プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「鳴嶋メルト……有馬かな、アクア」
鏑木が推してきた俳優のリストに並ぶ名前。雷田の推薦した鴨志田からは快諾が得られている。
2.5への造詣が深くないこちらにとっては経験のある役者は必要不可欠。だが、こちらも看板を出しての公演なわけだから何人も外注を入れるわけにもいかない。
ならばこの三人はと言うと、元より2.5に関わりのない所からの推薦。メンツには関係が無い。無いから断っても良かったのだが、そうさせない意図が隠されているのだからアイツは食えない。
今のうちの看板は姫川と黒川。その黒川とアクアは仕事上での交際関係となっている。これは集客的には美味しい素材であり、逃すわけにはいかない。
ならば有馬かなはというと、昔のネームバリューがある。しかも今年に入ってのネットTVとはいえドラマの主役を得ていたのだ。これも外すわけにはいかない。
鳴嶋はというと……まあ、外したほうがクオリティは維持出来る筈なのは間違いない。が、あの鏑木がわざわざ推してきた事が気にかかる。あと、顔がいいのは事実なのでセットとして引き受けることにしたわけだ。
配役も特に難航せずに決められた。うちのメンツの中で一番難しかったのは刀鬼役だった。
主役に姫川を使うとなると、顔が良くて若いのはほぼ居ない。無理すればみたに振れるが、アクアという駒のお陰でそれは避けられた。
「代表」
「ん? なんだ」
黙考している所に声をかけられた。
「なんだ、お前か」
「一杯、いきませんか?」
「奢らねえぞ?」
「自分で払いますよ。それくらいは稼ぎありますからね」
可愛げのないことを言う。
俺の若い頃は若手なんて雀の涙みたいな金しか手に入らなかったのにな。時代かな?
「むしろ、俺が奢りますよ」
「言ってろ」
タバコの火を消してから立ち上がると椅子にかけていた上着を羽織る。
「高い酒っての味わわせてやる」
「おお。ソイツは楽しみだ」
大きな声じゃ言えないけど、二十歳になる前から酒を嗜んでいたコイツはけっこうやる方だ。この方面でも最近の若い奴よりは見所がある。
タクシーの中で聞いてみることにした。今回の外部の人間について。
「どう思う?」
「面白い……かなぁ」
ほう。面白いときたか。
「有馬は例のなんとか体操のイメージが強かったけど、ちゃんと芝居出来てたし」
ピーマンくらい覚えろ、阿呆。
まあ、芝居に関しては正しい評価だ。今日あまでは慣れない座長だったと聞く。それでいて最終話の盛り上がりはかなりなものだ。
「アクア……は知らん」
「アレも今日あま出てたぞ? 最終話に」
「最終話……ああ、ストーカー役か。顔ほとんど見えてないから分からなかった」
スタッフロールに出てただろうが。
「演技指導って書いてたから裏方かと思ったんだ。なるほど……それなら面白い」
「お前、自分の言葉で言うと語彙力壊滅的だな」
「……勉強苦手だから」
その辺は知ってはいたけど、あれこれ言うつもりはない。何が必要で何が不必要かは本人の決めること。俺は父親じゃないからな。
父親と言えば。
「お前、今ガチの方は見てたか?」
「……なにそれ」
「まあ、そうだよなあ」
俺だって興味無けりゃ見ない代物だ。興味を引いたのはアイツの娘。まあ、黒川の方も気にはなってたけど、劇団以外のことには口出しはしない。さっきも言ったが、本人自体には干渉しない主義だ。
「俺の後輩の娘が出ててな。恋愛云々の話には関わってないがな」
「うん? 恋愛ものなの?」
「……まあ、だいたい合ってる。黒川も出てたんだ」
「ああ。そういう」
本当は少し違うのだが説明が面倒だ。にしても、興味のないことにはとことん乗らないな。分かっちゃいたが、やっぱりコイツも欠けている。
