プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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月代のターンッ!


小学生だって悩みます

「それじゃね、ルビーちゃん」

『おやすみ、月代(つきよ)ちゃん』

 

 通話の終了っと。あんまり遅くまで起きてるとパパが心配するから、十時前後が切り時。もう宿題もやってあるし、明日の準備も出来てる。歯を磨くために階下に降りると、リビングにはまだ明かりがついている。パパはまだお仕事中らしい。

 

『アクア、やっぱり似てきたなぁ』

 

 歯ブラシでこしこしと擦りながら、そんな事を考える。

 

 

 

 ──アナタは、もう整理がついてるかな。

 

 それは思考の裏側。アクアとアナタは鏡合わせみたいなものかもしれない。そうではないと信じたい。今のあの子には支えてくれる人がいる。

 

 ミヤコさん、ルビー……でも、男の人がいない。壱護さんはどこに行ったのだろう。家族を放っておけるほど、心が強いとは思えないんだけど。

 

 そうか、カントクがいる。なんだっけ……五反田監督か。今のアクアにとってはあの人のほうが父親に向いてるかもしれない。何せ、わたしの……

 

「わあっ?」

 

 大事なことを思い出して、口から泡を撒き散らした。あー、拭かなきゃ……

 

「どうした、月代っ! 侵入者かっ」

「な、なんでもない。ちょっと驚いて、歯ブラシ落としちゃったの」

 

 急いで駆けつけるパパにそう答える。歯ブラシを片して、タオルで床を吹くと、口の中にまだ泡が残ってるのを思い出す。少しミントの香りがキツい。

 

「たぶん、虫かも」

「今度、殺虫剤するか」

「ゴキちゃんとかじゃないから」

 

 ガラガラと口を濯いでからそう答える。パパは私のことになると少々過激になる。家の中じゅう煙臭くなるのは勘弁です。

 

「ゴメンね」

「いや、いいんだ」

 

 そう言って頭を撫でてくれるパパ。この感触にも、もう慣れたなぁ。

 

「おやすみ、パパ」

「おやすみ、月代。良い夢をみなさい」

 

 階段で分かれるとパパはリビングに戻る。明日も早いのに、ご苦労さまです。

 

 部屋に戻って、ベッドにぽふん。まだ身体が小さい私には大き過ぎるけど、その分広々と使えるのは嬉しい。

 

『そうだ……』

 

 五反田監督に渡してあるDVD。あの子たちに渡してくれと頼んであったけど……ちゃんと渡してくれたのかな?

 

 アイだった頃に、私の本心をさらけ出した数少ない人のうちの一人。よく考えると社長(壱護)じゃなくて監督に渡したのはなんでだろう? 教えて、あの頃のわたしっ!

 

 と言っても、思い出せないのだから仕方ない。ついさっきまで忘れてたんだし、ま、しょーがないか。

 

 

『わたしの、心残り』

 

 

 それは、はっきり言えば惚気みたいなもの。恥ずかしいから言えなかっただけでもあるし、彼らはそんなこと言われてもと怒るかもしれない。

 

 でも、あの頃のわたしの、偽らざる本心でもあった。

 

 だからといって、今の月代(わたし)としては些か異なる事情になっている。

 

 

 

 正直言うと、今の私はアナタを愛してはいない。恋い焦がれる感情もなければ、愛する理由もない。たぶん、直接会ってもそんなことにはならない自信がある。

 

『だって、めんどくさい』

 

 回りくどくて、重い思いなんて邪魔だ。今の私は分かりやすく、とても大事な思いに包まれている。

 いずれ恋に落ちるかもしれないけど、ああいう陰にこもった感じの人はノーサンキュー。

 もっとストレートに、愛してくれる人のほうがいいな。たぶん、それは甘い考えだと分かってもいるけど。

 

『あの子たちには、伝わってるかな?』

 

 あの頃の私の行動は、はっきり言って逃げだった。

 

 彼の重さに自分も潰されるかもしれない。彼との繋がりである子どもも一緒に潰れてしまうかもしれない。それは、自分の成した愛の証しを消されるようで辛いこと。

 

