プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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前回の続きです。いやあ、少し難産でした(笑)


密室での談義(怪しい意味はありません)

 会議室のような場所に招かれた俺たち。ペットボトルのお茶と(昔の家に常備していたような)徳用和菓子を出された。

 

「うわあ、懐かしい」

「お前、こんなの食うの?」

「むかし……おばあちゃんちで頂いたんです。かわいいですよね♪」

「……そうか?」

 

 一口大の饅頭やらなんやらが入ったものだけど、まだ売ってるんだな。どこで売ってんだろ?

 

「若い子にはあんまりウケ良くないと思ってたけど、意外だね」

「そんな事ないですよ? 私は好きです」

「あはは」

 

 知り合いだからか、月代と話してる雷田氏は朗らかだ。一口で入ってしまいそうな菓子を少しずつ齧っては咀嚼する月代……うちでご飯食べてる時よりあざとくしてる。コレだから女というのは怖すぎる。

 

「それで、お話というのは何でしょうか?」

「ああ、実はね。脚本家のGOA君から初期稿が来た所なんだ。まだ金ちゃんにも見せてないし、出版社サイドにも提出してない門外不出のシロモノだよ」

 

 さらりと言ってのけるこの男の胆力もなかなかに強い。それは一介の役者に見せてよい類のものじゃないはずだ。

 

「それを……なぜ俺たちに?」

「いやあ、鏑木ちゃんから聞いてたからさ。今日あまの一件でね」

「「「!」」」

 

 繋がっているのは知ってはいたが、それを理由に接触してくるとは。

 

「誤解しないで欲しいんだけど、僕らだって悪いモノを進んで作りたいわけじゃない。予算やらなんやら色んな事が重なり合って、結果として駄作になる。その折り合いを判断するのが彼の仕事だったわけで、決していいものを作る努力をしてなかった訳じゃないということは理解して欲しいんだ」

「……だから、先に釘を刺しにきた、と。そういうことですか」

 

 少し困惑した様子の吉祥寺先生。月代の方は特に怯えた様子もない。

 

 企画側からしたら俺たちは問題児というわけか。鏑木がどこまで関わってるかは知らんけど、コイツは警戒してる訳だ。

 

 そう考えてはいたが、彼は飄々と続きを話す。

 

「ちょ〜と違うかな?」

 

 懐から出したコピー用紙の束を見せて彼は言う。

 

「先に洗い出そうと思っただけだよ」

 

 ……なるほど。

 

「君たち三人は鏑木ちゃんのプランを変更させる事に成功した。後になってそんな事されたらこっちは目も当てられないからね? 先に問題点を解決出来るならその方が合理的だと思ったんだ」

 

 そう語る彼はあくまでもにこやか。これは、最初からそのつもりだったな?

 

 彼は吉祥寺先生に向かってこう言う。

 

「聞けば原作者のアビ子先生とは師弟関係であらせられるとか。吉祥寺先生にチェックして頂けるなら彼女との擦り合わせも上手くいくのではないか、と愚考致しました。どうでしょう? ご協力お願い出来ませんか? 吉祥寺先生」

 

 ……ふむ。言ってることは至極真っ当なことかもしれない。いいものを創るために協力して下さい。なるほど、言い分は分かる。

 

 確かに俺達は、今日あまの時にはそうした。だが、それは吉祥寺先生が原作者であったことが大前提。

 俺やその時には出番すら無かった月代が文句を言っても聞いてもらえる余地はなかったのだ。

 

 今回の件で言えば、吉祥寺先生は原作者自体ではない。鮫島先生からの全権委任を頂いている訳でもない人間に、そこまでの発言力はない。この企画においては彼女は外部協力者という枠組みにすら入るか怪しい。

 

 では俺はとなると、そんな権限は無い存在だ。一役者が企画や演出などに意見するのはご法度だと言われてはいる。もちろん例外が無い訳じゃないけど、今回がそれに当てはまるのかは疑問が残る。

 

 月代はというと、完全に外部の人間でしかも子供だ。鏑木自身も今回の企画には直接は関わってないという話だし、身内のコネというモノも期待は出来ない。

 

 つまり、協力するべき理由が無い。ここで報酬が出るわけでもなし、むしろ出たとしたら余計問題になる可能性もある。

 

 吉祥寺先生のほうを見る。

 

 考えている様子だが、どう見ても好意的ではない。それはそうだろう。

 

 面倒な用件かつメリットが少ない。彼女の立場から言えば後輩とは言え別の作家の作品だ。あれこれ文句を言えば角が立つし、それが伝聞すれば彼女自身の評価が下がることにもなる。

 それまで良好だった師弟関係をご破産することにもなりかねないし、賠償問題も起こりかねない。

 

