プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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回想回になります。途中は鏑木Pの回想です。
タイトル、変更しました。たぶん最初のは誤用でした(笑)
追記:誤字報告ありがとうございました。


あの頃のはなし case MEMちょ

「彼女がねぇ。まあ、そういうことか」

 

 家に帰ってのパパとの会話。最近は斉藤家(あっち)で食べることが多いので、夕食の準備をしなくていいのは助かる。でも、洗濯物とかはやらなくちゃだし、学校の宿題もある。アイロンをかける手を止めずに話を聞いてると、意外な言葉が出てきた。

 

「やはり捨てきれないのか。アイドルへの想いは」

「……パパ? なにか知ってるの?」

 

 私の問いに頷くと、彼は話し始めた。それは、私の生まれた頃の話だった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 その頃の僕は前の会社でAPとして働いていた。激務だし、寝る間もないけど、頑張っていられたのは理由があった。

 

「カツヤー、今日も遅いノ?」

「あ、ああ。先に戻っててくれないかな?」

「ツれないわねー」

 

 そう言って通り過ぎざまにぽそりと一言。

 

Я тебя люблю(愛してるわ)

 

 ドキリとする僕をからかうような微笑みで煙に巻いて、彼女は立ち去った。

 

「チッ」

 

 周りの連中の舌打ちにもだいぶ慣れた。そりゃあそうだろう。あんなに綺麗な奥さんを射止められた栄誉だ。甘んじて受けるさ。

 

 ラーナは元はロシアの有名なバレエ団に所属してたのだけど、足を悪くして辞めることになり、色々あって日本に来た。

 

 その美貌を買われてキャスターなどの仕事をしていたのだけど、何故か僕のようなうだつの上がらない男を見初めてくれたのだ。

 

『カツヤ、あなた自分ノ価値分かってないわよ?』

 

 そう言って、頭を撫でてくる。

 もう子供じゃないんだと言って断るけど、本心は別に嫌ではなかった。

 

 ただ、そういうのに慣れてなかっただけだった。

 

 そんな彼女が身重だと分かったのはつい先日で、急いで役所に籍を入れに行ったのは笑い話だ。

 

 妊娠三カ月。正常に育っているとのこと。見た目は少しふっくらしてきたかな? くらいにしか見えないけど、暫くしたら休暇に入ることにもなっている。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 パパの昔の話。

 それはあまり聞くことのなかったママの話でもあった。優しく儚げな眼差しで語るパパを見ていると、とても切なくなってくる。だから。

 

「パパ。私もうお腹いっぱいなんだけど?」

「え、いや、あの。そういうつもりじゃ……」

 

 そう言って、誤魔化した。

 

 パパは、また話を始める。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 あの当時はアイドルのオーディションとかも番組として成立しててね。今週はどこの事務所、来週はあそこのプロダクション、なんて感じでやってたんだ。

 

 そこに。毎週のようにオーディションにやって来る女の子がいたんだよ。中学生以下は親同伴が規定にあったけど、どう見ても高校生には見えない娘でね。

 

 どうにも気になって、声をかけたんだ。

 

「君は、先週も来てたよね?」

「は、はい……ダメでしたか?」

「いや、ダメとは言わないけど……」

 

 規定にはないけど、取る側からしたら面白くないと思う。どこでもいいという感じに受け取られるのはマイナスだ。必死さは通じるかもしれないけど、今は時代が違う。そういうのが通用した頃じゃない。

 

「毎回来るのも大変だろう? 交通費もかさむだろうし」

「バイトしてますから。お母さんには迷惑かけてません」

 

 なるほど。ガッツはある。

 けど、このやり方はあまり褒められない。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるみたいに思ってるのかは分からないけど。

 

「きみ、養成所とかは出たことある?」

「……よーせーじょ?」

 

 あ、これ知らんやつだ。僕は懐のメモ帳を取り出して知り合いの養成所を紹介した。

 

「無闇矢鱈にオーディション受けてもまず受からないよ。まずはアイドルに必要なスキルを身につけて来たほうがいいよ」

 

 そう教えるとあからさまに沈んだ顔をする彼女。話によると、かなり生活が苦しいそうだ。

 

「ウチ……そんなに裕福でもないし。習い事とか難しいから」

「……」

 

 まあ、それはそうだろう。実際、レッスン料ばかり取って成果も出せない所も多いと聞くし。

 

「とはいえ、毎週のように来るのは頂けないよ。君みたいな可愛い子を狙うような連中も多いんだから」

「……(ビクッ)」

 

 言われた意味を理解してくれたのか、距離を取る少女。

 

「そういう警戒心を最初から持っていてほしい。僕自身はそんなつもりはないけど、甘い仕事を融通して妙なことやらせる事だってある。きちんと自分の身は守らないといけないよ」

 

 そう言うと、彼女はコクリと頷く。

 

「それと、さっきみたいに苦しい現状もあまり触れ回らない方がいい。弱ってるところは狙い時、この意味も分かるよね?」

 

 やはり、コクリと頷く。なるほど、いい子だ。

 

「さっきはああ言ったけど。オーディションに来るのは別に構わないんだ。どんどん挑戦していく姿勢は、周りの目にも留まるからね」

「……?」

「ただ闇雲にやっていては無駄にしかならない。目標を見定め、準備をして、成功率を高めていく。これはアイドルに限らず、どこにでも必要になってくる鉄則だ」

 

 少女はこちらを伺っている。こちらの言葉をきちんと受け止めているようだ。

 

「養成所に行くのも、地力のアップに必要な事だよ。今はどこも即戦力を期待する世の中だ。基礎も出来てない子が選ばれるわけもない」

「……(シュン)」

 

 ちょっと辛い言葉だったかな? でも、段取りを間違えて成功には辿り着けない。

 

「じゃ、じゃあ……どうすれば」

「まずは養成所に行って聞いてみてよ。そこは知り合いがやってるとこだし。こっちからも声を掛けとくから」

「あ、ありがとう、ございます」

「別にいいよ。次代のB小町に投資したいだけだからね」

 

 B小町は今年の冬に東京ドームでライブ・ツアーの千秋楽を迎える。

 

 今では知らない者はいないようなアイドルとなった彼女だけど、最初に会った頃はこの子みたいに野暮ったい感じだった。

 

「わ、私もB小町……アイさんのファンです!」

「そうなんだ。今度会ったらそう伝えておくよ」

「あ、アイさんと、お知り合いなんですか?」

「何度か食事した事もあるよ?」

「な、なんとー!」

 

 その後、養成所に入ったと知り合いから聞き、少し楽しみにしていたのだけど……程なくして養成所を辞めたとの報が入ってきた。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「親御さんが倒れたから続けられなくなったらしい。まあ、そういう事もある」

 

 しんみりと語るパパ。

 

 きっと、彼女がアイドルとして煌びやかな世界に立つことを望んでいたのだろう。淡い期待だと分かってはいても。

 

 だって、パパはどうしようもなく、アイドル(この世界)が、好きなんだから。

 

「なら、感謝しないと、だね」

「誰に?」

「そりゃあ……アクア?」

 

 すると、彼はげんなりとした顔でこう言った。

 

「騙すような奴は、信用ならん」

「もー、パパったらぁ♪」

 

 MEMちょ(彼女)アイ(わたし)を追い求めて、アイドルを目指して……諦めていた所にその道が開けた。

 

 偶然かもしれないけど。

 それを導き寄せた我が息子(アクア)を、私は誇らしく思った。

 

 




月代:あれっ? じゃあMEMちょさんて……
鏑木P:ダメだ、つーちゃん。それ以上はいけない(真剣)
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