プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「やあやあ、娘が失礼したね。
「はぁい、パパ♪」
俺たちから離れた少女は壮年の男性の傍に駆け寄った。有馬と二人して視線で追う様は少し滑稽だったかもしれないけど、それは当然だろう。身も知らない男女に飛び付くなど、一般的な人間の行動とは思えない。
「鏑木さん、お久しぶりです」
「ああ、今回もお願いするよ、かなちゃん」
そう答える男が鏑木勝也か。見た感じそこまで特徴のある男には見えない。よくいる中年男性、というところ。
だけど、こちらを睨む視線は普通では無かった。まるで怨敵でも見つけた武士のような顔してる。本来こっちがそんな顔しなきゃいけないはずなんだけど、さすがに初対面にメンチ切るのは今後よろしくないので無表情でやり過ごすことにする。
「そっちの彼がアクアだったね」
「苺プロ所属、アクアです」
「娘が失礼した。済まないね、こういうことはあまりしない子なのだけど」
「鏑木
ちょこんと頭を下げて挨拶する月代。改めて見るとこちらは平凡とは言いづらい容姿だ。
「コラ、あんまりジロジロ見ない。失礼よ」
「お、」
有馬に肘で突かれた。少しぼうっとしてたらしい。
慌てて頭を下げる。
「すみません」
「いいって。私の娘は世界一可愛いからね」
「カワイくてゴメンw なんちゃって♡」
うお……
ヤバい、なんだこのかわいい生物。こんな衝撃を受けるなんてアイ以来だ。
あざとい仕草が自然に繰り出されてるけど、あざとさを感じさせない。ちょっと何言ってるか自分でも判らんが。
ちなみに鏑木の方も口を押さえて震えている。娘ラブ勢なのはまちがいなさそうだ。
「『それが始まり。』僕も月代もあの作品が大好きでね。そんな訳で声をかけさせてもらったんだ」
「そうだったんですか。恐縮です」
随分昔の話だが、俺の芸歴で言えばアレが一番なのだろう。結局、あれ以降の仕事は鳴かず飛ばずがいい所だった。
「あの頃とは方向性が変わってしまったけど、僕好みの顔立ちだよ」
え。
「鏑木さん、男女問わず顔のいい子が好きなのよ」
「そんなかなちゃんも、顔がいいって証だよ」
「やだもう。褒め言葉だと思っておきます」
少し不穏な響きがあったが有馬がすぐに補足してくれた。
なるほど。Pとしては顔面至上主義……なんとなく共感出来る。身の危険を感じたのは杞憂だったと内心胸をなでおろす。
「アクア君のキャストはいちおう最終話のストーカー役になっている。先方がイメージがよろしくないと断ってきたのでね」
確かに、ストーカー役なんてやったら清廉なイメージが売り物のモデルには良くないだろう。断るのも無理はない。
ストーカーに殺されたアイの子どもがストーカー役とか冗談にもならないが……この仕事を降りるわけにはいかない。
「精一杯、努めさせていただきます」
そう答えるしかなかった。
・・・・・・
「こちら原作者の吉祥寺頼子先生です」
「……はじめまして」
やや疲れた様子の吉祥寺先生。おそらく他のキャスト連中とも顔を合わせたあとなのだろう。紹介してくれたのは編集部の方らしい。あちらも胃が痛そうな顔をしてる。
そんな二人を前に私のできることは一つしかない。
「はじめまして。有馬かなです」
芸能界で培われたきれいな挨拶。実は大ファンなんだけど、そこは堪えて業界人に徹する。公私混同はダメ。
「有馬かな……ひょっとしてあの『ピーマン体操』の」
『ぐふっ』
ぬわ〜っ! ここでもお前が出てくるか、ピーマン体操っ! どんだけ知名度高いんだよ!
心のなかで呻くけど、そんなことは言えはしない。笑顔を絶やさず答える。
「オリコンチャート一位とか当時凄くヒットしましたもの。よく覚えてます。実は学生の頃ダンスでもよく使ってて、みんなで踊ってたんですよ。懐かしいわ」
私の黒歴史のおかげで先生のテンションが少し回復してくれたみたい……身を切られるように辛いけど。
「ピィマン、食べたらスーパーマン♪」
と、すぐ後ろにいる鏑木Pの娘がなんかしくさった。ご丁寧にバッチリポーズまで決めて何してんのコイツ。しかもドヤ顔である。
「うちの娘も大好きでして」
「そ、そうなんですか」
「一日三回は聴いてるっ! ヘビロテだよ?」
鏑木Pも親バカ全開だし。この人、ひょっとして面白い人? その娘の方はなんかめちゃくちゃ大ファンみたいだし。あー、どうもありがとねっ!(怒)
「かなちゃん主役ならバッチリだよ、せんせ♪」
「そ、そう。それは安心ね」
「そうだよ〜。泣き演技ばっかり言われるけど、ホントスゴいんだから」
にっこり笑顔で吉祥寺先生にも接してる。コミュ力おばけか。
「月代、少し大人しくしなさい」
さすがに止める鏑木P……だけど凄い嬉しそうなんですけど。なんだやっぱり親バカか。
「でもね、パパ」
くるりと振り返る月代ちゃん。
その雰囲気はそれまでとは、違っていた。
「このままだと、このドラマはダメになっちゃうよ?」
「つーちゃん、ちょっと」
アンタ、つーちゃん呼んでんのかよ。マジで親バカだなっ!(辛辣)
・・・・・・
不穏な言葉を残して、鏑木Pと月代ちゃんはすぐに席を離れた。残された私たちは、針の筵だ。
「……」
たぶん、吉祥寺先生もそれは薄々理解してる。
これがモデル事務所とのタイアップ企画ということ。イケメン男性モデルを起用して華やかな絵面だけを並べる動くモデル雑誌だということ。そこには自分の作品が必要な訳ではなく、有り体に言えば別の人の、別作品でもよかったのだということ。
だからこそ、原作にも出てなかったキャラを増やしたり、モブにもセリフを与えたり。多少を超えた改編の跡が散見された脚本は、今日あまとは言えないモノに成り下がっていた。ボリュームから考えるとそんなに深掘りできないのは分かるけど、今日あまらしさはあまりにも無くなっている。
「だってあの子達に演技なんて出来ないよ?」
「それは分かってる。でも、彼らを起用しないとこの企画は成り立たないんだ」
「パパはちゃんとした仕事にしたいんでしょ? ならやる事やらないと」
そんな会話が聞こえてくる。親子喧嘩するならもう少し離れたところでやってくんないかと思うけど。
顔が良いだけの子どもではないらしい。あの子の言ってることは間違ってない。
このまま制作を開始したら、今日あまとも言えない駄作が出来上がるのは日の目を見るより明らかだ。
「……俺も」
横にいたアクアがポツリと言った。
とんでもない言葉を。
「俺もこのままだとダメだと思います」
「ちょっ……アクア、ダメよ」
「お前もそう思ってるだろ、有馬かな」
「!……」
こちらを見据えるアクアに、言葉が詰まる。それは同意ともいえた。
「一つお聞かせください、先生」
「は、はい」
吉祥寺先生に問いかけるアクア。
それはまるで
「ちゃぶ台返しとか、考えてみません?」
──ああ。
なんていうことを言うのだろうか。
久しぶりに再会した
それより度し難いのは。
そんな彼が、とても眩しく見えてしまったワタシ自身だった。
エンディングにかかるのは当然メフィスト。次回予告は考えてません(笑)