プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今ガチ何回目か。わりと平穏な感じです


見せ方、見られ方

「私……もうやめたい」

 

 収録開始のっけからの鷲見の爆弾発言。こちらをちらりと見てくるけど、俺は怪訝そうな顔をして誤魔化す。

 

『あれか、テコ入れだな』

 

 自分に注目させるための話題。本気かどうかはさておき、『今ガチの世界』に於いてはこの発言の意味はかなり重い。鷲見はそれだけこの場の注目を集めたいのだろう。

 

『やめればいいじゃん』

 

 そう言ってしまうのは簡単だが、『今ガチ』的には下策である。だからそんなことは言わない。どうするかというと、まごまごして周りの様子を見る。

 

「こんな途中で?」

「なんでそんな事言うんだよ?」

 

 ほら。ちゃんと周りがフォローしてくれる。俺が前に出る理由はあまり無い……というか暫くは大人しくしてたほうが身のためだと思い知った。

 

 

 聞くところによると、各方面からの問い合わせがかなりあったらしい。見た目抜群の人懐っこい子とか注目度が高過ぎだった。鏑木Pの判断は正しかったようだ。

 

月代(つきよ)に関しての情報は、今は開示できません』

 

 そう言って取材をシャットアウトしているミヤコだけど、多過ぎて大変なのだとか。『安請け合いしちゃったかも』と言ってたし。

 

 それに伴って、俺への関心も高まっているらしい。

 取材も何件か来てるらしく、幾つかは受けざるを得ないらしい。曰く鏑木Pの手の回った相手だそうで、情報の流出を制限するためだとか。

 

 まあ、そういうことなら仕方がないと受けることにはしたけど……正直言うと、気は重い。

 

 だが、相手は小学生。盾になる存在は必要だし、仮にも事務所の後輩に当たるわけだし。

 

 

 まあ、そんなパワーバランスを考えると、俺がここで前に出ても良いことは無さそうだ。ここは他の男子に頑張ってもらう。

 

 鷲見の言い分では『学校でからかわれるから。好きなことを世間にさらすのが怖くなった』とある。

 

 なるほど。一般人が言うなら納得もするけど、業界で既に認知されるほどのファッションモデルである彼女が、その程度で果たしてそう感じるか。

 

 そういったことはもっと以前にあっただろう。ファッション雑誌のセンターカラーを張る人間だ。ネットTVの番組よりは訴求力は高いはず。

 

 彼女のメンタリティがそれほど弱いとは感じられない。詰まる所、これは()()()()()

 

 そこまで思い詰めての行動じゃなくて番組を盛り上げるための演出。Dの指示では無いだろう。おそらく自分で考えたセルフ・プロデュース。むしろそう考えたほうが理解しやすい。

 

「ほ、本当に辞めちゃうの?」

「俺がいつでも話聞くからさぁっ!」

 

 黒川のセリフに被るノブユキ。役者じゃないから、こういう配慮は出来ないか。リアルだけど、映像媒体としては使いづらい。

 

 でも、たぶんここは使われる。

 

 鷲見がせっかくぶち上げたものだ。それを見過ごすとは思えない。これからは鷲見とノブユキを中心とした形になっていく筈だ。

 

 

 実際、その方が有り難かったりする。脇へいきやすくなるからだ。

 

 月代の件で、おそらく俺の利用価値は定まっただろう。鏑木Pの期待に応えられる事が今回の目標。この恋愛リアリティーショーという媒体で目立つのは、今後の活動にも影響が出てくる。

 

 何故なら、カップルとして世間に認知されてしまうから。

 

 今はそんなことで煩わされるのはゴメンだ。俺には目的があるのだから。

 

 だから、俺は無難にやり過ごす。

 

 

 

 

 後日、この件が放映されると特集記事が作られた。鷲見の降板疑惑、原因はストレスか? なる内容だったが、当人は嬉しそうにしていた。

 

「で……本当に辞めるの?」

「えー辞めれないでしょ。契約残ってるのに」

「えっ? じゃあ、演技ってこと?」

 

 黒川が手のひらでコロコロされてるのが、少しおもしろい。本当に真面目なんだな。

 

 本人のネタばらしがあったけど、それはただの『誇張』だったそうだ。確かにそう思うかもしれないけど、彼女がその程度で辞めるとは考えづらいから本心だと思う。

 

 むしろ。この程度の事を気付けない黒川に問題がある気もするが……あれが演技の可能性もある。本物の役者というのは怖いからな。虚実まとめてキャラにしているというのもいるわけで。

 

 

 

 その日の収録のあと。皆で焼き肉に行くことになった。MEMちょが奢ってくれるらしい……なんでそうなったかは分からないけど、どうやら自身のチャンネルの急激な増加をからかわれたらしい。

 

「旨いッスよ、メッさん♪」

「ゴチになります、メッさん」

「あ、上のカルビお願いします、MEMちょさん」

「ちったぁ遠慮せえや男子共ぉっ!?」

 

 男子の悪ノリに乗っかってみたけど、これはこれで楽しい。考えてみたら、同世代だけの食事会なんて前世ぶりだし。楽しくない訳はない。

 

「MEMちょ、私タン食べたいなぁ? この特上なんて美味しそう」

「ゆきぽも、ちょっとはねぇ……」

 

 鷲見にそういうのは期待しないほうが良い。読めてるけど読めないフリするタイプだぞ。

 

「あ、あかねは追加ない?」

「わ、私はいいですよ。ほら、まだ結構あるし」

 

 テーブルにはまだ皿に残った肉はかなりある。まあ、年頃の人間ならあっという間になくなってしまうのだろうけど。

 

「アクアさん、カイノミ焼けてますよ」

「あ、悪い……ていうか、自分でやれるぞ?」

 

