【完結】FF8の世界に転生してスローライフを満喫する話。   作:速射弾

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8話 バラム

 

大陸横断鉄道の列車でティンバーから海底トンネルを進んだ先にあるのが、小型の大陸の海沿いに存在する都市バラムだ。

小さな大陸という矛盾したような土地、バラム公国の首都である。

景観が白と青系統の色で構成されており、波の音と海鳥の鳴き声が落ち着いた風情を感じさせる美しい観光都市だ。

 

青色は精神を落ち着かせる色だと言うが、この街と地元住民がしっかり者気質なのはそのせいもあるのだろう。

心を落ち着かせる色に囲まれているのに騒がしく生きていたゼルは、ある意味凄いのかもしれないと思った。

 

 

FF8世界の三大珍味のひとつ、バラムフィッシュを目当てにやってきたがどうやらお目当てのターゲットが近年数を減らしており、現在では獲れる数がかなり減ったという。

 

意外にもこの世界の海にはモンスターがほぼ居ないため、漁師や釣り人がモンスターと遭遇し危険な目に遭うというのは少ない。

モンスターは基本的に月から来るからか、水中、特に塩水に適応していない事が多いのである。

 

砂浜を泳ぐ魚型モンスターのフォカロルと亀型モンスターのアダマンタイマイが浅瀬で活動できるぐらいだろうか。

だからなのかは知らないが、魔法はファイアサンダーブリザドよりもウォータの方がモンスター相手には効く事が多い。

 

閑話休題。

 

 

私はバラムフィッシュが水揚げされるまで、滞在期間を延ばす事にして観光すると決めた。

ホテルで観光雑誌を読みながら何処に行って何をしようか考える。

バラム公国といえば、なんといってもバラムガーデンだろう。

 

 

ガーデンとはFF8を象徴する傭兵育成機関だ。

傭兵育成機関という殺伐とした字面に反して穏やかな雰囲気の学校で、ファイナルファンタジー8を知る人間なら誰しもが1度はこんな所に通ってみたいと思うのではないだろうか?

 

 

この世界、実は普通の学校があまり無い。

大きい都市にはあるのだが、田舎は基本的に電子端末や国の発行している教科書での自宅学習が主な教育方法である。

モンスターのせいで電車の開通していない土地から出るのはなかなか難しい。

 

 

そのような事もあり、原作云々以外にもガーデンという施設は、田舎者の私にとって結構特殊な環境なのだった。

傭兵になりたい訳ではないが、単純に同年代が集まる施設は楽しそうなので通ってみたかった。

 

しかし入学資格が5〜15歳までなため、故郷で暮らすのが精一杯だった私は入学の時期を逃してしまった。

まあ用もないのに遠い他国や他の都市の学校まで子供を通わせるほど、我が家が裕福ではないというのもある。

 

 

 

一度は行って見てみたいが、部外者をガーデン内に入れてくれるのだろうか?

そう思い調べた所、内部関係者以外は要件を記入した手紙でアポイントメントを取る必要があるようだ。

 

当然の話である。そして私はガーデンに依頼したい事があるわけでもないし、SeeDと呼ばれるバラムガーデンの精鋭を雇う程の金があるわけでもなかった。

ガーデンに伝手も無く、取材の許可も当然出る事は無かったので希望は絶たれた。

 

 

(部外者が入れるとしたら、国とガーデンが一体になっているトラビアガーデンぐらいかな……)

 

 

他に行ける場所は、炎の洞窟という炎のG.F.イフリートと戦う事になる最序盤のダンジョンぐらいである。

 

どうせ行くならどうしてもイフリートの「こやつ、シヴァをしたがえておるのか!」が聞きたい。

だが私は肝心のシヴァを従えてはいない。

 

シヴァはバラムガーデンで支給される以外の入手方法が定かではないG.F.だ。

ゲームでは無いこの世界ではどうやって入手すればいいのかわからない。何処かでシヴァと戦って手に入れるなんて事も出来るのだろうか?

シヴァどうしよう、そう思いながらバラムを歩いていると、どことなく見た事のある美少女とすれ違った。

 

 

(まさか今の金髪アップヘアーはもしかして……? そんな事あるか? 人違いなんじゃないか……?)

 

心臓がドキドキしている。そう、つまりこれは……。

 

 

(私の勘と心臓の鼓動が言っている! あれは間違いない! キスティス・トゥリープだ!)

