プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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お泊り会です。


鏑木月代はかく語りき

「つーちゃんはぁ……ひょっとしてアイが嫌い、だったりする?」

 

 レッスン場に敷いたお布団の上で、ルビーがそんな事を聞いてきた。

 

『ええ……なんて答えたら正解なの?』

 

 前世の自分なのだから、嫌いなはずはない。だけど、好きかと言うとそうじゃない。当時の自分は、自分が嫌で堪らなかった。

 

 

 

『人に愛されたい』という原動力からアイドルという道を進んだ。

 

 それがしたいから選んだのではなくて、スカウトした社長の言葉に乗っかっただけの話だ。

 

 それが正しい選択だったと云うのは分かる。社長は正しく、頼る(よすが)も無い子供には選択の余地はなかった。

 

 

 本当の私は傷つけられるのが嫌な、弱い子供だった。

 

 人に愛されたい。

 ならば人を愛すればいい。

 

 社長の言葉は、天啓にも思えた。

 

 アイドルが人を愛する職業というなら、それは天職のはずだ。

 

 

 でも、実際は違っていた。

 正確に言えば現実は残酷だった。

 

 歌で愛を歌ってる間は満たされたけど、それが終われば愛は冷める。

 

 アイを愛してくれた人たちがずっと居るわけではないし、ずっと居るのはアイを疎む仲間たちだけ。

 

 もちろん、仲の良い子もいたけどそんな子達もいつの間にか友達とは違うものになる。

 

 最初は傷ついたけど、社長に頼むと頼られれば、頑張るしかなくなる。

 

 でも、キツいのに変わりはない。

 

 だから、私は嘘をついた。

 

『なんとも思わない自分』

『愛を振りまく自分』

『汚い所も弱い所も見せない自分』

 

 幾つもの自分を作り出し、描き出し、そのように振る舞う。いつしか出来上がったのは『完璧なアイドル』だ。

 

 

 それが愛、嘘だということも知ったうえでそう嘯いていた。

 

 でも、人間は神様なんかじゃないから、無条件に全方位に愛を振りまくなんて出来ない。

 

 それが分からなかったから、あんなことにもなったのだ。

 

 彼も、彼女と一緒に居たほうが幸せだった筈だ。そこに私が愛を囁いてしまったから、ズレてしまった。

 

 その結果があの始末だ。

 笑えない冗談としか言えない。

 

 アイの存在が、彼らを狂わせた。

 

 

 だから、アイは嫌いだった。

 

 それは自己嫌悪というものだけど、たぶん内情を聞いた他の人だとしても同じ感情を抱くと思う。

 

 だから月代()はそう答えた。

 

「えと……たぶん好きじゃない、です」

「ええ〜」

 

 う。ルビーの落胆した顔が辛い。

 

「アイって、アイドルとして完璧じゃない?」

 

 ルビーが食い付いてくる。

 どれだけアイが好きなんだろうか、この子は……母親なら当たり前か。

 

 なら、その幻想をぶち壊しましょう。

 

「アイドルとしてのアイは完璧かもしれません。でも、人間的にはどうです?」

「人間的……?」

「それは私たちには論ずることは出来ないわ。アイの事なんてほとんど知らないもの」

 

 前に敷かれた布団に横になるかなちゃんがそう語る。それはそのとおりだけど、あなたはちょっとは知ってるはず。

 

「かなさんは、生前のアイさんをご存知ですよね? 映画でもご一緒だったのだし」

「残念ね。撮影は別撮りであの人と撮ることは無かったの」

「でも、DVD巻末の特典映像、初回での舞台挨拶にアイさんと並んで出てましたよね」

 

 アイとして、その時のことは覚えている。アクアは居なかったけど、彼女は既に名前の売れている子役だったから。

 

「よく見てるわね……」

「ファンですから(ニコッ)」

 

 その時、有馬かなという役者のことを初めて認識した。こんなに小さいのにちゃんと役者をしていた、早熟な子供。

 それは、あの時の私からすれば驚天動地とも言えた。ウチの子達も十分天才だなぁとは思ってたけど、それとは一線を画した……精神的な成熟を感じた。

 

「アイはあのとき、きちんとした挨拶をしてませんでしたね。かなさんの方が余程大人に見えましたよ」

「……ありがとう」

 

 照れているかなちゃん、かわいい。

 

「まあ、確かにテキトーな感じだったのは認めるわ」

「そ、それは演出の結果だよ? たぶん」

 

 ルビーがフォローをするけど、それは無いだろとかなさんとメムさんもしらっとした顔だ。

 

「ま、まあ。アイって確かにおバカなとこが売りでもあったし」

「そ、そう! それだよっ」

「メムは本当にフォロー上手いわね」

 

