プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
真意を確かめないといけない。
本当に必要なピースなのか、波乱の種になるのか。この選択は新生B小町にとって分水嶺となり得る。
俺はマスクを付けたままメンバーそれぞれに話を聞いてみた。アクアとしては聞きづらい話もあるし、好都合だったりする。
・・
「つーちゃん、ですか? 居てくれたら私は嬉しいけど〜 本人は嫌だって言ってまして」
『そうなんダ。実際、増えたらフォーメーションとかも変更しなきゃだから聞いておきたくてネ』
ルビーは好意的。
ただ、本人は否定している、と。
「また覚え直すのも大変ですよねー」
『まあ、メンバーが欠ける局面なんてよくある話だシ』
B小町でもフルメンバーでやる事はあまり無かった気がする。これは人数が多くなればなるほど起こる。スケジュールにバッティングとかが起こるとメンバーを割って送ったりもする。あと単純に病欠とか。
その時その時に応じたフォーメーションを覚えておいて損はない。
「ぴえヨンさんからもお願いしてみて下さい。つーちゃんとなら、たぶんどこまでもイケる気がしますっ!」
『……あまり、期待はしないでネ』
ウチの妹は乗り気。
まあ聞くまでもなかったな。
・・
「月代ちゃんですか」
『ああ。加入するって言ったら、どう?』
最年長のメムちょはどう答えるか。
「いいと思いますよ。私が抜ければいいんですよね?」
『ピヨ? そんな事は言ってないヨ』
どうしてそうなる?
「いいんです、アイドルなんて若い子がなるものです。こんなオバサンがアイドルとか、恥を世間様に晒す前に辞められて良かったぁ……」
『いやいやいや。君も大事なメンバーだからね。月代君の加入とは関係ない話だヨ』
メムの自己評価が低過ぎて草……とか言ってる場合か。なんか自分と月代をトレードしようとしてるけど、こっちはそんな算段ではない。
「そもそもわたし゛〜、マネジメント的な契約だと思ってたんですよ゛〜。いつの間にかあれよあれよとメンバーになっちゃって……本当にわたしで良かったんですかねぇ。ぴえヨンさんっ!」
『そ、そのへんは僕の預かり知らぬ所なのデッ』
なんか涙目になってる姿を見るととても二十歳をとうに越えた女性には見えない。マジでJKでも通じるんじゃねえ? と思えてしまう。
とはいえ、このままだと鬱になりそうなのでフォローしとかないと。
『……だから、君自身は間違いなく必要ピヨ。そこは安心して欲しいピヨ』
「うう……本当ですね、信じますよぅ?」
宥めるのに時間がかかってしまった。さて、次は一番意見を聞きたかった相手だ。
・・
『あ、ぴえヨンさーん♪』
「や、やあ。有馬かな、元気だっタ?」
『そりゃあもう、元気満タンですよ』
何故か、妙に明るい有馬……昨日テラスで会話した時はそうでもなかった気がしたんだが。
基本、仏頂面の有馬がにこにこしてるのは、実はかなりレアケースだったりする……何があった?