 

原作の主人公パーティのキャラの1人であるキスティス・トゥリープ。

なんでも良い、どうにかして話をしてみたい……。

 

 

「そうだ! カードゲームでナンパしてみよう!」

 

名案を思いついた私はヘイストで思考速度を加速させ、試合申し込みの言葉を一瞬で考えた。

 

 

①「お嬢さん、あそこのカフェでひと勝負しませんか?」

普通すぎやしないか? しかも下心丸見えな割に控え目にかしこまって無難な方に逃げ道を確保してしまっている。

どうもヘタレ感を拭えないし、第一お嬢さんってなんだよ気障すぎるだろう。普通に君かわいいね勝負しない? とか言った方がマシだ。

 

 

②「やるか〜い?」

いきなりこれだけを言われても意味不明なだけだ……。なんならセクハラとして取られる可能性もある。

ミステリアスな雰囲気でカードを見せつけながら言えば、小数点以下の確率で誘える可能性もあるか?

 

 

③「君が一番カード強そうだね。私と勝負がしたくな〜る、したくな〜る(人差し指くるくる)……ダメ?」

純粋に恥ずかしい……。私は初対面の女の子にこんな事できるのか?

仏頂面のスコール相手に初対面でこれをやって踊りに連れ出したリノアを尊敬する。

 

 

④「君、このエリアには無いルールを知っているみたいだね? こことバラムガーデンのルールをまぜてカードやらない?」

何故ゲームでみんな揃ってこの言い回しを使っていたか完全に理解した。

圧倒的に見知らぬ人を誘いやすいからだ。これ以上ないと言えるスマートな誘い文句だ。

 

 

 

 

作戦決行まで時間が無い中で悩み抜いた結果、③で行く事にした。

言いたい事が伝わり、最もインパクトが強いこれぐらいの極振り行動の方が結果を残しやすいのでは? と思ったからだ。

何より未来で実績があるのだ、私はスコールを落とした尊敬できるリノア先生のナンパ術に賭ける。

 

 

 

 

結果から言おう、なんとOKを貰い誘う事に成功した。

どうやら私のカードゲームでナンパをしようという名案は声に出ていたようだ……。

 

それを聞いた彼女は、その直後緊張しながら近付いてきた男にふざけた言葉で誘われながら、目の前で指を回されてツボに入ったらしい。

キスティスは肩を震わせ笑いながら教えてくれた。

勇気を出して良かった! ありがとうリノア先生! フォーエバーハグハグ。

 

 

そういえばキスティスは今何歳なのだろうか? 気になったが女性に直接聞くには失礼すぎるか?

いや普通に聞いても問題ない質問な筈、年齢を聞くなんてコミュニケーションの基本だ……。

 

早速喫茶店に行きカードゲームをしながら優雅な会話に勤しむ。

お昼ご飯を食べるついでに私は小賢しい質問をした。

 

 

「そういえば自己紹介の時バラムガーデンの生徒だって言ってたよね? 実は私もバラムガーデンに入りたかったんだ。バラムのガーデン生はSeeDになる事を目標にしてると聞いたけど、君もSeeDを?」

 

当然答えを私は知ってるのだが、気味が悪いと思われるだけなのでゲームでしか知ることのできない個人の前提知識は知らないふりをして話をする。

スパイになったような妙な気分だ。スパイ……カッコいい響きだ……。

 

 

「実は……つい先日SeeD試験に合格したの。こう見えて飛び級もしてるしそれなりに成績優秀なのよ?」

 

目の前の金髪美女はハニカミながら教えてくれる。

確かキスティスがSeeDに合格した時の年齢は15歳だった筈……。

 

 

(15歳? うそだろ!?)

 

おっと、驚きのあまりついつい目を見開いて凝視してしまった。

 

 

(この成人女性モデル顔負けのスタイルと美貌に加え、キャピキャピ騒がず余裕の感じるしっかりとした態度で15歳だと……?)

