プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
パパと学校の友達、たまにパパの同僚とか上司の人とかに会っていたけど、基本的には狭い世界。
退屈だったわけじゃない。
あの生活も私は満足だった。
でも、今のほうが充実してる気がする。
「では、皆さんごきげんよう」
学校の友だちに挨拶をすると、みんなも返事をしてくれる。前世の学校では、考えられなかった境遇。
「ごきげんよう、月代ちゃん」
「あ、待ってるよ。今日はお姉さんのほうだ」
学校の校門付近にあるガゼボにいる人を見つけて、指を指す友だち。それと同時に「月代ちゃーん」と声をかけてくる、そのひと。
「お待たせしてすみません、委員会で遅れてしまいました」
「全然♪ ここは便利だよね〜待ち合いの為のスペースまであるなんて」
回り道だというのに、わざわざ迎えに来てくれる……
「じゃあ、みんなも元気でね。ごきげんよー」
「「ごきげんよう、ルビーさま」」
みんながそう答える。
ルビーが私の手を取る。
「じゃあ、行こっか」
「はい♪」
私がアイだった頃は手を引く立場だったのに……こんなに大きくなって。
感慨に耽りつつ、下校する私たち。時折、周りを睨みつけて威嚇するけど、どう見ても可愛いだけだ。
一時帰宅場所として、斉藤家に来るようになって今日で二週間ほど。家に一人で置いておくのが心配だと言うパパが、ミヤコさんに頼み込んだからだ。
「ほとぼりが冷める頃までお願いします」
「……所属タレントに関してなので、放置は出来ませんよね。はぁ」
ミヤコさんに迷惑をかけるのは心苦しいけど、この状況は私にはラッキーとしか言えなかった。
『みんなと、いっしょ♪』
ルビーとアクアが帰りに迎えに来てくれて、ミヤコさんたちと一緒にお夕飯までいただける。
ここは、昔の懐かしい空間。
「るん♪ るん♪ るーん♪」
「ごきげんだね〜、つーちゃん」
「はいっ」
今日も一緒に晩御飯の支度。
ルビーはいまいち上手くなってないけど、私だってやれば出来たんだし、まだまだ大丈夫♪
「つーちゃん、危なくない?」
「包丁で皮を剥く方が簡単ですよ?」
「こっちのが便利なんだけど……」
ルビーがピーラーを持ってそう言うけど、実はピーラーでも手を切ることはある。要は使い方だ。
「練習すれば上手くなりますよ? さあ、るーちゃん。準備はいいですか?」
「うお……つーちゃんが燃えてる……」
包丁を使う時の指使いを教えて、何度かやらせてみると……やっぱりぎこちなかった。
「う、うーん……」
「も、もう少しやればコツが掴めそうなんだけど……」
そう言いつつ、もう剥いたじゃがいもが山になってるんだけど……今日はお芋祭りかなぁ?
でも、最初に比べたら確かに上手になっている。
これはあれだ。ミヤコさんやアクアが刃物は危ないからやらせなかっただけなのかもしれない。
「きょ、今日はこの辺りにしといてあげるわっ!」
「そうですね。このくらいにしておきましょう」
メニューを増やそう。今日は肉じゃがだったけど、ジャーマンポテトも増やして……お味噌汁にも使っちゃおう。たしかこんにゃくとごぼうもあるし、豚汁にしちゃえばいいかな?
「るーちゃん、お洗濯物を取り込んでおいてくれますか?」
「あ、そうだね。やってくるよ」
すたこらと走り去るルビー。どうやらお料理には飽きたっぽい。
さて。手早くやるにしても段取りがあるし。ちょっと気合入れて、と。そこへ、台所にやってきたのは双子の兄のほう。
「なんだ。一人でやってるのか」
「お洗濯物の方をお願いしました」
「そっか……んじゃ、手伝うよ」
アクアが援軍に来てくれましたっ! これで勝つるっ!
