プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
今日は最終話のロケ地撮影。長いことサポートばかりしてきたけど、自分の出番だと思うとそれなりには緊張するものだ。
今回はシーンの関係もありスタッフ、役者含めても人数は少ない。面倒臭いPの娘が居ないのは清々する。
「意外と似合ってるわよ、その格好」
「うっせ」
有馬が俺の姿を見てそう茶化す。黒いパーカーにジーンズとかわりとどこでも居そうじゃねえ?
「いや……なんか雰囲気あるな」
「そうか? あんまり嬉しくないぞ」
あのPの娘みたいにウィッグとカラコンで黒くしてみた。これなら目立たないはず。
「うん……普段のアクアとは違うもんな。やっぱ少しチャラいくらいがイイんじゃね?」
メルトがそう言ってくる。とはいえこれは監督や演出なんかと協議した結果だ。
『アクア君は顔が良過ぎる。原作のイメージとも違ってしまう』
そう言われればやむなしである。役者は期待に応えるべし。
「にしても、雨降りそうだよな? 俺、髪くせっ毛なんだけど」
「メイクさんになんとかして貰いなさい」
気温や湿度でもメイクや衣装に影響が出る。ただ、スケジュールも押してるのでこの程度ならやるべきだろう。
「あ、降ってきたな」
古い工場跡地であるここは、天井などもトタンで薄いところが多い。雨音がよく響いてくる。
「リハの間に止めばいいけど」
ゲネプロ(通し稽古、基本止めないで最後まで行う)無しというのはこういう現場では意外とあるそうだ。まあ、ドラマだし編集点があればなんとでもなるのだろう。
「今日は頼むよ、アクア君」
鏑木Pが話しかけてきた。先日の件もあるし、娘もいないせいかごくごく普通の話し方だ。
「ご期待に添えられるよう励みます」
「うん。初めはどうなるかと思ったけど、この撮影もここが山場だ。しっかり頼むね」
「はい」
基本的に、娘さえ絡まなければ一般的な業界人。その辺りに少しシンパシーを感じるけど、同時に同族嫌悪とも言える感情も沸き立ってくる。
「あ、そうそう。社長の方にも伝えてあるけど、打ち上げには妹さんも連れてきてね」
「それは、命令ですか?」
「お願いだよ。娘も会いたいと言ってるし」
「……分かりました」
打ち上げに、あの娘も来るのか。俺は少しだけ憂鬱になった。鏑木Pが離れたところに、有馬が戻ってくる。
「打ち上げ、あの妹も来るんだ」
「出てないのに……おかしくないか?」
「月代ちゃんが頼んだんでしょ? 鏑木さんがあそこまで娘に甘いとは知らなかったなぁ〜」
そう。
たぶんアイツの差し金だ。
何故か俺やルビーに拘ってるあの少女。やけに気になる存在だ。こちらをかき回すような……
「可愛いからって、手ぇ出しちゃダメだからね?」
少し上目遣いにそう言う有馬。わりとあざとい行動してるのに、本人は気付いてないのか?
「子どもだぞ。そんなわけあるか」
「だ、だよね~」
顔を背けて離れる。内面の構築に役者は距離を取ることが多いので、有馬もそれを知ってか近づいては来ない。
『そんなわけはない……』
何度も反芻される言葉に、俺は苛立つ。
撮影は若干予定とは異なったが終了。雨が溜まったせいか水音が響いてしまい、それを避けるために照明に被ってしまった。それでも止められずに続行。有馬の機転やメルトの立ち回りにも助けられた。
「結果的には、いい画になったと思うよ」
「すみません」
「いいっていいって。演出としてはこれの方がよく出来てると思うし。あとは編集でイケるよ」
考え事をしていたせいでの失敗。役者失格だ。やはり俺は向いてないんだ。
「……アクア、すまない」
「いいって。掠ったくらいだし」
アクションでのミスもあった。もっともこれは感情の乗ったメルトのおかげでもある。腫れが残る程でもないし、口の中だって切れてはいない。
「……」
「有馬」
「え、な、なに?」
「監督が次のシーン、いいかって聞いてるけど?」
「あ、うん。だ、大丈夫でーす、今行きまーす」
……有馬には考えさせられる所があったらしい。やはり、俺は役者には向いてない。
別撮りの有馬のシーンは、良かったと思う。切り替えの速さは、さすがと思った。
・・・・・・
今日あま最終話の反響は、それなりに高いものとなった。総合的には標準という評価だったが、最終話に関しては高評価が僅かに勝っていたらしい。
『有馬かな、やっぱ持ってるな』
『かなちゃん、可愛い♡』
『メルト、やりゃあ出来るじゃん』
『ストーカー役もキモいけど、顔よくて複雑……』
などなど。多くのコメントが寄せられた。結果的には大成功とも言える成果だったようだ。
「やあやあ。苺プロの皆さんもお揃いで」
「月代ちゃん♪」
ルビーがいち早く反応する。鏑木Pにではなくて、その横の娘に対して、だが。
「ルビーちゃん♪ おひさ~」
「ロインではずっと話してるけどね」
なんか、聞き捨てられない言葉が聞こえたが? それはそれとして鏑木Pがミヤコさんに挨拶している。
「お美しいですね」
「お恥ずかしい限りです。こんなの久しぶりに着たのですよ?」
「いえいえ。もう少し若ければその気になってしまうかもしれませんな」
目立たないように装おってはいるけど、見た目だけではまだ三十代でも通用するミヤコである。鏑木Pが鼻の下を伸ばすのも道理だ。
「あー、パパぁ?」
「も、もちろん。妻が一番ですがね」
「あら、残念♪」
娘に睨まれて早々に折れるのだから、そんな気は毛頭ないのだろう。
ちなみに、ルビーは精一杯のよそ行きでお洒落しているが、俺はジャージである。いや、空気を読んでのことだよ?
