プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「うーん」
「どしたの、あかね」
「体調悪いとか?」
「あ、そういうのじゃ、無いんですけど……」
今ガチもそろそろ終盤。ゆきちゃんはノブ君といい感じになってるし、MEMちょさんは特に狙ってるひとは居ないそうだけど……私は今現在、アクア君とちょっといい関係を築けている最中である。
でも……
「私とアクア君て、ちゃんと付き合ってるように見えます?」
聞いてみよう。ゆきちゃんもMEMちょさんも恋愛には詳しそうな気がする(←見る目無し)
「いい雰囲気出てるよ? あんな感じでいいと思うな、わたしは」
「そうだね〜。若いんだからもっとはっちゃけてもいいかもネ♪」
「そうだね。こう、ハグとか?」
「最初にやられたあごクイとかもう一度お願いしてみるのもいいかも」
「え、ええ〜……」
そ、それはさすがに恥ずかしいぃ……
て、そういうことではなく。
「私とアクア君……釣り合ってないような気がするんです」
アンバランスな気がする。
他の人から見てどうなのか、知りたいところだった。
すると、ゆきちゃんは笑いながら答えてくれた。
「確かに見えないね」
グサリ。
やはりそうなのか。
するとMEMちょさんも考え込んでから答えてくる。
「アクたん、歳上ムーブ上手過ぎなんだよ。あかねの方が手玉に取られちゃってる気がする」
「やっぱり……そう見えます?」
常々意識していた事を指摘された。歳上として、少し情けなく思ってしまう。
「そうね〜。なんか、こう。大学生とか社会人みたいな印象あるよね、アクア君て」
「余裕あるんだよね〜。アレも演技なのかな?」
そこについては考えたことがある。
「私、『演技』をする時に必ずその役を徹底的に調べ上げるんです。そうしないと、その役に入り込めないから」
「おお、役者っぽい」
「役者だって」
それは、役作りを行う時のルーチン。その役の人生そのものを調べあげ、それを正確に再現する。そうすることでその人物そのものを創り上げるのだ。
今の私の『演技』は、即興で作られた考察の足りない、謂わば『ニセモノの役』である。
彼があらかじめ想定している『役』を演じているのだとしたら、それはどれだけ深いものなのか。私には想像もつかない。
それに対抗するには、もっと綿密な対象への調査が必要。もちろん彼に対しての特効がある人物が好ましい。
「というわけで……彼の理想の方をご存知ありませんか?」
「ん〜、聞いたことないなぁ?」
ゆきちゃんに思い当たる人はいないらしい。でも、MEMちょさんは少し考えながら答えてくる。
「これは、推測なんだけど……」
そう言って話してくれた内容は、信憑性の高いものだった。
「本物の妹のルビーちゃんに会って、話したことがあるんだけど。彼女、昔のアイドルのかなり熱心なファンらしいの。それこそ当時の事を覚えてるかのように楽しそうに話してくれたんだ」
「でも、それ妹さんのことでしょ? アクア君とは関係なく無い?」
ゆきちゃんの言葉に頷くMEMちょさん。でも、と言葉をつなぐ。
「アクたんにも影響あると思うんだ」
「そ。その根拠は?」
「子供の頃からそんな話を聞いてきてたら、耳にタコにならない?」
私たちの言葉にちっちっ、と指を振るMEMちょさん。
「アクたん、ルビーちゃんのことかなーり大事にしてるっぽくてね。そんな彼なら同じものを好きになる可能性はある、と思うよ」
「なるほど」
月代ちゃんという『仮想妹』とのやりとりでも、それは垣間見える。妹……それとも家族に執着でもあるのかな?
「あと、そのアイドルって、彼らの事務所の大先輩なんだ。たぶん子供の頃から接していたのかもしれないね」
「えー、誰?」
「『B小町の、アイ』。知らない? 熱心なストーカーに殺されちゃった悲劇のアイドル。私も大ファンなんだぁ」
……今は居ない人が理想の女。
しかも、身近にいた存在だ。家族に対する執着は、それもあるかもしれない。
「可能性は高そうだね」
「でしょ? アイの事ならだいたい分かるけど」
「そう……少し聞かせて欲しいな」
調べるにしても闇雲にやるよりはある程度絞れていた方が効率がいい。MEMちょさんの教えてくれた情報を頼りに、もっと深掘りしていこう。
「なるほど」
図書館などをはしごして集めた資料を元に考察を始めた結果。やや不正確ながらある程度の人物像は把握出来た。
自室の壁一面に貼り付けた付箋の一枚一枚が、彼女を構成する要素の一つ。
『完璧なアイドル像……か』
周囲を惹きつける天性の輝き。
見るもの全てを魅せつけて止まない瞳。
人が人を惹きつける時に必要なもの、それはギャップだ。落差が激しいほど、人は興味を掻き立てられる。
彼女の私生活のほとんどが謎に包まれていて、それも一役買っているに違いない。
もちろん、それだけではない。
アイドルという仕事に対して誰よりも真摯に取り組んできたとの記述もあった。率先してダンスレッスンも行い、ボイトレも欠かさず、役者としての仕事にも精力的に活動していたらしい。
