収まる暇を与えられず、潤いを帯びた唇から次の言葉が紡がれる。
「えっとね……彼、本当に凄くて……ドールだけじゃない色んな地域のルールも知ってるらしいの」
「それでね……トレードルール:フルでやったら……私の大事な物、いっぱいいっぱい盗られちゃった……」
盗られたというネガティブな言葉とは裏腹に、照れながら言う彼女は綺麗だった。
表情が固まっている旦那を気にせず彼女は続ける。
「彼の……クレイズくんのテクニックは私の配置にピッタリ合うようにセイムしてくるの……」
私はカードを通して奥さんと親しくなり、彼女から名前で呼ばれるようになっていた。
手に持ったカードの縁を指でなぞりながら話が続けられる。
「駄目だってわかってたからガードを固めてたのに、弱点を突かれて無理矢理セイムでこじ開けられるとどうしようもなくて……」
「力強くリードするクレイズの強引さに驚いたけど……でも……ただ乱暴なだけって訳じゃなくて、私のプレイにもちゃんと合わせる目線の広さもあって……今までこんな試合したの、初めてで……」
彼女は心底嬉しそうに私の方をチラチラ見ながら旦那に報告する。
「だからね……またやりたいねって2人で約束したの」
何度も言うがカードの話だ。
カードの話なのだが、私は何故かパブと自宅の出禁を言い渡された。
険しい表情で眉間に皺を寄せながらも、なんとか紳士的に振る舞おうとするパブのオーナー。
しかしながら彼の理性を以ってしても我慢しきれない事があったらしい。
「娘の恩人にこのような事は言いたくない、しかしすまないが妻が私の前で負けている所を見たく無い」
歯を食いしばったオーナーの口からなんとか出てきたその言葉と出禁宣言。
それを聞いた奥さんは旦那さんを優しく叱りつけ、即刻出禁を取り消させていた。
彼は既に尻に敷かれまくっていた。
今でもドールに行った時は、旦那さんに内緒で自宅に訪問してカードゲームをしている。
お互いに満足できるほど強い相手は中々居ないので、寂しくて飢えているのだった。