 

俺の前世がどういう15歳を過ごしていたかは忘れたが、確実に彼女と比べたら何も考えてない鼻垂れ小僧でしかなかっただろう。

なんなら今の私と比べても、既にキスティスの方が人として尊敬に値する人物なのではなかろうか。

 

 

「まあ正直意外にも思わないね、キスティスは初対面で既に優秀そうに見えるから。でも飛び級してSeeDはお世辞抜きに凄いと思うよ……。私もSeeD筆記試験の問題を見た事あるけどそれだけでも相当難しかったから」

 

「うふふ、ありがとう。自分では頑張ってるつもりなんだけど……そう言ってくれる人が意外と少ないから嬉しいわ。ねぇ貴方の事も聞かせてくれる?」

 

会話していて気づいた事がある。

キスティスは大人びた見た目と自信のある態度に反して、自己肯定感が少ない。

 

間違いなく優秀な筈の彼女は、目に見えた結果が出ているにもかかわらず己を信じきれていないらしい。

孤児院から引き取られた先の家で上手くいかなかった経験が尾を引きずっているのだろう、と原作知識から勝手に邪推した。

 

そんな彼女と会話していると良い所がどんどん見えていき、私はついつい誉めたくなってしまう。

私は彼女と楽しくカードをしながら雑談してるとまたしても名案を思いついた。

 

バラムガーデンの生徒である彼女ならシヴァを持っている筈……なのでついて来てもらえば良いのではないか?と。

早速私はG.F.イフリートがほしいのでよければ手伝ってくれないだろうか? とお願いする。

 

 

「SeeDを雇う料金は高いわよ?」

 

冗談を交えつつ了承してくれるキスティスは、頼られる事が嬉しいみたいだった。

こうして実際に接してみると、原作で教師になってからたった1年の間に熱量のある会員が複数人在籍するファンクラブができた理由が理解できる。

こんな魅力的な女性を相手に壁にでも話してろよとはとても言えそうに無い。

 

 

 

私達は平原で適当に戦いの連携を確かめた後、溶岩に囲まれた灼熱の洞窟に突入した。

 

普通に周りを流れる溶岩が滅茶苦茶熱い。

ここ、絶対G.F.を所持していない素人が軽い気持ちで近づいたらダメな場所だ。

そう思っているとどうやら目的地に着いたらしい。

 

中央のマグマ溜まりが迫り上がり、現れるイフリート。

二足歩行の獣だか鬼だかわからないがカッコいい見た目に思わずテンションがブチ上がり、頭の中でForce Your Wayのリズムが流れ出す。

 

早速キスティスがシヴァを召喚し、周囲に冷気と氷をばら撒かれたイフリートが狼狽えて吼えた。

 

 

「こやつ、シヴァを従えておるのか!」

 

私は実際にシヴァとイフリートを見ることができ、この台詞を聞けて感激していた……。

 

それにしてもシヴァはセクシーなG.F.だった。布面積の少ない下着で胸と股間をギリギリ隠せているだけの青い肌をしたスタイルの良い美人な女性。

 

私もできるならこういうえっちぃ女性型G.F.を脳内に住ませたい。

教育機関が未成年の青少年に配って良い見た目じゃ無いだろと私は言いたい。

 

 

いや、むしろ悶々とした少年達の溜まり溜まったパトスが集結した学校だからシヴァが居るのか?

バラムという涼し目な気候の土地で男児が抱く女性に対する憧憬の意識が集まった場所。

そういうロケーションがシヴァというセクシーG.F.にとってベストな生活環境シチュエーションなのかもしれない。

 

シヴァに失礼な事を思いながら今の私はイフリートの「こしゃくな人間どもめ!」という台詞も聞きたくなっていた。

 

 

(そうだ! 出来るだけ小癪に戦おう!)

 

今日の私は冴えている。

 

早速私は鞭を振るうキスティスの周りをうろちょろしながらリフレクでファイアを封じ、

あえて反射させた炎でイフリートの体力を回復させつつ戦闘を長引かせ、グラビデでネチネチとHPを削っていった。

 

 

「小癪な奴め!」

 

イフリートがそう吼えて暴れ回る。

どうやらネチネチやりすぎたせいで小癪な人間共ではなく、私一人が小癪な奴認定されてしまったようだ。

明らかに怒りを隠せないイフリートはキスティスを無視しこちらにがむしゃらに殴りかかってくる。

 

だが拳はプロテスでバリアを張りダメージを軽減した私に届かず、最後はキスティスのムチがその良い身体をしばきあげて戦いは終了したのだった。

 

 

なんだか凄い強者臭のある見た目をしているイフリートだが、実際相対してよくよく考えてみると大きさの割には筋肉がスマートなので、基礎能力だけの戦い方だとジャンクションして身体能力が底上げされた元ガーデン生の傭兵とトントンぐらいの強さだった。

 

イフリートは真正面から戦って勝てるにも関わらず、あえて回りくどい戦法を使った私の事が心底癪に障ったらしくG.F.として仲間になってはくれなかった。

 