 気がつけば、黒川は全然食べてない気がする。皿の上の脂が少なすぎるのだ。自分でやるからと促すと彼女はそれを固辞してきた。

 

「自分、精進の身なので」

 

 ……劇団で若手のホープと言われても、実際はそんなもの、なのかもしれない。彼女の場合、好き好んでやってそうではあるけど。

 

 MEMちょが自身の考えを語る時もメモ帳を取り出していたし。真面目という言葉だけでは片付けられない危うさを感じた。

 

『若者特有のノリの良さがない』

 

 彼女はいまいち目立たない。見た目は清楚な美少女だし、人気が出ても不思議はない。でも、鷲見やMEMちょに比べると押しが弱い。

 

 それが原因の一つでもあった。

 

 だから、俺は別のトングで焼き上がった肉を彼女の皿に置く。

 

「片意地はらなくてもいいんだ。ウチらは劇団なんかじゃない。むしろ俺にとっては先輩なんだから」

「アクアさん……」

 

 こっちの皿、無くなるな。

 

「MEMちょさん、ロース頼んでもらっていい?」

「その敬語をやめろ、アクたんっ! なんかめっちゃ歳上に見られるだろ」

「ソンナコト、ネエヨ?」

「目ぇそらすなぁ!」

 

 実際、歳上なんだからそんなに気にしなくてもいいのに……その様子を見ていた黒川が、少し笑っていた。

 

『この程度のノリでいいんだ』

 

 少しだけ表情が軽くなったように見えた、気がした。

 

 

 

 

 

 

「はぁー……焼き肉とは豪勢ですねぇ。可愛い子たちを眺めながら食う肉はさぞ美味しかったでしょうね」

 

 帰ったら、妹に絡まれた。

 

「ねー、月代ちゃん」

「でも、アクアさんにも付き合いというものがあるのでは?」

「おい、子どものほうが聞き分けいいぞ?」

「や、やかましやいっ!」

 

 何故か家にいる月代だが、鏑木Pからの頼みで預かっているのだ。夜に迎えに来ると言ってたけど、まだなのか。

 

「連絡は?」

「先ほどありました。もう少しで着くみたいです」

 

 予定より遅いけど、まあ許容範囲か。用意してあった夕食のおかずを見て(ルビー)を見る。

 

「お前、まさか手伝わせてないよな?」

「ぎっくぅ?」

 

 分かりやすく動揺してくれて助かる。だが、月代が割って入ってきた。

 

「私が頼んだんです。お手伝い、したくて……」

「そ、そうだよ。お兄ちゃん。無理強いとかじゃないんだから」

 

 ……それなら、まあいいか。

 

「おかずだけ、頂くよ」

「はいっ。お味噌汁、温めてきますね」

 

 ぱたぱたと台所に向かう月代。妹の方はというと、こちらを見てお冠だ。

 

「日曜はみんなでご飯食べる日って約束でしょ。番組始まってからいつもこうじゃん」

 

 前の週は、Pに寿司誘われて……その前はやっぱりみんなでファミレスだったか。言われてみれば、確かに。

 

「月代ちゃんだって楽しみにしてたのに……」

「まあ、それは済まないとは思うけど。付き合いって意外と大事なんだぞ?」

「頬を艶々させてなきゃ信じるんだけど」

 

 いや、だってなぁ。

 かなり食っても胃もたれしないんだもん。若い身体、最高だよな。

 

「今から食べるから許してくれよ」

 

 牛肉と野菜のソテー。サラダはレタスにオニオンスライスのシーザーサラダ。わりと手が込んでいる。

 

「わ、私もサラダとかは手伝ったんだよ?」

「しっかりしろ、年長者」

 

 台所では踏み台に乗った月代が鍋を温めている。俺らがガキの時に使ってたやつ、まだあったんだ。

 

「お待たせしました」

「いや、悪いな」

「大したことじゃ、ないですよ?」

 

 そう言って済ましている小学生。俺らだって、そのくらいの頃は大したこと出来なかったってのに。

 

「いただきます」

 

 

 

 焼き肉を食べて帰ってきても、完食出来たのは凄いと思う。若さゆえなのか、その味のせいなのか。

 

 迎えが来たのはそれから暫くしてだった。奥で仕事していたミヤコ共々お見送り。ぱたぱたと手を振る月代に手を振り、家に戻る。

 

「これからもちょくちょく、うちで預かることになるかもしれないわ」

「マジでか……」

「わたしは、別にいいけど」

 

 ルビーは構わないだろうが、俺としては気が休まらない。難色を示すとミヤコが理由を説明してきた。

 

「パパラッチもどきが多いらしいのよ」

 

 芸能界に出たての新人に彼らは寄り付く事が多いらしい。ガードが甘いからだ。子供だから取材は無理でも盗撮とかは普通にするので厄介なのだとか。まったく、面倒な状況だった。

 

「Pがずっと一緒にいるのも無理だしなぁ」

「部下の私的な利用も限度あるみたいだし」

 

 あのあと聞いたが、APの村瀬という女性はあくまでドットTVの社員らしい。規定外の仕事まではさせられない。

 

「出来る範囲のサポートとして、協力することにしたの。異議はないわね?」

「そういうことなら、仕方ない」

 

 見過ごせる訳はない。

 

「あー、今度はどうしようかな? 何して遊ぼうかな〜♪」

 

 一人だけ呑気な事を考えている妹が、とてもうらやましくなった。

 




パパラッチもどき……原作でフリルが言っていた本職でないパパラッチを定義してます。まあ、ようするに、へんたいふしんしゃさんがいっぱい。そりゃあ、アクアとしてもほっとけない(笑)
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