プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
かなちゃんはよく眠れなかったらしいけど、私とルビーは快眠。母娘パワーだね♪
「大丈夫? 徹夜でもした?」
「してませんよ……ただ寝付けなくて」
ミヤコさんにそう答えるかなちゃん。本当に眠そうだ。
「移動中に寝ておきなさいね。寝不足の影響ってバカにならないから」
「知ってますよぉ……ときに社長。ぴえヨンさんのことですけど」
「!……な、なんのこと?」
こちらをチラ見しながら答えるミヤコさん……なんだろう?
「いえ。今ので分かりました。知ってたんですね」
「く、詳しくはライブのあとにでも、ね?」
「はあ……分かりました。確かに今、どうこう出来る問題じゃなし」
「助かるわ、ありがと」
なんだか二人だけで分かりあった会話。少し面白くないけど、今の私は聞き分けのいい子。なので、気にしないようにする。
「じゃあ、ちゃっちゃとご飯食べちゃってね」
ダイニングにはミヤコさんのお手製の朝ご飯が並ぶ。純和食のお手本みたい。
「! この筑前煮、美味しいです」
「そう? よかった」
「あとで、レシピ教えて下さい。パパ、絶対好きだと思うので」
「ええ、いいわよ。せっかくだし、ルビーも一緒にどう?」
「ギクッ あはは……わ、私はいいかな〜?」
「まったく……」
朝の和やかな団欒。これはこれで嬉しい。そういえば。
「あの、アクアさんは?」
居るべき席に、アクアが居ない。どうしたかと聞いてみると、少し呆れ顔でミヤコさんが答える。
「昨日の夜に呼び出しがあったらしいの。泊まってくるらしいから、監督さんの所だと思うけど」
「「そ、そうなんだ」」
私の声とかなちゃんの声がハモる。お互いを見るけど、かなちゃんが目を逸らした。
「お兄ちゃん、今日のライブ来ないの?」
「来るって言ってたけど、関係者席には入らないらしいわ。一般で見るって」
関係者席に入るにはかなり前から入らないといけないし、数にも限りがある。今回の付き添いはミヤコさんだけらしいから余ってはいるはずだけど、時間的な余裕がないのだろう。
「マメだね〜。幾つか仕事も入ってきてるのに、監督さんの所は外さないんだもん」
「そうなんですか?」
ルビーの言葉にかなちゃんが食いついて、ミヤコさんがそれに応える形になる。私は聞き役だ。大人の会話には交じるべきじゃない。
「雑誌のモデルが二件、WebTVのインタビューが二件、あとネットラジオのフロートが一件決まってるわ」
「かなりあるじゃないですか」
「『今ガチ』の影響よね。サブカル的に人気が出てるのは嬉しいけど、あなた達も忙しくなるわよ?」
すると彼女はメモ帳を取り出し確認していく。
「JIFの広報からのインタビューでしょ。ティーン誌のインタビューとスチルが三件、ネットTVでの広告用PV撮影に、ネットラジオでのオビのオファーもあるわ。地上波の放送局にも営業かけてるけど、こっちはあんまり期待出来ないかも。でも、スポットでの出番くらいは取れそうよ」
意外と多い、気がする。新人アイドルの扱いとは到底思えない。するとミヤコさんがこちらを見てくすりと笑う。
「鏑木さんのおかげ、だと思うわ。彼、そんなこと一言も言わないけど」
「……」
どこの世界もそうだけど、根回しというのはとても大事。それをしているのが、パパの仕事だ。
「そもそも、デビューがJIFだもの。鳴り物入りの感じマシマシ。しかも過去のグループの襲名な訳だし、根強いファンも多い訳だから見返りも求めやすい。考えてみたら、鏑木さんらしいやり方よね」
かなちゃんの読みは正しいと思う。私が参加しようとしまいと、パパはそこまで考えて事を動かしたわけだ。強かで、賢い。さすが、パパ(得意満面)
ミヤコさんの車で移動、途中でメムちゃんを拾って湾岸地域へと向かう。広い敷地に大きな建物が並ぶエリア。どこか閑散とした場所であるものの、今日だけは活気に満ち溢れた様相だった。
全国津々浦々、地方限定のロコドルや学生によるスクールアイドル、繁華街の片隅で小さく営業している地下アイドルや、全国区の放送局で見られるようなメジャーなアイドル達までをごちゃ混ぜにしたようなお祭りイベント。それがジャパン・アイドル・フェス。大小数カ所のステージを使い、三日間に分けて開催されるこのイベントは今年でもう五年ほど開催されている。つまり、
「うわー、JIFだー♪」
「す、すごい……」
「どんだけ人いるのよ……」
メンバーのみんなの感想もそれぞれ違う。
「ここが楽屋?」
「ホールじゃん」
「参加する人が多過ぎてしょうがないらしいのよ。一応スペースはあるけど、着替えとかはパーティションで隠されてる所でね。スタッフさんには男性もいるんだし」
