プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
『……あと三十分』
左手の腕時計を見て時間を確認。かれこれ十五分は居るけど、特に苦にはならない。
何せ、人生初のデート♡
こんな演劇バカの私にもようやく巡ってきた春だもの。多少浮かれてても仕方ないじゃない。
思えば、友人と放課後カフェをしたこともない。色気も何も無い生活だった。
周りの子達よりも少しは見栄えがいいという自負はあるけど、なぜか私にはお声が掛からない。もちろん親に相談なんて出来るわけもないから、劇団の先輩
『あー。気後れするんじゃない? 隙が無さそうだし』
そうかなー。
私って、けっこう抜けてる所あると思うんだけどな。ララライの現場ではよく言われるし。接点が少なすぎるからそれが分からないのかも。
友達作りに積極的でない所も問題、なのかな? あまり他人に興味がないというのは自覚あるし。そういう所も含めて、殻を破りたいと思ったから今ガチを受けたわけだけど……まさか友達飛ばして恋人が出来るとは思わなかったなぁ。
ま、まあ。MEMちょさんとかゆきちゃんとかも友だちになれたし。ノブユキ君やケンゴ君ともロインの交換も出来たからそっちの目的も果たしてはいたんだけど。
「もう来てたのか……待たせた」
声をかけてくる、待ち人。
私は答える。物語のように。
「あ、うん。ちょっと、早く来すぎちゃった」
「そういう時は連絡してくれ。交換しただろ?」
「う、うん。そうするね」
スリムジーンズに白のTシャツ。薄手のブルゾンに、変装用の伊達メガネと簡素な作りのストローハット。コーデとしては普通すぎるけど、素材がいいからとても映える。
私の彼氏、すごくカッコイイ。
「こんなんで良かったか?」
「うんうん♪ とってもオシャレだよ」
「なら、よかった」
ほっこりと笑う姿は本当に綺麗。こんな人が私の彼氏とか、考えられる? 本当に素敵すぎる。
まあ、ビジネスライクなんですけどね()
「じゃあ、行こうか」
手を差し出すアクア君。
私は躊躇いつつも手を握り返す。
でも、思い直してみると。
最初のデートなんだからビジネスライクの方が緊張しなくていいかも。
ともかく、片意地はらずに楽しもう♪
・・
「……おー、あかねちゃん楽しそうだね〜♪」
「あの……やめません? るーちゃん」
街路樹に隠れた私達。
二人ともウィッグを被って帽子とメガネで完璧な変装してるけど、やってることがなんだかなぁ……
「お姉ちゃんになるかもしれないんだよ? 調査は必要じゃない?」
「そうかもですけど……」
ルビーの行動力は凄いなぁと感心するけど、ストーキングというのはちょっと褒められたものじゃないと思う。
今日の私たちはお揃いコーデ。ブラウンのジャンパースカートと、薄い青の長袖のニットタートルネック。細部は違うけど雰囲気はよく似てるように仕上がっている。
ちなみにほとんど●まむらとかユ●クロとかで揃えてる。お手頃お値段で家計もにっこり、だね。
「ほら、行こっ」
「あ、はい」
私の手を引くルビー。
もうすっかり私が手を引かれるのに慣れてしまった……心はおばあちゃん、かな?
