プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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忙しくなってきたぁ

「貴女は原作者で、その許諾無しに二次創作にタイトルを使うことは出来ないし内容を改変する事も赦されない。著作者人格権というもので保護されているからです」

 

 吉祥寺先生はふんふんと頷く。この辺りは事前に隣にいる編集部の方から説明があったはずだ。

 

 アイの復讐のためには法的な知識も必要になると感じ学んでいた。若いというのは吸収も早く、その頃に覚えたことは忘却もしづらくなる。

 

「出版社、編集部にも著作権は存在しますがそれはあくまで財務処理に関しての話。作品の内容、方向性などは人格権で守られています」

「そ、それはそうだけど……」

 

 編集部の人に向いて話すと彼はしどろもどろといった感じだ。おそらくそこまでの権限を持たない人間なのだろう。俺は微笑むことで敵意の無いことを示す。

 

「安心してください。別にドラマの制作を止めさせる訳じゃありません」

「……と、言うと?」

 

 明らかに安堵した表情になる彼。僅かばかりの良心の呵責が疼くが、目的のためには捩じ伏せる。

 

「今回、旗振りしてる人に発破をかけるだけですよ」

 

 この言葉に吉祥寺先生の顔色も少し良くなった、ように見えた。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとお待ち下さい」

 

 僕は狼狽を隠せなかった。それまで唯々諾々としていた原作者の先生が、いきなり待ったをかけたからだ。

 

「このまま撮影に入らせるわけにはいかない。そう言いました」

「そ、そんな……」

 

 月代を別室に待たせて戻ったら吉祥寺先生がこんなことを言い出した。余計なことをと思いつつも、まずは先生を宥めなければならない。

 

「ご、ご理解は頂けていたと思いましたが」

「演技の経験の無い人たちを起用するとは、聞いていません」

「キャストに関しては、こちらに任せると契約書には記載されてまして……」

 

 すでに締結されている契約書を楯にごねる。キャスト陣の変更などしたら先方の事務所に叩かれる。あちらの業界紙や関連企業にも影響が出てしまうのは避けねばならない。

 

「でしたら、最低限見れるような芝居の出来る状態にしてもらえませんか? 今のままでは自分の作品が貶められてしまいます」

「そんな……」

 

 モデル事務所からの話では彼らにそんなスキルはなく、教え込ませる余裕もない。納期にはかなりギリなスケジュールと言える。

 

 そこに割って入った奴がいた。僕の愛しの娘のお気に入り(ジェラシックッ!)、アクアだ。

 

「鏑木さん、吉祥寺先生のご要望にお応えする方法が無いわけではありません」

「アァクゥアアァ……」

「!……」

 

 さすがの奴も顔色を変える。僕の怒りを思い知れっ!

 

「お、お怒りはご尤もですが、まずは話を聞いて下さい」

「フシュウ〜……」

「彼らの演技レベルを観られる程度に改善出来れば良いわけです。幸いこのドラマはアクションは少なめ。体力勝負なところはほぼありません」

 

 日常ドラマだからそりゃそうだ。最終話のストーカー対決以外はアクションらしいアクションも無い。

 

 そこに、有馬かなが入ってきた。

 

「滑舌の練習、基礎的な演技指導なら私が出来ます」

「君は役者だ。そこまでさせるのは」

「私、フリーなので時間には余裕はあります。それに年齢制限も少し緩和されましたし」

 

 有馬かなは今年、高校一年生だったはず。ならば児童よりは時間に融通は確かに効く。だが、彼女一人だけでは如何にも荷が勝つと思われる。今回起用される人数は先方のモデル事務所だけでも十人近くいるのだ。

 

 そこに挙手する害虫(アクア)。奴は発言を許す前に勝手に喋りだす。

 

「五反田監督の所で演出やアクティングコーチに関して少し学びました。有馬の補佐は出来ると思います」

 

 アクティングコーチは役者達に演出家や監督などの意向を伝え、それを補助する役目を持つ。

 五反田監督は基本的に企画立案から監督や演出などもほぼ一人でこなすという業界ではやや特殊な人だ。そんな人の弟子なのだとしたら、戦力にはなるのだろう。

 

