プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「戻ったわよ」
「お疲れ」
日曜の今日は一日使っての収録。新生B小町はじわじわと知名度を上げつつあり、地上波からのオファーもぽつぽつ増えてきた。
俺は事務所で事務処理。
まあ、東京ブレイドの件はまだ顔合わせもしてないので当分は暇。
ミヤコは新しく入った人とみんなの引率に行っていた。ぞろぞろとみんなが入ってくるけど、雰囲気がおかしい。
ミヤコと有馬は不機嫌そうに、ルビーはこっちを睨んでいる。メムと月代は脂汗を流してるんじゃないかと思うほど顔色が悪い。まごまごしてるのは新しく入った鈴城さん。顔立ちがかわいいと思ったら、大手グループに所属するアイドルだったという話だ。
「アクア、ちょっといいかしら?」
有馬が俺を呼ぶ。
字面ではそうは見えないけど『ちょっとツラ貸せよ、ああん?』みたいにしか見えない。俺、なんかやったか?(犯人はいつもそう言う)
そそくさと奥へと引っ込むミヤコと鈴城さん。応接間の数少ないソファーはB小町のメンバーで埋められてしまうので、俺は事務机からキャスター付きの椅子を引っ張り出し座ることにする。
「昨日、出かけてたって聞いたけど」
「ああ。2.5次元の偵察にな。その話はしたろ? だよな、月代」
「は、はいっ」
何故か少し慌てた様子の月代に俺は訝しんだ。会話の経緯としては『2.5次元の舞台予約取ってない』→『パパに聞いてみます』→『ちょうどチケットがある、明日だけど』という流れだったはず。
「そうだね。お兄ちゃんはそう言ってたし、つーちゃんも同伴しろって言ってたもの」
ちなみに昨日の仕事にはメムと月代に出番が無かった。ネットラジオでの仕事で、スタジオが小さいからあまり多くの人間は呼べなくて、基本二人ずつなんだとか。
「月代と出掛けるって話は最初に言ったろ? また蒸し返すつもりか」
「それは別にいーの。私が言ってるのは、なんで吉祥寺先生が一緒だったのか、ということっ!」
……え?
言ってなかったっけ?
確か、吉祥寺先生から誘われて、チケット取れなくて。で、月代にその事を話したけど……あ、先生の事だけ言ってなかったわ。
「あー……そんなに怒ること?」
デートって訳でもない。
ただ単に観劇してきただけだし、それに月代もいる。妹分がくっついててデートとか有り得んだろ?
その後だって食事に行ったわけでもない。まあ、少し高めの喫茶店でお茶はしたけど。やっぱり出かけてそのまま帰宅なんてのはマズイだろうし(男として)
ちなみに金払おうとしたら折半にされた。まあ、男って言っても歳下だしな。向こうも立てなきゃ(月代も払おうとしたけど断固として断った)
「コレ見なきゃ、そう思ってたんだけど」
「あ」
シュバッ、て音がしてそうな動きで月代のスマホを奪い、ちゃかちゃか動かしてから見せてくる。日頃モラルを説いているお前がそういう事するの、どうかと思う。
「これを見て何かある?」
「……昨日の、吉祥寺先生だが」
「こっちが前にお会いした時の現場での写真よ」
見せ比べられて、ようやく気付いた。めっちゃ、気合入ってるな。前の時は仕事って事もあるけど、ノーマルなジャケットにパンツ姿。でも、昨日の衣装は……
「髪のセットはもちろん、上から下までブランド物で揃えてる。下品にならないよう控えめなモノトーンで合わせてるし、あとこのベレー帽は少し気になる。どこのか教えて欲しいっ!」
有馬が言ってくれたから助かる。
なんというか秋の女性向けコーデの見本のような感じか。言われるまで気付かなかった俺も大概だったな。猛省せねば。
「どお見てもデートに行く装いでしょ?」
「まあ……ソウダナ」
目を逸らして答えると「目ぇそらすなっ」とキレてくる。なんだよコイツ、カルシウム採ってる?
ちなみに、そらした先に居るのはうちの本物の妹。こちらもなんか頬が膨れてる……なんか怒ってる?
「……デート……じゃ、ないんだよね」
「お、おう……だから月代も居たんだから。そんなわけ無いだろ」
なんだか浮気の現場を押さえられた旦那みたいになってるけど、どうしてこうなった?
