【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。 作:速射弾
ガルバディア大陸を旅行するなら避けては通れない場所がある。
それが青銅の錆に覆われたような色をした鉄道の街、ティンバーだ。
元々豊かな森に覆われていた街だったらしい。
ガルバディアに占領されて自然が切り拓かれた今では街中を4本の線路が敷かれている。
駅と融合し、沢山の列車が通る青緑に染まった街並みは、他では味わえないある種の趣を私に感じさせた。
だが住人の中には昔の自然を惜しむ声は未だに多いようだ。
列車から降りた私は、電車の模型“思ったより”よくできてるな、と思いながら売店とお土産物屋を物色し、ホテルにチェックインしてからバーに向かった。
ここティンバーは自然豊かな土地だった事もあり、水が良いのでこの土地で作られるお酒も美味しいという話だ。
バーで酒を飲みながら普段使わないどうでもいいカードでゲームをすると、酔っ払いに負けてヘッジヴァイパーのカードを取られてしまう。
だが、負けてもこれはこれで楽しいものだ。
カードの腕前には結構自信があるのだが、この酔っ払いは“思ったよりも出来る”プレイヤーだった。
仲良くなったのでついでに一杯奢ったらその対価に酒の話を色々と教えてくれる。
その話の中で出てきたヘッジヴァイパーの酒がバーにあるというので注文してみた。
こういうフィクションのようなやりとりが出来るのもこの世界の魅力だ。
人より遥かに巨大なヘッジヴァイパーのような大蛇をどうやって漬けるのだろう?
牙とか顔の一部を切り取って漬けるのかな、と聞いてみた所そうやって作る場合もあるが、
一番美味いのはなんと内臓を処理したあと全身を洗浄して丸ごと巨大な樽にぶち込んで漬ける奴らしい。
アルコールだけでは毒の分解が間に合わないため毒消しを山ほど一緒に入れて漬け込み、熟成させたそれは珍味が好きなその筋の人間達にとってたまらない逸品だそうだ。
ヘッジヴァイパーの酒は“思ったよりも良い味”だった。
色々と面白い話を聞いて満足した私はバーを出てホテルに戻る。
フロントに鉄道のジオラマが飾ってあったり、電車の踏切が部屋案内をしてくれる個性的なホテルが私の宿泊先だった。
家族経営で子供が少し騒がしいが、たまにはこういうアットホームな宿も“思ってたより悪くない”。
部屋はカウンターのすぐ隣で、カギを持っていると入り口で降りていた踏切が上がり、部屋に入る事ができる仕組みとなっている。
列車の通り道であるこの町を意識した方法を家族で考えたんだろうな、と思うと微笑ましさで思わず笑みが溢れてしまった。
小ぶりながら綺麗にしてある部屋でくつろぎ、駅の売店で買った雑誌を読む。
となりのカノジョというタイトルのエロ雑誌だ。
ドキドキな写真集でもあるこの本は原作にも登場するが、ゲームでは読めなかったので売店で見かけた時は喜びのあまり手に取って買ってしまっていた。
(これでも私の前世はインターネットというものが発達していてですね、写真集ぐらいじゃびくともしませんよ)
そんな偉そうな考えで開いてみたら普通に良かった。
となりのと銘打っているだけあってリアリティが凄い、そしてこの世界の人達は結構顔面偏差値が高いのでそういう点でも良い。
私は家族経営のアットホームな宿屋でエロ本の批評をしてしまっていた。
となりの家族に悪いなぁと思いながらページを読み進めていく。
(何……? 女ガルバディア兵特集だと……?)
マニアックな特集が組まれていた、これにページを割く勇気は凄い。出版社の気合いを感じさせる。
口元だけを出した特殊なメットを被った制服姿の女性達は中々ニッチだが、これはこれで紛れもなくFF8の世界特有の文化だった。
隙間産業も疎かにしないところには好感が持てる。そう思いながら見ていると私は気づいてしまった。
やたらとページ数が多い。
もしかしてこの性的趣向はこの世界ではポピュラーなのだろうか? これはガルバディア本国の検問を通過できたのか? 現在植民地となっているティンバーのせめてもの抵抗?