「うぬぅ……」

「モデル事務所の方にも利はあります。多少なりとも芝居の心得があれば、彼らの今後にも力になるかと。先方との交渉を、お願いします」

 

 ぺこりと頭を下げるアクア。仕事に対して真摯な姿を見せるとは、狡っ辛い真似を。

 

「ぐぐっ……」

 

 突っぱねるのは簡単だが、言っていることにも一理有る。モデルという仕事は『外面を良く魅せる演技』をする仕事だ。

 

 本来、それらは彼らの事務所がレッスンなり何なりで覚えさせる事である。現場でそれらの経験が積めると云うのなら、向こうも否とは言わない、はず。

 

 だが、懸念すべき処は未だ未成年の彼等(怨敵(アクア)と有馬かな)ということだ。信頼に値するか、というと……有馬かなに関しては、及第点と言える。

 

 伊達に芸歴は長くないし、受ける芝居は圧倒的に上手い。それは何度か使ったことが有るから知っている。

 

 問題は、憎き存在(アクア)である。五反田監督の所で学んだとは言うが、口だけではなんとでも言える。どれだけ研鑽したかなんて見てみなければ分からない。

 

 ぴと。

 

 腰の辺りにふんわりとした感触。これは……マイスイートエンジェル!

 

「やってみせてもらえば、パパ」

月代(つきよ)……」

 

 別室に待機してる筈の娘が、楽しそうに微笑む。怒りゲージがみるみる下がっていくのが分かる。

 

「みんなの前で、見せつけてあげればいいの」

「……そうだな」

 

 駄目なら駄目で、当初の予定通りに進めればいい。彼らが指導するに値するか、見極めてやる。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「模範演技ぃ?」

「ちょ、今日は顔見せだけだったんちゃうの?」

「早く終るとおもったんだけどナァー」

 

 口々に不満を垂れる男の子たち。かつての自分を見てるようで、なんとも歯がゆい気持ち。

 

 演技なんてなんになるんだと、やさぐれていた時期があったと懐かしく思った。

 

 

 

 ──それはずっと昔の記憶。

 

 

 アナタは、まだ、あのままなのかな。

 

 それを気に病むつもりは無いし、私には気遣う資格も無い。

 

 わたしはソコから逃げちゃったから。

 

 愛を知らないわたしには、アナタを支え続けることは出来なかったと思うし、それは今でも間違ってないと思う。

 

 お互いに依存し合うだけの関係は、たぶん違うから。

 

 私は成長した息子を観察してみる。アナタの面影はあるんだけど、やっぱり違う。ちょっと翳のあるところは似てるけど、たくさんの人に愛されたことがその佇まいから(うかが)える。

 

 あの子に与えられた愛は、たぶんわたしだけじゃない。

 

 社長や、ミヤコさん。事務所の人達に育まれた愛。わたしやアナタに足りなかった周りからのものだ。

 

 それを今、私は実感している。

 

 パパからの愛は言うに及ばず。学校の友達や先生、パパの上司さんや同僚の仕事の仲間たち。みんなからの優しい心遣いが、私を創り出す構成要素。

 

 愛って色んな形があるんだと、生まれ変わって初めて気がつけた。

 

 だから、アナタにも気付いて欲しい。

 

 愛って、スゴいんだって。

 

 

 

 

 

 

 監督さんがボールドを鳴らす。

 本来はADの役目だと思ったけど今日は顔合わせのため人数はかなり絞っている。なので監督さん自らやるに事にしたらしい。

 

 仮初の舞台でアクアとかなちゃんだけ。近くには出番の別の子もスタンバっている。ライバルキャラをやる予定の子だけど、元気だけはよさそう。ちゃんとセリフを言うことが大事だからね。

 

 カメラの役はパパがしている。撮ってはいるけどもちろん撮影用のものではなく、単なるスマホだ。それでもイメージを掴むことは出来る。

 

「お前さぁ」

「え?」

 

 アクアからのフリ。何気ない感じの芝居だけど、アクアはもともとクールな感じだから違和感はない。

 

「そんな顔してて、楽しいの?」

 

 興味をひいたことをさりげなく語る。あくまで自然に。だから、かなちゃんの受けもそれは自然だ。ん、少し緊張してるかな?

