プロデューサーの娘になってしまった 作:だだ甘鏑木Pすこ
「あの、おばちゃん」
「あら、つーちゃんじゃない。今日は何にする?」
いつものお肉屋さんに寄ったのだけど、少しだけおばちゃんが怪訝な顔をする。それは、横にいる彼のせい。だから私は『なんの害もない人ですよ』とアピールするようににこやかに話しかける。
「七面鳥は、無いですよね?」
「あー、生憎だけどねぇ。あれは注文しとかないとなかなか手に入らないんだよ」
「ですよねー……じゃあ、小さめのを一羽、お願いします」
「あいよ。クリスマスへの仕込みかい? 小さいのによくやるねぇ。そっちの男の子は荷物持ち?」
さり気なく探りを入れてくる。
もちろん後ろ暗いところなんて無いので、笑って答える。
「うちの事務所の先輩なんです。今日は買い物に付き合ってくれてて」
「ども」
言われてようやく会釈するアクア。
「ああ、てことは俳優さんかなんかかい? も少し愛想覚えたほうがいいよ? 顔はいいんだからさ」
関係者だと分かると朗らかに応対するおばちゃん。彼も苦笑するように頭をかく。
「気をつけます」
「先輩はクールなくらいが丁度いいんですから。この顔で愛想良くなったら女の子に囲まれまくっちゃいます(プンスコ)」
「あはは♪ たしかにそうだねぇ」
包まれたお肉をトートバッグにしまって店を後にする。今日の買い物は以上で終了だ。
「お前、わりと地元の人間とコミュ取ってんだな」
少し後ろを歩くアクアが、そんな事を言ってくる。
「そりゃーそうですよ。でなきゃ小学生一人で買い物なんて出来なかったんですもの」
今でこそ顔馴染みだけど、最初の頃は大変だった。大丈夫と言っても親との連絡先を聞いてきたり、パパに直接文句言ってきたり。
「まあ、今の世の中何があるか分からんしな。特にお前は気をつけたほうがいい」
「アクアさんまでそんな事言うんですね(プクー)」
「何かあってからじゃ、遅いからな」
手を出してくるのでトートバッグを渡す。
こういうさりげない気の遣い方が出来るのに、言葉では素気無い事が多い……やっぱりシャイなんだな(親目線)
てくてくと歩くと我が家に辿り着く。
玄関の鍵を開けて中に入ると、彼は荷物を置いてから踵を返す。
「ど、どこへ行くんですか?」
「あ? 帰るんだよ」
当然のように答えるアクア。
後で斉藤家には行くのだから別に帰る必要はないと思うのだけど。
「パパが帰るまでいて下さいよー」
「それが嫌なんじゃねーか」
「なんでー?」
ぷりぷりと怒りながら聞いてみると、彼はそっぽを向いてこう答えた。
「あらぬ誤解を受けるからだよ」
……息子と二人で居て何が? と思ったけど、そういえば私は月代なんだ。
親の留守中に上がり込む男の子なんて、パパが怒るのは目に見えている。
「でも……」
久しぶりの子供達とのクリスマス。
少しでも息子と居たいと願うのは罪なのだろうか?
「パパは何とかするから。お願いっ!」
手を合わせて頼み込む。
今は芸能活動もそこまで忙しくはないけど、これから先にこんな機会は訪れないかもしれない。
すると、
彼は頭をかいてからトートバッグやレジ袋を抱え始める。
「しゃあないな。本当になんとかしろよ?」
「うん♪」
なんだかんだと優しいのがアクアだ。
やっぱり自慢の息子、だよ♪
クリスマスイブのこの日。
斉藤さんちでパーティをすることに決まったのだけど、肝心のローストチキンは向こうでは作れない。大きなオーブンが無いからだ。
それならウチで作って持っていくという話になり、こうしてウチの台所で奮闘中と相成ったわけなんだけど……
「じー」
背後から、息子の視線を感じる。
鶏を丸ごと洗ってるんだけど、なんだか気になるなぁ。
「こうしてても暇なんだが」
「そ、それならテレビでも……」
「俺、ニュース以外あんま見ないから」
「そ、そうですか……」
なるほど。暇を持て余してるんですね。
なら、とエプロンで手を拭きつつリビングへと向かう。そして持ってきたのは。
「月刊マリーゴールド?」
「毎月買ってるんですよ。よかったら暇つぶしにどうぞ」
「……まあ、嫌いじゃないけど」
とは言いつつも、しばらくしたら読書に熱中し始めた。こういうところは子供の頃と変わってないなぁ。一度熱中するとご飯の時間も気にならないんだもん。
「さて」
オーブンの予熱は十分。
中に詰めるピラフも炊き上がったので、そろそろ焼き始めよう。
ハーブと塩をすり込んである鶏の中に炊きたてのピラフをスプーンで掬って入れていく。
詰め終えたら首の付け根の皮を留めて、オリーブオイルをまんべんなく塗りたくる。その上から小麦粉を叩きこむようにまぶしていって。
それからアルミホイルを全体に巻き付ける。耐熱皿にサラダオイルを塗って、オーブンへ。温度は200から210度くらいかな? これは少し小さめだから一時間くらいで焼き上がると思う。
「よし」
ここまでくれば後は最後に焼き色を付けるだけ。とは言っても、まだまだ時間がかかるんだよね。忙しい時は出来ないんだ、これ。
でも、今日は完全なオフだし学校も冬休みだから時間は十分にある。他にも持っていく料理を作ろうと思ってたら、アクアが台所にやってきた。
「あれ? もう読み終わっちゃいました?」
「んー……まあ。お前はもう読んだのか?」
「もちろん♪ 買ってきてその日のうちに完読でした♪」
美味しいものはタイミングよく、読みたいものは即読む派ですのでっ!
「んじゃあ……吉祥寺先生の読み切りも」
「もちろん読みましたっ!」
『星の子どもたち』───吉祥寺先生の読み切りの新作だ。少し不良っぽい男の子、
「ソラ君、すっごく優しいのに周りから誤解されちゃう容姿なんだけど、セイちゃんは全然気にしないで懐いちゃって♡ 久しぶりに吉祥寺先生のラブコメ読んだけど、やっぱり上手いですよね〜♪ 私、あのシーンがとても好きでして。落ち込むセイちゃんを抱き寄せて、頭を撫でて……『お前は、そのままでいい』って呟くの。きゃーっ! ロマンティックっ、ですわー!」
と。
アクアが呆れたような顔をしてこちらを見ている……やべ。少しテンション上がり過ぎてたかしら?(今さら)
「えっと、あの……」
「ふっ」
すると、アクアは鼻で笑って。
私の頭に手をかけ、ふわりと撫でる。
「!?」
「お前は、そのままでいいわ。うん」
そう言って回り右してリビングへ戻るアクア。
……なんなん?
でも、撫でてくれた時。
少しだけ、胸が高鳴った気がした。
その後、帰ってきたパパと車で斉藤家へ向かいパーティとなりました、とさ(チャンチャン)