プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「月代ちゃん的にはどうなの?」
「どうって……どういう意味ですか?」
私の問に、可愛い女の子が小首を傾げる。絵になるなぁ。
今は撮影が始まる前。いつもの教室でのみんなでの談話といった感じだ。私は次の言葉を投げかける。
「アクたんが世間的に責められてるってこと」
あの夏祭りの一件から、アクアには一定のアンチが付いたらしい。コメント欄は荒れ模様だし、アンチスレでは彼の話題が持ちきりだ。
「それは、イヤですよ? でもお兄さまは悪者ぶるのがお好きなので……」
「おい、勝手な人物像を捏造するんじゃねえ」
「きゃー♪」
楽しげな月代ちゃんに凄んでいるのは話題の兄、アクア。私はアクたんと呼んでる。
斜に構えてクールな姿はカッコいいけど、時々こういう崩れた姿もまた味がある。本質的にはいいひとなんだというのが、にじみ出ているようだ。
本当に妹がいるらしく、月代ちゃん曰くとても可愛いらしい。『私なんかより可愛いです♪』と言い切ったのだけど、決してハードルを上げて言ったわけではなさそう……どうやらガチで可愛いらしい。
「話は変わるんだが……お前、たしか自分のこと『バズらせのプロ』とか言ってたよな」
お、アクたんが私のこと聞いてきてる。これは珍しいかも。
「うん。ティックトックからユーチューブ、連携するSNSも含めてある程度の事は出来ると思うよ」
「その腕前を見込んで頼みがある」
少し茶化した感じに答えると、笑いもせずに話を続けるアクたん。
「えっと、……マジな話?」
「わりと」
お仕事関係か。私は少し考える。
私は企業に属する配信者ではあるけど、雇用形態は業務提携の個人事業主だ。
仕事は自分で見つけてきても構わない契約になっている。会社からの支援はほぼ無いけど、その代わり取り分はかなり多めに貰っている。
なので、副業に関しての制限は無い。もちろん、イメージを著しく損なうことは無理だけど……彼はそんな事を頼みはしないだろう。なぜか、そんな信頼があった。
「
「お、おお……ホントにマジだ」
とりあえず、詳しい内容は後日時間を作って話すことにした。撮影もあるし、他の人達がいる中ですることじゃなさそうだし。
次の日の夕方に事務所で会うことなった。そんなわけで事前情報を得るべく、ネットの海へダイブすることにした。自宅のパソコンを立ち上げ、検索を始める。
なんと、『新生B小町』を立ち上げることになったらしい。
苺プロと言えば、かのグループ。特に伝説になってしまった悲劇のヒロイン、アイが有名だ。ストーカーによる被害が取り沙汰される決定的な事件でもあった。
かくいう、私の憧れでもあった。
今は配信者として活動しているけど、元々はアイドル志望だ。
けど、なんやかやがあって夢は潰えてしまった。まあ、それは今はいいか。
だから、アイドルには並々ならぬ思い入れがある。
「ぴえヨンさんとコラボしてたのかっ……でも、その後は何にも無い?」
これじゃ、チャンネル登録数が増える筈はない。活動してないのだから。配信業としては下策もいいところで、やる気ないとしか思えない。
「ルビー、かな……」
かな、の方は見たことある。検索窓に『かな アイドル』と入れると名前も出てくる。あー、そうだ。『有馬かな』だ。
子役時代は有名だったけど、最近は端役ばかり。でも『今日は甘口で』というネットTV系でやってたドラマで主役を得てから、再評価されている。
今でもサジェストにピーマン体操が出てくるのが凄い。この頃のかなちゃん、かわいー♪
さて、もうひとりの『ルビー』はと。
『こっちの子……どっかで見たことある……気がする』
サラサラのブロンドに、綺麗な紅玉の瞳。まさにルビーという名前にぴったりだ。大人びて見えるけど、笑うととても朗らかで、印象がガラリと変わる。動画ではへとへとになりながらも笑う姿が微笑ましい。思わず、若さっていいな、と思った。
にしても、既視感がある。
少し考えたらすぐにわかった。
『アクたん……か』
そう思うと、そうとしか思えなくなる。間違いなく血縁だろ、このコ。
はー、確かに月代ちゃんの言うのも納得だ。私からしたらどっちもどっちなんだけどね。
『シスコン気味なのも分かるわ〜』