「仕事の一環だって話なのは分かった」
頬が萎んでむっつりとしながらルビーが言う。有馬よりかは御しやすそうだ。
「次の舞台はやったこともない仕掛けがあってな。普通の劇とは違うけど勝手が分からないと困ることになる。だから、偵察という目的で行ったんだよ。決して、デートではない」
そもそもデートするんなら観劇とかは上級者向けだ。最初はもっと会話出来る場所を選ぶべき。
「被疑者の弁には一考の余地があります」
「……お前。意味わかって言ってるか?」
どこかの刑事物のセリフで聞いたことあるぞ。
「……なんで吉祥寺先生が一緒だって言わなかったの」
有馬がジトッとした目でこちらを睨む。
「だから言い忘れただけだよ。他意は無い」
「本当に?」
「あったら月代を連れて行ってない」
「まあ……そりゃ、そうか」
妹(みたいな奴)を連れてデートするアホがどこにいる。
同意を求めるために月代へと目を向ければ、彼女はなんだか申し訳なさそうに頭を垂れている。
「……すみませんでした」
「なんで謝る?」
「私が……うっかり写真を見せてしまったから」
そういやシアターの外観とか喫茶店とかでも写真を撮ってたな。許可はちゃんと取ってたし、特に叱る理由もないんだが。
「それこそ謝る必要は無い。勝手に怒ってるのは有馬とルビーだ」
「ちょ」
「お兄ちゃん、それはひどくない?」
否定してくる二人を睨みつける。二人はピタリと止まった。
「仮に俺がデートして来たとして。お前らが俺に怒る理由はあるか?」
「そ、そりゃあ……同僚として」
「理由が弱い」
有馬を一刀両断。うぐっ、とくぐもった声を出す有馬。
「い、妹としては兄の交際関係には一言物申せるのでは?」
「お前な……ブラコンか?」
「ブ、ブラコンじゃないしっ!」
「なら黙っておけ。ちなみに俺はシスコンだからお前の交際関係には強く干渉するぞ」
「お、横暴だぁ……」
ルビーが少し涙目になってるけど、ここは厳しく対処する。そもそもこいつらにアレコレ言われる道理がないんだ。
「まあまあ、アクたん。二人とも心配してただけだから」
「メム……」
事の成り行きを見てた彼女が仲裁するように言ってくる。
「大人の女性と一緒に出かけたってだけでも気になるものよ」
「たぶん、お前と出掛けてもそうはならない気がする」
「グサッ ヒドいなアクたん……」
すまない。少し気が立ってて。
「だから言ったでしょ? 仕事で動いてただけだし」
ガチャリとドアを開けてミヤコが戻ってきた。後ろにいる鈴城さんは少しお疲れの様子。
どれ、この場に居ても居た堪れないし。コーヒーでも淹れてやるか。
「みんな、コーヒーでいいか?」
「あ、私がやります」
「いいって。出かけて来たんだからゆっくりしてな」
新人はお茶汲みするものだ、なんて前時代的。今はやれるやつがやればいい。
給湯室でお湯を沸かす。
あいにく事務所にはインスタントしか置いてない。わざわざ上まで行くのもアレだし、公私を分けるという意味で仕事中はインスタントにしている。まあ、手軽だし。
「アクアさん……」
「……なんだ」
もうすっかり聞き慣れた声に、振り向かずに返事をする。
「あの、すみませんでした」
「謝罪はさっき聞いたよ」
あいつらが勝手に勘違いしてるだけで、迷惑を
「あんまり真に受けないほうがいいぞ」
「へ?」
振り向いてみると、完璧な美少女の少し間の抜けた顔。よほど意外なことを言われたと見える。
「あいつらのことだよ。特に有馬とルビー」
「ええと。それはどういう……」
頭が良いとは言っても人生経験自体は実年齢らしい。転生者かと思ったこともあるけど、どうやら違うようだ。……いや、ルビーの例もあるから早計はしないほうがいいか。
「レクリエーションなんだよ、アレは」
「レクリエーション……心身の緊張や疲れを癒すために、休息をとったり娯楽を楽しんだりすること、ですか」
「お前、ウィキ●ディアみたいな覚え方してるな」
そう茶化すと少し怒ったような顔になる。ふむ、味わいのある感じでよろしい。
「まあ、そのまんまの意味だ。新生B小町としての活動が始まって、段々とストレスも増えてくる。適度な身内の悪口なんかはストレス発散には丁度いい」
「ははあ……でも」
口を尖らせて不満の意を表す月代。こういう仕草はルビーと似ている。血は繋がってない筈なのに、関係が深くなると似てくるのだろうか。
「貶めるような発言は、良くないかと」
「本気じゃないよ」
アイツが本気で貶めてくるようになったら、たぶん俺は泣く(真剣)ルビーも同じだ。ガチで責められたら、俺は両手を上げるしかない。
「まあ、動物の甘噛みみたいなものだ。痛いけど、我慢は出来る。そもそも悪いことはしてないんだから気に病むこともない」
そう語ると、月代はほう、と息を吐く。
「……アクアは、大人だね」
「そんな事ねえよ。役割分担ってだけだ」
……いつもと違う口調に、少し違和感。敬語じゃないからか。まあ、そんなことにムカつく筈もない。むしろ、砕けた感じでいいと思う。
お湯が沸いたので火を止め、ポットへと移す。電気ケトルとか便利なんだけどなぁ……ミヤコはこういうとこケチるから。
「お前も遠慮なんかするな。おんなじ事務所の同僚なんだから、嫌なことがあったらちゃんと言え」
背を向けたまま、そう言った。
「……でも」
「いつまでも他人行儀だと肩が凝る。それとも壁を作ってもらったほうがいいのか?」
少し意地悪な言い方をわざとする。ついでに顔だけ振り向いてニヤリと笑ってやると、向こうもようやく理解したのか、表情が軽くなった。
「りょーかい。じゃあ、遠慮はしないでいくからね♪」
「おう……でも、抱きつくとかそういうのはやめろ? 俺が社会的に死ぬから」
コーヒーを淹れつつ、そう言った。だが、反応が無い。
「ん?」
後ろを見ると。
「そ、そんなことしないし」
と、顔を真っ赤にして呟いていた。そして足早に給湯室から出ていく月代。
「……そりゃあ、ズルいだろう」
頭を掻いて誤魔化したい気分というのは、こういうのなんだろうな。
ちなみに、コーヒーはいっぺんに運べなかったので往復した。あの事務所、狭くない?(狭い)