プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今ガチもそろそろ中盤くらい。原作ではほぼ端折られてた夏祭り回です。


今ガチ、反撃のターン

「そんなこったろうとは思ってたけど」

「すみません……」

「お前が謝ることじゃないだろ」

 

 明日の事を鏑木から聞いて、俺は内心呆れていた。もう、出さないとの言葉を信じた俺が甘かったということか。

 彼の横で小さい体をさらに縮こませて月代が済まなそうにしているところを見ると、余計に腹が立ってくる。

 

「上からの指示でね。君へのテコ入れも必要だし」

「ちっ」

 

 どうやら賑やかしではご不満な様子だ。ゆきノブだけでいいじゃねえか。

 

「それはさておき。着飾った女の子には、何か言うことがあるんじゃないのかい?」

 

 ……そういう事を父親が言うか。しかも自分の目の前で。

 

「まあ……似合ってるよ、その浴衣」

「!……あ、ありがとうございます♪」

 

 途端に満面の笑みになる。

 なんか詐欺にでもあった気分だ。

 まあ、この子に罪はないし……

 

 とりあえず浴衣を見てみる。

 薄い青地に、白い花の模様。華やかだけど、品の良さを感じるデザイン。いいセンスしてると思う。

 

「パパ、どれがいいって聞いても『どれも似合ってるよ』って言うので、自分で決めました」

「月代が着るんだから何でも可愛いに決まってる」

 

 当たり前といった感じの鏑木……というか本当にこの娘相手だと色々残念になるな。

 

「そういうとこですよ、鏑木さん」

「そう、そういうとこですよ、パパ」

「え?」

 

 二人してそのままみんなと合流する。こっちを見て挨拶してくるみんな。

 

「よー、久しぶり月代ちゃん」

「久しぶりだね」

 

 距離をおいて挨拶する男子チームだが、女子の方はより近い。

 

「月代ちゃん♪ 会いたかったよー」

「おはよ、月代ちゃん」

「おはようございます、月代さん」

 

 鷲見とMEMはかなり近いけど、黒川はやはり一歩引いたところにいる。興味がない……訳では無い。ちらちらと見てるのだから。

 

 使えるかな? その問いに答えられるのは自分だけ。未だおぼろげな計画を脳裏で描き出していく。

 

 

 

 夏祭りの画というわけで、今回はいつもの所から離れたロケとなっている。ちなみに夜店とかのカットは後日撮る模様。学校でだ。予算の関係上CG合成で撮るのだとか。

 

「小道具?」

「なんか手に持ってた方が夏祭りっぽくなるでしょ? 好きなの選んで」

 

 それは確かに。なら、俺はコレにしよう。

 

「アッくん、お面選ぶんか」

「わりと似合ってる〜」

 

 戦隊ヒーローもののお面。なんてやつかは忘れた。それを横にして顔は見えるようにしている。

 

 ちなみに、ノブユキはうちわ。ケンゴは扇子。鷲見は自前の巾着、メムは水風船だ。

 

「ど、どれがいいかな」

 

 黒川がまた悩んでいる。別に無くても良いという話だから使わなくてもいいのだろうけど、指示されたことに従う癖でも付いてるのだろうか?

 

「私はコレにします♪」

 

 月代が選んだのはふわふわの綿あめ棒……気にはなったけど、俺には似合わないと思ってやめた奴だ。

 

「本物、じゃないよな?」

「綿ですけど、よく似せてますよね♪」

 

 見せてくるけど、中の紙粘土か何かに綿を纏わせてるようだ。

 

「少し重いな、もう少し軽いものの方がいい」

「そうですか?」

「撮影の時間がどれくらいになるか分からん……こっちのりんご飴の方がいい」

 

 こちらならそんなに重くはない。それに綿あめのボリュームが大きすぎてカメラに月代の顔が隠れやすくなるのもマイナスだ。

 

「なら、こちらにします。ありがとうございます、アクアさん」

 

 手に持った綿あめ棒に、視線を感じる。見てるのは、黒川か。

 

「黒川さん、使います?」

「い、いいんですか?」

「どうぞ」

 

 手渡すと、かなり喜んでいる。……本物じゃないんだけどな。

 

「綿あめ、好きなの?」

「え、? あ、そういうんじゃなくて……こういう食べ歩きってしたこと無いから」

 

 まさかの発言。育ちが良さそうだと思ったら、コイツもお嬢さまなのか。

 

「か、買ってはくれるんだけど、家で食べましょうって、母が言うので……」

「ああ……」

 

 確かにそういう人いるな。祭りの臨場感よりも衛生面とか考えちゃう人。彼女の生真面目なところもそういうのが影響してるのかもしれない。

 

「買い食いくらい、構わないと思うけどな」

「そ、そうだね……」

 

 言われてみれば、彼女は常に水筒にお茶を持参しているし、ロケ弁も食べない。役者だから徹底しているのかもと思ったけど、違うのかもしれない。

 

『その辺りから攻めるか』

 

 立ち去る黒川の後ろ姿を眺めて、俺はそう思った。

 

 

 

 

 今日のカットは午後からだ。河原の辺りでの散策、夕方には移動して古い神社での撮影。日が沈んだら、また河原に戻っての花火のシーンとなる。

 

 なので、最初にやることは腹ごしらえ。俺は黒川に近づいてみた。

 

「黒川さん、一緒に食べない?」

「え……は、はい」

 

 座った膝の上には、小さな弁当箱。手作りなのは間違いないし、バランスも彩りも完璧だ。それに引き換え、俺はというとロケ弁である。

 

