プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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東京ブレイド 顔合わせの儀

「苺プロ所属、アクアです。(もんめ)役をやらせていただきます。よろしくお願いします」

 

 顔合わせに集まった面々に対してぺこりと頭を下げる。業界では挨拶は必要不可欠。無礼にならない程度には表情を緩くしておく。

 

 会場にはすでに多くの役者たちが居て、その反応も様々。興味深げな視線を送ったり、逆にしらっとしていたり。悪目立ちしてる訳じゃないとは思うけど……どうも裏事情を知っているメンツも何人かはいる模様。

 

「苺プロ所属、鏑木月代です……よろしくお願いします」

 

 俺の隣でしおらしく……というか気落ちした様子で挨拶をするコイツもその一人。

 

 お前のせいなんかじゃないと何度も説得したけど、その落胆ぶりは変わらなかった。

 

 まるで原罪を自覚し楽園を追放された人たちのように。

 

 そんな大層な話じゃないのに。

 

 この広い世界の中に、俺と同じような人間など腐る程いるはずだ。新聞を眺めれば陰惨な事件など幾らでもあるし、そこにはやはり、巻き込まれた家族などもいる。そいつらと同じなのだ。

 

 あまり語るのも好きじゃないのでルビーやミヤコ、鏑木に任せたけど……この日までには回復はしなかった。

 

 ちなみに鏑木の代わりに事務所からはミヤコが同行している。まあ、所属タレントが問題起こしてキャスト変更になったわけだし、誠意を見せてということだ。

 あとは月代のため、だろうか。高校生にもなった俺やこういうのには経験があり過ぎる有馬のためでは無いはずだ。

 

 最初の挨拶が終わったなら、あとは交流すべし。有馬のありがたい言葉に心のなかで頭を下げつつ、俺はある人物に近付く。不安半分、嬉しさ半分といった感じの彼女は軽く手を振ってくれた。

 

「アクア君、久しぶり」

「つい二週間前に会ったじゃないか」

「そうだけど……」

 

 その間に起こった事は説明しないといけない。が、この場でそれをひけらかす趣味は無いので簡潔に答えることにする。

 

「刀鬼は出来なくなった。すまない」

「そんなこと……理由、聞いてもいい?」

「後でな」

 

 あれから鏑木が雷田と討議した結果、俺は刀鬼役から外され代わりに鴨志田がやることになった。俺は鴨志田の役をやる事になるのでコンバートという方が正しいか。

 

 上の判断は正しいように思える。爆弾を抱えたまま公演するなんて正気じゃない。あかねと一緒の舞台に立つ、それも同じ陣営だ。俺とのカップリングで売りたい層への訴求力も残るはず。

 

 そもそも、姫川とか鴨志田とかみたいに名前の売れてる役者達と、ほんの少し前に出てきたぽっと出とでは比べるべくもない。本来の形と言えるものに戻っただけなのだ。

 

 ちなみに、有馬は声をかけてこない。その辺のやり取りは事務所でしてるし、こっちの事情もある程度理解はしてくれたのだ。

 

 

『……がんばりなさいよ』

『ああ……』

 

 

 そっぽを向いててもその瞳には涙が滲んでいた。こちらを気遣うその姿は、さすがベテランと感じ入ったものだ。

 

「やあやあ、君がアクアくん?」

 

 物思いにふけっていた所に、俺と同じくらいの背の男がやってきた。チャラそうな外見に軽そうな口ぶり。だけど、そのさまには雰囲気があった。 俺は頭を下げて彼に挨拶をした。

 

「はい、よろしくお願いします。鴨志田さん」

「ふぅ~ん♪」

 

 こちらを眺める視線が少しねちっこい。

 なんだコイツ。

 

 すると、突然あかねの肩に手を回す鴨志田。

 

「きゃ……」

「鞘姫と刀鬼のイチャイチャシーンを諦める心境とか、どうよ? 色男」

 

 こちらを煽る気か。

 ならば、対処法は一つ。

 

 あかねの腕を取り、こちらへと引き寄せる。鴨志田の抵抗はなく、あっさりと俺の腕の中に収まるあかね。

 

「!……」

「役の上ではお渡ししますが、プライベートでは譲りかねます」

「……ほう?」

 

 面白そうなものを見つけた男の顔。睨むような視線にこちらも負けずに睨みつける。

 

 なぜだか分からんが、幼い頃に見た五反田の顔が思い浮かんだ。ロン毛だからか?

 

「いいじゃん。そういうの嫌いじゃないぜ?」

 

 こちらを値踏みするように笑うと、彼は元いた集団に戻っていく。あれはララライのメンバーたちか?

