プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
あかねファンの方、ごめんなさい。なんかヒロインがスティールかましちゃった(笑)
追記:誤字報告ありがとうございます。
「お待たせしました、吉祥寺先生」
「は、はい。時間通りですね」
最寄りの地下鉄からJRに乗り換えて、モノレールで競馬場駅で降りて歩くこと数分。イメージとしては倉庫街だったこの辺りも最近では近代的な建物が多く立ち並ぶ商業区に変貌していた。
待ち合わせの人は漫画家の吉祥寺頼子先生。おそらく三十代ではあろうけど、年齢を感じさせない。漫画家なんて引き篭もり一歩手前な職業で自己管理のできない人間ばかりだと思ってたけど、それは俺の偏見のようだ。
実際に会えば分かるが、彼女にはそういった要素は見当たらず、健康面も問題がなさそうに見える。それどころか初見時より若々しく見えるのだから、やはり日光の下というのは強い。
「おはようございます、吉祥寺先生」
「おはよう、月代ちゃん」
邪心の全く無さそうな笑みで受け答える月代。なんで関係のないコイツがいるのかと言うと、今回のスポンサー(の娘)だからである。
予約もしてなかった舞台のチケットをいきなり手に入れるなんて真似は先生や俺には出来ない。そこへ家に居た月代が鏑木に連絡してチケットを押さえてくれた訳だ。
『当然、月代も連れて行ってくれるよね?』
否と答えるわけにもいかず、事情を説明すると先生は少々のラグがあったものの快諾してくれた。
「私の方こそごめんなさいね。いきなり過ぎたもの。鏑木さんにはご迷惑をかけたわね」
「その辺はあまり気にしなくていいですよ? あの人、俺に勉強してこいとか言ってたし。投資のつもりだと思いますよ」
実際2.5次元というものがどういうものか、俺には分からない。これからやる舞台のために視察するのは無駄じゃない筈だし、劇団代表の覚えを良くするには必要なことだ。
「私も久々です♪ 面白いんですよ、2.5次元て」
「お前、観た事あるのか」
「はい、パパと一緒に『ぷっち・ざ・ろっく』という舞台を観ました」
それもマンガ原作だった気がする。確か場末の教会の神父だったプッチが救済のためにバンド活動を始めるとかなんとか。
いわゆるバンドモノだが、尖った作画に濃い登場人物のせいで他の作品とは一線を画する存在と評された。
「演奏するバンドがくるくる変わってとても面白かったです」
楽しそうに話すところを見るにハズレではなかったらしい。バンド物は舞台との相性は良くないと思うのだが……
「ステージアラウンドって、遊園地みたいなんです。体験してみれば分かると思いますよ」
「ほう……」
それは挑戦状とみた。
どれほど凄いものか、じっくりと拝見させてもらおう。
「あ、あの時にアクア君」
「はい?」
吉祥寺先生が何か言いにくそうにしている。ああ、そういうことか。
「月代、お前も行ってこい」
「へ?」
「先生と一緒に済ませてこい」
「なっ……!?」
すると。
なぜか足を蹴られた。
「デリカシー足りないですっ」
「な、なんだよ……」
わりと痛い。
月代は吉祥寺先生の手を取って一緒に会場内のトイレへと向かう。やっぱり行くんじゃん。
……俺、蹴られ損じゃね?
・・
「もー、まったく。男の子って時々あーなりますよね」
「あはは……」
ぷんぷんと怒ってる月代ちゃん。表情がころころ変わってとても可愛い。
化粧室で手を洗いつつメイクのチェック。いちおう身嗜みだからね。
すると、月代ちゃんも横でやり始めた。とは言ってもノーファンデらしくミストを足すくらいで、あとは髪型とかのチェック。若いって、いいなぁ。
それにしても、綺麗だ。
白銀に輝く長い髪もそうだけど、肌は透明感が高くキメも細かい。吹き出物なんて出たことないんじゃなかろうかと思うほどツヤツヤ。
「あの……」
「え?」
「その……ずっと見てられるのも、その」
「あ、ああ。ごめんなさい。あんまり肌が綺麗だから」
そう答えると嬉しそうに微笑む月代ちゃん。
「毎日ちゃんと食べて、運動もしっかりしてますから」
エヘン、と胸をそらしてわざとらしく言う姿も微笑ましい。
「歳を取るとダメよね〜。仕事で忙しいのもあるけど、色々と自堕落になっちゃうから。メイクで隠さないととても見せられないわ」
主語の『彼』は隠して言う。
さすがに恥ずかしいから。
すると、彼女は手を伸ばしてきた。ほっぺたをやわやわと触ると彼女はにっこり微笑んでから言った。
「弾力もあるし肌感も良いじゃないですか。わたし……私の知り合いの方よりも全然いいと思いますよ」
「ほんと?」
「はい♪」
あー……子供に慰められてる私って……
「私も触っていいかしら?」
「え? はい、どうぞ♪」
目をつぶってやや上向きに顔を上げる……うわ、ヤバいな。美少女のこんなショット、なかなか間近で見れないぞ? ちょっとスケッチさせてくれないかな、と考えたけどさすがに無理か。
遠慮がちに手を触れると、吸い付くような肌に驚く。それでいて滑らかで。実感して分かるけど、これはマズイわ。ずっと触ってたくなる。子どもってこんなに肌触りいいんだなぁ。
「……あの。もう、よろしいですか?」
「はっ……ご、ごめんね。ちょっと我を忘れて……」
「いえ。こちらこそ、お粗末様です」
顔を赤らめてそう答える彼女。
うわあ、可愛い。これも写真に撮っておきたい。
鏑木さんがよく娘の写真を撮ってるという話を聞いたけど、納得過ぎる。どこをとってもかわいいの具現化だわ。
「アクア君を目の敵にするわけねぇ」
「え? 何がですか?」
「いえ。鏑木さんがアクア君に対しての対応がね。こんなかわいい娘がいたら、近づく男にいい顔はしないだろうって」
そう言うと、彼女は少しだけ気まずそうに笑う。
「あはは……」
「今ガチも見てたわ。アクア君と本当の兄妹みたいで。あれだけ仲が良いと、お父さんとしては気が気じゃないでしょうね」
「そ、そうですね」
はにかみながら答える月代ちゃん。
けど、そのあと、小さな声で呟くように言った言葉。
それは、私の耳にこびりついて離れなくなった。
「兄妹じゃ、ないんだけどな……」
・・
『本当は親子なんです』
思わず、そう続けて言いそうになったのをかろうじて止められた。危なぁ……
「そ、そろそろ行きませんか?」
「そうね。そうしましょう」
少しだけ。彼女が気落ちしたように見えてしまった。
なにか、まずいこと言ったかな?
