プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
ルビーは新生B小町を立ち上げる事にしたらしい。
らしいっちゃらしいけど、今のところメンバーは二人。グループとしては三人以上は欲しいけど、有馬のような物件はなかなかに得難い。
地道に情報を集めて行くしかなさそうだけど、今のところ自分も仕事があるし、収録のない日は授業もある。
ちなみに俺は陽東の一般科なのであまり便宜が受けられないというのも問題だ。こんなことなら芸能科にしとくべきだったか? ……だが、それは本末転倒だ。
芸能界に携わるのは復讐のため。
アイを害した真の黒幕を見つけ出すためなのだ。芸能の世界でずっと生きていくと決めているわけじゃない。
前世で潰えた希望、外科医としての道。それも視野に入れておくべきだ。復讐が無事に終わっても、俺が残る場合もあり得る。燃え尽き症候群になったりしたら短いアクアとしての人生を棒に振るかもしれない。
長々と考えたけど、結局は今のままやるしかない。アイに関係のあった業界人を調べつつ、仕事もこなし、勉学も手を抜かずに、ルビーを守る。
わりかしハードなことを要求されてるけど、やるしかない。それは、あの頃に決めていたことだ。
「おにーちゃん、早く出てえっ!」
……トイレで考えることじゃなかったな。ゴメン、ルビー。
・・・・・・
その日の収録は、嫌な予感がした。
「鏑木Pの娘さんが今日は見学されるそうだ」
「よろしくお願いしまーす♪」
……だろうと思った。
こちらにぱたぱたと手を振る
「可愛い〜♪」
「うん」
「言っちゃあ悪いけど、鏑木さんに似てねえな?」
「奥さん、外国の方だったそうよ」
「ふえー、国際結婚とは、鏑木さんもやるねー」
キャストの連中は概ね好印象。どちらかというと製作陣のほうが迷惑そうにしてる。
それはそうだろう。
てんでんに動くキャストを追って撮影するのだから、見学者なんていたら見切れるに決まっている。
つまり月代が入らないように取らねばならないという、ハードル激高案件になってしまうのである。
「D、どうします?」
「鏑木さんからは適当にしてくれと言われてるけど……」
「月代、邪魔にならないよ?」
本人は邪魔にならないとは言うけど、存在自体が邪魔ということは理解してない。そんなものだよなぁ。子どもなんて。
「そんじゃあ、いっその事キャストにしてみる?」
「特別ゲスト枠、か」
たまにそういう事もあるらしい。人気がイマイチな回にテコ入れで有名人が来るとか。今回は全く違う理由だけど、そのやり方はいいとは思う。
「でも、事務所所属じゃないぞ? 映して平気なの?」
「その辺のことはPがなんとかするでしょ。子どもなんだし」
「とは言ってもなぁ……どうすりゃいいんだ?」
それまで聴いているだけだった月代が、何か思い付いたような顔をした。と、と、と、とこちらに歩いてきて俺に抱きついてきた。
「あ、おい」
「アクアさんの妹、という設定はいかがでしょうか?」
……は?
「なるほど。キャストの家族なら出てきても不思議じゃない、か?」
「説得力はあるかも」
「月代ちゃんとアクア君なら兄妹設定でも違和感無いし」
「それなら画に映っても、そこまで問題にはならないかな」
製作陣が、嫌な盛り上がり方している。見下ろすと、こっちにピースとかしてやがる。
「うまくいきましたでしょ、アクアお兄さま」
「お前……あとで覚えてろ」
「うふふ♪」
暖簾に腕押し、糠に釘。
そんな言葉しか浮かばなかった。
ともかく。
俺はこの撮影中、妹が一人増えるらしい……やれやれ。
「アクたんにこんな可愛い妹がいるなんて、聞いてなかったよー」
「言ってなかったしな」
「お兄さまを宜しくお願いしますね、MEMちょさま」
「しかも礼儀正しいっ! アクたん、月代ちゃんちょーだい?」
「
「私はお兄さまのそばは離れませんよ?」
ぴとっとくっついてきてアピール。コイツ、抵抗無さすぎないか? 鏑木Pは絶対子どもの育成に失敗している。
教室での一幕。俺の隣に席を寄せて座る月代は、腕にしがみついている。対するMEMちょは可愛い成分過剰で少しテンション上がり過ぎ。そのうち
俺としては、役になりきるに徹している。学校に来た妹の世話をする兄。そんな感じだ。
邪険にはしないけど、過度に干渉もしない。まあ、ルビーに対する対応に近いものがあって、意外とやりやすかったりする。
「兄貴のこと、好き?」
近くで見てたケンゴがそんなことを聞いてくる。それに対し、月代は笑いつつも言葉を濁す。
