プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
『アクアです。いちおう、役者やってます。みんな、よろしく』
『おおー、クールぅ』
『きゃー♪』
パソコンのモニターに映るアイツは、爽やかに挨拶をしている。当社比五割増しみたいな感じ。少なくとも私はこんな顔で挨拶されたことは一度もない。
「「いや、誰?」」
隣で見てるアホの子と丸被り。しかも私よりも冷ややかな声だ。
「キャラ作り過ぎじゃない?」
「ま、まあー似合ってはいるけど……」
「お、先輩はこんなお兄ちゃんがお好みなの?」
「そういうんじゃなくて。なんていうか軽すぎず、重すぎず……いい感じには思うけど」
「でも、お兄ちゃん陰の者だよ?」
「妹が辛辣すぎる……」
これが身内の距離かと慄きつつ、続きを見る。私が気になる相手は、当然、黒川あかねである。
黒川あかね。
私と時期が被るように子役デビューした……と思われる、劇団出の役者である。テレビやネットにはあまり出てないけど、
曰く、『天才役者』。かつての私を彷彿とさせる二つ名に、勝手ながら敵愾心を抱いている。
しかし、今はそこまでの存在感を見せてはいない。少し戸惑う感じが見て取れるのは、演技か、素なのか。いずれにしても他の二人の女に比べて、この段階では見劣りしている。
「先輩はどの子が気になる?」
「えー……」
アクアって言ったらからかわれそうだし。でもバンドマンもダンサーもあんまりいいイメージは無かったりする。理由としては、何回かお仕事一緒になった人達が、わりと節操のない奴らだったから。今でも少しムカついてしまう。
なので返答としては女の子から選ぶ……黒川あかねは外すとして残りは二人。雑誌でよく見る鷲見ゆきよりこっちの……
「MEMちょ、かな?」
「お目が高いっ!」
「わ、びっくりしたぁ」
いきなり大声出さないでよ。
「私、お気に入りなんだー。ティックトックの頃からのフォロワーなんだよ」
「へえ……」
たしかショートムービーに特化してる配信サービスだっけ? つまり
そのスジではかなり有名、らしい。経歴によると高校三年生だから、数年でそこまで伸ばしたのだとしたらなかなかの手腕だと思う。
「三年生……にしては幼く見えるわね」
「元々童顔だーって言ってたよ? 今でも子供料金で乗れるっていうのは、流石にウソだったみたいだけど」
ふうん……顔立ちが幼いというのは、それだけ軽く見られがちということ。かなり苦労してるのかも。
『アクたんはぁ、犬好きぃ?』
『嫌いじゃないよ』
『そお? これなんだけど』
『ふむ……かわいいね』
『でしょ〜♪』
「「……」」
あれ? ルビーの手が震えてる?
「あの、ルビー……さん?」
「あのスケコマシ野郎ぉっ!」
「わ、びっくりしたぁっ!」
「女に囲まれていい気になって……説教コースだな」
いや、お気に入りに粉かけてる事怒ってんじゃないの? コイツも大概ブラコンだなぁ。
なんて思ってたら、急に俯いてぼそりと呟く。
「なんでこんな仕事受けたの……お兄ちゃん」
それは、私も同じ気持ちである。
なんでこんなの受けたのよ? 鏑木さんも、なんでこんな仕事振ったのよ……マジ分かんない。
陰鬱な空気を醸し出す苺プロの事務所で、私たちはそのままメディア用PVを見続けた。
・・・・・・
若者特有の共感し合うだけの会話って、本当にキツい。こう、なんだろ。うわべを取り繕ってるだけかと思いつつ、高度に心理読みを要求されてる感じ。ゲームとかのほうがまだマシな気がする。
「さてと。カメラさん離れたみたいだから、ちょっと向こう行くね」
「あ、ああ」
さらりと言って席を立つMEMちょ。カメラ回ってないなら構わないか。聞いてみたい事があった。
「あのさ」
「なぁに?」
振り向く彼女は、カメラが回ってる時より大人しく……というか大人びて見えた。切り替えが早い。やはり只者ではないか。
「MEMちょの『ちょ』ってどういう意味?」
「え? 意味なんて無いよ? 可愛いでしょ」
「……ああ」
訂正。やっぱ、この世代の娘の考えてることなんて、分からないわ。
舞台は学校の放課後、という設定。実際、撮影は放課後なんかじゃなくて土日を使って何回か分をまとめて撮っている。むろん、ロケ地も学校じゃなくて郊外の研修施設の一部を借りて行っている。本物の学校を使えば見学者も多くなるし、混乱も起きやすくなる。円滑に撮影を行うならこの方法が、正しい。
そのDから受けた説明を掻い摘むと、『台本』は存在しない。しかしながら撮影側には意図がある。番組を面白く、よりよく見せるための画を撮るという意図。いわゆる演出だ。
つまり彼等の望むものを汲み取り、それを為す必要がある。それが番組への貢献となるわけだ。
「ホントに台本ないんだ〜……わたし、どんな話していいか分かんないー」
軽く愚痴るような事を言ってるのは鷲見ゆき。ルビーの読んでるファッション誌で見たことがある。表紙というわけではないけど、センターカラーで何ページか使ってもらえる感じだ。
「それ、分かるよ」
「えー、だって君、役者さんでしょ? アドリブとか得意なんじゃないの?」
適当な相槌に振り向いて応対する鷲見。けど、役者という職種にアドリブ強くなる特典て普通につくんだっけ?