さまざまな疑問が渦巻く中で、ページをめくり続けた私は“思ったよりいける”と結論を出し次のコスプレコーナーに突入した。
めくったページの先には魔女のコスプレをしている女がいた。
この世界において魔女とは特別な意味を持つ。
人々に畏怖され差別される存在であり、魔女が持つ力は世界を揺るがすほどの物だった。
大いなるハインと呼ばれる神の力を受け継いだ彼女達は寿命で死ぬ事が無くなり、その魔法は命無き彫刻に命を与え、思うがままに人々を洗脳し、時間と空間すらも操る。
この世界で使われている魔法は全て魔女の扱うそれの大幅な劣化品であり、それを再現しようとした物でしかない。
たとえ魔女が死んだとしてもその力はまた別の女性に受け継がれ新たな魔女が誕生する。
当然全ての魔女が人を支配しようとするわけでは無い、ひっそりと静かに力を隠して暮らす者もいる。
だが人々が過去、魔女によって受けてきた傷は大きい。それ故に魔女は恐れられ迫害を受けている歴史があった。
魔女をイメージした生地の薄いドレス衣装に身を包んだ女は、どぎついメイクをした顔で色っぽい表情をしながらガニ股に足を開き、長いスカートの裾を両手でたくし上げていた。
「私、騎士様が居ないから悪い女になっちゃうわよ〜ん」という馬鹿みたいな文字がハートマークと共に添えられている。
なんて命知らずな写真集なんだ。
というかこれは魔女にめちゃくちゃコケにしていると取られても仕方ない。大いなるハインの末裔に対する敬意をカケラも感じない。
しかし、“思ってた以上にいける”。
まあ近い将来、ガルバディア政府が魔女と手を組んだ暁にはこの雑誌は販売停止になるだろう。
それにしてもコスプレコーナーは中々面白い。宗教関係やメイドやナースといった前世ではポピュラーなものが無い代わりに、兵士やガーデン制服のコスプレがかなり賑わっている。
エスタの民族衣装なんかも結構人気があるようだ。文化の違いを感じ取れてかなり楽しめる雑誌だ。
そう思いながらページをめくっていると、バーで飲んだヘッジヴァイパーの酒が後から効いてきて、私はいつのまにか寝てしまっていた。
翌日、私はフクロウの涙と呼ばれる水を飲みに一般人宅を訪問した。
昨日紹介してくれたバーのマスターによるとここのお爺さんは旅人に優しく、回復効果のあるその水を無料で飲ませてくれるとの噂だ。
飲ませて欲しいとこちらが切り出す前にいきなりお爺さんから質問された。
「若いの、飲み物は好きか? 嫌いか? どっちじゃ?」
御老体、飲み物という大雑把な括りで好き嫌いを質問されても困る。
その質問に嫌いと返事する人はいるのだろうか?
いや、もしかすると好きと答えて欲しいが故にわざと否定し辛い表現で質問をしているのかもしれない。
「私が今まで出会ったこの世にある飲み物は全て好きですね」
『たべる』のおかげでゲテモノ喰いには慣れていた。なので正式に飲み物として出される飲料に不満を抱いた事は無い。
私は冗談のように聞こえるであろう本心を答えると爺さんは、
(なんじゃこいつ? 嘘吐くなよ……)
みたいな怪訝な顔をしていた……。
全部好きだと答えると喜ぶかなと思ったのだが、どうやら外してしまったようだ。
それでも飲ませてくれるらしいのでお礼としてここにくる前、ドールで買った手土産を渡すとお孫さんが喜んでいた。
頂いたフクロウの涙はなんの変哲もない水道を捻って出てきた水だった。
それなのに口に含むと細胞が潤う気がする。“思っていたより喉越しが良い”。
そのまま潤いが喉を通り抜け、自分はこんなにも渇いていたのかと驚いた。
微かに残っていた酔いが吹き飛び、幾らでも飲めるような気がした。確かに美味しかった。
スッキリした気分でお宅を後にした私はいよいよ本命の目的地へと赴いた。
この街には人気雑誌バトルシリーズやとなりのカノジョを出している雑誌出版社、ティンバーマニアックス社がある。