 

「な、なんの用?」

「別に。ただ、猫を追いかけてきたら、お前がいたから」

 

 ヒロインと接触する事が目的では無かったと軽く説明を入れる。クールな容姿の主人公の少しお茶目な姿に、ヒロインは微かに微笑む。

 

「なに、それ」

 

 ふんわりと笑うかなちゃん。こういう自然な芝居も出来るのは成長の証だと思う。わたしの知ってるかなちゃんは、もっと自己中心的で、傲慢な感じだった。

 

 それを受けて口元を綻ばせて微笑むアクア。こちらも自然に出来ている。アクアも頑張ってたんだとよく分かる。元々頑張り屋さんだからね、君は(エッヘン)

 

「なんだ。笑うと可愛いじゃん」

 

 このセリフに、わずかなときめきの表情で受けるかなちゃん。うわ~、可愛いなぁ。アクアのお嫁さんにしたいなぁ♪

 

「なによぉ。からかわないで」

「……素直になれよ」

 

 ここで監督さんの指示が入る。もう一人の子が場面に入ってきて、セリフを言う、のだけど。

 

「オイ、オマエッ オレノオンナニテヲダスナァッ!!」

 

「カットッ」

 

 監督さんが思わずカットを告げた。見学していた主要スタッフやモデル事務所のイケメン達から、戸惑いの声が上がる。

 逆に吉祥寺先生はパチパチと拍手していた。

 

「……どうでした、鏑木さん。これでドラマなんて出来ますか?」

 

 アクアがパパに対して追い打ちをかける。容赦ないんだよなー、昔から♪ わたしにだって、反発するときは曲げなかったんだもん。

 

「実際、ここまで仕上げることはおそらく出来ません。それでも、とんでもない傷痕を残すよりはマシにはなるかと」

「うぬぬ……」

 

 唸るパパは少し悩んでるみたい。たぶん、色んなところに頭下げたり調整する仕事なんかを考えているんだろう。

 

 でも、それがパパの仕事だし。

 だから私は、その後押しをする。後ろから近づいて腰の辺りに抱きつく。いつものように。

 

「パパ、忙しくなりそうだね」

「月代ぉ……」

「お仕事ガンバるパパ、だいすきだよ。私もサポート頑張るからねっ!」

 

 多少あざとくしてみたけど、パパには効果てきめんっ

 

「よ、よおしっ! 君達には彼らの指導をお願いする。監督は脚本と演出とでプランの修正を頼む」

「分かりました。吉祥寺先生、まだお時間あるようでしたらご一緒しませんか? 細かく聞きたいところもありますし」

「え、ええ。分かりました」

 

 優しそうな監督さんは吉祥寺先生にも声をかけている。パパは私の方を見る。

 

「僕はちょっと出掛けるけど、月代は……」

 

 これから外回りに行くのだろう。娘がついて行っちゃ問題だろうし。

 

「ここで待ってる。かなちゃんとアクア君もいるし」

「……有馬くん。くれぐれもよろしく頼むよ」

「は、はあ……」

 

 イタズラなんてしないから。パパ、心配性だなぁ(にっこり)

 

 すごく辛そうな顔をしたまま、パパは部屋を出ていった。

 

「いい子にしてて下さいよ、月代ちゃん」

「うん♪ 月代いい子だもん」

 

 なんか、かなちゃんが疲れた顔してる。まあそりゃそうか。これから初心者の指導があるんだものね。

 

 こちらを覗うアクアと視線が合ったのでにこっと笑うと。

 

「……(プイッ)」

 

 と、顔をそらされた。

 

 もう、相変わらずシャイなんだから(ニコニコ)




今日あまの失敗は、吉祥寺先生のやや諦め気味な所と、事務所の都合先行で企画を動かしたせいだと思います。監督とか演出とか、色々言えないというのも分かりますけど。アクアはそういう空気を読んで潰しにいくところが素敵ですね♪
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