 

「……嬉しいんだけど、その……」

「あ」

 

 腕の中にいたあかねが、そう呟くように言う。さすがにこんなところで抱擁はマズイか。

 

 手を離し、距離を取るあかね。

 

「ま、また後でね」

 

 そう言って別のグループへと行くあかね。あっちはララライの女性グループか。

 

「……おいコラ」

「汚い言葉使うなよ、子供がいるんだぞ」

「おっと」

 

 今のやり取りを見てた有馬が、フリッカージャブのポーズで威嚇しながらこちらに来た。女性ボクサーのドラマでも狙うつもりか、コイツ。

 

「月代ちゃん、こんにちは」

「……」

 

 有馬が挨拶してるけど、月代は返事をしない。仕方ないか、と諦める有馬だけど、俺は月代の頭を(はた)く。

 

「てっ?」

「先輩が挨拶してんだぞ、無視すんな」

「は、はい。有馬先輩、おはようございます」

 

 ぺこぺこと頭を下げる月代。それを見てた有馬がこっちをジトッとした目で見てくる。

 

「アンタ……幼女に対しても容赦無いわね」

「大事な躾だよ。それに、今のはあっちじゃない」

「?」

 

 俺の言葉に首をかしげる有馬……お前、かわいいな。それにひきかえ、コイツときたら。

 

「リバはあまり認めないと思ってたけど、これはアリなのでは? 強気攻めの刀鬼に喰らいつく匁とかキャラじゃないと思ったけど、これはイケる気がします……いえ、むしろコレこそ望んだ形なのかもしれませんわ〜」

 

 ヤバい。

 小声でなんか怖いこと呟いてる。さっきまでの落ち込んでた風情のほうがなんぼかマシに見えてくる。

 

 再起動を促すためにもう一度頭をチョップ。角度45度くらいがベスト。

 

「てい」

「ひゃん! ……なにするんですか、アクアさん」

「お、戻ってきたか。ここは現場で怪電波流す場じゃないぞ、しっかりしろ」

「は」

 

 周りをキョロキョロと見て、居住まいを改める月代。姿勢を伸ばしてお嬢さま然とした風情になった。

 

「というか。アクアさん、ぽんぽん叩き過ぎです」

「そうしないと戻らんお前が悪い」

「むう……(プクー)」

 

 頬を膨らませて不満を表す。ようやくいつもの彼女に戻ったようで少し安心した。

 

「なんとかなりそう?」

 

 有馬が少し心配するような顔で聞いてくる。まあ、彼女にとっては舞台でもアイドルとしても後輩だ。気にならないほうがおかしいか。

 

「この分なら、な」

「……私はアンタのことも含めて言ってんだけど」

 

 ……なんともはや。

 俺のことまで心配してくれてたのか。

 

「大丈夫だよ」

 

 そもそも、俺がやってきた経歴なんて代役ばかり。オファーできたのは監督のあの映画くらいなのだ。脇役なんだし、直接的にトラウマを刺激する場面は無い。

 

 月代も、こちらを心配そうに見上げてくる。こんな子どもに、そんな顔はさせてられない。

 

 

 

「だいたい集まったみたいだな」

 

 そこに、野太い男性の声が響く。歳の頃は五十前後か。髭面の、いかにも芸術肌の人間らしい風体の男がいた。

 

「演出担当の金田一だ。揃ってるなら本読みくらいしておくか?」

「代表。まだ姫川さんが居ないんですが」

 

 ララライのメンバーらしき男がそう言うと、彼は端に置いてある段ボール箱を蹴り飛ばす。

 

「痛ェ、」

「いつまで寝とるんだ、バカ野郎」

 

 その中から出てきたのは。

 

「あふ……姫川大輝、ッス」

 

 月九ドラマの主役にして主演男優賞を取った売りに売れている若手ナンバーワン俳優。姫川大輝がいた。

 

 なんか、イメージと違う。

 徹夜明けで雀荘に入り浸ってそうな大学生みてえだ……これは言い過ぎか。

 

「顔洗ってこい。他のは椅子出してきて適当に座れ。位置とかは適当でいい」

 

 テキパキと指示する姿は、舞台演出としての頼もしさを表す。こいつが劇団代表、金田一敏郎。

 

 今回の最重要人物。

 

 もちろん他の奴らのも採取はするけど、コイツはあの頃の劇団に一番詳しいはず。話が聞ければ一番早い筈だ。

 

 俺は有馬と月代の分の椅子も運んで並べる。そこにもう一人が椅子を持って近づいてきた。

 

「……隣、イイっすか? アクアさん」

「いや、かしこまんなくていいって言ったろ? メルト」

「そうだったッスね」

 

 クシャッと笑う姿はあの頃と変わらず。それでも少しは風格を増したように見える。

 

 

 

 鳴嶋メルトも仲間に入り、本読みが始まった。

 

 

 

 

 ──な、なんかアクアとメルトもいいカンジじゃない? これは『匁✕キザミ』もアリ? いや、性格からいってリバの可能性が高いかも……これは、吉祥寺先生にお知らせしないとぉっ!

 

 その頃。

 月代は盛大に、腐っていたとさ。

 

 チャンチャン

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