プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今回は月代もアクアも、出てきません。外から見た感じですかね。


幕間、その一

「スゴいよかったですよ、先生」

 

 満面の笑みの後輩に、私は口元が緩む。いつも難しい顔をして原稿に取り組む姿をよく知ってるから、とりわけ珍しく感じるのかもしれない。

 

 久しぶりに招待した後輩との自宅での食事会。向こうも滅多なことでは暇にならないのに、わざわざ来てくれたのはとても嬉しい。

 

「はじめはどうなるかと思ったけど、ね」

「メディアミックスって、やっぱり難しいですよね。私も、アニメの時は本当に厳しかったし」

 

 原作者としての監修、手直しや、新規シナリオ、場合によっては構成なんかまでやらされる時もある。世間では『あの漫画のアニメやるんだ』くらいの感覚でも、そこには相当な量の手間がかかるのだ。

 

「私としては、もっと余裕を持って出来たらと思ったんだけど」

「長編を六話で纏めるなんて、暴挙ですよ(プンプン)」

 

 それも、時代なのかもしれない。私の師匠の頃は、一年かけてじっくりとアニメ化されたものもあった。冗長と言えなくもないけど、本来物語はそうしたものだった筈だ。

 

「『東京ブレイド』も既に四千万部突破らしいじゃない。おめでとう」

「わ、私なんかより、先生のドラマの成功のほうがスゴいですよ」

「そう、ありがとう」

 

 かわいい事を言ってくれる。だからこの子は憎めない。

 

「こ、後学のために聞きたいんですけど……どうやったらうまくいくんですか?」

 

 少し俯き加減に聞いてくる後輩に、私は素直に答える。

 

「ちゃんと話し合うこと、かな」

「……た、たったそれだけ?」

 

 拍子抜けしたみたい。でも。突き詰めればそんなところである。

 

「メディアミックスする側にも意図してる事があって、それは原作側(こっち)とは必ずしも同じじゃないの。向こうの都合ってやつよね」

「そんなの……ウチらにはカンケー無いじゃないですか」

「そこで歩み寄らないと、どうなると思う?」

 

 少し考える後輩。そして当たり前の返答。

 

「どうしようもないモノが出来上がる……理屈はわかりますけど」

 

 不満なのは分かるよ。私もそうだったし。だけど、わかった事もある。

 

「それを作ってる側にも、こちらに近い人達がいる。向こうも一枚岩じゃないのよ」

「……はあ」

「企画してる人達はその目線で物事を動かすし、作る側はそこから依頼を受けて作るわけだからほぼ言いなり。でも、不満が無い訳じゃなかった」

 

 あのひとが言い出さなければ、私だってそのまま流されて……碌でもないモノに成り下がっていた筈だ。

 

「偶然、役者陣からの協力者が居たから助かったようなものだけど……でも、いいものを届けたいって想いをぶつける事は大事だったと思うの」

 

 大切なことだ。

 ものを作る現場の人間が諦めたら、いいものにはならない。

 

 これは後輩にも常々訴えてきた事でもあった。自分がそれを行えてなかったというのは、正直面目ないとは思うけど。

 

 けど、結果的には成功だったのだ。良しとしておこう。

 

 そう自分を納得させておくと、後輩はこちらをジトッとした目で見ていた。

 

「ど、どうしたの?」

「せんせい……あの写真は?」

「え……あっ!」

 

 作業机の横に置いてあるスタンド。そこには打ち上げ会での写真が入っている。左面に全体での写真と、右側にはジャージ姿の彼の立ち姿。

 

「……へー、そういうことだったんスね」

「あ、あの。これは、ね」

「リアル男子に目がいくなんて、先生も変わっちまったデスね〜。はー、うらやま♪」

「き、記念だからね。深い意味は無いんだからぁっ!」

「はーい、はい」

 

 ……もう、そんな歳でもないけど。

 推し活ぐらいはやってもいいかもしれない。

 

 そう思えたのが、一番の収穫だった……かな?

