プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「どうしたの、つーちゃん?」
「え? な、何が?」
「なんか物思いに耽ってる気がしたから」
「そ、ソンナコトナイヨ?」
嘘だ。
いかに僕がクソボケな父親だとしてもそれはわかる。何かあったな、心境の変化とかそういうの。先日の雷田君の所のチケット融通したの、失敗だったか?
吉祥寺先生というストッパーが居るから安心して送り出したのに。やはり害虫は根絶せねばならないのか。アイツに決まってるんだ、つーちゃんにこんな顔させる奴なんて。
家に帰ってきてからこっち、ぼうっとしてたり顔を赤らめたり頭を振ってたり。可愛い子だから何をしててもかわいいのだけど、奇行が過ぎる。せっかく温めたホットミルクの湯気がかなり減ってしまうまでそんな事をしてるのだ。
何かあったに決まってる。
僕は、意を決して問いただすことにした。
「アクア君に、何かされたのかい?」
「!」
驚く表情に暗い影はない。嫌な事ではなかった?
「……敬語で話すの、やめてって言われたの」
「ああ、なるほど。知り合ってから随分経ってるしね」
なるほど。一段階詰めてきたか。
やはり同伴させないほうが良かったか? 吉祥寺先生が一緒なら妙な雰囲気にはならないと思ったのだが。
「彼は歳上だからね。敬語を使っても不思議はないけど?」
「壁を作ってるって言われたの。そんなつもり、無かったんだけどなぁ」
おのれ、害虫。
愛しい娘にこんな物憂げな顔をさせるとか。とりあえず隠れて無音モードで一枚撮っておこう。パシャリ。
普段はあまり見せない表情を引き出してくれた事には感謝するが、それはそれ。
おのれ、アクアァーッ!(心の叫び)
「ま、まあ気にすることではないよ。『男女七歳にして席を同じゅうせず』とも言うからね」
「パパ……わたし、七歳じゃないもん」
「いや、そうだけどそうじゃなくてね」
拗ねる姿も愛おしい。
ああ、天使というのは居たのですね(真理)
「言いたいことは分かったけど」
テーブルに肘を立て顎を乗せて呆れているポーズ……行儀悪くても可愛いものはかわいい。もう一枚撮っとくか(パシャリ)
「敬語で話せなくなると、何か問題でも?」
逆に問いかけてみる。
視点を変えれば答えが見つかることは往々にしてある事だ。
「……気安すぎるかな、と思ったの。ほら、学校とかでも基本敬語だし。お仕事ではもちろん敬語使ってるし」
月代の通う学校は小学校から高等学校までの一貫してる女子校。基本的には敬語での受け答えが必要とされている。
また、仕事の現場ではその方が好都合なのも確かだ。礼儀正しい子供は現場でも使いやすく、接しやすい。
他人との距離を詰めすぎないというのは人付き合いの基本でもある。ある程度の距離がある方がお互いやりやすいのだ。
でも、それはあくまで一般的な話であって。月代が思い悩むのはもっと違うことかもしれない。
だとすれば、父親として言えるのは一つだけ。
「別に気にしなくてもいいと思うよ?」
「パパ?」
「無理に直す必要もない。敬語のほうがやりやすいならそのままでいいよ」
「……そっか。そうだよね」
「それに、そういうのはいざという時に出すくらいの方が効果的だ」
「なるほど♪ ナイスアイデア、パパ」
手を叩いて喜ぶ月代。
……あれ?
僕……余計なこと、言った?
・・・・・・
後日、雷田君から連絡があった。
鮫島アビ子先生をご招待(同伴で吉祥寺先生も)したら、大好評だったらしい。
その際に上がってきていた初期稿を見せた所、その場で二人しての訂正が発生。かなりの部分に修正が入ったけど脚本のGOA君には逆に喜ばれたとか。
『作品の方向性は随分変わっちゃったけど、いいものになりそうだよ?』
「そいつは良かった。僕としても骨を折った甲斐があるってものだね。やっぱり僕の貸し一つってことでいいかな?」
『いやあ、それはまた別に取っておいてよ。今度こそ貸し一つに値することだし』
「……?」
なんのことだ?
