プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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事務所での有馬と社長。何も起こらないはずはなく……(いや、起こらないから)

追記:誤字報告ありがとうございます……更新して十分で付くとは思ってませんでした(笑)


有馬かなは、もの想う

『今ガチ、夏祭りどぁーっ!』

 

 匿名掲示板での実況スレ。彼女はそれを見て、ため息をつく。

 

「意外と燃えてるって感じかな?」

 

 放送を見ての感想は、『アイツ、クソ野郎にしか見えない』だった。それはどうも世間的にも同じだったらしい。

 

 

 

『あかねに声かけるにしても、月代ちゃん邪険にするとか有り得んだろ?』

『アクア、クール系かと思ってたけど、やっぱオスなんだね……ゲンナリ』

『月代、かわいそう……MEMちょはママだったんだ』

『ま、まあ……妹と女子を選ぶんなら確かに正解なんだけど』

『やり方がスマートじゃねえんだよ。泣かせるとか最低じゃん(怒)』

『謝罪しに行くのもあかねが仲介してるし。アクア、情けない』

『あかねはちゃんと気遣い出来るんだね、そこは高評価』

『自分のせいで兄妹ギスッたら後味悪いだろ? ただの自己保身だよ』

『恋リアで家族愛見れるとは思わんかった。つーちゃん、けなげやなぁ』

『まあ、この兄妹、顔良すぎるし。現実感無かったけど、こういうところ見るとフツーの兄妹なんだなって気がする』

『妹がガチ恋してくるのは、ラノベだけだからな(笑)』

『うちの妹もこんだけ可愛かったら……ちな、ヒババンゴみたいだぜ』

『お前んち、アレフガルドにあんのかよ(笑)』

 

 

 クール系装ってた男が女の子に声を掛ける所に妹が出てくると、こうなるのは分かってた。

 逆に妹を守る方向に行きそうな気もしたけど、さすがに恋愛リアリティーショーでそれは無しだろう。ドラマとしては面白いし、シスコンなアイツなら喜んでやりそうではある。

 

 相手が黒川なのも好都合だ。何かと比べられた相手だけど、その実力は折り紙付き。

 

「……」

 

 切り出された写真を見てイラッとする。アクアが黒川にモーションを掛けて、満更でもない様子。

 

「……なんでこんな仕事受けたのよ」

「オファー受けたしね」

 

 身も蓋もない事を言うのは社長だ。モニターを見ながら忙しなくキーを叩く音が響いている。

 

「本人は納得ずくだったわよ?」

「でも……こんなに叩かれてる」

「あの子、SNSとかやらないし。エゴサもしたことないって言ってたわよ?」

 

 業界に籍を置く人間で、自分の評価を気にしないひとは居ない。社会的な評価は自身の功績の証であり、それを高めるために日夜努力しているのだ。

 

 だからエゴサーチをしない人間はまず居ない。それ自体のやり方を知らない高齢の方なら別だけど。そういえば、アイツってSNSもやらないって言ってたな。『若い奴のツールは分からないし』とか言って。田舎のおじーちゃんみたいな言い草に少し面白かったけど、多分それは言い訳だ。

 

 映像編集とか、音声編集とかをしてるのに使えない訳はない。あの手のモノにアレルギーがあるわけでは無いのだ。

 

 つまり、リスクを承知しているから、やらない。

 

 世間に広まる不評、悪口、誹謗、中傷。名が世に知られれば知られるほどにそれは多くなる。持て囃す人間も多くなるけど、母数が大きくなるのだからその数も増えるのだ。

 

 斜に構えた風を演じてるけど、アクアの本質はおそらくクソ真面目。真面目な人間ほど悪口には敏感になり、影響を受けやすくなる。それを彼は知っているのだ。

 

「自分を切り売りするのが芸能界だし、恋愛リアリティーショーはその最たる例……年間で相当数の自殺者を出している事を考えても、軽く引き受けていい案件じゃないわよね」

「分かってたのなら、なんで……」

 

 私の言葉に社長は口籠る。

 

 席を立って給湯室に行ったかと思うと、カップを二つ持ってきて私の横に座った。

 

「……説明はしたの。それでもやるって答えたわ。なら、受け入れるしか無いじゃない」

「……」

 

 それは、そうだ。

 どんな仕事にもリスクはある。

 