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 とある番組で知り合ったプロデューサーに一人面白い人がいる。自分の娘をこよなく愛するシングルファーザーでありつつも、その影響力は徐々に広がっている。

 

「て理由で、鷲見ちゃんにお声かけた訳なんだけど……どうだい? 社長はオッケーだとは言ったけど、本人的には問題ない?」

 

 ファッションモデルを中心に活動してるうちの事務所には売れっ子の看板がいて、大きな仕事は殆ど彼女に取られちゃってる。だから、これはチャンスだと思った。

 

「いいですよー。これから先も仕事回してくれるなら」

「それは君の仕事次第だけど。まあ、期待してるよ」

 

 ちょっとおじさんだけど、業界の人に多い煙臭さやお酒の匂いがあまりしない……むしろ、小洒落た感じのこの人はとてもいい印象だ。

 

「聞きましたよ、鏑木さん。今度独立するらしいじゃないですかー」

「耳が早いね。娘も手が掛からなくなってきたし、入り用も増えるからね」

 

 そう言って彼はスマホを見せる。この間とは違うポーズの、月代ちゃんの写真。相変わらず、天使みたいに可愛い。

 

「いっそのこと、月代ちゃんをプロデュースしちゃえばいいのに。人気出ますよ、月代ちゃんなら」

「君の所の社長さんからも、熱心に誘われてるよ」

 

 そう言って彼は薄く笑う。

 

「最近、業界の友達が出来て喜んでるよ」

「ええ? 私も立候補してたじゃないですか〜」

「そうだったね。忘れてた訳じゃないんだけど、最近忙しかったから」

 

 最近というと今日あまの事だろう。私もあれは見てたけど、想像以上の出来で驚いた。噂では男性モデル事務所のテコ入れが酷くて、制作サイドのテンションは下がりまくっていたという話だけど。

 

「今日あま、素晴らしかったです」

 

 素直にそう言うと、彼は少しだけ顔を曇らせた。

 

 

 

 

 それからあと。

 

 業界の端々から聞こえてきた情報をまとめてみると、鏑木Pの歯切れの悪い態度にも合点がいった。

 

 前評判のとおりに撮影に入るところで、原作側から異議が入った。そこをうまく調整したのが二人の役者だったという。一人は主役の有馬かな。もう一人はスタッフロールに『演技補佐』の名で登録されていたアクアという男の子だったという。

 

 演技補佐なんていうから裏方かと思ったけど、よく見ると最終話だけはストーカー役を兼任してるらしい……なるほど。

 キモい演技に誤魔化されてるけど、立ち回りとか素人じゃないのが一目でわかる。ちゃんと芝居の出来る人なんだ。

 

 で、彼らが他の演者たちの演技指導を行ったおかげで、全体のレベルが向上したというのが真相らしいのだ。これじゃ、鏑木さんが言いたがらないのも無理はない。

 

 けど、鏑木さんを本当の意味で口説き落としたのは娘の月代ちゃんだという話もある。その時居合わせた月代ちゃんも、やはりそのまま撮影に入るのはダメだと云ったそう、なのだ。

 

 娘には頭があがらない。それは世間的にはよく思われないかもしれないけど、こちらから見れば微笑ましい一面である。

 

 それに、年下、格下の人間からの意見をちゃんと聞けるというのは美点と言える。ただの世渡りのうまい業界人というわけではないのかもしれない。

 

 それはそれとして。

 私はタブレットの電源を入れる。今回渡された資料を見る為だ。

 

 出演予定の一覧にある一人の男性の画像をタップする。

 

『アクア……今ガチに出演予定が入ってる……俳優』

 

 見た目は物凄いストライクだ。

 十人が十人、イケメンと言うに違いない容姿。

 

 はっきり言えば、今回のメンツで一番カッコいい。

 

『鏑木さんのテコ入れなのは間違いない……』

 

 苺プロ……聞かない名前だと思ったけど、芸歴は長いみたい。主演は一度も無し……ホントに? こんな顔立ちならどこでもいけそうなのに?

 

 苺プロはインターネット配信業を中心としてるみたいだけど、そちらでの活動もして無さそう……なんだろう。すごく興味が湧いてきた。

 

『鏑木さんが何を仕掛けようとしてるかは知らないけど……乗ったほうが面白そうかも』

 

 とりあえず、この子を中心に攻めていってみようかな。ビッグウェーブになるかもしれないからね♪

 

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