「好きですけど、ピーマン食べろって強制するのは嫌いです」
「好き嫌いすんな」
「お兄さまのいじわる(プンプン)」
キャストの二人が笑って、俺たちも釣られて笑う。そんな風景がちゃんと成立していた。
撮影班もスムーズに動けてる。想定外の因子であるけど撮影には支障は出なかった。
一つ分かった事がある。
有馬が言ったようにコイツはとんだ食わせものだ。
「ケンゴ様、この間拝見した番組でインタビュー受けてましたね。なんでも曲も作ってらっしゃるとか。私、感動しました」
「いや、まあ。それぐらいしか売りがないからね」
「そんなことありませんよ。ギターの演奏もすごく良かったですもの。お兄さまなんて、楽器は一つも出来ませんのよ?」
「悪かったな。ウチ狭いんだからしょうがないだろ」
「それはそうですが……あ、リコーダーなどどうでしょう?」
「小学生か」
「あはは♪」
……会話が流れている。
淀むところも適切で、自然な形を維持している。これが台本ありのドラマ撮影の現場だとしても、十分な出来だと思う。
即興でこの空気感を作り出す。
それはなかなかできる事じゃない。
『けど、少し目立ち過ぎだ』
俺が目配せすると、にこりと笑い話題を変える。今度はMEMちょのチャンネルの話題だ。
ちゃんと番組を見てるようで気になったこととかを聞いている。
それに答えるMEMちょは、少し戸惑う感じだ。立板に水な会話に驚いているのだろう。それでも恙無くやり通すのは流石と言える。
教室のシーンが終わり、周りで見てた連中が話しかけてくる。
「月代ちゃん、すごい」
「お、俺より全然うまいよ」
「そんなことありませんよ。アクアさんのリードのおかげです」
にっこり微笑み、俺を見る。無茶振りが過ぎるだろ、お前。
「大したことはしてない」
「でも、居てくれるから安心できます」
そう答える月代。
傍にいる俺だけには分かるけど、ほんの少しだけ緊張しているようだ。
よく考えたら、小学生に無茶振りしてるのはこっちの方だ。見も知らない大人たちに囲まれて、普通でいられるわけはない。
今のコイツには、知り合いは俺しかいないのだ。
「……まあ、よくやってるとは思うよ」
だから、少しだけは認めてやる。
「……はいっ♪」
今日の撮影も終わりに近い。Dが近くに寄ってきて、礼を言ってきた。
「今日は助かったよ、ありがとう」
「いえ、別に。撮影に穴空けなくて良かったです」
「ホント、どうなるかと思ったよ。無茶振りにしても、いつもと勝手が違うからねぇ」
普通の収録ならば、見学といってもわりと難易度は低い。静かに大人しくしてれば、基本収録の邪魔にはならないから。今回は特殊だから仕方がない。
ベンチに誘われ、缶のジュースを渡される。炭酸はあまり好きではないが、飲めないわけじゃない。プルタブを開けて一口飲むと、Dが話してきた。
「やっぱり、妹さんがいるせいか手慣れてるね」
「そうですか?」
「ああ」
彼も缶を開ける。こちらはノンアルコールビールか。どうせならそっちのが良かったけど、子供らしくないかと思ったので言うのはやめた。
「うちのスタッフ、子持ち居ないし。あの年頃の子ってよく分からないんだよね。ある意味、君がいて助かったよ」
「買い被りですよ」
「でも、ちゃんと懐いてくれてたし。どうせならいい画にしたいからね」
「それは、そうですね」
まあ、特別ゲスト扱いの子供が暗く沈んでたら面白くもないだろう。番組的にも宜しく無い。
「あの子連れてきたのは鏑木さんじゃなくて」
「まさか、一人で?」
アイツ何やってんだ。
内心に怒りがこみ上げる。
「いやいや。会社の人が一緒だったよAPだったかな?」
アシスタントプロデューサー。つまりは奴の部下か。さすがに小学生一人とか有り得ないか。
「でも、あの子とはあんまり仲が良くないようで。あの子も借りてきた猫みたいに大人しかったんだ。君と会ってからは笑うようになってたけど、それまでは全然笑わなかったんだよ」
……ん?
「教室での彼女の笑顔。最高に良かったよ。やっぱり子どもはああじゃなきゃな」
「そうですね」
月代は、もう帰宅している。おそらく、そのAPの女性と一緒に。
別れ際の顔はおとなしく、聞き分けのいい子どもだった。
缶を傾けると炭酸が喉を刺激しながら流し込まれる。甘かろうと苦かろうと、関係なく。
『……』
俺は携帯を取り出してメールを打つ。宛先は鏑木。内容は
『娘同伴じゃないところでお会いしたい。』
パタリと閉めて、もう一口。
やっぱり、甘いのは苦手だな。