「見た目も可愛いが、なかなかに面白い素材だ。何年かしたら化けてるかもしれん」
「ふーん……可愛いのか。どんなの? 写真ある?」
「言っとくがまだ小学生だからな」
「なんだ」
聞いた途端に車窓を向いた。はっきりし過ぎてて清々しい。下半身でしかものを考えてないようだ。
「お前……浮名を流すにはまだ早いからな」
「分かってるよ。遊ぶ相手は選んでる」
今のところは信じるしかない。
しかし、子供ってのは親に似るもんだな。アイツらとおんなじにならなきゃいいが。
「ほら、この子だ」
俺はスマホの写真を選んで見せてやる。奴はちらりと見ると、惹きつけられるように凝視する。
「こいつ……居たな」
「はあ?」
「今日あまだよ。ガキのくせに消すのがやたらうめえのが居ただろ」
「ああ……ヒロインと話してたパン屋の子供か……まさか」
言われてみれば、髪と瞳の色が違うけど造作はよく似ていた……気がする。それにしても、モブまでよく覚えてやがるな。
「なるほど。確かにコイツは面白い……ところで、なんでこんなひらひらな衣装着てんの?」
「アイドルだからだよ」
「アイドル? コイツが?」
基本、自分のことしか興味ない人間だから当然知らないと思ってた。俺は柄にもなくそのアイドルの事を話してやる。
「B小町っつー昔のアイドルグループと同じ名前の四人目のメンバー。んでもって、お前もよく知る鏑木の娘だ」
「鏑木さんの……似てねえな」
「俺もそう思う。まあ奥さんに似たんだろ。スヴェトラーナっていやあ当時知らん男は居なかったからな」
来日してからすぐに人気が爆発したロシアバレエの至高の星。あの頃は若年層はB小町のアイ、大人はラーナに夢中だった時代だ。
「その忘れ形見がこの子、
「月代……」
さっきまでつまらなそうな顔をしていた奴が、不敵な笑みを浮かべている。よほど気に入ったらしい。
「親父、コイツ出せねえ?」
「役がねえ」
「なんかねじ込んでさ」
「無茶言うな。俺の原作じゃねえんだぞ?」
そんな事は簡単には出来ない。
「んじゃキャスト代えでよ。鞘姫なんてどうだ? 髪も似てるし」
「そいつは黒川の役だ。それに、歳が違い過ぎる」
大人っぽい子供ならまだ分かるが、この子はどう見ても小さい。相手役のアクアとの身長差がエグいことになることうけあいだ。
「ちっ、つまんねえな」
「そもそも一役者の意見で変えられる話じゃねえよ」
「まあ、有馬とアクアってのも面白そうだし。今回は我慢すっかな」
コイツはモチベーションを維持するのが大変なのだが、センスは抜群にある。だからこそ、板以外での活動も認めたし、自由にもさせているのだ。
「程々にしとけよ、
「ああ。分かってるよ、親父」
……その日は、結局潰れるまで飲んで奴の家で起きる羽目になった。俺も、もう若くないかな……
・・・・・・
「あら、久しぶりじゃない。そうそう、累計五千万おめでとう。アニメも良い感じで終わったし、ようやく一区切りって感じ?」
『はあ……実はまだ。なんか舞台化のオファーも来てるんですよ』
「あらら。売れっ子は大変だぁ」
『茶化さないで下さいよ、先生ェ』
電話の向こうでため息交じりの声を上げる後輩。昨日で脱稿したので今日は久々の手料理での晩酌。最近は宅配サービスとかばかりだったから買い物に行くのも一週間ぶりだった。
対して向こうは原稿の最中らしい。動画で会話しないのはそういうことだ。まあ、邪魔しないうちに退散するとしよう。
『先生……実はその件で、お願いがありまして』
「うん? どうしたの?」
『その……企画してる人たちとの顔合わせがあって、同席してもらえないかな、と』
「ええ……」
めんどくさそうな話が来た。けど、すぐに切り捨てる訳にもいかない。アニメの時も駆り出されたわけだし……この子、コミュ障だからなぁ。