自分の妹がこんなに可愛いのなら、守るために必死になるのも分かる。しかもアイドル志望だ。
事務所の先輩であるあの人の事を思えば、心配するなという方が無理というものだ。
『思った以上に、拗らせてんだね』
彼は頭がよく、自分を守る殻を何重にも被せている。
それは、嘘が上手とも言える。
役者と云うのは幾つもの役を演じるわけで、幾つもの嘘でそれを塗り固めることに他ならない。
でも、悪いことでは無いと私は思う。
嘘と本当にどれだけの差があるかというと、実のところそんなに差はないというのが私の持論。
何故なら、私もそれを隠して活動しているから。
だから、彼に親近感を得た。
根っこのところは同じだから。
思えば、会話しててもこちらを探りながらしているフシもあった。私もそういう若者を演じていたのだから、似たもの同士と言える。
把握出来てない所が埋まってくるのはとても気分がいい。なんか、ゲームでも攻略してる気分♪
『そういや良さげな乙女ゲームあったっけ。今度配信でやってみよう』
配信業は、ネタが大事。夢女子のようなムーブだって需要はある。飽きられないように模索し続けていくのが肝要なのだ。
結局。
遅くまでそれをやり続けて、寝不足のまま事務所に行く羽目になったとさ。ガックシ。
「うわあ、MEMちょだぁ♪ サイン下さいっ!」
事務所に着いて早々にルビーちゃんはそう言ってサイン帳を取り出してた。可愛いの暴風といった感じで、勢いに押されまくってしまう。
「おい、そういうのは後でやれ」
「いいじゃん。かたいこと、言わないでよ〜。あ、こっちの色紙にもお願いしますっ、友達がめっちゃファンでしてっ!」
「ホント〜? 嬉しいなぁ。その子の名前は何ていうのかな?」
「不知火フリルちゃんです(キリッ)」
「マジでっ!?」
まさかのビッグネームに驚く私。
私のほうがサイン欲しいくらいだよ。
「あ、たぶんMEMちょさんなら書いてくれますよ? 頼んでみましょうか?」
「お、お願いしまっすっ!」
こ、これが芸能人パワーというやつか……。私みたいな、にわかとは違うんやねぇ(哀愁)
「あの、いいか?」
アクたんが会話を戻そうとする。
そこへ。
「粗茶ですが、どうぞ」
「あ、お構いなく……」
テーブルに茶碗を置く少女。
白いワンピースタイプの学校の制服に、艷やかに輝く長い髪。ルビーちゃんも大概可愛いのだけど、幼さも相まって浮世離れしていた……
「って、月代ちゃん? なんでここにいるの?」
「あ、私ここの所属になりましたので」
「いつの間にぃ?」
プロデューサーの娘さんて話は知ってたけど……いつの間にか芸能事務所に所属してたとか。
……そんなにハードル低いっけ? 芸能事務所って。
「いろいろあるんだよ」
「ふーん、訳有りってことか」
確かに事務所に所属じゃないと面倒なことが多い。
「まあ、詳しくは聞かないよ。めんどそうだし」
「助かる」
よそ様の話に深入りはしない。君子危うきに近寄らず、だね。
「それじゃ、本題に入ろうっかね」
相談の内容はだいたい予想がついていた。アイドルとして売り出す際のネット戦略。おそらく、コレだろう。
素材が良ければ売れるなんてのは、今は昔の話だ。
メディア露出による知名度のアップ、イメージ戦略、楽曲やPVの完成度、それらを全てやったとしても真に売れるのはごく一握り。
そこには運の要素は絶対あるけど、やらなきゃそのラインにすら立てはしないのが今の芸能界。
私のノウハウが役に立つのなら、喜んで力を貸そう。アイドルになれずに涙に濡れた日々が報われるのなら、今までの労苦も無駄じゃない。
むしろ、この時のために私は頑張ってきたのだ。
そう思うと、これは逃してはならない人生最大級のチャンスだ。
『有馬かな、ルビー……この逸材ならイケる……』
見た目だけなら、既に一線級のアイドルにも引けは取らない二人。まだ能力は把握出来てないし、不安要素もまだ隠れてそうな気もする。
でも、勝ち目はある。
かつては東京ドーム公演までこぎつけた苺プロがバックアップしてるんだし。
「一緒に、やらないか?」
アクたんの言葉に、私はすぐに返事をする。
「いいよ、任せといてっ♪」
この条件でなら、いきなりポシャるなんてことにはならない。
私のチャンネルへの導線にもなるし。アイドルプロデューサー、MEMちょの快進撃を見せてやるぅ!
