プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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鏑木Pが娘にだだ甘なお父さんだと信じて書きました(笑)


はてさて、どうなりますやら♪

 薄ぼんやりした視界に映ったのは、知っている男のひとだった。

 

「よかったぁ……よかった……」

 

 いつもはクールぶった感じのおじさんである彼は、そのイメージにはそぐわないほどに泣き崩れていて。

 

「生きていてくれ……おまえだけでも」

 

 震える手で私を抱き上げると私のおくるみに顔を埋めて嗚咽する。なにがそんなに悲しいのだろうか? それとも嬉しいのだろうか。その時の私はぼんやりしてたし、眠くて仕方なかったのでそのまま意識を失ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 それから年月が経って。

 

 私も幾ばくなりとも事情が分かってきた。

 

 まず、今の私は昔とは別人だ。昔の私は『星野アイ』。今の私は『鏑木月代(つきよ)』と言う名前を頂いた。

 

 色々あって死んじゃった私は、そのあと生まれ変わっちゃったみたいなのである。

 

 理屈とかは分からないし、誰も説明なんかはしてくれないし。もう、なんていうか五里霧中という感じだ。

 

「つーちゃん、ご飯だよー」

「あいっ!」

 

 鏑木さんは、前世のときにお世話になったひと。だからといって彼の子どもになるとか思わなかったけど……前のお父さんたちに比べたら『神仕様』といえる。自分で離乳食も作るし、仕事で家をあけるときはベビーシッターもいれてくれる。あの離乳食って、けっこう面倒なのによくやるなぁと、感心しきりだ。

 

「ふー、ふー……はい」

「あむ……むうぅ」

 

 む、少しにがい。ピーマンはちょっと早くない? それに味も薄いよ。少し唸ると鏑木さんは困った顔をして頭をかく。

 

「むう、お姫さまの舌は些か難しいね」

「だう」

 

 もちろん。こう見えても二児の母だよ? 味にも拘ったんだから。まあ、ミヤコさんには負けたけどね。

 

 鏑木さんの奥さん、つまり私のママはもういない。

 

 詳しくは知らないけど私を産んだときにはもう亡くなっていたらしい。いつかそのことを教えてくれるだろうから、その時まで待つつもりである。

 

 奥の部屋にある仏壇に掲げられている遺影を見るに、優しそうな人だとは分かる。ただ、どう見ても外国人……北欧系なのかな? プラチナブロンドとか珍しいよね。

 

 その血を受け継いだせいか、私の髪もプラチナブロンドだったりする。鏑木家の遺伝子、意外と弱いのかもしれない。

 

「つーちゃん、あーん」

「あーん」

 

 刻んだピーマンを除けてくれたので安心して口を開ける。子供舌とは言うけれど、意外と繊細なのである。

 

 

 

 

 

 

「つーちゃん、またご本読んでるの?」

「うん」

 

 幼稚園に行くくらいから文字が読める事を隠すのをやめたので、専ら本を読むようになった。思えばアクアもこのくらいの頃にはサイコロ本とか言われるのを読んでたし。(ちなみにあれはカントクの所から借りたものだったらしい)

 

 最近のお気に入りはラノベ。文字を読むのが楽しいし、物語も面白いのでついつい読みふけっちゃう。あと、鏑木さんの蔵書のせいもあったりする。このひと、実は隠れオタクだったらしい。敏腕ディレクターなんて風情を出してたのに、意外と言えば意外だけど……よく考えたら間違ってもいないか。色んなところにアンテナ張り巡らす必要がある仕事だし、若者相手だとそういう情報は必要なんだろう。

 

「うちのコ……天才かもしれないな」

 

 ぽつりと呟く鏑木さん。ちっちっち。それは違うよ?

 

『本当の天才は、ウチの子達だもん』

 

 

「あ、有馬かな♪」

「おお、よく知ってたね。つーちゃん」

 

 テレビに映るかなちゃん発見。『ピーマン体操』のCMらしい。幼稚園でも踊ったけど、なかなかに面白かった。子供の頃の感性って、やっぱりすごい。

 

「重曹を舐める天才子役、なんだって?」

「十秒で泣ける天才子役、が正解かな。ていうか、誰から聞いたの? つーちゃん」

「よ、幼稚園のせんせー」

 

 あれ? ルビーはこう言ってたんだけど。なんか間違ってたの?

 

「変なこと教えないように釘刺しとくか……」

「せ、せんせーは悪くないよ? パパ、顔が悪くなってるよ?」

「おっと、いけないいけない……」

 

 私の前だと甘々なおじさんだけど、悪い顔するととんでもなく胡散臭くなるんだよね。

 

 あ、ちなみに鏑木さんのことは『パパ』と呼ぶようにしている。これはルビーが私を『ママ』と呼んでいたのが意外と気持ちよかったから。可愛い娘に『パパ、ママ』とか言われたら親なんてイチコロである。

 

「ピーマン体操、踊ってるの?」

「うん♪ わたし、じょうずなんだよ?」

 

 歌と一緒にリビングで披露する。簡単なダンスにリズムが一定なので覚えるのも難しくはない。アレンジのターンとか入れて最後に恭しく礼なんかもしてみた。

 

「ヤバい……うちのコ、天才だぁ……」

 

 鏑木さんが滂沱のように涙を流し始めたから驚いた。そんなに感動するほどかな?

