プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
おかげで更新がおそくなり申し訳ありません
m(__)m
「アクアさんの所にも届きましたか? 脚本♪」
「ああ……」
いつもの通り事務所に来た月代が楽しそうに言う。
敬語はやめろと言ったのに、何故か次の日からまた戻ってるとか、反応に困る……嫌われてる? それはそれとしていいんだけど、距離が離れたわけでもない。
適度な距離感を保ちつつ、今まで通りの関係……別にいいんだけど、なんか釈然としないモノを感じる。
「ていうか、お前の所に脚本? え?」
「あ、聞いてませんか? 私も
やけに嬉しそうな月代。
つられて笑ってしまうけど、仕方がない。こんな笑顔をするなんてズルい。
「……なんの役なんだ?」
「幼少期の鞘姫だそうです。この、辺りかな?」
持ってきていた脚本を開いて指を差す月代。その手はルビーよりも小さい。触れたら折れそうだな、とか埒もない事を考える。
「ああ、なるほど」
「出番はここだけですが、足を引っ張らないようガンバります♪」
両手を握ってフンスと意気込む月代。その姿が、在りし日の姿を想起させる。
『ママ、ガンバッてくるからねー♪』
『いってらっしゃい、アイ』
『いってらっしゃい♪ ママ』
仕事に行く時の他愛ない会話。
会話が出来るようになってからだから、およそ三年くらいしか無いけど……どこの記憶かも分からない曖昧な記憶。
微睡みのような、甘い世界。
「アクアさん?」
「あ」
一瞬だけ引き込まれた。
なんでもないと作り笑いをして脚本へと視線を落とす。
疲れているのか?
それとも、映像作品ではない舞台での芝居というプレッシャーか。
どちらにせよ、顔合わせはもう間近。逃げるわけにはいかない。
「ちょっと出てくる」
「どこへですか?」
「……監督の所だ」
脚本が届いたら見せると約束している。俺の演技には難があるから、それに対して対策を講じなければならない。
「ついて行っても、宜しいですか?」
「は?」
こちらを仰ぎ見るその目には強い意志を感じる。
「なんでだ?」
「五反田監督には常々興味がありまして。わたしが監督の映画のファンだとご存じのはずですが?」
そういや、そんなこと言ってたな。あんなの好む子供とかいるのかと疑問に思ったけど、今なら理解できる。
コイツはヤベェ奴だと。
普通の女児と一緒にしたらイカン。ルビーか、それ以上のイカれ具合の奴だと思っておいた方が良い。
まあ、それはそれとしても。
監督に会いたいと言うならそれはそれで構わない。コイツは空気が読める奴だから(アイツみたいに)俺のことを根掘り葉掘り聞き出そうとかしない筈だ。
「勝手に連れてくと向こうが怒るかもしれないから、連絡してみる」
「私も、パパに連絡しておきます」
そこへ、外野からの言葉が投げかけられた。
「二人でお出かけですか。いいですね」
事務作業をしている鈴城がこちらを羨ましそうに眺めてそんな事を言った。
「学校終わってから制服デート……私も学生の頃にやっておけばよかったなぁ」
制服デート……月代は仕方ないけど俺は着替えてから行くんだが。あと、くねくね動く月代はちっとキモいのでやめてもろて。
「彼氏いたの?」
「いえ、全然」
てへっと笑う鈴城。
わりといい性格してるので苺プロにも馴染み始めている。ただ、若干事務処理能力に問題がある……というか今までやってなかったからそれも仕方が無い所か。追々覚えていけばいい事だし。
「社長にはそう伝えておきますね。鏑木さんには月代ちゃんから連絡するし、いいかな?」
「はい。確か五反田監督のお家はご存じだと聞いてます。遅くなればそちらに来てくれると思うので」
「そうだねー。ではそのように」
鈴城がホワイトボードに俺と月代の所在をメモ書きしていく。いちおう所属タレントなのでオフの日とかも概要は書いておく決まりである。
鈴城はこんな感じで誰にでもフランク。まだ覚えることが多いけど、そのうちB小町のマネージャーを任せようという話もある。そうすればミヤコは社長業に専念出来るようになるからな。
と、月代が俺に質問してくる。
「ここから遠いんですか?」
「まあ、自転車使えば十分くらいだけど。お前の分無いからな」
自転車買うという話が出たとき、ルビーは何故か拒否ってきた。乗れないなら教えるぞって聞いたら『怖いからいい』って言われた。
なのでウチには俺のしか無い。
「んじゃまあ、タクシーにしとくか」
「ええ? 勿体ないですよ?」
「そうは言ってもなあ……」
俺はともかく、コイツは間違いなく超のつく美少女だし。しかも新生B小町としての活動もあってか、着々と世間に認知されているようなのだ。まあ、繁華街を通る訳でも無いのでそこまで気にするのはどうかと思うけど。
「二人で歩きたい、な?」
「……疲れたとか泣き事言うなよ?」
「子どもじゃないんですから、言いませんよ(プクー)」
そうやってむくれるから子どもと言われるんだが……まあ、いいか。
たまには歩いていくのも悪くない。
・・・・・・
知らない道を、歩いていく。
手を繋ぐなんてことは、彼はしない。ただ歩幅を調節しながら、こちらを気遣うフリもしないで歩く。
相変わらず、シャイな子だ。
でも、アクアらしいとも思える。
聞けば、カントクは同じところに住んでるらしい。
ということはお母さんもご顕在か。パワフルなおばちゃんで結構好きなんだけど、出してくるご飯が多くて困るんだよね。
「そういやお前」
「はい、なんでしょう?」
「敬語、やめろって言ったよな?」
彼がこちらを見下ろしながら何でもなさそうに聞いてくる。
『おふ……カッコいいなぁ』
内心、そんな事を考えるけどそれは
精神的な年齢では歳上なんだし、実の息子にいいようにはされないんだから(妙なプライド)
口角を少しだけ上げて、上目遣い。男の人はだいたいこういう表情に弱いのだっ(前世の記憶の悪用)
「親しく会話してるのを周りが聞いたら、マズイでしょう?」
「それは、まあ……」
むう。さすが私の息子、この程度では表情一つ変えないとは。実はアナタよりも大人びてない、アクアって。
「まあ、別にいいけどな。よく考えたら意味は無いし」
「むっ? 意味ないって、それはどーいうこと?」
なんかムカつくこと言われたぁ。これはママ傷つくよ? 泣いちゃうよ?