 リスクしか無いと言ってもいい案件だ。さすがにこれは断るべき。もし、彼女が迷うようなら俺が止めるしかない。

 

「この脚本を読んで感想を言う。それだけなら出来ますけど、それ以上は出来ません。この原作はアビ子先生のもので、師であっても汚してはいけない領分ですから」

 

 自分の立場を理解している吉祥寺先生。言質を取られないように返答している。

 

「ええ、それはもちろん。何かを期待しての事ではありません」

「それでしたら、お引き受けします」

 

 頷く先生に俺は内心焦っていた。意外にガードが甘い。

 

「いいんですか? 妙なことにならなきゃいいんですが」

 

 大人の話に口を挟むのは褒められた事ではないけど仕方ない。

 でも、彼女は手で制して話し続ける。

 

「ここで知り得た事は口外しないし、そちらも追及はしない。そうですよね?」

「もちろん。あくまで感想をお聞きしたいだけです」

 

 雷田がにこやかに言うけど、そのサングラスの下の目は笑ってはいないはず。それを受けて先生は頷いた。

 

「では、読ませて頂きます。アクア君と月代ちゃんは帰っても……」

「いえ。お付き合いしますよ」

「旅は道連れ世は情けとも言います。ここでさよならはしたくないです」

 

 俺の返答に続いて月代もそう答える。なに考えてやがる?

 

「あれ? アクアさん、私のこと本読む子だとは思ってなかったのですか?」

「……少なくとも文学少女らしくはないからな」

 

 心のなかで訂正する。彼女が本を読む姿は容易に想像できた。それを言いたくなかっただけだ。

 

「むう……確かにマンガやラノベの方が多いとは思いますが、一般小説だってちゃんと読みますよ?」

「例えば?」

「最近は安部公房の『箱男』を読みました」

「「おう……」」

 

 ちなみに今の声は俺じゃなくて話を聞いてた吉祥寺先生と雷田だ。

 

「いいか、月代。『密会』だけは読むなよ」

「! オススメなのですか?」

「フリじゃねえから。マジで読むな」

 

 子供にはまだ早い。ていうか下手したら心を病む可能性すらある。鏑木(アイツ)……子どもの読む本くらい検閲しておけよ。

 

「まあ、アレを読めるならいいか」

「やった♪」

 

 手を叩いて喜ぶ月代。その仕草がなんだか誰かと被る。いかんな、俺も絆されてきたのかな。

 

「けど、本は一冊しかないんですが。コピーとかあります?」

「すみません。初期稿なんでそれ一部だけです。改訂稿が出来た段階で廃棄していく手順なんで」

 

 情報漏洩防止上致し方無し、か。

 

「では、こうしましょう」

 

 

 

「……おい」

「もう読みましたよ、アクアさん。次のページへお願いします」

「え、月代ちゃん早いわ。も少し待って」

 

 目の前の雷田は声を殺して笑っている。それもそのはず。

 

 俺を中心に右に月代、左に吉祥寺先生がぴったりとくっついて一冊の脚本を読んでいるのだから。

 

 ていうか、吉祥寺先生胸が当たってるし。そちらを見ると顔を少し赤らめている妙齢な美人の顔が間近に。こうやって見るとどストライクだわ。前世の俺だったら間違いなく口説きにいってる自信、あるよ。

 

 でも、今の俺はアクアであり。年齢もまだ十五だ。下手をすると彼女が淫行で捕まりかねない。耐えるんだ、吾郎……

 

 そのために反対を見ると。

 今度は圧倒的な顔面偏差値を誇る美少女。てえか、解像度が高ェな、なんだコレ。4K超えて8Kいってないか? 幼いからたつとかそういうのではない。例えるなら時々無防備な姿で接近してくる不肖の妹みたいなもの。アイツ、俺のことなんだと思ってるんだ? バスタオル一枚でリビング彷徨くとかバカなの? あー、アイツの顔思い出したら少し冷静になれた。感謝するぞ、ルビー。

 

「アクア君、次、いいですよ」

「あ、はい」

 

 言われるままにページを送る。今のとこ読んでなかったけど、まあいいか。二人が読んでたなら何とか誤魔化せるだろう。

 

 しかしまあ……両手に花とは、嬉しいもんだ。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「さて、如何でしたか?」

 

 読み続けること約一時間。健全な男子には些かキツい時間がようやく終わった。吉祥寺先生は離れてくれたけど、月代はなぜか離れてくれない。

 

「……」

 

 あ、長考入ってるなコレ。

 俺も時々やるんだけど、考えに没頭すると周りが見えなくなる事がある。

 まあ、放っておいても問題は無い。月代の薄い胸では、何も刺激されないからな。

 

「あの舞台でやるという事なら、こんな感じの脚本で良いのかと思います」

「おお、好感触」

「でも、アビ子先生の逆鱗に触れそうな所も沢山ありました。あの子、キャラ愛が強いんですよ、凄く」

 

 なるほど。確かに原作とは違うムーブをしてるキャラが多い。

 

 一番目立つのは好戦的な鞘姫だけど、その他の所も随所に変更点が見られる。ブレイドは面白みのない戦闘狂だし、つるぎには可愛い要素が見られない。キザミは出番が大きくカットされて、俺のやる刀鬼に関しても鞘姫に対しての感情が不透明。原作に一番近いのは匁と百目くらいかな?