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「うちのコが可愛すぎる」

「どうした急に」

 

 部長にそう言うと真顔で心配された。いや、知ってるだろ。写真で何枚も見せてるんだから。

 

「いや、可愛いのは知ってるけど……親の欲目ってやつじゃない?」

「そんな訳あるか。つーちゃんは世界一可愛い」

「お、おう……」

 

 失礼だと思うが、つーちゃんのことを軽んじる発言には容赦なくいきたい今日このごろ。たとえ職を辞することがあってもこの姿勢だけは貫きたい所存である。

 

「いや、まあ……確かに可愛いよ。今どき見ないくらい整ってる日本人離れした子だもんね」

「そうでしょう、そうでしょう」

 

 部長のあからさまな追従に鷹揚に頷く。こういうノリの良さはとても有り難かったりする。前の現場を辞めてこちらに来て正解だった。旧態依然としたテレビ局だと上意下達は当然であり、いちプロデューサーなどが部長クラスに口答えするなんてできないからね。

 

「そろそろ中学になる頃?」

「あと一年あります。そんなに早く成長させないで下さい」

「あ、ああ。すまんね」

 

 すくすく育った月代は今年で十一歳。片親で育てたにも関わらず、難しい所もなく育ってくれている。

 

「でもこれから大変だよ」

「何故ですか?」

「年頃になれば娘ってのは変わってくる。一緒に風呂にも入ってくれなくなるし、下着を一緒に洗ってさえくれなくなる。親としては淋しいものだよ」

 

 なんだ、そんなことか。

 

「うちのつーちゃんは、六歳の頃から一人でお風呂に入ってるし、七歳から別々に洗濯してますが」

「……お、おう……」

 

 はじめはショックだったけど、可愛くなっていく彼女と一線を引くにはちょうどいいとまで思ってしまった。

 

「だからといって邪険にされてるわけじゃないんですよ。むしろ気を遣ってくれてましてね」

 

 家事も料理も卒なくこなしている。まだ小学生だと言うのに。なんていうか健気じゃないか? こんなに出来た娘を持って、自分は幸せすぎないだろうか。

 

「まあ、とりあえず頑張って。この企画はまずまずの成功でいいわけだから」

 

 

 部長はそう言うとゆっくりと立ち去っていった。手元に残ったのは今回の企画書。大手男性モデル事務所とのタイアップが主であり、ドラマ自体は正直二の次というよくあるB級ドラマのそれである。

 

 少女漫画が原作であり、界隈では名作とも呼ばれている。かくいう僕も読んだことはあるし、なんなら月代と一緒に号泣したまである。はっきり言ってB級ドラマに落としていい題材じゃないと思っている。

 

『でもなぁ……』

 

 予算の都合を考えるとどうしても質を落とさざるを得ないところである。脚本家(ほんや)とか監督(D)とかは伝手があるのでなんとかなるけど、問題はヒロインだ。ろくでもない奴にやらせるわけにもいかない。

 

 

 

 と、そんな事を夕飯時の話題として振ってみたら愛娘から意外な言葉が告げられた。

 

「かなちゃんがいいんじゃない?」

「かなちゃん?」

「有馬かなちゃんなら出来るでしょ?」

 

 僕と一緒に映画やらドラマやらを観てる月代はなかなかに目が肥えている。

 

「んー、でも、あの子いま、フリーなんだよなぁ」

 

 天才子役として一世を風靡したけど、それも今は昔。子役から脱却しきれず、だからといって歌手として大成したわけでもない。話題性が無くなれば使いどころが難しい存在と言えた。

 何度かドラマのエキストラとかテレビ番組でもモブやらやってもらった事もあるから伝手がないとは言い切れない。

 確かにヒロインのキャラには合うとは思うけど、それならもっとフレッシュな新人を使ってもいいかもしれない。

 

 そんなふうに悩んでいると月代は満面の笑みに目を輝かせてこう言った。

 

「それで、苺プロのアクア君も起用しようよっ!」

「……えー? それ、『それが始まり』のコンビじゃん」

「いいじゃん。若かりし頃に一緒に仕事した二人が運命の出会いっ!」

 

 

 月代のお気に入りは五反田監督の『それが始まり』という映画だ。低予算でほぼインディーズと言っていい制作環境。登場する役者も本当に少ない。大学の映画研究会とかが作る自主制作映画でももう少し豪勢だろう。

 

 しかしこの映画は業界人にとっては異端であり、それ故に価値があった。

 

 故人になってしまったアイは主役を喰ってしまうほどに魅力的な存在感を醸し出し、序盤の仄暗い導入部で有馬かなは泣き演技以外も十分出来ることを示した。

 

 さらに言えば、有馬かなと一緒に出演した『アクア』という子役もそれに一役買った。幼稚園児のような容貌のあどけない少年が大人のように普通な応対をする様は、有馬かなのおどろおどろしい芝居と対極に位置し、その異質さを際立たせた。

 

『こんな芝居ができる子供がいるのか……』

 

 試写会で見たときの衝撃は今でも忘れられない。世の中に天才というのは本当にいるのだなと、自らの非才に軽く項垂れたものだった。

 

 

「……つーちゃん。またパソコン勝手に使って調べたでしょ」

「ギクッ あ、アクアのこと調べてただけだよ? ルビーは見つからなかったけど

「はあ、やれやれ」

 

 少し調べれば分かることだが、彼は苺プロの斉藤社長の息子であって、一応今でも所属しているようである。表舞台に出て来ないのは親の方針か、本人の意思かは不明だが。

 

 

「まあ、一人くらいねじ込むのは訳はない。実力が変わってなければいいけど」

「だいじょーぶだよ♪ きっと」

 

 我が家のお姫様がそう所望するなら是非もない。従うしかないのが父親(ファン)の努めだ。

 

「あのぉ~、それでなんだけど……」

「……はあ。見学したいって言うんだよね? 日程が決まってから調整するから、大丈夫な日を教えてくれる?」

「わぁい♪ やっぱり、パパ、だーいすきっ♪」

 

 我ながら、娘に甘過ぎるとは思っている。

 とほほ……

 

 

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