プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今回はアクアサイド。


うさんくさい依頼

「おにーちゃーん、でんわー」

 

 妹のルビーがやって来て携帯を差し出す。そういや昼を食べたときにリビングに置いてきたままだった事を思い出す。

 

 昔は緊急の用件で呼ばれることも多かった手前、携帯は肌見放さず持ち歩いていたものだけど、この体に転生してからはそういった縛りもなくなってしまい、そこまで固執しなくなっていた。真人間に戻ったと喜ぶべきか、医学から離れて淋しがるべきか悩ましいところだ。

 

「お兄ちゃんっ! 電話だって」

「いたた……顔面に押し付けるな」

 

 ぐいぐいと携帯を押し付ける妹のルビーは俺の双子の兄妹である。母親のアイによく似た顔立ちだけど、違う所もある。

 髪は俺と同じ金髪(ブロンド)で、瞳は紅玉のように輝いている。見た目だけはちょっといないくらい可愛いのだが、厄介オタクだったらしくアイ(母親)の狂信的なファンなのだ。まあ、それは俺も同じなのだが。

 

「携帯はちゃんと持ち歩くこと。リビングに置いといたらイミ無いじゃんっ」

「わかったわかった。今出るからちょっと黙れよ」

「ふーん」

 

 そっぽを向く姿もあざとかわいい。さすがアイの娘である……おっと、電話電話。

 と、発信元を見て胡乱な気配を感じ取った。

 

「……なんの用ですか、監督」

『用がなきゃ電話しちゃいかんのか?』

「話好きな人ならそうも思いますがね。アンタ、そんなガラじゃないだろ」

『ちゃんと観察してるじゃねえか。感心感心』

「茶化すな。用がないなら切るぞ」

『おおっと、待てよ。そう急くんじゃねえよ』

 

 そう言ってはみたものの、俺はこの人との会話はわりと気に入っている。昔からの知り合いという事もあるけど、波長がよく合うのだ。

 

 だが、その内容は俺が一番嫌うものだった。

 

 ブツン

 

「あれ? もう終わり?」

「ああ」

 

 すると、すぐに着信が届く。たっぷり三十秒ほど待たせて電話を取る。

 

『いきなり切って放置とかいい性格してるなクソガキ』

「俺の嫌がる事を知ってて言ってくるアンタも同類だと思うがね」

『はぁ……そんなに嫌かよ、芝居すんの』

「当たり前だろ」

 

 自分のレベルを低さを痛感した俺は、もう役者なんて看板を掲げられなくなってしまっていた。それを彼は知っている筈なのに。

 

『いやな。とあるスジから頼まれたんだけど、その現場にさ、アイツが久々に出るらしいんだわ』

「アイツ?」

『有馬かなだよ』

「……」

 

 有馬かな。

 ずっと昔、まだアイが生きてた頃に一度だけ映画の収録に出演したことがあった。その時に共演したのが、彼女である。成長するにつれ子役としては難しくなったとはいえ、近年はメディアへの露出は殆どなかった。もう引退したものだと思っていたのだが。

 

「それが、なにか?」

『おいおい。かつての戦友にそれは情が無さすぎじゃねえか?』

「会ったのあの時だけだし、情が湧くほど接点も無いし」

 

 言ってはみたものの、それが本心なのかは疑問だった。気にはなっていたのは間違いない。

 あの自己中心的でワガママで高慢ちきなメスガキがどうなったのかは、それは当然気になるだろう(愉悦)

 

『まあ、映像媒体への出番は久々だしな。冷やかしに行くなら丁度いいだろ』

 

 ……俺の内心を見透かしたような言い方は癪だが、確かにその程度なら……いや、そうじゃない。

 

「俺は、芝居なんてできない」

 

 芝居が出来るなんて思っていた時期もあった。アイのように人を惹きつけることは出来なくても、やりようは幾らでもあると信じていた。

 

 でも、それは夢想でしかなかった。

 

 本気で芝居に打ち込むほど、粗が見えてくる。

 

 そして感情が乗るほどに、体がそれを拒絶する。

 

 アイの事に囚われているという自覚か、彼女の生き様を真似することによる良心の呵責か。いずれにせよ、怨嗟は俺を容易に手放すことはなかった。

 

「知ってるだろ」

『まあな。おまえ一人なら、対処出来ないってことだけは分かってる』

「なら……」

 

『だがよ。あのときに隣にいたアイツが一緒なら、どうだい?』

「……」

 

 アイツを。

 有馬かなを、利用しろ。

 

 そう言っているのか。

 

「そんな虫のいい話あるかよ」

『人には人の都合がある。それを利用するのもこっちの都合だよな?』

「ゲス野郎が……」

『言ってろ。いずれにせよ、このまま裏方に埋もれるつもりはねえんだろ? なら、足掻いてみろや』

 

 安い挑発だ。

 だけど、そこに意味があるのは確かかもしれない。

 

「……題材は」

『今日あまだ。読んでたよな』

「今更か。メディアミックスには旬は過ぎた頃だろ」

『それも向こうの都合だ。モデル事務所とのタイアップ企画なんだと。わんさかイケメンはいるけど、演技の経験はからきしな連中ばかりだそうだ』

「……そんなんでアイツ受けたのか?」

『即答だったらしいぜ。JKが座長なんて珍しいよな』

 

 そんなの、苦労するに決まっている。映像媒体にしろ演劇にしろ、全体のバランスが悪ければ劣悪な作品にしかならない。有馬かなのレベルがあの頃より下とは考えられないし、ド素人連中と共演なんかした日にはその格差が露骨に見えてくる。

 

『まあ、有馬かなにも意地あるんだろ。オファーで、しかも久々の主演だ。自分から手放すなんて出来ない』

 

 それはそうだろう。

 あのときの彼女を知っているからこそ、分かる。

 

 自分が一番で、主役。そんな感じの人間だった。諦めてないのなら、その機会を棒に振るなんて有り得ない。

 

「……特等席で拝めるの、面白そうだな」

『こまっしゃくれたガキだな』

「一番そばで見てた奴に言われたくはないな」

『へへっ、違いねえ』

 

 

 詳しくは監督の家で話すことになった。電話を切ったあと、まだこちらを見ているルビーと目が合う。

 

「……なんだよ。まだいたのか」

「なに? お仕事?」

 

 興味津々な眼差しでこちらを見てくるルビー。いや、あざといな。長男で無かったら耐えられないぞ?