 だから、彼から逃れるために付いた嘘。今なら分かる。詭弁というものだ。

 

『依存し合うだけの関係なんて、意味は無いよ』

 

 そう言ったのは、たぶん本心。

 でも、それに保身があったのも事実。

 

 私たちの事情に子どもたちを巻き込むのも筋が違う話だ。わたしは子どもたちを守らなければならない立場だった。

 

 今の私には、関係の無い話だ。でも、当時のわたしには一番大事なこと。だから、アナタと距離を置かなきゃいけなかった。

 

 さっきも言ったけど、今の私には関係の無い話だ。アナタとよりを戻す(違うか。新しい恋に生きるが正解?)なんて有り得ない。

 

 だから、彼に会いたいとは思わない。

 

 月代(わたし)は私。

 だから、恋をするなら違うひとを選びたい。

 

 もっと分かりやすい人がいいな。

 

「パパみたいに、ね」

 

 さすがにそれは無いけど。

 

 

 考えが逸れちゃった。

 なに考えてたんだっけ?

 

 

 ……あ、そうだ。

 DVDだ。

 

 愛情云々はともかく、ちゃんと伝わってるかどうかは確認したいなぁ。でも、どうやったら確認なんて出来るの? 直接聞くのがはやいけど、私がそれを知ってるのっておかしいと思うし。

 

 それとなく聞いてみる?

 でも、二人にとっては触れられたくない話だと思う……あ、そうか。

 私は彼等の生い立ちは知らない、と思われてる筈。なら、今のご両親のことどう思うって聞いても不思議はない、かも。

 

 今度、ルビーちゃんに聞いてみよう。DVDを見てるなら、なんとなく分かるでしょ(浅慮)

 

 その次の日。ロインを立ち上げメッセージを送る。するとルビーちゃんからの着信だ。

 

 

『うぃーす、……』

「うぃーす、ってなんか元気ない? ルビーちゃん」

『いや、ねぇ……』

 

 しばしの間、ルビーの愚痴が続く。アイドル活動にかなちゃん引き込んだはいいけど、まだ進展が無いのが辛いらしい。部外者だからなんとも言えないけど、せめて元気づけたいなぁ。

 

「ミヤコさんにお願いしてるんでしょ?」

『それがねー、手を回してるとは言うけどなんか都合がつかなくてって。手はあるらしいけど』

「なら、信じて待ってたほうが良いよ。ミヤコさんなら無碍なことはしないから」

『そうだと思いたいよー』

「おー、よしよし♪」

『ばぶー♪』

「わあ、ルビー赤ちゃん♪」

『バブバブー♪』

 

 悪ノリの会話。ちょっと恥ずかしいかも。とはいえ、彼女の気分も晴れたみたい。

 

『ありがとね、月代ちゃん。私より子供なのに包容力あるなぁ』

「そりゃあ、毎日パパのお世話してるからね」

『実質、ママじゃん。鏑木さんうらやまー』

「えへへ♪ 自慢のパパだよ」

『うへぇ、ノロケまで来た。なんてね』

「あはは♪」

 

 とりとめのない会話。学校の友達との会話と大差はない。それはそれで私は嬉しい。娘とこんな会話するのも、夢だったからね。

 

 いい雰囲気だから、ちょっと聞いてみることにした。

 

「ルビーちゃんはご両親と仲いい?」

『!……』

 

 すると、何故か沈黙した。

 

「あの……」

『仲は、良くない、かな。うち、ママ居ないし、父親は誰かもわかんないし』

 

 ……これは。

 

『前も言ったけど、ミヤコさんはママじゃなくて。私を産んだ人は、もう亡くなってるんだ』

 

 いきなり暗くなるルビーに、思わず大丈夫だよと声をかけたくなる。

 

「じゃあ、お父さんは……」

『顔も知らない。産んだときにも来なかったし、一度も会ったこと無い』

 

 その語気に怒りを感じる。私は地雷を踏み抜いたと理解した。

 