「アクアも久しぶり♪ 元気だった? 魔除け、ちゃんと付けてる?」
「ああ。ほら」
ルビーがうるさいので仕方なく机から引っ張り出して付けてきた。こういうのはあんまり好きじゃないんだけど。
すると、月代が俺の腕を握って呟いた。
「こんなので、守れるとは思わないけど……」
じゃあ、渡すなよ。
そう言いたかったけど、やめておいた。空気は読めるからね。
会場には有馬やメルト以下のソニックステージの面々もいた。貸し切りの会場での雰囲気に飲まれて、楽しげである。
目下一番の厄介者、月代に関してはルビーとミヤコが相手をしてくれている。隙あらばと、カウンターでグラスを傾ける鏑木Pに俺は話しかけた。
「今回はありがとう御座いました。いい経験が積めたと思ってます」
「ああ、君か」
「隣、いいですか」
「かまわんよ」
オレンジジュースを頼み、それを待っていると彼が話しかけてきた。
「この業界、たまにこういう事があるんだ。君みたいな才能のある子と出会う事がね」
「恐縮です」
「大人びてるね。あの一家の男手なんだから仕方ないか……ところで、壱護さんはどうしたんだい?」
「……消息不明です」
そう答えると、彼はグラスを置いた。たぶんバーボンかと思ったけどどうも違うらしい。あれ? 麦茶か?
「ひょっとして、アイ君の事件の頃からかい?」
「……そうです」
「そうか……やはり」
相手は業界人。生前アイと交流のあった人間だ。このくらいは知っててもおかしくないと思っていたが……本当に関わりは無いのか?
それから彼は、アイとの
「ミヤコ社長にも睨まれたよ。まあ、僕には妻が居たし」
「居た?」
「月代を産んだ時にね」
その時、脳裏に思い浮かんだのは分娩時大量出血。まさかと思いつつ聞いてみたが、そうでは無かったらしい。
「階段から落ちたんだよ。それで破水して、月代だけは助かったけど……」
どうやら違ったらしい。とは言うもののイメージとしては似たようなもの。居心地の悪さを感じた俺は、彼に気休めのような言葉をかける。
「すみません、配慮が足らずに」
その言葉を手で遮る鏑木P。
「気にしないでくれ。もう整理のついた話だしね」
その左手には指輪が光っている。整理が付いたのなら、故人のものなど付けるわけないのに。それでも、彼の気持ちを汲んでおく。悼み方は人それぞれだ。
彼は呟くように話す。俺に聞かせる為じゃない気がする。
「以来、月代は僕が育ててきた。男手一つで育てたわりには、出来た子だと思う」
「それは、そうですね」
大抵の場合、片親だと情操教育などに問題が見られたりする。その点、彼女はごく一般的な家庭の子に見える。やや愛着衝動が強い気もするけど、それは彼に対する信頼とも言える。
「ただ、君らに執着するのだけはどうにもな」
「何でなのですか?」
これは俺も知りたい。ほぼ見ず知らずの人間に、これだけ執着するのは異常だ。
「君と有馬くんの出ていた映画が、あの子のお気に入りでね」
「……」
本当に? 言っては悪いが『それが始まり』の序盤に一分程度しか出ていないのに?
「あとは、サイリウムベイビーズだな。覚えはないだろうけど」
「……」
……若い頃の過ちを
「君に思う所がある訳じゃないんだけど、父親というのはどうにも過保護でいかんな」
「それは分かりますよ。家族なんだから気にして当然です」
「こないだは本当に済まなかった。ルビーちゃん、押しが強くて。断り切れなかったんだ」
「……お互い様ですね」
「全くだよ。お姫様にはかなわない」
届けられたオレンジジュースと麦茶で乾杯する。あの検査でも鏑木Pは父親ではないと判定されたので、俺は第二段階に話を進める。
「アイ君のこと? 故人のゴシップでも聞きたいの?」
「ファンなので。いけませんか?」
「……いや。おじさんの昔話でよければでいいけど、それじゃあちょっとおもしろくないかな?」
そう言って、彼はスマホを見せてくる。そこに映るのは、ある番組のPV。
「恋愛リアリティーショー。出てみる気はない?」
そうは聞いてくるが、否と答えればこの話は終わり。俺に答える返事は一つしかなかった。
「ええ。構いませんよ」
ちなみにルビーは陽東(芸能科)に合格してます。色々ごねて苺プロは新規アイドル事業を始める……というくだりをやりたかったけど、蛇足っぽいのであとがきに。第一巻の最後のくだりもやりたかったけど、コレも原作と同じなのでいいかな、と。