二人は街を散策しつつお目当ての喫茶店に入る模様。
ちょっと前にテレビでやってた動物型のプレートが目印のクレープ屋さん。アクアがチェックしてたとルビーの発言から予想は立てたけど、ホントのこと言うと当たって欲しくはなかった。
だって。
『どう考えても、怪しい行動だもんね』
少し離れた席に座った女の子二人がカップルを監視してる様は、店員さんからも嫌疑の目で見られている気がする……ルビーがあからさまに視線送ってるからなぁ。
「るーちゃん、見過ぎです」
「え、でも。見てないとわからないよ?」
「ずっと見てないで。ちょっとずつチラ見しましょう」
「う、うん。なんか、スパイみたいだね」
楽しそうなのはいいけど、自分も目立つ容姿してるの気にしてないのは色々とまずいよなぁ。
周りの人達がこっちをチラチラ見てたりしてるんだから、目立たないようにしないと。
「ご注文、宜しいですか?」
「あ、はい。るーちゃん決めてますか?」
「え? あーと、つーちゃんと同じで」
「では、こちらの……」
適当にメニューの一番上のクレープを選ぶ。
プレートは私はウサギでルビーはネコ。クッキー生地で味がそれぞれ違うらしい。飲み物も適当に選ぶと、店員さんは離れていった。
「あっちは届いたみたいだね」
ルビーの言葉に視線を送ると、向こうのテーブルに店員さんが来てクレープと飲み物を置いていくのが見える。
「あかねちゃん、楽しそうだね」
「そうですね」
私のイメージから言うと、黒川あかねという子は生真面目な努力家。そして、演技の天才。何せ前世の私を完コピしちゃうくらいだから。
それはそれとして、本人自体は普通の女の子のように見える。才能が特化してても人格自体は至って健全。たぶん円満な家庭で育ったタイプ。
今ガチでは、アクアとの絡みがある前は少し焦っていたようだった。
けど、自分の得意分野だと気付いてからはアクアとの初々しいやり取りを経て、お付き合いするに至った次第……である。
ただ気がかりなのは、このお付き合いが『ビジネス』と位置付けられていることだ。番組でのカップル成立を義理立てての仮初の交際。
個人的な感想で言うと……全くもって有り得ない。
人のことを言えた義理じゃあないけど、お母さん的には許せません! ビジネスの付き合いなんてオトナになってからするもので、子供のうちはまごころをもって応対するものだと思うのです。
本当に、人のことは言えないんですけどねっ!
そもそも、あかねちゃんがそれを受け入れる事に問題があると思う。どんな理由があるのかは聞いてないし、聞きづらいし、理解しづらいけど。
「つーちゃん、どしたの? 顔、赤いよ?」
「うにゃ、何でも、ないです……」
最近、こんな事ばかりな気がする。
本当、どうしちゃったんだろ……はあ。
注文したミントティーが来たので一口飲んで落ち着こう……ふぅ。
さっぱりとした清涼感がたまらないですね。甘いものは嫌いじゃないけど、これだけクリームが多いと少し手強く感じます。ちなみにルビーはもりもり食してます……若さって凄いなぁ(おまいう)
「ねえ、るーちゃん」
「ふえ?」
「アクアさんとあかねさんの関係……どう思います?」
妹として、家族として。ルビーはどう思ってるのか。
もしかしたら、自分の方がおかしいのかもしれないと思ったから聞いてみることにした。
すると。
「そうだねー。有り体に言って『クズ男女の敵』って感じかな★」
「ひっ」
おおう……ルビーの目に黒い輝きが宿ってる。
「誠実じゃないよね、仕事を盾にしたお付き合いなんて。せんせだったら絶対そんなことしないもん」
「そ、そうなんですか?」
ちょっと話がそれたけど、初恋の人の話が出たから突っ込んでみよう。
「その、せんせ……という方は初恋の方、でしたよね?」
「うん♪ 優しくって、行動力もあって、頼れるナイスガイッ! 私の憧れのひとなんだぁ☆」
む。瞳の輝きが戻ってきた。
やっぱりルビーはこっちのほうが可愛いな。さっきのもミステリアスだけど。
「ど、どこでお会いしたんですか?」
「ん? 聞きたい? どーしよっかな〜、他ならぬつーちゃんだしなぁ」
あ、調子に乗ってる。少しイラッとしたけど、ここはのせておこう。
「お、お願いします。私も、初恋とか気になります」
「そうだよね〜、女の子だもん。気になる話題だよね〜」
テレテレしちゃって……でも、こっちも嬉しくなってくる笑顔だ。
「あのね、実は」
「何やってんの、アンタ達」
と、そこに怖い声。
こちらを見下ろして睨んでいるのは、かなちゃんだった。
「せ、先輩?」
「どうしてここに?」
「アンタがご丁寧にリアルタイムで画像アップしながら尾行してたとか呟いてたから止めに来たのよっ!」
え? 私はそんなことしてないけど、まさかルビーが?