バトル本やエロ本に隠れて社の名前を冠した雑誌、『ティンバーマニアックス』も細々と発行されていて旅先で置いてある事が多い。
私はジャーナリストになって世界中を見て回りたいというラグナの夢を実際に聞いて、それに影響された。
FF8の世界を回り色々な物を見て触れて感じ取りたい。
もしかするとこの想いが強くなったのは彼のカリスマ性に中てられたからなのかもしれない。
私は半年ほど前からこの会社のバトルシリーズという雑誌にフリーライターとして記事を書いて投稿していた。
モンスターを『たべる』というライフワーク兼、趣味という固有の強みは戦い以外にも他者と比べた時にある種の個性になってくれる筈だ。
バトルシリーズは基本的に実用性を重視した雑誌だ
私はそこでどのモンスターが美味しく食べられてどれが不味いのか。
生息地の地形や環境で気をつけるべき事は何か。
基本的な立ち回りと弱点部位に属性相性。
食べる事を目的とした狩りの場合、何処を傷つけないように倒すか。
どう調理するのがおすすめか。
等を紹介した。
幸い私の予想通り珍しい分野だったらしく、記事を取り上げて貰える事となる。
割と読者からも好評だったので定期的に連載させてもらうこととなった。
言うなればゲテモノ喰いを売りにしているコラムニストのようなものだ。
というわけで、こうして本社に挨拶に来たのだ。
編集長が言うにはティンバーマニアックス社の出していたかつての人気雑誌ティンバーマニアックス。
略してティンマニの全盛期は世界各地に赴いた取材記事が集まり、世界中のジャーナリストが憧れた雑誌だったという。
ティンバーがガルバディアに占領されて以降、政治的な記事に対する情報統制が厳しくなり内容が大幅に規制を受けたせいで人気はすっかり落ち着いてしまったようだが……。
そんな全盛期のティンマニに憧れて入社したらしい目の前の編集長の目に留まり、連載が決定したとの事。
実際に足を運び、身をもって危険を体験している取材内容。
それがかつてのティンマニを支えたライター達のバイタリティとパッションを彷彿とさせる、だそうだ。
実践的な内容をメインで取り扱っているバトルシリーズの内容とは若干そぐわない気もすると編集部の会議で物議を醸したが、編集長の独断とゴリ押しで連載が決定された。
長話のおまけに更に詳しい採用理由も説明してくれた。
2時間ほどの無駄話の合間に語られた理由を要約すると、変な物を食べるだけなら他にもそういう人やライターが居ないわけではないが、強力なモンスターを狩れるほどの戦闘技術を持った人間は訓練を受けた一部しかいない。
戦える能力を持ちながら好んでゲテモノを食しにモンスターを狩りに行き、文章に残して伝えようとする奇特な人間はそうは居ない。
その熱意は素晴らしい!
私の若い頃はこういう人達で溢れており活気があった。
近頃は泥に塗れて取材する努力を怠っている者が多くて困る。
とそんな感じの事を長々と言われればゴリ押し採用に納得するしかなかった。
だが反面、圧倒的な長話直後の「若者が限りある時間を浪費するのは勿体無い、君は時間を大切にしなさい。応援しているぞ!」という激励のような説教はどう考えても納得ができなかった。
納得できなかったが私は採用を決定してくれた編集長に頭が上がらなかったので長い無駄話はちゃんと聞いた。
申し訳無さそうにする受付の女性によるとこれは何時もの事らしい。
あんな編集長でも有能でこの会社には欠かせない人材だそうだ。ティンマニの売れ行きが落ちて厳しい状況だったこの会社を救った事もあるとか。
私は“思ってたより凄かった”彼を見直すと同時に、そんな人に目をかけて貰えて嬉しいという気持ちになっている自分自身のチョロさに苦笑した。
ガルバディアに植民地とされているイメージとは裏腹に、『思ってたより悪くない』街、それがティンバーだった。
もしもFF8がリメイクされるなら雑誌関係更に充実させて、となりのカノジョ読めるようにしてほしい。