小癪な人間共め! を聞けずG.F.としても取り逃がしたのは明確な失敗だった。

 

私とのG.F.相性も悪かったのかもしれない。

 

 

 

というわけで選択肢を消化して帰還した私は、釣りやモンスター狩りをしたり地元民やキスティスとカードゲームで親しくなりつつ滞在を引き伸ばし待ち続け、ようやくお目当てにありつく事ができた。

 

 

バラムフィッシュだ。

ターコイズブルーの丈夫で大きな鱗が旨味のエキスを閉じ込めるので、バラムフィッシュを焼く時は変に鱗取りはしない方が良いらしい。

皮と白身の間にタップリと乗った脂のおかげで焼いた後の鱗は剥がしやすくなっており、纏めて綺麗に鱗を剥いで身にありつけるようだ。

 

1匹が大きいので、1人では食い切れない程の量が食べられるのが嬉しい。

早速鱗を剥いで身を口に入れると、全く水っぽくなく旨みが凝縮されているのを直に感じた。

 

上品な脂が滴り、ただただ白身の風味と美味しさを底上げしてくれる。

みじん切りにしたさまざまな野菜と柑橘類の汁をまぜたバラム地方伝統のガスパチョソース。

それを締まった身に乗せると、これがまたたまらなく合った。

 

 

近海の豊かな海産物達を食べて育った肝は、上品でマイルドなコクのある天然のパテだ。

これも白身に乗せて一緒に食べると更に味わい深くなる。

当然ワインや景色とのマリアージュも抜群だ。

物静かな街の雰囲気、爽やかな汐風と海鳥の鳴き声が聴こえてくる中でこれを食べる癒し効果はケアルガ顔負けだろう。

 

 

乱獲されて数が減り地元民でもなかなか食べれない魚になってしまったというのも納得できる。

絶滅危惧種を道楽のために食べるのはよろしくない。

などという今更な罪悪感は、バラムフィッシュから出た上品な魚脂とアラで取った魚介出汁のスープに洗い流されあっという間に消えていった。

 

 

まさに人間に食われるために生まれてきたような魚だった。

来年もまた食べに来たいなと心底思い、自分が環境に配慮しない悪の道に堕ちた事を美味すぎる魚のせいにして開き直った。

 

ホテルでの滞在費用、船釣り代金、バラムフィッシュ、これらを総合するとあまり考えたく無い程度にはなかなかの出費だが、有名な三大珍味のひとつを食べないという選択肢はなかったし食べられてよかったと心からバラムに感謝する。

その後しばらく私の食事がモンスタージビエオンリーになったのは言うまでもない。

 

 

 

バラムフィッシュを食べた次の日、なんとキスティスがガーデンを案内してくれるというので喜んで案内される事にした。

 

そういえばエルオーネは今バラムガーデンにいるのかもしれない。

原作でこの時期どう過ごしてたのかよくわからないのだ。

17歳になったスコールにやっと会えたねと言っていたから、バラムガーデンにはまだ来ていないとか?

 

会いたいけど会いたくない複雑な心境だった。

 

(故郷で幼い頃に数年遊んだだけの私を覚えてくれているのか?)

 

流石にラグナ達と一緒に居たから記憶はしてくれているとは思う。

しかし当時の私はエルオーネとどうやって関わっていいのかわからなかったので、そこまで仲良く遊んだり話をしたりしていない。

 

当時4歳の子供と無邪気に接する事が出来ず、隣で一緒にニコニコ笑いながらラグナ達を見ていた記憶しかない。

もしかして友達という関係ですら無いのでは?

そんな奴が十数年ぶりに大人になって現れて、やあ昔一緒に遊んだ近所の〇〇だよと話しかけてきたらどう思うだろう。

大人になった顔を見せて余所余所しい態度を取られたらどうしよう。

 

 

案内されている間にエルオーネと出会ってしまい声をかけるとする。横にいるキスティスがどう思うだろうか?