「やったぁ♪ ありがとう、MEMちょさんっ!」
手を取って喜んでくれるルビーちゃん。全身で喜んでるのが伝わってくる……この子の表現力、すごいなぁ。
「一緒にがんばろっ」
「う、うん。よろしくね」
「話は纏まった?」
「ああ。あとは頼む」
そこへやって来たのは美人な女性。名刺を出してくるので受け取って見てみると、どうやら苺プロの社長さんらしい。
「斉藤ミヤコです。今回の要請に応じて下さって、感謝しかありません」
「そ、そんなぁ。あの、こちら私の名刺です」
「あら、ご丁寧に。ちゃんと名刺作られてるのですね」
「こ、これでも個人事業主なので」
しばしの雑談。こういった人達との会話スキルもこれまでの経歴がものをいう。伊達に✕年もやってはいないのだ。
「正式に契約をしたいので、こちらへ」
「は、はあ」
気が付くと、アクたんやルビーちゃんの姿が無い。ビジネスの場だから席を外したのだろう。心遣いがにくいね。
「未成年、では無いですよね?」
「は、はあ……バレちゃいますか」
くすりと笑うミヤコさん。そこに嘲るところは見えない。
「大人なのはすぐ分かりましたよ。落ち着いてらっしゃるし……それにあの子達との付き合い方も慣れてるようでしたし」
「あはは……褒められるの、少しこそばゆいですね」
「身分証明書を拝見したいのですが、何かありますか?」
「うぐっ」
やはりそうきたか。
ミヤコさんはニコっと笑って続ける。
「コピーを取ったりはしませんし、情報は必ず保守します」
契約ならば、必要なこと。今の事務所との契約の時もやったのだ。私は鞄から保険証を取り出して提示する。
「はい……はい?」
ミヤコさんが何度か視線を動かす。手元の書類と、私の顔。あはは、と愛想笑いをするしかない。
「……お若い、ですね」
「あ、ありがとうございますぅ……」
サバ読みがバレる瞬間て、やっぱり心臓によくない。
「ま、まあこの業界。意外と多いですからね」
「はあ……?」
「若干、驚きましたけど。活動には支障はありませんよ」
「で、デスヨネー」
アイドルのプロデュースに、年齢は関係ないはず。……だよね?
「では、これからの業務に関して説明していきます」
「はい」
・・・・・・
『ええっ! わたしが、アイドルぅ!?』
案の定、MEMちょさんの声が事務所に響き渡った。涼しい顔のアクアとサインを見てニンマリとしてるルビーは関心が無さそうだ。
「ちゃんと仰った方が良かったんじゃないですか?」
私は彼に聞いてみる。
新生B小町のことで相談、とは言っていたけど『アイドルを一緒にやろう』とは一言も言ってないのだ。
「騙し討ちとかじゃないからな」
「でも」
雑誌を開いて目を落とす彼。ぽつりと一言だけ呟いた。
「アイドル、やりたかったのは本当らしい」
その言葉に偽りは無い、と思う。
たぶん、彼女も内心、やりたいと思っていただろう。だから、これは優しい嘘だった。
これで新生B小町は、三人になった。アイドル活動を始めるには十分な人数とも言える。
私は喜んでいる。
それは間違いない。
ルビーの笑顔は嬉しいし、みんなの活動を祝福したい気持ちもいっぱいだ。
でも、どこか寂しくも思っている。
それがなんでなのかは、分からなかった。