プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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誤字報告、いつもありがとうございます。
誤字の多い私ですが、何とか体裁が保ててるのはあなたのおかげです。名前は出しませんが、ここにお礼を。

今年も大変でしたが、来年も皆様のご健勝をお祈り致します。(なお、今年最後の更新というわけではないのであしからず)


それぞれの過ち

【悲報】 わたし、失敗していた。

 

 

 

 死んじゃったかー、仕方ないなー。

 

 なんて軽く考えていたのは、大きな間違いだった。

 

 残していく人たちのことなんて、全く考えてなかった。浅薄な人間だった。

 

『アイシテル』

 

 この言葉を伝えていい気になってた。前世の私はやれる事はやり遂げたと安心しきっていたのだ。猛省して欲しい。

 

 考えが浅いからこうなるのだ。

 きちんとチェーンロックを掛けろと口を酸っぱくしていたアクアに、こんな大きな傷を残して。

 

『忘れちゃうんだよねー』

 

 とか、軽く流してたのがそもそもの間違い。

 

 あと、リョースケ君があんな事するなんて当時は思いもしなかったけど、よく考えたらその可能性はあった。

 

 あのコから彼を奪ってしまったようなものだったのだから。

 

 恨まれて当然だし、子供作ってたなんて裏切りにしか思えないだろうとは容易に想像がつく。

 

 あの頃のわたしは、やはり決定的に共感性が低かったのだ。だから、人がどう思ってるのかが分からないし、色々と粗忽な事もしでかした。

 

 結論。

 

 やはり有罪(ギルティ)なのは、わたし(アイ)なのだ。

 

 そして私は、その記憶を持つ者として責任を果たさねばならない。

 

 残った子どもたちへの贖罪。

 過去への清算をしなければいけないのだと、ようやく思い至った。

 

 

 

 

 

 ──私は、

 

 赦されてはいけないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カントクの所からパパの車に乗って帰り着くまで、私はアクアの腕に縋りついていた。

 

 迷惑そうな彼と、それを射殺そうとしてるパパの視線は気にはなるけど……正直言うと不安で仕方なかった。

 

「パパ……今日は斉藤さんちに泊まっちゃ、ダメ?」

「ぼ、僕は構わないけど」

「……ちょっと、家に聞いてみます」

 

 アクアが気を利かせて電話を取り出す。えっ……

 

「あ、アクアさん……それ」

「ん? ああ、珍しいだろ。イマドキ」

 

 パタンと開けてからダイヤルするあの携帯。忘れもしない、わたしのものだ。

 

『アクア……やっぱり、まだ引きずっているんだ……』

 

 亡くした母の携帯を敢えて使い続けてる。それは執着としかいえないと思う。スマホだってあるんだから、そっちを使うのが自然だ。

 

 アクアに落とした影は、よく見れば分かった筈だった。

 

 それも見落としていた。

 

 母としての至らなさに、胸が張り裂けそうで……息子の腕にすがりつく。

 

 どうしようもなく、弱い自分を自覚した。

 

 

 

 

「どうしたの、つーちゃん……」

 

 合宿の時のように枕を並べてくれるルビーにも、申し訳なくて……私はその胸で泣くしか出来なかった。

 

 困惑してるはずなのに、私を受け止めてくれる娘に申し訳無さでいっぱいになって……気が付けば、眠りに落ちていた。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「で。どういうことなんだアクア君」

「どうって……俺も、何がなんだか……」

 

 家に着くと月代をルビーに任せて。俺は事務所で父親に問い詰められていた。ちなみにミヤコまで居る。俺はわるくない筈なのに、何故か責められていた。

 

「月代があんなに取り乱すなんて、滅多に無い。何か理由があるはずだ」

 

 先ほどの顔とは違う剣幕。今の彼は、子を心配する親なのだろう。

 

「まさか……」

「いや、お前らの考えてるような事は何もない」

「何を考えたと言うんだね、キミは」

「ええ……」

 

 答えたらキレられる事間違いなし。ならば沈黙するしか無い。

 

 そこをさらっとフォローしてくれるミヤコ。

 

「……身体には何も異常は無かったです。殴られた跡とかも、そういう痕跡も」

 

 女性が言う分には抵抗は少ない。こういう場合、すごく助かる。

 

「では、なんであの子があんなに憔悴してるんだ!?」

「それは、私には何も。アクア、何があったのか。話してちょうだい」

 

 ミヤコの有無を言わさぬ眼力に、俺は答えるしか無かった。

 

 とは言え、素直に言うのはやはり抵抗があった。こんな俺でも、プライドというモノはある。

 