勿体ぶった言い方をした後に彼が放った言葉は、確かにそのとおりのものだった。
『……という事で、都合つけられない?』
「……まずは社長と相談だね。こっちも今までとは違って仕事が入ってる身だから。猫の子を貸すようにぽんぽんとは渡せないよ」
『だろうね。でも、君なら何とかしてくれると期待してる』
「……まあ、何とかしてみるよ」
電話を切るとため息を一つ。
またしても余計なことを。
『幼少期のエピソードを加えたい、と原作サイドから要望があってね。それに月代ちゃんを起用したいと言ってきたんだよ』
原作側からの内容改編。
そのエピソードがどうなるのかは分からないけど、月代にとっては大きな仕事になる。
新生B小町にとっても大きな意味を持つ筈だ。何せ有馬かなと一緒に起用されるのだ。グループとしての名前はより大きくなるに違いない。
月代自身にそれが出来るか、という事に疑問は起きない。彼女の才は間違いない。親の欲目だと自覚はしてるけど。
ただ、解せない所もある。
原作サイドが乗り気になった理由だ。
『……まさか。奴か?』
アイツが関係してる筈はない。
顔はいいし、色々と如才ない所もあるけど、所詮はまだ成人してもいない子供。
だが、僕には分かる。
彼には、何かを引き付ける力がある。
それが何なのかは分からないけど、不思議な運命に吸い寄せられるかのようなモノを感じるのだ。
「これも、血のなせる業なのか?」
机の引き出しの一番下。
底にある二重底を開けるとそこにあるのは一枚の資料。先日届いたばかりで開封してからすぐにそこに収め、封筒は事務所でシュレッダーに掛けてから数回に分けて処分した。
『私的DNA鑑定診断書』
これを取得した経緯は個人的な疑問からだが、まさか正解だとは思わなかった。
だとすると、理解は出来るのだ。
見た目はかなり似ている。
だが、まとう雰囲気はかなり違う。
それが家庭環境のせいなのかは分からない。少なくとも彼の方はまだマトモに見えるけど、本性はどうなのやら。
『どちらにしても。父親として近付かせるわけにはいかない』
どちらにもだ。
彼らは似過ぎてる。
『彼が迂闊な事をするとは思えない。だが、血がそれを証明している』
あの一連の事件に関わったあの男の血を引いているのなら、それは警戒に値する。
そしてあの男と関係があった彼女の最期を鑑みれば答えは自ずと見えてくる。
『あそこの所属にしたのは悪手だったかなぁ……』
縁だなんて思った自分の浅はかさを呪う。これは呪いだった。
それも周到に仕組まれたと言ってもいい程の。
『人間的には好ましい人達だから余計にタチが悪いよなぁ』
娘のようにしていたアイドルを殺され、その子供たちを引き取った社長夫妻。
旦那は失踪し、社長業は妻が切り盛りしている。
そしてその子供たちは多少の問題は有りつつもきちんと育ち、アイドルとして、俳優として羽ばたこうとしている。
『これが呪いでなくて、なんだというのか……』
例えれば、これは戯曲。
運命に翻弄される人間を嘲笑う神々の玩具を描いたもの。皮肉なほどにぴったりな言葉に思いついた自分に腹を立てるほどだ。
『だとすれば……人に抗えるはずも、無い』
少なくとも、人の身には過ぎた話だ。
でも。
『神の子達ならば、或いは……』
あの子たちは人ならざる力を持っているような気がする。
それは奇しくもあの男が神の子であることの証明とも言えるが、この際は認めるしかない。
では、我が娘はどうかと言うと……どうだろうか。
余人に及ばない才能は有しているかもしれないけど、彼らほどの才気を持ち合わせているかと言うと自信は無い。
『君が生きていたら……』
写真立てに飾られた姿を見る。
いつまでも色褪せない姿を見せるそれは、何も語らない。
だけど、不思議に自信を持たせてくれる。それは僕自身の勝手な思い込みに違いない。そう思いたかっただけなのかもしれない。
『信じるしか、ないよねぇ……』
凡人な父親に抗う術は無い。
なら、信じるしかないのだ。
運命も何もかもをも覆していく娘の事を。
『本当に害虫になってくれるなよ……アクア君』
「……バカな」
僕は何を考えているのか。
まるで彼がそうであって欲しくないみたいじゃないか。
前半と後半の温度差に草。