 普通のドラマの撮影にだって、歌番組だって……スチルの撮影にだってそれはある。この人は、アイを失くした時からこの事務所を守り通した人で、それを知らないはずはない。

 

「この先やっていくなら、そういうものは受けていく覚悟が必要よ。貴女も経験はあるでしょ?」

「それはズルい言い方ですよ、社長」

「ゴメンなさい……でも、ね」

 

 カップのコーヒーを飲む社長。

 

 自分の方に目を落とすと、ちゃんとミルクが入っている。おそらく自分のはブラックのままなんだろうな、と予想する。

 

「母親の立場としては、反対だったわ。息子が女の子とイチャイチャしてるの、楽しいと思う?」

「超複雑ですね」

 

 くすりと笑う社長。

 遠目で見ると若作りな彼女も、近いと僅かな小皺もあった。自分の母よりは若いけど、それなりに歳は取っているのだ。

 

「あの子……ルビーもだけど、小さい頃から手が掛からなかったわ。夜泣きも全然しないし、出掛けた時も駄々こねたり……ルビーはしたけど、あの子は本当に大人しくて」

 

 ルビーは予想通りとしても、本当にあの時と同じだったのだろう。物静かで、本ばかり読んでて。妹が駄々こねなければ、私もあんなに怒ったりはしなかった。それくらい、しっかりした子供。

 

「そういえば……変な夢をみたのよ、その頃」

「変な……ゆめ」

 

 あの子達にはナイショにしてね、と言ってから話してくれた内容は……確かに変な夢だった。

 

『アマテラスの化身』

 

 アマテラスというと日本神話だろう。ルビーがそう語ったらしい。それまでのルビーとは一線を画したような雰囲気に気圧されたという。

 

「あの子たちに尽くすのが私の天命。さすればイケメンとの再婚も叶うだろうってね」

「……それ、叶いました?」

「叶ってないわね〜。旦那が帰ってこないから離婚も出来ないし」

 

 おっと、唐突な重い話題。

 言葉を探していると、社長は笑って頭を撫でてきた。

 

「有馬さんのところは離婚してたのよね。こちらこそ気を遣えなくてごめんなさい」

「……いえ」

 

 正直に言うと、お父さんにはあまりいい印象はない。

 

 娘の懐に手を突っ込むような真似をして、お母さんに三行半を叩きつけられたような人だ。むしろお母さんには感謝しかない。

 

「にしても……アクアがそう言い出すなら分かりますけど」

「そう、それなのよ」

 

 社長はその時の事を思い出すように目を細める。

 

「あの頃からアクアは頭が良くって……だから言ったのがアクアだったら本当に神託だと思えたのかもしれないわ」

 

 確かに、アクアは神掛かってる印象がある。あの撮影の時に感じた違和感を思い出し、身震いした。それは小さな子供に、何かが憑り付いたような感覚だった。

 

「その点、ルビーは……あの頃から喜怒哀楽が豊かで、とても子供らしかったわ」

「今でも、あんまり変わらないみたいですけど」

「それが、あの子の良いところ」

 

 カップを握り直す社長。両手で包んだそれは、カップなのか、それとも。

 

「太陽みたいに明るくて、暖かくしてくれる。あの子の笑顔にどれだけ救われたか、数え切れないわ」

「……」

 

 それは、分かる。

 

 人を惹きつける天性のもの。

 それがあの子にはある。

 

 あの子が笑うと、ささくれだった私でさえも少し癒される。それは本当に太陽みたいなもの。私が得ようと思っていても、未だに手に入れられない素質。

 

 だから、アイドルとしての活動にも前向きになれる。

 

 あの子の近くでそれを学び、自らの肥やしに出来たなら……アイドルとしての寄り道にも意味があるように思えたから。

 

 

 

「話がそれちゃったわね。アクアはあの頃から大人っぽかったから、この先どうなるのか心配だったのよ」

 

 早熟な子供はいろいろと問題があるという。それは、自分を見ればよく分かる。自尊心ばかり肥大して、

 

「私やルビーを守るような事ばかり考えてて……旦那の代わりもしようとか考えてたのかも」

「……苦労性ですよね」

 

 今日あまの撮影の時も、そう感じた。考えてみると彼があそこまで尽力する理由はあまり無かった気がする。

 

