プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
その日の夕飯は月代特製のオムライス。
ふわふわのオムレツに包まれたチキンライスは僕の体を気遣って脂分と塩分の薄めだ。娘の愛に包まれている僕……最高に幸せ者じゃない?
流石にケチャップのハートマークは無かった。自分でかけろということらしい。その辺も体を気遣ってのことらしい。気配り上手な所もあの人にそっくり。
「わたしは、た~っぷりかけちゃいます♪」
そう言うと自分のオムライスにケチャップで絵を描き始めた。
「……ねこ? いや、くまかな?」
「えー、ウサギだよぉっ! パパ、センス無いなぁ」
ええ……これ、ウサギってのはキツくない? なんかどっかで見たことあるけど、思い出せない。でも、ウサギでないことだけは確かだと思う。
「ウサギさんだぴょん♪」
「あ、うん。そうだネ」
かわいいは正義。
はっきり分かんだね。
「そんじゃ、いただきます♪」
「頂きます」
自分で描いたウサギさんの顔面にスプーンを容赦なく突き立て引き裂く月代。この思い切りの良さ、ほれぼれするなぁっ!
それはともかく、僕も食べよう。家にいるときは晩酌もタバコもやらないと決めてるので、食べることくらいしか楽しみが無いのである。子を持つ親なら誰しも経験していると思われます。
食事も終わり番茶を啜っていると月代が話しかけてきた。例の件についてである。
「……かなちゃんに黙っておく?」
「そう。どらまちっくにならない? 久々の現場で再会する二人とか」
なるほど、出演側にもドラマを演出するか。その視点は無かった、さすが我が愛しの娘だ。やはり天才だな(目が曇ってます)
「でもプロデューサー的に言わせてもらえれば、決定してるキャストはちゃんと伝えておきたいんだけど」
「急に決まったとかで良いんじゃない? パパも言ってたじゃん、ある程度ゴリ押しは出来るって」
まあ、よくある事ではあるが……まあ、いいか。こっちにデメリットはあまり無い。かなちゃんにだけ伏せておけばいいわけだし。
「アクア君の方は知ってるんでしょ? なら大丈夫だって」
……むか。
なんだか知らんが、ムカついてしまった。
月代(つきよ)は可愛くて聡明で美しいのだけど、欠点が一つだけある。
映画で知っただけの一面識も無い野郎のドコにそんな信頼感があるのか。お父さん、す、少し心配ですよ?
「ちょっーと神経質なところあるけど、根はいい子だし」
「ほ、ほーう?」
そんな情報は無いんだが。月代はどこから仕入れてきたんだろうか。匿名掲示板とか? いや、PCにそんなログは残ってないし。もしかしてスマホ? 変なとこにはアクセス出来ないようにしてるはずなんだが。
「ち、ちなみにそれはドコで知ったのかなぁ〜?」
「見れば分かるよ? すっごくピュアそうじゃん♪」
「ええ……」
苺プロの宣材写真からはそんなの微塵も感じないが? どう見ても『オレ、イケメン、勝ち組デェス』みたいなオーラしか感じないのだが?
「器用そうに見えるけど、意外と不器用なトコがあってね。とってもシャイなの♪」
「は、はあ……」
ちょっと目を閉じて自分の思い浮かべた彼の姿を語る月代。大丈夫だよね? 恋に恋しちゃってる感じだよね? パパ、泣いちゃうぞ(血涙)
「かなちゃんも随分大きくなって……感慨深いなぁ……」
今度は有馬かなの写真を見てしんみりとしている。何その表情。小学生女児のする顔じゃないよ?
そりゃあ大きくなってるでしょ、映画んとき幼児だったし。僕は手元のタブレットの宣材写真を見る。
有馬かなは正統派の美少女といった感じに育っていた。若干幼い感じで濃い目のオタクの琴線に触れそうな容姿は、正直言うとかなり推せると思う。
ただ、事務所に所属していないというのが一番のデメリットだ。
この業界、事務所の影響力はかなり大きく、フリーの子が主役に抜擢されることなんて滅多には起きない。そういうのは大御所とかに許されることであり、まだまだ子どもと言える彼女には過ぎた待遇とも言えた。
かつての栄光あればこそで、先方の事務所にもそこで折れてもらったようなものだ。向こうのマネージャーや役員なんかにも有馬かなのネームバリューは届いている。長い芸歴というのはこういう場面で効いてきたりするのだ。
「あー、楽しみだなぁ♪ 顔合わせのときに会えるんでしょ?」
「さ、撮影の時はダメだからね。関係者以外は立入禁止」
「分かってるよぉ、子供じゃないんだから」
そうは言いつつも楽しげに笑う月代。その笑顔を見れるだけで、お父さんは頑張れます。たとえ害虫になる可能性のある奴との仕事だって、やり切れますよ(ヤケクソ)
・・・・・・
「有馬かなです、よろしくお願いします」
初顔合わせの場では率先して挨拶しまくる。笑顔を絶やさず、心象を良くするために身嗜みにも気を遣って。背筋はきちんと伸ばし、挨拶のときにはちゃんと腰から曲げる。
これが芸歴ン年の立ち回りだ。
子供の頃はろくすっぽしなかったから、そのせいですっかりお声も掛からなくなった。
だから心を入れ替えてみた。
真面目に、誠実に仕事をしますと分かってもらえるように。
その甲斐があってなのか、今回は久しぶりの主役を得られた。しかも、オーディションでなく、オファーで。
それはつまり、『私でなきゃ出来ない』という意味でもある。
しかも『今日あま』のドラマだ。何度も読み返して涙で目を腫らした作品の主役とか、嬉しすぎる。今までの逆風は、この日のためにあったのかもしれない。そういや主役なんて何年ぶりだろ? たしか七歳くらいの時に……ま、どうでもいいか。
後ろを振り返ってはダメよ、かな。前だけを向いてればいいの。
この仕事をきっちりこなせば、その後は薔薇色の人生が待っているのだから。
「ソニックステージの成嶋メルトっす。こんちゃーす」
「……」
そう、たとえこんな業界の鉄則も分からないようなド新人であっても。心を平らかにするのよ、有馬かなっ!