 そういう需要があったのも確かだ。タレントとして呼ばれた時はわざと大ボケかましていた事もあった。そう演じていたのは認める。

 

 顔にパイを投げられても、いきなり足元が開いて奈落に落ちても、笑って誤魔化していたわけだし。

 

 

 

「望まれる姿を演じる姿勢は好感は持てます。でも、その内面を知る方は誰も居ません」

 

 本題に入る。

 アイというアイドルの事を知っている人はいても、星野アイという女のことを知る人は果たしてどれほど居るのか。

 

「アイのプライベートな話は何一つ出てきません。それは苺プロの中においても。当時のことを知る方は社長しかいませんが、その社長も何も教えてはくれません」

「……!」

 

 ルビーが息を呑む。代わりにメムが聞いてくる。

 

「社長さんも、教えてくれなかったの?」

「はい。子供には早いの一点張りで」

 

 ルビーの顔色が悪い。

 この話題はあまり引っ張らないほうがいいかもしれない。

 

「なので、自分としてはよく分からない人なのです。ですから、嫌いと云うよりは、判断不能、ですかね?」

 

 このあたりが落としどころ、かもしれない。明確に嫌いと言ってしまうのはルビーに悪いし、場の雰囲気も良くなくなりそうだし。

 

「でも、ルビーちゃんはアイさんと会ったことあるんでしょ?」

 

 ここでまさかのメムさんからの追い打ち。

 

「あ、うん。そりゃあ、ねぇ……」

 

 へどもどするルビーもかわいいなぁ(←親バカ)

 

 でも、答えづらい質問だ。

 親子なんだから知ってるには決まってるけど、どこまで話していいのやら……私がストップかけるわけにもいかないしなぁ。

 

「アイはねー、そう。天使っていうのかな? いつも朗らかで、私を優しく包んでくれてー、よしよしとかもしてくれたの♡」

「はあ?」

「あらー、ルビーちゃん。ずいぶん可愛がってもらってたんだね」

 

 おおう……。

 

 天使ときましたか……そんなに御大層な存在じゃなかったと思うんだけど。

 

 どうもルビーはアイ(わたし)の事を神格化しちゃってるところがある。ちょっと厄介なファンに、見えなくもない。

 

「極楽浄土〜って感じかな? とっても幸せで、そのままずうっと抱いててくれたの」

「……あー、そういやこーいう奴だったわ。あの映画の時も、『おギャバブランドでバブりたい』とか騒いでたもんね」

「わっ、先輩。そんな前のこと覚えてたの?」

「覚えてるわよっ」

 

 かなちゃんの顔が少し赤い……今のところに照れる要素とか無いよね? まあ、いいや。

 

 ともかく。

 ルビーがあの頃から少しおかしいな、とは思ってたけど……コレはヤバいかもしれない。

 

「あの、るーちゃん?」

「あー、もう、辛抱たまらんっ!」

「あ」

 

 そう言うなり、抱きついてくるルビー。瞬く間に頭を引き寄せて、かいぐりかいぐり……と撫で始める。

 

「つーちゃん、アイに撫でられてる時みたいにあったかいんだよね♪ すごーく、あんしんするぅー」

 

 ……そうなんだよな。

 この子はまだ子供。あまりにも小さい頃にアイ(わたし)が居なくなってしまったせいだと考えると、おかしいなんて思えない。それは、やはり悲しいこと。

 

 だから。

 私のやれる事は一つだけ。

 

「ば、ばぶぅ……」

「アンタも、乗ってんじゃないわよ」

 

 かなちゃんの軽くツッコむ。(はた)かれたのが、ちょっと嬉しい。パパはこういう事はしないからすごく新鮮だ。

 

「わ、私も。すごーく、あんしん、します……」

「そおっ? じゃあ、おんなじだ♪」

 

 ルビーの輝くような笑顔に、つい絆されてしまう。

 

 それは親だからなのか。それとも別の感情なのか。今の自分には判別出来ませんでした。

 

 

 

 

 結局、私はルビーと一緒に寝てしまい。朝早く起きたメムさんとかなちゃんに写真を撮られてしまいました。

 

「これ、B小町ちゃんねるにアップしたらめっちゃバズりそう〜♪」

「やるにしても許可はとんなさいよ。社長と、本人達にも。あと鏑木さんにもね」

「分かってるよ〜」

 

 そんな枕元でのやりとりも、とても楽しい。だから、まだ目覚めてないルビーに顔を埋めて、二度寝を決め込みます……どうでもいいけど、アイ(わたし)よりおっきくない?

 ルビー成長良すぎ……(ガックシ)

 




アクア:……俺の出番は?

次です。お待ち下さいw
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