「てか、なんだこのじゃがいもの量……」
「皮を剥く練習してたんです、るーちゃんが」
「やり過ぎだろ……」
私の出した食材を見て何を作るか分かったらしい。ボールに水を汲んでテーブルへと運ぶと、ごぼうの処理を始めた。
「アクアさんは手慣れてますね」
「アイツよりはやってるし。まあ、大したこっちゃ無いよ」
リズム良くごぼうの笹掻きを作るアクア。私は人参の皮を剥いてから短冊に切っていく。
「終わったぞ」
「では、こちらをお願いします」
「ん」
こんにゃくとスプーンを渡すと、まな板の上で一口大にちぎっていく。説明しなくても分かってるのって凄いな、さすがアクア♪
「それでも、多いだろ」
「あとはジャーマンポテトにでもしようかと」
「ああ。それなら俺がやるよ。少し休んでな」
「でも……」
「帰ってからずっとやってんだろ。子どもは言う事聞くもんだ」
「……はい♪」
基本、家庭面で壊滅的だったアナタと違って、アクアは率先して手伝ってくれる。それは幼稚園の頃から変わってない。
『手伝うよ』
『いいって。アクアは遊んでていーの』
『それじゃ申し訳ないよ。これ、畳めばいいんでしょ』
丁寧に洗濯物を畳むアクア。ともすれば
あの頃よりも大きくなっても、それは変わらない。几帳面で、しっかりしてて……すごく大人びてる。
カッコよく、なったなぁ。
「……どうした?」
「ひぇ? な、なんでもありませんよ?」
少し、ぼうっとしてた。ちょっと疲れてたのかな? 顔をぱたぱたとあおいで誤魔化す。
すると、アクアがマグカップを渡してくる。
「少し冷えてるから、ゆっくり飲めよ」
「は、はい」
くぴ。牛乳だ。冷たくて美味しい。
さり気ない気遣い……アクア、モテるんだろうな。ちょっともやっとしたけど、彼の言葉で掻き消される。
「時に、にんにく入れても平気?」
「そ、それはどういう……?」
まな板の上にはにんにくの欠片が二つほど。ジャーマンポテトににんにくを入れないとあまり美味しくはないと思うけど?
「おや、ほら。お前子供だから、辛いの苦手かもって」
「……そ、そんなにお子様じゃありませんよ?」
「そっか。じゃあ三つ入れても?」
「……一つでお願いします」
「りょーかい」
少しだけ笑うアクア。
むう……からかわれたっぽい。
その姿が、すごく様になってて。
私は思わず、顔を背けてしまった。
「やあ。今日はドイツにでも来たのかな?」
「ホントにじゃがいもばっかり……どうしたの?」
「えへへ♪」
「今日のテーマでして。決して、剥き過ぎたとかじゃ、ありませんよ」
迎えに来たパパも一緒にみんなで夕飯。
最近はこんなふうにみんなで食べるのが普通になっている。
こうしてると、なんだか昔を思い出す。
パパじゃなくて、壱護さんだったし……私もアイだった。二人も大きくなったし、ミヤコさんは少しだけお年を召したかな? それでも全然綺麗だけど。
「月代ちゃんが来ると二人も張り切って準備してくれるから助かるわー」
「何だよ、それ」
「ちゃんとお手伝いしてるじゃん、いつも」
ミヤコさんの言葉に二人が異議を申し立てる……家族の会話って、なんかいいね。
「そういえば、昨日先輩に事務所で叩かれたよ」
「またなんかバカやったんだろ」
「辛辣ぅー」
食べ終わったあと、ルビーがそんな事を言い出してきた。
「買ったジュースが不味かったから、ツィッターに書こうとしたら怒られた」
「そりゃ、当然だ」
アクア、にべもないね。
パパも同じように頷いてるので、理由を聞いてみた。
「それは簡単。悪口だからだよ」
「……美味しくないものを、そう言ったらダメなの?」
素朴な疑問だったので聞いてみたらルビーが乗っかってきた。
「本音で生きたいだけなのにっ!」
「誰彼本音で言い合ってたら、世の中穏便にすまないだろ」
それを諌めるアクア。お兄さま、さすがです。
パパがその言葉を繋いで説明してくれる。
「例え話をしようか。『つーちゃんの料理はとても不味い。とても食えたもんじゃない』と言われたら、どう思う?」
……それは。
「パパ、ごめんなさい。ちゃんと料理出来なくて」
「いやいやっ! 例えばだからね? ちゃんと食べてたでしょ? 美味しかったよっ!」
その言葉にほっとする。
もしかして、そうなんじゃないかと常々思ってたから。