「編集さんがオーケーしたらいいわよ」
『やった♪』
「まったく……」
成功し過ぎてて後輩とは言い切れないけど、人間的にはまだまだ若くて危なっかしい所がある。先達としては、目をかけていかないといけないかなぁ、なんて考えてると彼女が聞き捨てならない事を言った。
『今日あまの時の人がけっこうキャストされてるらしいんですよ。刀鬼役はアクアさんですよ?』
「ちょ……それを早く言いなさい」
『くふふ♪ 先生、やっぱあの人のファンなんだぁー』
こっちをからかう笑い声は、最近はあまり聞かなくなった気がする。
『これを機に急接近とか? 先生もそろそろ親御さんから結婚しろとかうるさくなってるんじゃありません?』
「よけいなお世話よ」
図星だから何もいえないけど。あー、まだ二十代の人間には分からないわよねー。
後日。予定の日時と場所が彼女の担当から伝えられた。脱稿直後はボロ雑巾のようだから無理もない。
「分かりました」
『すみません、先生。アビ子先生の仕事に巻き込んでしまって』
この担当は、かつて私の担当だった人。私から外れて彼女の担当になってのブレイクだから編集部内でも地位はそれなりに高い。そんな彼女だからこそ、無理押しも出来たのだと思う。
「構いませんよ。コッチは月刊だから余裕ありますし。それにメディアミックスには問題が多いのも承知してますし……」
『その節は、ウチのものがご迷惑かけてしまって。本当に申し訳ありません』
「済んだことですからお気になさらず」
今日あまも、最初はどうなることかと思っていた。勢いのある東京ブレイドにそんな事はあってはならないと、編集部としては細心の注意を払うべき案件なのだろう。
『私だけではアビ子先生の手綱が握れるか、少々心配でしたので。先生が来てくれるなら心強いです』
「私でも無理なときあるわよ?」
『はは……』
笑いが乾いてるなぁ。まあ、アクが強いから、あの子。
『2.5次元での舞台化はウチの編集部でも初なので、少々勝手が分かりません。確認や意見があればどんどんお願いします』
「やれやれ。マネージャーにでも転職しようかな?」
『そちらの連載もまだ終わる予定はありませんよね(ニッコリ)』
「笑顔が黒いわよ、昔を思い出すからやめてくれない?」
この笑顔でぐいぐい圧してくるのだからたちが悪い。あの子には効かないのかしら?
『うふふ。では、また。あとで資料もメールしますのでお読みになっておいて下さいね』
「分かったわ。それじゃね」
送られた資料には役職と関わってきた作品などが羅列してあった。責任者はイベント会社の代表、雷田。近年は2.5次元舞台を主に手掛けているようだ。他誌での漫画の舞台化を何度も手がけていて、経験は十分。脚本とも何度もタッグを組んでるらしい……一度観に行ってもいいかもしれない。
『そういえば、舞台とか最近見てないしな』
売れない頃は芸の肥やしの為に舞台や映画を何度も観に行ってたけど、軌道に乗るとその時間も取りづらくなって足が遠のいた。現場を見るというのは大事かも。
『でも、一人というのもなんだしなぁ……』
漫画家というのは交友関係はそんなに広くはない。正確に言うと時間の取れる人が多くない。
『これは、いい機会かも。うん、そうだ。そうしよう』
自分に奮起をかけて、スマホの連絡帳から電話をかける。登録はしても一度もかけたことのない電話に、図らずも彼はすぐに出てくれた。
『はい、アクアですが』
久しぶりに聴く推しの声は、やっぱり甘美でカッコよかった(語彙力)
姫川:なんか変な誤解受けそうな感じがする……言っとくけど、ロリコンでも下半身脳とかでもねえから。
金田一:顔のいい女に節操ないのは事実だろ
姫川:そうとも言う(素直)