 

 思うに、新宿と渋谷という対立構造を明確にしたいという意図から余分なノイズを極力外した結果の代物と言える。キャラ愛が強いというアビ子先生には到底受け入れられないだろうと予想がつくのは当然なことだ。

 

「おそらくこれではリテイクしてきます。確実に」

「まあ。一発で決まるなんて有りませんから、そこは承知してます」

「それならいいんですが……」

 

 吉祥寺先生が歯切れ悪そうに言う。彼女の抱える不安は、容易に分かる。

 

「先生は問題に発展する、とお考えなわけですね?」

「……はい。あの子、気に入らない事は突っぱねるから」

「うーん……根気強く詰めていくしかないかなぁ」

 

 ここで気がついた事があったので手を挙げる。雷田が「何か?」と聞いてくれたので意見を言うことにする。

 

「こういう擦り合わせって、直接やり取りするんじゃないですよね?」

「? ああ、そうだよ。先生には先生の仕事もあるし。あと、権利関係の会社の人も間に入るからね」

 

 だとすると、伝言ゲームと同じ形になる可能性は高い。双方の要望通りの擦り合わせは事実上出来ないだろう。

 

「今はweb会議システムも充実してます。権利会社の方も交えて、話し合ったほうが早いと思いますが」

「あー……それねー……」

 

 頭を掻いている雷田。何か不都合な事でもあるのだろうか。

 

「直接会うと、どうしても喧嘩腰になっちゃう場合も多いんだよ。結果として間に人を挟んだほうが荒れないケースが多くて」

「まあ、分かりますが」

 

 ムカついてる相手と画面越しとはいえ対面してるとなるとカッとすることはあり得る。たぶん、何回かそういった事があったせいで乗り気ではないのだろうと予想出来る。

 関係が悪化するよりはマシな弱腰な対応と言えるけど、そもそも話がご破算になっては意味が無い。危険性はなるべく排除したいのだろう。

 

「でも、相手の主張が正しく伝わってないケースも有り得ます。一度だけでも、直接お会いして話すべきだと思います」

「そうですわね。私も担当とはなるべく顔を合わせて話をすることにしてますし。お互いに言ってることが食い違うというの、結構ありますから」

「……一考、してみます」

 

 吉祥寺先生の助けもあって、雷田は渋々折れてくれた。でも、確実とは言えないよなぁ……話し合いだけでは足りない気がする。

 

 すると、月代が勢いよく挙手をした。

 

「雷田さん、いいでしょうかっ!」

「は、はい? なんだい、月代ちゃん」

 

 驚く雷田に、月代は鼻息荒く言う。

 

「アビ子先生を、この舞台にご招待されては如何ですかっ?」

「この舞台……今のに?」

「はい。やっぱり、ステアラは体験してみないと分かりませんからっ」

 

 目をキラキラと輝かせて、そう語る月代。……なるほど。確かにそれは一理ある。

 

「百聞は一見に如かず、か」

「そう、それですよ、アクアさん♪」

「舞台の仕組みを知っていれば、脚本の意図も理解出来るかもね」

「な、なるほど」

「あと、原作者先生を無視してない、というアピールにもなりますね」

 

 招待することによってアビ子先生を饗すという意味も加わる。

 原作者なのに置いてきぼりな企画というのは面白くないはず。自分を蔑ろにしていないという姿勢を見せるのは悪くはない。

 

「確かにいいアイデアだ。早速手配してみるよ」

 

 雷田はにこやかにその場を離れた。いや、門外不出の脚本、そのままなんだが。

 

「これで、うまくいくかな?」

 

 先ほどとはうって変わって、大人しそうな表情を見せる。何ともはや、ころころと変わるな。

 

「まあ。部外者に出来ることなんてほぼ無いんだ。気に病む必要は無い」

 

 そう言って頭を撫でる。

 

「くふふ……♪」

 

 嬉しそうに目を細める月代に、少しだけ俺も嬉しくなった……気がした。

 




吉祥寺:(ああ。やっぱりこの二人はお似合いだなぁ……さよなら、私の恋……)
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