そんな私をスルーして、彼はぽそりと呟いた。
「親父さんに嫌われてるからな、俺」
「え……」
ほとんど無表情なんだけど、ほんの少しだけの哀愁が漂う。
秋も深まって葉っぱが落ちた街路樹との絵がとても綺麗で……私は声も出せずに、見とれてしまった。
「そんなこと……ないよ?」
「いや、あるだろ」
そう語る彼は頑なだ。
まあ、それも仕方ない。
でもそれはちょっと違うのだ。
他の人達とは。
「アレは私に近づく男の人全てに対してやってることなので……」
「おう……マジか?」
「マジです」
実のところ、今日あまの現場でもメルト君他のモデル事務所の面々にも釘を刺していた。
「子供の頃に現場によく連れて行かれましたけど、そこでもやってたんですよ?」
「子供って……幼児の頃か?」
「はい。『可愛いね』って声をかけてくる人には必ず」
だだ甘と警戒を交互に繰り出すパパに、ほとんどの人は苦笑していたものだ。
「パパにとっては、私だけですから」
会ったこともない母は、この世にはもういない。
たぶん前世の母は、まだ存命中だろう。
いまの私にはパパに、アクアやルビー達もいる。
これほどの幸せは望外なことだろう。
それに比べると、パパには私しかいない。少なくとも、近くには。
だから警戒するのは当然だと思うし、それをやめろなんて言えない。
もう少しだけ、緩めてくれると嬉しいけど♪
「アクアさんに特別ってわけじゃないんです……まあ、ある意味特別かもしれないですけど」
「ある意味?」
怪訝そうに聞いてくるアクア。
どうも、気付いてなかったらしい。
「パパが『投資』って言葉使うことあるの、知ってますよね」
「ああ。本気がどうかは知らないが、若者への投資とか言ってるな」
その若者が大成する事により、自分の立場を強化していく為の投資。プロデューサーとして生きているパパにとって、それは必要なこと。人脈を作り、それを育てる。表からでは見えない、パパの仕事だ。
「たぶん、アクアさんは今一番の有望株。それはたぶん、かなちゃんや黒川さんを超えるほど」
その言葉に、彼はほんの少しだけ驚いたように見えた。自覚、無かったんだ。
「買い被りだ……そんなわけ、ない」
「そうですか? かなちゃんや黒川さんに自分が劣ってるとか思ってます?」
「当たり前だ……二人とも、すげえじゃんか。俺なんかが立ち打ち出来るわけ、ねえよ」
お……普段あまり表情の変わらない
『カシャ』
「お、おまえ……勝手に撮るのはマナー違反だろ」
「いいショットだと思ったので♪ イケメンの思い悩む姿って、世のご婦人の栄養になると思いません?」
少し茶化したように答える。そこへ彼が猛然と迫ってきた。
「ぜっってえに、アップするな。もしくはすぐ消せ」
きゃ~(汗)
脅してくるアクアも凄いカッコいい♪ ヤバいな、この子。冗談で言ったけど、マジで世のご婦人方の歓声独り占めに出来るよ?
「消すのは勿体ないのでアップはしないと誓います♪」
「ホントだな?」
「……心配なら、私の写真と交換ということで」
彼の胸ポケットに収まるスマホを指差す私。
「パパと写真を撮りあってるって、以前言いましたよね? そんな感じで私の写真も、撮って下さい♪」
小首を傾げてあざとく言ってみたら、効果はバツグンだった。彼はスマホを取り出して、こちらに定める。
「いいか?」
「ご要望は、ありますか?」
ある程度の希望には応えるつもり。パパとの撮影の際でも簡単なポーズとかは応えてるしね。
「……いや。そのままでいい」
どうやら。彼は取ってつけたようなポーズは趣味ではないらしい。
なので、私はなるべく自然体にする。
手を前で組み、ほんの少しだけ斜めから。目線は僅かにずらしてカメラを意識しないように。僅かに首を傾けてみようかな? あざとくならないならいいかも。少しでもかわいく撮られたいのは女の子のサガだからね!
「はい、チーズ」
『カシャリ』
……んん?
なんか変な単語が出てきた。
「あの、チーズとは、何ですか?」
「ヱ……言わないか?」
「聞いたこと、無いです」
前世の現場ではだいたい『はい、撮ります』だったし、パパもそんなことは言わないし。ちなみにB小町のスチルでもそんな事は言われなかった気がする……なんなん? チーズって。
「……忘れろ」
「はあ……?」
なんだか、すごく顔色が悪くなった気がするけど……まあ、いいか。
初めての写真交換♪
これからもっと、増えるといいな♪
ちなみにアクアは着替えるの忘れてるので図らずも『制服デート』みたいになってます(笑)