「おっ? カワイ子ちゃんじゃん、メルトもう引っ掛けたん?」
「手ぇはえーわ」
「バッカ、ちげえよ。ただの挨拶だっつーのっ!」
「わは、メルトまっじめー」
……コイツら。いっぺん死んでくんないかな? マジウザいんですけど。おおっと、顔には出さないようにしないとね。わたしは座長なんだから。
顔だけはいい男子たち。
彼らは芝居などしたこともない未経験者ばかりと聞いている(先に挨拶したスタッフさん達が教えてくれたのだ)
とはいえモデルとしての仕事はしてるはずなのに……とてもそうは見えない。よく言って普通の顔のいい男子高校生、悪く言えば見てくれだけいいクソガキどもだ。
正直なところ、かなりヤバい現場だということがすでに分かってしまった。私にお鉢が回ってくるわけだ。誰だってこんなの断わるって。
彼らから離れて会場の隅へと移動する。せめて視界には入れたくなかった。
「はぁ……」
こんな目にあってまで、役者でいたいのか。
そう、自問自答せざるを得なかった。
天才子役として持て囃されて。
旬が過ぎたら御役御免。
そんなものだと分かっていたのに。それでも未練は捨てきれない。
あの頃の輝きを忘れられないから。
あの感動を知ってしまっていたから。
だからこそ、未だに続けているのだ。
「えっと、平気?」
「……」
そこへ、声をかけてきた男がいた。ハスキーだけど、聞いたことのある響き。でも、知り合いにはいない、はず。
「気分悪いなら手洗い、行くか?」
お、気遣いが出来る人らしい。あいつらとは別の人種かもしれない。私は顔を上げてみた。そこにいたのは……
「……」
「おい、大丈夫か、有馬かな」
「え、あ、うん。大丈夫、です」
そこにいたのは、イケメンだった。あっちにもいるけどああいうのとは次元の違うイケメンだ。自然についた品の良い身のこなし。ややダウナー気な眼差しも神秘的であり、艷やかな金色の髪はまるで精緻な彫像のようだ。
「……」
「おい、本当に大丈夫か? 何ならウチのマネージャーとかに介抱させようか」
「いえ、あの。それは、その。平気です、はい」
ヤバい。顔面から火が出そうなくらい熱くなってるのが分かる。ここのところ現役から退いてるせいか、イケメンに対する免疫が出来てない。
「は、はじめまして。有馬かなです。今は所属はありませんが、宜しくお願いします」
挨拶をすると、彼も返してきた。彼らのようにふざけたところのない、ごくごく真っ当な挨拶。
「苺プロ所属、アクアです。現場は久しぶりなので色々と戸惑うことも多いと思いますが、何卒宜しくお願い致します」
流暢に話すその姿に、思い起こされた。
わたし、知ってる。
「……アクア?」
「そう言ったよな、有馬かな」
たしかに、聞いた。
けど、私の知ってる『アクア』は、もっと小さくて小生意気で、しれっとしてる気に食わない子供だった、はず。成長して、こんなカッコよくなるなんて……
「……も、もう引退してたかと思ってた」
「奇遇だな、俺もそう思ってた」
フフン、笑うとそう言って答えてくる。こういうところ、変わってない。
「か、監督とか脚本家の先生とかあっちにいるんだって。紹介してあげる」
「悪いな、気を遣わせて」
「今回、わたしが座長だもん。トーゼンよ」
さっきまでの落ち込んだ気持ちが、嘘のように霧散していく。なんだろ、これ。
「アクアだーっ♪」
「どわっ」
「きゃっ」
と、大声をあげる何かがいきなり後ろからぶつかってきた。わたしと、彼の間にぶら下がるように飛びついてきたのだ。
「かなちゃんも、元気だった?」
「……え?」
誰だ、この子。
せっかくの彼との再会に水をさすようなことをする闖入者を、私は睨みつけた。
でも、その子はなんとも思わないらしく。
楽しげに私たちの間で足をブラブラとさせていた。
「有馬、知り合い?」
「顔合わせ現場でこんなことする非常識な子どもに知り合いはいないわ」
「だよなぁ……」
「二人に会うの楽しみだったんだ♪」
悪びれずにそう宣う女の子。
なんなのよ、いったい……
感じとしては、『アイドル』PVの最後、アクアとルビーに抱きつくアイ、みたいな感じをイメージしてました。……鏑木さんの視線が怖いことになってると思いますが、月代ちゃんは気にしてない(笑)