まさに『完璧』だ。若い女の子なら何かしら悪いイメージが付き纏うものだけど、それらが一切見当たらない。
でも、ストーカーという一人の人間の凶行で命を落としてしまった。
その想いが如何ばかりかは、知り得ない。それにそれは趣旨が違ってくる。
アクア君の理想の女性像。
これが本題なのだ。
だから、余計なことは頭から追い出す。
数時間に及ぶ鏡の前での構築の確認作業。さらに内面を作り込むための自己暗示。それを経て、出来たのは……
「ふぁ〜、朝早くて眠いよねー」
「……あ、ああ」
「おはよ、アクア♪」
なかなかに効果覿面だったようだ。
・・・・・・
今日はみんなに遅れての合流。
送ってくれたのは苺プロのマネージャーさん。本当はネット部門のマネージャーさんなのだけど、いつも送り迎えをしてくれます。
既に撮影は始まってました。
最近はクローズアップした視点での撮影が多くなってます。鷲見さん、熊野さん、森本さんのメインですが、今はアクアと黒川さんの撮影のようです。私とMEMちょさんは外れることが多くなっています。
「あ、きたきた月代ちゃん」
「遅れて申し訳ありません」
「大したことから気にしないで」
ひそひそ声での挨拶ですが、MEMちょさんもスタッフさんもにこやかに受け入れてくれます。
『……あれ?』
なんだか、雰囲気が違います。
いつもと違い、黒川さんが強気に攻めている感じで……アクアは、恥ずかしがっていそうです。
「いやー、あかねの作戦、大成功って感じだね」
「作戦……?」
「あ、月代ちゃんは知らないっけ? 対アクたん用決戦兵器のこと」
なんだか、物騒な名前が出てきましたけど。聞いてみると、黒川さんは他の人を演じているのだとか。
確かに……理知的な彼女とは違って今はよく笑い、蠱惑的な視線を投げかけることが多いです。瞳の輝きも、人を騙す時のモノになっていて……あれ?
「にしても、アクたんの好み、ドンピシャだったね」
「え……?」
いま、なんと?
「あ、あのMEMちょさま? いま……」
慌てて撮影用の言葉遣いに変える。まさか覗いてるこっちにカメラが向いてるとは思いませんでした。
それより、アクアの好みと言いましたか?
わたし、気になりますっ!(ピカァッ)
「もう亡くなっちゃた人なんだけど」
「そ、そうなのですか?」
最近の子じゃないの? アクア歳上好みなのかぁ。
……昔の人って言うと、まさか姫川さんじゃないでしょうね? アナタの
「B小町のアイって、知ってる?」
「……は?」
……いま、なんと?
B小町の、アイ……うさぎさん付けてるあの子だよね。あー知ってる知ってる。
『わたしだーっ!!』
心のなかでの大絶叫。思わず、少し声が漏れてしまったかも。でも、それほど、衝撃的な言葉だった。
「月代ちゃん、だ、大丈夫?」
「ふぁ、はい……だいじょぶ、です」
口を押さえて、妙な言葉が出ないようにする。
「だって、すごく顔、赤いよ? 熱でも無い?」
そ、それは。なんというか、その。恥ずかしくて……いや、嬉しいのかな?
『わたしが、理想の
「ごめんなさい」
「あ。月代ちゃん」
思わず、そこから逃げ出してしまいました。
「おい、ハンディ。つーちゃん追え」
「ヤー」
裏庭で、呆けている。
ベンチに腰掛けて、遠くの夏空を眺めていて……まるで田舎の風景にも似ている。そろそろ、夏も終わりなのかな? 雲の形も、ところどころに秋っぽさが見え隠れしてて……情緒を感じさせます……
『情緒が……情緒が飽和してますっ』
アクアの好きな人は
でも、アレは黒川さんで、それはつまり真似っ子なわけで……
よく考えたら、アレ。本当にわたし?
わたしって、あんなふうだったの?
自分の恥ずかしい過去を見せつけられてる気分。なに、この羞恥プレイ? ちょっと、すごくキツいんだけど?
それに、なに? あの笑い方。
あんな感じで周りに愛想振りまいてたら、そりゃあ反感買うよっ! あの頃は気付いてなかったけど、やっぱり原因わたしじゃんっ! あー、B小町のみんなにあやまりたいー、ゴメンよぉ、みんなー(泣)
足をジタバタさせて身悶えする。いつもはこんなことしないけど……でも、止められない。
ほどなくして。
MEMちょさんがやってきた頃にはようやく落ち着いてきた。まあ、ブルーですけどね。
「月代ちゃん、平気?」
「……おかげさまで」
少しぎこちないけど、そう答える。コレは、私個人の問題。他の方には理解されないし理解されたくもない。
すると、隣に座ったMEMちょさんは、肩を貸してくれた。ぽすんと収まると、じんわりと何かが染み込んでくる。
「……」
「お兄さん。取られちゃって悲しかったの、かな?」
画的には、そう見えるかもしれない。
……そうなのかな?
もう、どっちでもいいかな。
「私にも、わからないです……」
「だよねぇ。人のこころなんて、分からないもんだよねぇ」
頭を撫でてくれる彼女の手があったかくて。私はそれに委ねることにした。
アクアに攻撃してるのに月代にダメージいくの草、とか書かれてそう(笑)