生まれ変わっても、そそっかしい所は治らないんだよなぁ。色々と先回りして防いでるけど、ホントはけっこうドジだったりするのだ。
「お待たせしました、アクアさん」
「おう」
ぶっきらぼうに返事をするアクア。最近、かなり砕けた感じになってくれてちょっと嬉しい。他人行儀でないのは家族の証だ。
『……』
……なんだろ。
なにかが引っかかったみたいなんだけど。どうにもそれが何かは思い当たらない。
「そろそろ始まります。行きましょう」
「え、ええ」
アクアが先生に声を掛けて先導する。手は握ってないけど、エスコートするような姿は堂に入っている。
『……』
私は、その後を続いて劇場へと入る。今は舞台を楽しむ時間だ。よく分かんないことは後回し♪
・・・・・・
舞台が終わった。なかなかアツい展開で良かった。この原作は読んでなかったけど買ってみようかな?
「なんというか、月代ちゃんの言った『遊園地』というのは確かに納得でした」
「ですね。まさか観客席が動くとは思ってませんでした」
おっと。二人が会話を始めたので私も参加しよう。ステアラの事を説明しないといけないからね。
「場面転換を素早く行うためにどうするか。それを突き詰めた方法なんだそうです」
「確かにな。あれだと焦点に当たってない所でセットを組んでおくことが出来る。映像作品の場合それは編集で出来るけど、このやり方なら臨場感を味わいつつ場面転換で冷めることも少ない」
アクアは利点をちゃんと分かってる。やっぱりウチの子、天才♪
「今の舞台って凄いわね。音も迫力あったし、風が吹いてる場面とか風がほんとに流れてくるし」
「ですよね。映像では体験出来ない感覚をアピール出来てるのは正直驚きました」
アクアが凄く感心してる。
「ふふーん♪ 楽しかったでしょ?」
「……いや、なんでお前、偉そうなの?」
おっと、素直じゃないなぁ。ちょっとうっとうしそうな顔でこちらを眺めるアクアに、吉祥寺先生はにこにことしている。
まあ、二人とも楽しめたみたいなだから良かった。
「やあやあ。月代ちゃんじゃないか」
すると、声をかけてくる人がいた。
「雷田さん♪ どうしてここに?」
「いちおうここのプロモーターだからね。毎度顔は出してるんだ」
サングラス姿でちょっとチャラく見えちゃうけど、仕事に関してはかなりこだわっちゃう人。雷田さんはパパの後輩であり、何度も顔を合わせた事がある。
「はじめまして、雷田です。月代ちゃんのお知り合いの方、ですよね?」
彼は二人に挨拶をする。ここは私が紹介しないとね。
「雷田さん。こちら吉祥寺頼子先生です」
「今日あまの吉祥寺先生ですか! いやあ、はじめまして。僕もあの作品大好きでして。ドラマも良かったです」
「は、はあ。ありがとうございます」
あらら。食いつき良すぎる雷田さんに先生の方が少し気後れしてる。
「雷田さん。レディに対して失礼ですよ」
「あ、そうだね。すみません、あんまりお若くて美人さんだから女優さんかと思いまして」
「ま、まあ……」
ほんのりと頬を染める吉祥寺先生……あからさまなお世辞な気もするけど、ひょっとしてチョロかったりしちゃう?
「それで、こちらのイケメンは?」
「こちらは苺プロのアクアさん」
「はじめまして。苺プロ所属、アクアと申します」
ペコリとお辞儀をするアクアに、雷田さんは合点のいったと頷いた。
「ああ、刀鬼役の。ということは、ステアラの偵察に来たのかな?」
「そのとおりです。どんなものか、観てみるのが一番早いかと思って」
「なるほどね」
……たぶん、パパの手配で手に入ったチケットはこの人が都合したのだろう。だとすれば、このやり取りも偶然ではないと思う。
「どうです? お時間が有りましたら、別室で歓談といきませんか? お茶とお菓子くらいは用意出来ますから」
なので、私が乗っておこう。
「いいんですか? アクアさん、先生もどうでしょう?」
くるりと振り返ると、先生は少し嫌そうな素振りが見える。けど、アクアの方は興味ありそうだ。
「先生、かまいませんか?」
「え、ええ……手短にお願い出来ますなら」
彼の言葉に先生は頷く。
少しだけ頬が染まっていて、嬉しそうで……ひょっとして、先生って。
『……』
またしても、胸の奥の違和感。
なんなのだろうか。
ともかく。私たちは会場に向かって戻ることになった。
月代:(前世の私より肌ぴちぴち……やっぱあの生活って体に良くないんだなぁ。それにしても先生、アクアのこと好きなのか……)