「それは人それぞれだよ。役者でも台本無いとテンパる人、多いぞ」
近いところで言えば黒川とか。軽くテンパってるのがよく分かる。
「そうなの? だって君、あんまり動揺してないみたいだし」
「……そう見せてるだけだよ」
「クールキャラってこと?」
「そう受け取ってもらって構わない」
「わお、クールぅ♪」
少し自然な感じになったな。ややわざとらしいところもあるけど、このくらいの歳の子はこういう事をよくする。
「君はどうしてこの番組に?」
「俺? そうだな……」
「やっぱり、恋愛したかったの?」
この年頃のやつはなんでこう恋愛に直結するのだろうか、理解に苦しむ。とはいえ、答えないと。
「興味無くはないけど、今は仕事として、かな」
「思ったより、マジメ君なんだね」
「そういうそっちは?」
そう答えると、向こうも軽く笑った。
「私も、実はお仕事。なんかうまくいかなくて、足掻きたくて。鏑木さんからのお声掛かりに藁にでも縋る思いで」
微笑みながら、そぐわない内容を話す鷲見。悩みなど無さそうなイメージだったが、彼女のような成功者でもそうなのか。
「でも、それだけじゃないよ。今まで恋愛なんてしたことなかったから……渡りに船、とでもいうのかな? ちょうどいいかなって」
「そうなんだ。ちょっと意外だ」
「えー? わたし、遊んでるように見える?」
そういう意味ではなく。
「鷲見は綺麗だから、恋愛とかもしてるかとおもって」
本心から思った事を伝えたら。
「も、もう……うまいんだから」
なんか、照れてるみたいだった。
「ホント、手慣れてる感じ。アクア君、やっぱ恋愛強者でしょ?」
「ソンナコトナイヨ?」
「あー、わざとらし〜♪」
ぽこぽこと肩を叩いてじゃれてくる。
と、顔を寄せてきた。
「わたし、君となら恋愛出来るかも」
「……」
計算ずくな微笑みに変わる。
「いま、カメラ回ってる。目線送っちゃダメだよ」
「……!」
カメラの位置までちゃんと把握していた。
この女、只者じゃない。
「ホント、キミとならうまく出来るかも♡ よろしくね、アクア」
「……ああ」
離れていく鷲見を見送り、空を見上げる。眩しいので手を翳してみる。画的には映えるだろうか。そんな事をぼんやりと考えながら、今後のプランを構築する。
『やりやすいのは鷲見……』
『MEMちょは今のところ様子見』
『黒川はテンパり気味……』
男の方はとりあえず考えない。友情演出はどうとでもなる。とりあえずは黒川へアプローチをしてみるか。同じカテゴリに属してるんだし、話は合うかもしれない。
「黒川さんて、舞台がメインなんだっけ?」
これは事前情報から得たものだ。たしか劇団出身だけど芸能人プロダクション所属でもある。劇団側がマネジメントをしてないと、こういうケースもあるのだとか。
「は、はい」
「劇団の名前は?」
「げ、劇団ララライと言います」
「……最近はどんな芝居を?」
「前回の公演は、大江山酒吞童子で、酒吞童子をやらせていただきました」
……なに、この質疑応答。
想像以上に固すぎて逆に面白いけど、たぶん今ガチ的にはダメだろう。
仕方ない。
悪いとは思うけど、少しだけ顔を寄せて黒川の瞳を見る。
「ひゃ……」
「しっ」
人差し指を彼女の唇の前に出す。当然、触ってはいない。
「確かに童子役にはハマりそうだね。とてもキュートだよ」
「え、え、ええ〜?」
アワアワとする黒川。いや、本当に役者なのか? なんでこんな初心なわけ? 仕方ないので説明しとこう。
「カメラ回ってるから、演技だから」
「え、あっ」
「キョロキョロするな」
顎を押さえて首を回さないようにする。
「あ、あう……きゅう……」
「あ、おい。黒川?」
「か、カットォ! 黒川さん大丈夫?」
目を回した黒川にスタッフが集まって、収録がストップ。俺はDに怒られた。
「段階すっ飛ばし過ぎ。第一回目からキスとか幾らなんでも攻め過ぎだ」
「いや、そんなつもりはなかったん……ですが」
なるほど。周りから見ると、そう見えたか。
これは……見られたら説教コースかなぁ(げんなり)
月代:あー、アクア手が早ーい♪
鏑木P:(月代になんてモノ見せとんじゃあのゴミムシ……)
黒川さん気絶は面白かったので放映された模様(笑)