「さすがに弁当作る余裕は無くてね」

 

 必要に迫られればやるけど、自分のためだけにそこまではしない。それに作ったらルビーが自分のも欲しいとねだるに決まっている。朝の時間の少ない時に、やるもんではない。

 

「お母さんの手作り?」

 

 そう聞くと、頷いて答える黒川。

 

「うちはお父さんもお弁当なんです。だから作る手間は変わらないからって」

「ふぅん」

 

 両親ともに健在で、母は専業主婦、か。古き良き家庭の姿だな。

 

「その卵焼き、美味しそうだね」

 

 試しに軽いジャブ。

 そしたらすごい反応が来た。

 

「そうなんです、お母さん卵焼きすごく上手で。いつも作ってくれるんですよ♪」

「お、おう」

 

 いきなり食いついたな。ていうか、この子……ひょっとしてオタク気質か? 好きなものとか興味のあることに饒舌になるタイプ。

 

「一つ、貰えない?」

「え? いいですよ」

 

 さっきまでのぎこちない感じから一転。朗らかに受け答えている。

 

「こっちもお返しに、」

 

 と、唐揚げを一個進呈する。

 

「あ、いいですよぉ」

「なら、それも頂戴」

「はい。これも好きなんです」

 

 卵焼きに、アスパラのベーコン巻き。どちらも普通に旨かった。

 

 ちなみに今のやり取りも撮影している、らしい。この撮影は本当に気が抜けない。

 

 思うに、この環境は役者畑の人間には不向きだ。黒川がいまいち精彩を欠くのもそれが原因の一つ、かもしれない。

 

「アクアさんて、アドリブ上手ですよね」

「ん? まあ、芸歴だけは長いからね」

 

 これも本当だ。四歳のアレから、端役などは結構やってたし、監督の無茶ぶりにも答えていた。本格的な役者をするのは久々だけど、タレントとしてはそれなりに活動してたのである。

 

 それに、俺は前世持ち。人生経験という彼女にはないアドバンテージが有る。だから、出来て当然とも言えるのだ。

 

「わたし……こういうの、苦手で。でも、事務所の方から幅を広げるためにって」

「ああ、そういう」

 

 本人の意図しない、プロデュース。

 

 事務所に所属しているとよくある、そうだ。苺プロ(うち)は社長からして身内だし、嫌がることをさせることはあんまりない……無いよな?

 

 ともかく。彼女自身が望んでこの現場に来たというわけではなかったらしい。聞いていた話と違うとは言っても、一度受けたら嫌とは言えない。契約というもので縛られるからだ。

 

 その辺りも彼女は理解しているとは思うけど、糸口さえ掴めない様子だ。

 

「なら、俺と共闘しない?」

「……え?」

 

 驚く彼女に、優しく微笑む。猜疑心を与えないように。

 

「今のところ、番組的にはノブユキと鷲見をメインにして進んでるけど、その他のメンツは成立してない。メムはやる気ないと言っていた」

 

 ケンゴはノブユキと競い合う形を維持してるけど、どうも勝ちに行くとは見受けられない。

 

「で、でも過激な方が面白いんでしょ?」

「鷲見からノブユキを奪うって考えてるのか」

「……」

 

 悪女ムーブ。

 成立してるカップルから奪うという絵面は、確かに番組の求めるものに即してるかもしれない。

 

「だが、それをしたお前のこれからの評価はどうなる?」

「!……」

 

 それまでの『劇団の若手のホープ』というイメージが塗りつぶされてしまうかもしれない。人の男を奪って悦に入る悪女。それがついて回るようになるかも。

 

 それは長期的に見て得策とは思えない。番組への貢献もさることながら、それと引き換えに自分の名声を落としてもいいと言えるのか。果たしてその覚悟があるのか。

 

「君の役者人生はまだまだ先があるはず。こんなところで妙なイメージを付ける必要はない」

「で、でも……爪痕、残さなきゃ……」

 

 悪印象でもインパクトと言う意味では変わらない。そこまで割り切ってるなら俺もとやかく言うつもりはない。だけど、生来の気質がそういう事を受け入れ難い。だからこそ、悩んでいるのだろうから。

 

「爪痕の残し方なら他にもある」

「え……?」

 

 そのためには協力者が必要だ。幸いなことに駒は揃っている。あとは……俺が飛び込むことが出来るかだけ。

 

 MEMちょと話している月代の方を見る。アイツなら、うまく踊ってくれるかもしれない。サブプロットとして機能する筈だ。

 

「そ、それで。どうするの?」

「ああ。まずは……」

 

 黒川に簡潔に説明する。次第に顔色が曇ってくるけど、説明はやめない。全部聞いたあと、彼女はため息を付いてこちらを覗き見る。

 

「アクアさんのイメージが、悪くなりますよ?」

「構わない。何故なら、既に知ってる人間にはそう認知されてるからな」

 

 こともなげに言うと、黒川は少し考え……覚悟を決めた。

 

「これって、番組的には大丈夫なんですかね?」

()()()()のはお互い様だ」

 

 台本はない。なら、自分たちで作っても問題は無い。示し合わせた結果でも、恋愛リアリティショーに合致さえしてれば文句は言われない。

 

 俺たちは役者だ。なら、その舞台に引き釣りこめばいい。

 

「なら、決まりだな」

 

 こくり、と頷く黒川。

 横にしていたお面を正面にして被る。自身に仮面(ペルソナ)を被せるように。

 

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