「脚本の件で五反田さんのお宅に伺うとまなちゃんからは聞いてるわ。そこで何かあったのね?」

「……」

 

 促すような視線に、折れるしか無いと判断。俺は隠していた事を話すことにした。

 

「俺は……死を連想させる芝居をすると発作を、起こす」

 

 それは、役者としてはかなり致命的な欠点と成り得た。演技には創作故に、死を取り扱う事が往々にしてある。

 

 それが出来ない役者など、欠陥品とも言える。

 

 だからこそ隠してきたし、裏方に回る方法も模索して監督を師事したのだ。本来、役者などやっていていい人間ではないのである。

 

「それは、初耳だが……?」

「もちろん、誰にも話していませんでした」

「私は、知ってたけどね」

「!」

 

 その言葉に振り向くと、ミヤコは柔らかく微笑んだ。まるで、お見通しだと言わんばかりに。

 

「今回の起用に関して落ち度があったのは認めますが、どうなるのでしょうか?」

「私からは何とも。今回の舞台のキャスト権限は私じゃなく、雷田君なのでね」

 

 鏑木はそう言って矛をそらす。

 

 だが、任用にあたって斡旋をしていたのだからそれなりに発言力はあるはず。彼が異を唱えれば、俺は降板となるだろう。

 

 ──それが一番良いはずだ。

 

 だから、ここで鏑木に打ち明けたのは正しかったのかもしれない。昏い胸の内のほんの少しだけど、打ち明けることが出来て良かったと思う。こんなにも安堵出来るなら、もっと早く打ち明ければ良かったと思うほどに。

 

 

「それは、改善していないのかい?」

 

 鏑木が、そう聞いてくる。

 

「おそらく……さっきも、監督のところでなりかけましたが……」

 

 発作の起こる時に必ず出てくる奴。

 

 俺にしか見えないけど、俺の後ろにいた黒い影。メガネだけが輝き、あとは何も見えない深淵だけど……それが誰なのかは俺には分かる。

 

 と、ここで危うく続きを言いそうになって止めた。

 

「どうした? それでどうなった?」

 

 だが、奴は続きを促す。

 聞かなければ、平静でいられたものを。

 

「アイツが抱きついてきて、泣くもので……その気配は無くなりました」

 

 ぴきり……

 

 鏑木の額に青筋が浮いた……ような気がした。

 

 本当にそうなったらたぶんヤバいので循環器系にかかるべき、とくだらないことを考えて逃避する。

 

 俺のほうが聞きたいくらいなのだ。

 

 なんで、(おさ)まった?

 

 発作を起こしたときに、抱きとめてくれた人は他にもいた。それが男だったり女だったりもしたけど、それで治まった事など一度も無かった。

 

 一度発作が始まれば悪心(おしん)は止まらず、前後不覚に眠ることでしか収まらない。実際に血圧も低下していたようで軽く痙攣を起こすこともしばしばあった(らしい)

 

 今回は入りかけのような状態だったが、程度は軽かったのかもしれない。

 

 だが、その後に倦怠感が残らずに治まったのは初めてだ。

 

『どういうことだ……まさか、本当にアイツなら治せるとでもいうのか?』

 

 そんな訳はない。

 

 一度だけで判断するのは早計だし、アレが泣いていたからという可能性もある。よく言うじゃないか。先に怒ってる奴がいると怒りが覚めて冷静になれると。

 

 そんな心理的なバイアスで治るものかと首を捻るが、そもそもPTSD自体が強烈な印象がフラッシュバックして起こる心理的ダメージなわけだ。

 

 そういう事で治るというのも、あり得るのかもしれない。

 

 まあ。だからといってそれに頼るわけにもいかない。

 

 毎度倒れるたびにアイツの世話になるとか……冗談じゃない。恥ずか死するわ。

 

 

 俺の内情はともかく、鏑木の怒りはもっともだ。愛娘が異性に抱きつくなど許容できるはずもない。

 

 怒りの声が届くものかと待ち構えていると。

 

「……なるほど。なら、得心いく話だな」

「「えっ?」」

 

 鏑木のその言葉に、俺はともかくミヤコも驚いた声を出した。

 

 そんなわけ、ある?