ルビーはきょとんとしてスマホを見せてくる。そこにはお店に入る二人の姿を映した写真……あー、そういうこと、しちゃってたのかぁ……
「ダメだった?」
「ダメに決まってるでしょっ、いくら身内でもストーキングとか犯罪よ? しかも証拠写真まであげちゃって。さっさと消しなさい、バカモノッ」
かなちゃんにペチンと頭を叩かれるルビー。写真を撮ってたのは知ってたけど、即座にネットにあげてるとは思わなかった……この子、危ないなぁと本気で恐怖を感じたよ。
ちなみにこの段階で向こうの二人にも当然バレて。私たちは三人に対して謝罪する羽目になりました。
「まったく……帰ったら覚えてろ」
「まあまあ、アクア君」
「本当、モラルが欠如してるとしか言えないわ」
「ごめんなさい……」
「すみませんでした」
騒ぎを聞きつけた店員さんにアクアが話をつけて、それから退去することになった私たち。あ、クレープはちゃんと食べてから出てきたからね。
私たちへ向けていた視線をあかねちゃんにも向けるかなちゃん。
「あと、黒川あかねも。写真のアップはリアルタイムはやめなさいよ。こんなのがいっぱいくっついてきて面倒事になるからね」
「む、むう〜」
「むくれてんじゃないわよ、情緒子供か」
気持ちいいほどぽんぽん言うなぁ。かなちゃんのこういうトコは個人的には好き。ただ、一般的には敵を作りやすいから少し自重したほうがいいかな、とは思う。
「……今度の仕事、『つるぎ』役のオファー、来たでしょ」
「ええ。あなたも『鞘姫』役らしいわね」
「……負けないから」
「それはこっちのセリフよ?」
え? 『つるぎ』? 『鞘姫』?
それってもしかして……
「『東京ブレイド』、ですか?」
「ああ。舞台化するから出てくれってオファーがあったんだよ」
私の言葉に答えたのはアクアだった。あかねちゃんが言葉をつなぐ。
「アクア君は『刀鬼』役なんだって」
お、おお……
「すごく、ぴったりです。企画した方、わかってますねっ!」
「お、おう……」
うわあ、楽しみだなぁ。東京ブレイドは今の私のお気に入りの漫画。アニメも良かったけど、やっぱり鮫島アビ子先生の原作のほうが私は好きっ! 女性作家らしからぬ荒々しいタッチと細かな所まで描写する精緻さを兼ね備えた先生の漫画は全部買ってるし、アニメやグッズも取り揃えてる。それに、実は学校では漫研にもお邪魔して二次創作モノにも手を出してたりする。私はあんまり興味ないけど、敢えて推すのだったら『匁✕刀鬼』かな? ちなみに本筋で言えばやっぱり『刀鬼✕鞘姫』のカプが最強だと思ってる。途中から人気出てきた『刀鬼✕つるぎ』は、物語性として薄い気がするんだよね。だって、敵役だった陣営の子に惹かれる刀鬼なんて、解釈違いだと思わない? 刀鬼が鞘姫に殉じようとした設定を蔑ろにしてる気がするんだよね。そもそも、人気投票で話の筋が変わるとかあり得ないと思うんだけど、原作先生は神だからなぁ……そこを批判するのはどうかと思うけど。でも、やっぱり納得は出来ないよねぇ!?
・・
「なあ。コイツ、どうしたの?」
今ガチでのカップル成立の為のアリバイデート。それを出歯亀してた二人とそれを止めに来た有馬と一緒の帰り道で、月代の奴がいきなり黙りこくっていた。仕事の話してただけなんだが。
「つーちゃん、時々こうやって考え込むとこ、あるんだよね。お兄ちゃんによく似てる」
「は? 俺はこんな間抜け面してねえぞ」
「つーちゃんは可愛いに決まってるだろ、クズ男」
「そうだ、死ね。スケコマシ」
有馬まで乗っかってきた……お前、それは言いすぎじゃないか?
「たぶん、東京ブレイドが楽しみなんだと思うよ? 単行本全部買ってるとか言ってたし、『今日あま』の先生の伝手で貰ったサインとか自慢してたし」
「はー……」
いつもこまっしゃくれた雰囲気の月代も、年相応の子供だったのか。そう思うととても微笑ましい。
「招待するから見に来いよ」
コイツとあの父親の分くらいは融通してやろう。色々と世話になってるからな。そう言ったら、くりんと顔をこちらに向けて、きっぱりとした口調で。
「いえっ! 当然、お金出して行きますっ!(フンス)」
鼻息荒く、そう宣言していた。
……コイツも厄介オタクっぽいところ、あるんじゃなかろうか。そんな心配をしてしまった。