 

「ああ。まだ詳しくは言えないけどな」

「監督からってことは、お仕事の件、だよね。今日から泊まり込みとか?」

「いんや。そっちじゃない」

「んん? てことは……」

 

 首をかしげる妹の頭に手を置いてポンと優しく叩いてみる。

 

「受験勉強、頑張れよ。あんまり手伝ってやれなくなるから」

「え、ええ? ちょっと、それヒドくないっ?」

 

 陽東高校(あそこ)に受験勉強とか必要ないだろ。今まで手伝ってきたんだから、これから数ヶ月はほっといてもバチは当たるまい。

 

 

 

 

 それから、監督の家で依頼してきたPの名前を聞いて。

 

「鏑木……勝也」

 

 ……あの携帯に乗っていた名前。

 

「なんだ、知り合いか?」

「それより。アンタのとこにはどんな伝手で来たんだよ」

「昔の劇団仲間の伝手だよ。事務所に直接依頼したら社長(ミヤコさん)に断られたって言うから、まあ直接話が出来る俺にお鉢が回ってきたわけさ」

 

 監督と俺が知り合いだと知っている……だと?

 

「そんなわけで、社長さんにも話、通したけど。問題ないよな?」

「……ああ」

 

 むしろ、こちらから歓迎したいくらいだ。

 

 アイと接点のあった男との邂逅を見逃すほど莫迦じゃない。

 

 何としても、サンプル入手しなくちゃ(使命感)

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「どういう風の吹き回しだか」

 

 役者としての依頼は全部シャットアウト。アクアからそう言われていたので今まで多くの依頼を断ってきた。わりとお金になりそうな仕事もあったのに泣く泣く断わることになったのだけど、大事な息子の頼みを無下には出来なかった。

 

 星野アイの遺児であるアクアとルビー。母親と見もしない父親の遺伝子の強さが相まって、二人ともとてつもない容姿をしている。モデルなんかやらせたら二人ともすぐにトップへと駆け上がる事だろう。

 

 だけど、二人はそれを望まない。

 

 ルビーは、アイと同じくアイドル志望。モデルとは若干方向性が似てるけど、本人はそれを固辞している。

 

 アクアの方はもっと深刻だ。

 幼少期にあった事件のせいで、一時期PTSDを患っており、おそらくそれは完治していない。本人は治ったと言ってはいるけど、カウンセラーの方からは『よく見守ってあげてください』と念を押されていた。

 

 実際に、五反田監督の所で何度か発作を起こしていたという話もある。本人から私に教えるなと強く頼まれたと言っていた。その自我の強さには畏れ入る。まだ子供なのに。

 

「お兄ちゃん、お芝居だいじょぶ、なのかな」

「……」

 

 当然、ルビーだって知っている。もともと役者として早くから出番のあった彼がなんで今までそういった仕事を切り続けていたのか。

 

 ルビーだって、気づいているのだ。

 

「本人が出来るって言うなら、やらせるしか無いわね」

「でも……」

 

 今回の仕事は五反田監督からではない。ほぼ接点のないインターネットTVの制作会社からのものだ。昨今、民放よりも活動の賑わっている界隈からの仕事だし、今の苺プロはネット関係に依存している傾向が強い。渡りに船とも言えなくもない。

 

 万が一のことさえなければ。

 監督がそこを理解してない、とは思えない。いけると踏んだからこそ、彼に伝えたのだろう。

 

「……いずれ超えなきゃならない壁なのよね」

 

 本人は裏方でいいとは言うけど。

 残念ながら世間はそんなことでは納得しない。完璧な美貌に鍛えられた細マッチョな彼は、これからどんどん格好よくなっていく。

 

 それに、本人も役者の道を否定している訳でない、はず。

 

 それなら裏方として芸能界にしがみつこうとはしない。彼は頭脳明晰であり、浮き沈みの激しい芸能界のあり様を否定しているフシもある。リスクを知ったうえで芸能界に居続けるのは、未だ未練があるからに違いない。

 

 

 

──『アクアは、役者さん?』

 

 

 アイの何気ない言葉が、呪いのように彼を縛り続けている。

 

 そんな気がしているだけかもしれない。でも、そう思えてしまう。

 

 

 ならば、これは試練なのだ。

 そう思い込んで蓋をする。私はあくまで母親代わり。彼らに強く出る理由は、ない。

 

「そんなわけで、あなたの勉強は私が見ることになりました。これからは宜しくね、ルビー」

「ガーンッ!」

 

 涙目になるルビー。

 とても可愛らしいが、甘やかしては駄目になる。

 

 心を鬼にしていかねば。

 

 

 

「……ねえ。ホントにちゃんと勉強してた?」

「やってたもんっ、ウソじゃないもんっ!」

 

 アクアは、かなり根気よく相手をしてたのだなと気づいたのはそれからすぐだった……陽東(ようとう)、偏差値そんなに高くないよね?

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