 

 今のどこに、許せる状況があったのか。説明を求める。

 

 すると、彼はスマホを取り出し画面を見つめる。いつもの月代の姿……うわ、スライドショーにしてる。

 

「あの子が東京ブレイドのファンだというのはご存じかな?」

「き、聞いた事はあります」

「特に刀鬼がお気に入りでね。アニメを見終わった後や新刊が出た後なんかは、よく私に聞かせてくれたんだ」

 

 ……子煩悩なこの人のことだ。それをにこにこと笑いながら聞いていたのは想像に難くない。

 

「今回のキャストに関して私は手は出してないのだけど、一つだけ雷田君に条件を出していたんだ。僕の斡旋した人物を起用するという条件をね」

 

 人差し指を立ててそう語る鏑木。

 

「『有馬かな』『鳴嶋メルト』そして、『アクア』。この三人を起用してくれるなら、というね」

 

 ……それは三つ条件出してねえ? というツッコミはしないでおいた。空気は読めるからな。

 

「雷田君への人読みがあるから、実質メルト君を捩じ込んだようなものかな?」

「え……? それは」

「流行に聡い彼なら『今日あま』の有馬かなは外さない。同じく『今ガチ』のアクア君も外さない。これはビジネスお付き合いをしてるあかね君との絡みから。彼だって業界人だ、流行を見逃すはずはない」

 

 なるほど。だからメルトを捩じ込んだだけ、ということか。

 

「ちなみにメルト君なことにも理由はあるけど、それは事務所の力関係だ。先方が役者関係に力を入れだしたのは君のせいだから、ちゃんと面倒見てくれたまえよ?」

 

 ちらりとこちらを見る鏑木。こういうところは食えないなと本当に思う。

 

「さて話を戻すけど。あかね君とアクア君が並び立つなら、鞘姫と刀鬼にキャスティングされるのは明白だ。今が旬の二人なら集客にも寄与するし、見栄えもいい。つまり確定事項だったわけだよ」

「その、キャスティングの経緯は分かりましたが……いまいち話が繋がりませんけど」

 

 ミヤコはそう言うけど、俺にはもう分かった。

 

「刀鬼役にアクア(おれ)を誘導した。その理由は娘のお気に入りの役だから」

「ご明察」

 

 と語るには笑ってはいない鏑木。彼にとっては娘へのプレゼントのつもりだったに違いない。

 

 お気に入りの役者がお気に入りの役を演じる。それを楽しんで観る月代と彼。なるほど、プロデューサーらしいプレゼントだろう。

 

「私が画策した事だとアレは感づいているはずだ。だから、自分のせいで君に重い役を任せてしまったと感じたのだろう」

 

 あれは、そういう意味だったのか?

 

 それにしてはやけに真に迫っていた気がするが……

 

「自責の念、ですか」

「それをいうのは心苦しいよ。私が勝手にしたことなんだから、あの子が気に病む必要は無いんだ」

 

 ミヤコの言葉にそう答える鏑木。

 確かに余計なことをしてくれたと思う。

 

 俺はララライ代表の金田一との接点を欲していた。

 

 だが、それは別に重い役が必要だったわけじゃない。脇役でも構わなかったのだ。それが準主役級への抜擢とか、何を考えてんだと問い質したいとは思っていた。

 

 で、蓋を開けてみたらなんと私情だったわけだ。本当に笑えない。

 

 

「……だが、月代自身が出演することになり。しかも刀鬼役がまさかの欠陥品だ……笑えないなぁ」

 

 俺も考えが甘かったのは否めない。

 

 鞘姫が目の前で傷つき倒れる展開になるのは容易に想像出来た筈なんだが、東京ブレイド本編ではそこまで掘り下げてなかった。

 こんなに刀鬼の感情表現をするとは思わなかったのだ。

 

 俺は代案を出してみた。当初から考えていた事だ。

 

「刀鬼役でないならいけるかと。鴨志田さんなら刀鬼もやれるんじゃないですか?」

 

 鴨志田は2.5次元舞台を主戦場とする若手役者。顔もイケメンであり、刀鬼を演じても不思議はない。俺よりはよほど適任だ。

 

 この発言に彼は頷く。

 

「雷田君も最初はその考えだったらしいからね。こんな事なら、余計なことしなきゃよかった」

 

 まったく、同意である。

 

「まだ顔合わせもしてないし、今のうちなら変えられると思う。僕はこれから雷田君の所に行くから月代のことは頼みます、ミヤコさん」

「はい、それはもちろん。お仕事、頑張って下さいね」

「は、はあ……では」

 

 にっこり笑顔のミヤコに、鏑木が少し照れている。まだ深夜とは言えない時間だが、業界人にとって夜こそ交渉事の時間とも言える。

 

 慌ただしく出ていく彼を見送ると、肩に手を置かれる俺。

 

「さて……もう少しお話し、しましょうか?」

「あ……あの」

 

 ミヤコの冷え切った眼差しは、久しぶりに怖いと思った(ガクガク)

 




月代(アイ)の暗黒度が高まりました(笑)

あと、まえがきの不適切な発言は削除シておきました……決して外れたわけじゃ……くう(泣)
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