 どうしようもない企画から立ち上がったどうにもならない作品を、ある程度のクオリティまで引き上げたのは彼の功績だ。

 監督や演出と掛け合い、原作者の先生ともコンタクトを取って許容できる範囲を模索して脚本家とも相談して。裏方全部を有機的に繋げた手腕に鏑木さんはいたく感心していた。

 

 

『彼という才能を見つけ出せて、本当に良かった』

 

 

 鏑木さんは、くせ者ぞろいの業界人の中でも比較的温和な人だ。それは娘である月代ちゃんを可愛がる様から見ても分かることである。

 

 そんな彼の人柄はともかく、その手腕には定評があった。インターネットTV局とは言え、彼が制作に携わる番組はかなりあるらしい。

 

「そういえば……鏑木さんはどうなんです? アクアの所業について」

「そりゃあ激おこだったわよ」

「ですよねぇ〜……」

 

 愛娘を泣かされた訳だから無理もない。

 

「でも、次の日にはケロリとしてたわよ、月代ちゃん。『アレは演技でしたから〜』って言ってたし」

「……そうですか」

 

 そんな気はしてたけど。

 あの早さで泣くのは全然余裕。

 でもあの状況下で自分がやれるか、というと甚だ疑問だった。

 

 恋愛リアリティーショーは台本がない。ということはアレはあの場のノリで行われた即興劇だ。

 

 アクアとあかね、それに月代。最低この三人、あとMEMちょといったか? あの配信者(ストリーマー)もグルかもしれない。

 

 それが悪とは言えない。

 

 今ガチというコンテンツの中で作られた人間関係はあくまでその中でのもの。カップルが成立したあと、別れるのも普通にあるし。

 

 だからあの兄妹喧嘩も予定調和の上に成り立ったもの。そう思えば納得はいく。

 

「話題作りとは言え、リスキーなことするわね〜」

「鏑木さんも強くは言えなかったらしいわ。彼が横車押した結果らしいから」

「ああ、そういう……」

 

 番組の上の方からの圧力。

 製作委員会とかはあれこれ指示を出してくる。

 

 誰それの人気が無いから押せ、こいつの人気を落としたいから出来るだけ画に入れるな、そういった事情はどこにでもある。

 そこは商売(ビジネス)であって、アートを作ってるわけじゃない。

 

「黒川あかねをターゲットにしたのがそのためだったわけですか」

「そうは聞いてないわね」

「はぁ?」

「上からの指示は、『月代』の出番と兄『アクア』との絡み。どうも、委員会の中に月代ちゃんのシンパがいるみたいなのよね」

「それは……」

 

 鏑木さんとしては、心穏やかではないはず。

 

「ウチが引き受けた理由もそれ。鏑木さん自身は親だけど、運営側の人間でもあるから、無理を利かせやすい。だから、うちが防波堤になれば月代ちゃんを守りやすくなる」

「うまい、やり方ですね」

 

 けど、これなら角は立ちにくい。

 

 今回みたいな横車だって、事務所側からNG出すことも出来たはずだから。今回はそうしなかっただけの話で。

 

「アクアとしては黒川あかねとの接点が出来て、今ガチに参戦。月代ちゃんも兄妹としての見せ場が出来た。結果オーライなのよね」

「そのために自分へのヘイトは構わない。そう考えたのね、アイツ」

「らしいと言えば、らしいわ。自分を顧みない所が、ちょっと心配だけどね」

 

 その横顔は、在りし日のお母さんのように見えた……言ったら怒られそうだから、胸にしまっておいたけど。

 

 

「そうそう。新生B小町の活動も決まってきたわよ」

「えー……まだ二人しかいないんですよ? 大丈夫ですか? 予定ばっか詰め込んで」

「だいぶ先の話だけどね。デビューの場は決まったわ」

 

 その後に出てきた言葉を、私は理解できなかった。

 

「え、? いま、なんと?」

「JIF(ジャパン・アイドル・フェスティバル)。そこがあなた達のデビューになるわ」

 

 ……国内最大級のアイドルフェスとか、マジですか?

 




月代:ねえ、アクア。私の泣き顔に罪悪感とか感じた?
アクア:んなわけないだろ
ルビー:お兄ちゃん、ドライだもんなー。私泣いててもガン無視だし
アクア:(お前の場合は、大概自己責任だしなぁ)
月代:ルビー、かわいそ。よしよし
ルビー:あー、よしよし嬉しいなぁ♪
アクア(立場逆転してんじゃん……)
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