『ゴメンね、今日はちょっと宿題多くて』

「あ、はい。こちらこそすみません」

『月代ちゃんのせいじゃないし。じゃね』

 

 こちらを気遣う言葉とともに、通話が途切れる。はぁ~、と長いため息を吐く私。

 

「やっちゃったなぁ……」

 

 あの感じだと、見ていないか、伝わっていないか。

 

 それはそうだね。

 

 前世(かつて)の所業が、あれだけで精算されるはずも無い。今の私には関係が無い話ではある。見て見ぬふりも出来ないけど……何かできる事があるかというと、何も思いつかない。

 

 監督を問い詰める? 無関係の月代(わたし)がアイの渡した物を何故知ってるのか聞かれるからダメだ。私がアイだと教えるのは、たぶんやっちゃいけないこと。

 

 そう。私はこの秘密を明かすつもりはない。パパにすらも明かせないし、アクアやルビーにはもってのほか。

 

 私はもう、アイじゃない。あの子たちの母として何も出来ないし、してはいけない。

 

 恋しいし、悲しいけど、そこを違えてはならない。私の出来ることは月代として、小学生女子の子どものできる範囲に限られている。

 

『出来ることなんて、無いよね』

 

 枕に(うず)まり、思いふける。結果として、ルビーの心を乱しただけ。私の独り善がりは、いつも誰かを悩ませていた。今にして思えば、それも理解できる。

 

 あの頃はそんな余裕無かったし、考える能力も不足していた。ろくに学んでない子どもだったのだ。仕方ないのかもしれない。

 

 そしてそれは、今でも変わらない。DVDのことなんて、思い出さなきゃよかったのかも。

 

 今のあの子達に、アイ(わたし)が愛していた事を伝えても意味は無い。無くても、ちゃんと育っていたのだから。

 

 ならば。

 

 もう二人には関わらないほうが良い?

 

 自問自答に、私は答える。

 

『それは、嫌だ』

 

 母として、ではない。

 月代として。

 

 夢を語るルビーの気持ちを応援したいし、ひねくれても可愛いアクアも応援したい。それは偽らざる本当の気持ち。

 

『ルビーにはB小町の進捗を聞いて

……パパに現場(今ガチ)の見学をお願いしよう』

 

 何が出来るかは分からないけど、今は二人を支えたい。

 

『でも……アクアはまた、邪険にするだろうな』

 

 少し嫌がる顔を思い出し、くすりと笑う。そうして考えてみると……やはり愛おしく思っているのだと、分かってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、ぴえヨンさんとコラボ?」

『そう。ちゃんと宣伝もできるし、グループ名も決まったの』

「な、なんて名前?」

『それはー……』

 

 ルビーから、B小町が再始動すると聞かされた……え? そういうのアリなの?

 

 急いでパパに知らせると、既に知っていたようだった。

 

「襲名するらしいよ。メンバーは今のところ2名だけど、もうちょっと増やすつもりらしい」

「パパ、知ってたなら教えてよう」

「月代は信じてるけど、この業界も狭いからね」

 

 むぅ〜と頬を膨らませるとパパはつんつんと突付いてくる。

 

「今度の日曜日、無理を言って頼み込んだよ」

「!、パパありがとー♪」

 

 その言葉に、私は嬉しくなる。飛びついて首に手を回し、お礼を言う。

 

「……やれやれ」

 

 パパが、頭を掻いて照れている。

 私の無理を、なんだかんだと言って叶えてくれるパパ。それが、私にはたまらなく嬉しい。

 

「パパ、あいしてるー♪」

「僕もだよ、月代ぉ」

「わーい♪」

 

 来週には会えるね、アクア。今ガチの現場の君は、どんな感じなのかな? 楽しみ〜♪




月代:何着ていこうかなー♪
鏑木P:そ、そんなにおめかししなくてもいいんだよ?
月代:パパの娘なのに、テキトーになんてできない!
鏑木P:存分に悩みなさい! 何なら買いに行く?
月代:わぁい♪ パパだいすきー
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