「おっさん。例え話にしても洒落にならんから」
「そうだよ、おじさん」
「そうねぇ、デリカシーに欠ける発言よね〜」
「わ、悪かったって言ってるでしょうに(汗)」
斉藤家の面々も乗っかってくる。
ノリがいいね。
打ちひしがれたパパに抱きついて元気を注入する。すぐに回復するから、パパはすごく面白い。
「い、今のを見て分かるように、月代はダメージを負う。悲しかったよね」
「はい。もう二度と作らないと思いました」
「もう言いませんっ!」
パパもノリがいいなぁ。
くすくすと笑っていると、アクアが発言する。
「今の話で、もし他の場所で別の人が言ってたとして……おっさんはどう思う?」
「そいつは殺す」
背景に稲妻が走る、ように見えた。パパの気迫、凄まじい……
「今のが答えだ。ルビー」
「んん?」
要領を得てないようなルビー。
「商品をバカにされた企業は言った奴を目の敵にする」
「そんなわけないじゃん。一消費者相手にそんな事するわけないもんね♪」
アクアはそんなルビーを冷ややかに見つめる。
「な、なによ」
「あのなぁ……一般人相手なら確かにそこまでやらんだろう。けどな、お前はこれからアイドルとして活動していくんだぞ?」
「あ」
パパがその後を継いで話す。
「君の発言はその会社の人達に知られる。君にいい印象を持たない彼らは、君に投資する事は無くなる。アイドル活動にとってそれはとてつもなく大きなダメージになるはずだよ」
「さらに言えば、そいつらのお仲間にもお前の悪評を言いふらす。
「も、もう分かったよ〜」
さらにアクアの追い打ち攻撃で、ルビーはKO……にしても、たったそれだけで影響出るんだ。
「壱護も口を酸っぱくして言ってたわね〜。余計なことは言うんじゃねえぞって」
ミヤコさんの発言に、社長を思い浮かべる。
右も左もわからない所を拾ってくれた社長。あの人が居なければ、アクアもルビーも生まれてはいない。そう考えると彼は確かに父親と言えた。
「壱護さんて、いい人だったんですね」
ぽつりと言うと、ミヤコさんが否定する。
「え? そんなわけ無いわよ?」
「え?」
「売り込みは強引だったし、メンバーの事もわりといい加減だったし。酒癖悪いし、タバコも止めないし、口臭いし」
……あ、あれ?
「おまけに事務所放ったらかして……何してんのやら」
「ほんとねー」
双子もなかなかに辛辣だった。
パパの方を見ると、頭を撫でてくる。
「ああやって言い合えるのも、家族だからだよ」
「……ふぅん」
そういえば、わたしもあんな感じに思っていたような気がする……言わなかったけど。
『社長にも、会いたいなぁ』
どこ行っちゃったんだろ? 宮崎のあの先生も、行方不明って言ってたし……流行ってるのかな?
ふと思い出した疑念は、なかなか離れてはくれなかった。帰りの車の中で、パパに行方不明になった人の事を聞いてみると。
「あー……なんていうかな。男って存外弱いから、精神的に追い詰められると全部ほったらかして逃げたいって思う人はいる……んだと思う」
「そうなんだ」
何かの雑誌で、ストレスに強いのは女性の方らしいと書いてあった事を思い出す。逃避、という行動には自己の保全が関わってるのだとか。
「あそこの事務所の、昔いた人が亡くなってしまってね。壱護さんはそれが辛くて居なくなってしまったのだと思う……」
「……」
それは、わたしのことだ。
わたしが死ななければ、社長はそのまま居られた。あ、それだとアイとして生き残ってたことになるか。
『生きてたら、か』
それは意味の無い空想。
アイはアイで、
「パパも逃げたいとき、ある?」
ふとした疑問。聞かなくてもいいことだったと、後悔したけど。
「無いよ。これっぽっちも」
「!……」
即答だった。
「……パパ、だいすき」
「ああ」
とりあえず、壱護さんのことは忘れておこう。どうにも出来そうにないし。
信号待ちのとき、パパがこっちを向いて話しかけてきた。
「つーちゃん、もう一度今ガチ出るつもり、ある?」
それは、願ったりだけど……アクア、嫌がりそうだなー(フフッ)
鏑木P:次の収録、夏祭りがテーマなんだ。
月代:花火、ある?
鏑木P:もちろん。大きなのは無理だけど、かなり押さえてあるって話だよ?
月代:わー、楽しみー♪
鏑木P:浴衣も、新しいの買おうか。
月代:パパ、あいしてるー♪