ただでさえナンパで仲良くなったのに、新しい女に声をかけるのは絶対またナンパしてると思われる。

 

そもそもエルオーネに顔を合わせたく無い。

向こうはそんな事思ってないかもしれないが、後ろめたさが凄い。

何故ならエルオーネは、ラグナとレインが死ぬ前に会えなかった事を悲しみ続けているからだ。

そうなると知ってて何もしなかった私が、どうしておめおめと面を見せれるんだという話だ。

しかも原作の話の流れを考えると、一緒に行動するわけにもいかないし、直ぐお別れだろう。

 

 

(うごごご……。会いたくねぇよぉ……)

 

私が原作キャラというか、FF8に対してここまで拒絶する気になるのは初めてかもしれない。

故郷での呪いが私の心を苦しめる。

ラグナ達とエルオーネに顔を見せる事から逃げ回ろうとする自分は、どこからどう見ても情けない大人だった……。

 

 

そんな益体もない不安を抱えていると、いつのまにかバラムガーデンに着いていた。

レンタカーを駐車場に停めて車を降りる。

せっかくのキスティスとのドライブなのに、心ここに在らずで隣の彼女に申し訳ない気持ちで一杯だ。

まだ会ってもいない相手より今は目の前の女に集中しよう。

 

 

そんな決意はバラムガーデンに入ってから簡単に吹き飛ぶ。

憧れていた世界がそこにはあった。学生の賑わいと施設の大きさはゲームで見た時の比じゃない。私は一瞬でガーデン案内に夢中になった。

 

あの案内板、あのエレベーター、あの図書館、あの食堂、あの保健室、あの先生、あの改札口。

改札口の案内には、詳しく見たいと言った私を怪訝な表情で見てくるキスティスもおまけでついてくる大サービスだ。

まあ、流石に部外者が寮を詳しく見るのは無理だった。

 

もしかして他の原作キャラとも出会えるかも? と期待したがすれ違ったかどうかもわからなかった。

結局エルオーネにも出会わず正直ちょっとホッとした。

 

 

夢中で楽しんでいるうちに日が暮れてしまった、最後に訓練施設を案内してくれるという。

 

 

(え……? 夜間に訓練施設ってまさか……?)

 

ドキドキしているとそのまさか。

私はキスティスと一緒にひみつの場所に入る事になった……。

 

ひみつの場所とは、バラムガーデンのカップルが夜間にイチャイチャする公然の極秘スポットである。

 

 

こんな事があって良いのだろうか? 今日ほど良い顔で産まれてきた事を喜んだ事はない。

あの時勇気出してナンパしてよかった……!

 

 

(ゴクッ…。)

 

そうして15歳の女の子相手にワンチャンを期待する二十歳という犯罪空間が誕生したのだった。

 

 

 

キスティスが夜空を見ながら話しだす。

 

 

「実は私いま、悩みがあるの……聞いてくれる?」

 

「勿論」

 

もちろんだ。

原作キャラであり私の友であり彼女候補の話だ、幾らでも聞かさせていただこう。

まあ聞かなくてもわかるよ、恋の悩みだろう? 君の勇気に免じて今夜私が解決してあげよう。

 

当然壁とでも話してろ、なんて口が裂けても言わない。

原作再現で言いたくなるシチュエーションではあるが……。

流石に私もそれぐらいの分別とTPOぐらい弁えている、舐めるな。

 

 

「私ね、教官を目指しているの」

 

周りで2〜3組のカップルがイチャイチャしてる中でよくそんな話をする気になれるな、と私はキスティスに感心しっぱなしだ。

もしや、これから教師になる前に生徒として最後の甘酸っぱい思い出が欲しいという訳か。

それならばこの場の雰囲気に適正な話題だ。

あいわかった……! このクレイズ、キスティス殿のその頼み、しかと受け取った!

 

 

「でもね、自分が良い教師になれる気がしなくて……」

 

…………興奮していた私の心は急激に覚めた。

彼女は教師になる最後のひと押しが欲しいらしい。

だが私は知っている。

彼女は教官になり1年で指導力不足と見做され、その役目を解任させられる事。

 

とても悲しみ、気になっている男の子であるスコールに話を聞いてもらおうとする事。

迷惑がられて冷たく対応され、更に落ち込み己の指導力不足を反省する事。

 

 

別に人が死ぬわけではない。

立ち直れない程深い心の傷を負う訳でもない。

だけど、大好きな原作キャラクターであり、仲良くなった私の友であり、気になっている女の子が悲しい思いをする。

これから私は不安を打ち明けてくれた彼女に、そんな未来を薦めなきゃいけない。

そう思うとふざけた気持ちにはなれなかった。

 

 

ありえない仮定だが、キスティスは私が未来がどういう結果になるか分かっていて背中を押した、と知っても許してくれるだろう。

その優しさを想像できる事が一層私の胸を苦しくさせた。

 

 




こいつの頭の中、うるさいな……。
次回キスティス視点です。
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