ミヤコさんの先導で進んだ先には長机とパイプ椅子の置かれた場所。苺プロダクションと書かれた札でそれと分かるようになっていたけど、これでは即売会のスペースなのではと勘違いしてしまいそう。
「時間までは余裕あるから、少し眠っておくといいわ」
「……すみません、社長」
「みんなも休むなりご飯なり済ませておきなさい。私はちょっと席外すから、メムさん、あとはお願いね」
「あ、はい。分かりました」
一番大人のメムに声をかけてどこかへ行こうとするミヤコさん。私は手を伸ばして、彼女の服をつまんだ。
「あの」
「? 月代ちゃん?」
「少しだけ、お話し。いいですか?」
私の神妙な顔つきを見て取ったのか、彼女は頷いて手を引いてくれた。
建物を出ると、残暑の日差しがなかなかに厳しい。人けのない木陰を探して移動すると、彼女が振り向いて声をかけてくる。
「やっぱり緊張してきちゃった? 今なら、まだやめることも出来るけど……」
「いえ、そうではなくて」
怖気付いたと思われたらしい。
前世ではそれなりに大きいイベントもこなしてきたわけだから、言うほど緊張はしていない。
「昨晩、ルビーとかなちゃんの話を聞いてて……確認したいことがありまして」
「え?」
どう聞こうか。
まずはルビーの体調のことにしよう。
「るーちゃん……大きな病気を患ったりとか、してました?」
「? そんなこと、無いわよ?」
あれ? ミヤコさんの様子からは本当に聞き覚えは無さそうだ。
「なんで、そんなことを?」
「いえ。実は……」
二人の会話を掻い摘んで話してみる。すると。
「少なくともルビーがそういった事になったことは無いわ。こう見えても、ずっと一緒に生活してきたんだから」
「そう、ですか」
もし、大病とかをして入院が長かったりとか……何らかの理由で引きこもってたりとかしてたらと思ったのだけど。どうやら違うらしい。
「あの子……時々変なこと言い出すのよね。自分はアマテラスの化身、とか」
「!」
アマテラス……日本神話のアレでしょうか。
「随分昔の話だし、突拍子もないもの」
「そ、そんなに前、なんですか?」
「ええ……まだ歯も揃わなかった頃だから、乳幼児の頃だったかも」
そんな小さい頃に喋れる筈はない。少なくとも、普通の子供には。
「そ、それは本当に?」
「いえ。私の見た夢の話」
にっこり笑うミヤコさん。
「ゆめ……ですか」
「乳幼児が喋るはず無いし、神様の化身とか言われても信じるはず無いでしょ? だから、アレは夢。当時私は慣れない育児で大変だったから。本人はのほほんとしてたし……おっと」
……すみません。
のほほんとしてて。
あの当時は自分も余裕無かったから、ミヤコさんには相当助けられたと思うんだけど……お返しする方法も無いんだよね。
「ともかく、そういった事はルビーには無かったわ。アクアにも聞いてみれば分かると思うけど?」
「は、はいっ ありがとうございます」
すると、ミヤコさんがしゃがみ込んできて肩に手をかけてきた。
「お礼は、こちらから言うべきよね。ルビーの笑顔が増えたのは、間違いなくあなたのおかげよ」
「え……」
「それまでも元気だったけど、どこか焦った感じでもあったルビーが、ちゃんと目標を見据えて行動出来るようにもなった。同じ目線で動いてくれる子って、あの子には居なかったから」
……。
ミヤコさんは、母親代わり。
壱護さんがいれば父親の役は彼がやっていたはずだけど、アクアはその代わりをしていた。
それに、アクアは男の子だ。
同世代でも同性ではない。友達としての代わりにはならない、ということなのだろう。
「あの、もう一つだけいいですか?」
「やっぱり、ルビーのこと?」
「はい……初恋の人がいるとも、言ってました」
「は?」
途端に険しくなる顔。菩薩が般若に変わったみたいで凄く怖い。
「初耳なんだけど……」
「そ、そうですよね?」
「あの子……いつの間にそんな人……何かヒントはあったの?」
「あ、先生って呼んでたから、たぶん学校の先生か、お医者さんかも」
なんかこちらが詰問されてるみたい。すると、彼女は私の手を取って頼み込んでくる。
「月代ちゃん。ルビーのこと、好きだよね?」
「は、はい。それはもう」
「じゃあ、その人が誰か。探ってくれないかなぁ?」
……ミヤコさんスマイルで、なんかゴリ推してきた。あれぇ、そんな話だったっけ?
「新生B小町は始まったばかりなのに、スキャンダルとか有り得ないでしょ? 鏑木さんのビジネスチャンスを守ると思って。ね?」
それを言われると、断れないなぁ……
努めて笑顔で承るけど……内偵とか出来るかな?
月代:……でも。少し面白そう♪
(アマテラスの話はそっちのけで草)