『な、なんカいいことあっタ?』
「えー、なんにもないですよ? ただ、吹っ切ってみたら、視野がひらけたというか」
何を吹っ切ったのかは気になる所だけど、今はそっちが主題じゃない。
俺は月代の事を切り出した。
「月代ちゃん、ですか」
『有馬かなは芸能界歴も長いから、気になる点とかあったら聞きたいんだよネ』
マジな話になるとちゃんと切り替えてくる。ここが有馬の良いところだ。少し考えてから、眦を上げて話を始める。
「いいと思いますよ。あの子ならセンター間違いなしですから」
はっきりと答える有馬。
それはいいのだけど、どうにも引っ掛かる言い方だ。
『センターは君じゃナイ?』
「わ、私よりあの子の方が適任ですよ。素直だし、可愛いし、年も若いし、素直だし……」
素直が2回もあって草。
どんだけ拗らせてるんだ、有馬。
「あの子が入らないなら、まあ私がやるしか無い……違うか。あの子が居ても、私がやらなきゃいけないんですよね。年長者なんだし」
『そこに気が付く有馬かなは、やっぱり凄いと思うヨ』
この責任感の強さも良いところの一つ。
メムといい、有馬といい、自己評価が低過ぎるけど、そんなに卑下することじゃないと俺は思っている。
『メンバーの間に、問題とか生じたりしナイ?』
「それは無いと思いますよ? だって、みんなあの子好きだし。私だってそうですから」
『はア……』
普段は常識的な事を言って苦言を呈する立場だけど、有馬自身も嫌いではない、と。
「……それに。私はいずれ、アイドル辞めますし」
有馬は、遠くを見据えてそう語る。
この新生B小町での活動は、有馬にとっては回り道。それを強要した身としては心苦しい。後悔はしてないけどな。
「メムもそんなに長くはやれないでしょうし。その時にルビーの側に居られるのは、あの子だけだと思います。そういう意味では、加入を勧めて欲しいです」
『……社長に伝えておくピヨ』
そして、やはり有馬は優しい子だった。先を見据えて、一人になる
ぴえヨンマスクを被っていて本当に良かったとつくづく思った(グス)
加入自体にメンバー全員好意的。
あとは本人次第とも言える状況になったが、果たしてどうなるのか。
俺自身は聞いたこと無かったが、鏑木はほぼ確信を得ていたが……
とりあえず、
・・
「新生B小町への加入、ですか」
『うん。親御さんの方から本人の意向に沿って構わない、との返答を受けていてネ。キミはレッスンも熱心だし、その熱意があればいけると思うケド』
今日は外のレッスン場を使っているのだけど、そこの休憩スペースで話をしてみた。
「やりたい、とは思いません」
『それは、どうしテ?』
実力は、ある。
ならば試してみたいと思うのが、このくらいの歳の女の子だと思ったのだが、ルビーの言うように明確に否定してきた。
何か理由がある。
この答えに俺は満足してる筈なのに、何故か聞きたくなった。
「うーん……」
月代が、考え込む。
唇を尖らせ、眉を顰める姿はなかなかに可愛い。あざとい気もするが、自然に見えてしまう。
「このB小町は、るーちゃん……ルビーが発起人、ですよね?」
『僕は、そう聞いてるヨ』
「それに、私が乗っかるのはスジが違う気がするんです」
そこまで言って、こちらを見上げる月代。
「これは傲慢な発言ですが、いいですか?」
『聞こうカ』
促すと、彼女は答える。
淀みなく、淡々と。
「私が加入すると、私が一番目立ってしまいます」
『……それデ?』
「それはルビーや、他のお二人との軋轢を生みます。昔のB小町をご存知ですよね? アイが一人だけ目立って、他の皆を蔑ろにして。そしてアイは死んでしまい、結果グループは空中分解してしまいました」
昔のことも、ちゃんと調べていて、分析もしている。そして俺と同じ結論に達していた。
おそらくそれは、正しいと思う。驕り高ぶった意見と断じる訳にはいかない説得力があった。
「あの子たちと、そんなふうになりたくないです。楽しく、仲良くしてたいじゃないですか」
『……』
ふわりとした、儚げな微笑み。
思わず、ドキリとしてしまう。
それは、まだ十代に入って間もない少女がしていい表情ではなかった。
母のような、包み込む慈しむようなもの。
そこに、苛立つ自分がいた。
それが何に起因するものかは知らないけど、不条理に感じた。
だから、俺は。
『……キミは分かってない』
「えっ……」
『あの子たちは、B小町じゃない』
困惑する月代。
だが、俺の言葉は止まらない。
『お前も、アイじゃない。同じになるなんて、決めつけるなよ』
「!……」
過去のB小町は過去の存在。
その人達とは違うのだ。
それを勝手に決めつけて、挫折するのが目に見えているからやめますなんて……そんな小賢しい子供は見てられない。
『ルビーはニノと同じか?』
「え? いえ、違います……」
『ではたかみーと有馬は?』
「全然違います」
『ナベとメムは似ているか?』
「す、少しだけ、似てるかも。でも、違うひとです」
『そうだろう。こちらは新生B小町。かつての存在を超えるための存在だ』
ヤバい。
興が乗ってきてる。
でも、止まれない。
『お前だって、アイじゃない』
「……はい」
頷く月代。
俺はかつての
それは届かない相手への熱烈なファンレターのようなもの。
『アイは完璧で最強で、究極のアイドルだ』
「……えっと」
吾郎だった頃の、信じていたこと。
それはアイへの絶対的な信頼感だ。アイを信奉することへの想いは、他の誰かに負けるとは思わない。
唯一人を除いて、だけど。
俺だって、あの子には敵わなかったのだから。
言葉が綴られる。
『もし今でも活動してたら海外への活動もしてただろう。ハリウッド映画のオファーでも来てたかもしれない。世界のスター達と競演していた筈だ。俺には分かる。ウェンブリーやサンデビルを埋め尽くすアイの姿が』
世界の舞台へ飛び立ち、その熱狂を振りまいていく。観客は皆サイリウムを振りかざし、その怒号がホールを埋め尽くす。
それは俺の中の夢ではあっても、確約された未来絵図だ。アクアとして、彼女の子となって生まれた俺が、ずっと思い描いていた心象風景。求めてやまない、心の源泉。
「……あの」
『ん?』
「その。アイ、さんのことは……それくらいで」
おっと。少しペースを落とさんと。月代が熱に当てられて顔を真っ赤にしてるじゃないか。これは失敬。
『ま、まあ。ようするに。お前がアイのようになるとは限らない。アイツらがお前を見限ったり、邪険にするなんて無いだろうし、お前がいかに優れてようともアイには遠く及ばない。だから、その心配は杞憂だ』
顔を背けて、そう答える。
なんか、好きなことを一気に喋ったあとに素に戻ると、すごく照れくさいよね(笑)
唐突に自分の感情を吐露してしまったけど、月代には届いただろうか。
「あ、あの……ぴえヨンさんが、その、アイをとても応援してくれていたことは、分かりました」
『ピヨ? ああ、そうだネ』
……そういやマスク被ってたんだ。
ぴえヨン氏に変な属性付与しちゃった気もするけど……まあ、いいかっ!(←思考放棄)
「アイは幸せだったのですね。少なくとも、ぴえヨンさんみたいな人が応援してくれてたのですから」
『そ、そんなコト、ないピヨ?』
ああ……月代の中のぴえヨンが、アイの拗らせオタクになっていく。そして、俺は止めることができない。
「もし、私が入ったら……ぴえヨンさんは応援、してくれますか?」
上目がちに月代が問いかける。
この答えを間違えると、取り返しがつかなくなるかもしれない。そんな、予感があった。
『もちろん。応援するピヨ』
サムズアップをして、そう答えた。
月代の加入によってどうなるかは、俺にだって予測はつかない。俺や彼女が予想したようになるかもしれない。もしくは、よりひどくなるかも。
だけど、それが本当に理由になるのか?
情熱は止められない。
やる気を見せなかった子が、やろうと心に決めて聞いてきたのだ。
それに応えないのは年長者として……いや、アイドルオタクとして許されない。
「パパと、相談してみます。色良いお返事が出来たら……すぐにお知らせしますね」
はにかみながら、そう伝えてくる月代。思わず顔を背けてしまいたくなるけど、ぐっと堪えて受け止める。
『期待してるヨ』
後日。
社長のもとに鏑木から連絡が入った。鏑木月代が、正式にB小町に加入することになった、と。