プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今年も一年、ありがとうございました。
読んで下さっている皆様にも、良い年が巡りますように。


在りし日に思いを馳せる人たち

 落ち葉が落ちきって寒々とした枝を広げる木々の間を、二人で歩く。今日の服装は喪服ではないけど、シックで暗めのワンピースに、飾り気のないステンカラーコート。

 

 相方は、ルビー。

 同じく暗いトーンの服装に身を包み手桶と花を持っている。

 

 今日はアイの墓参り。

 最近はルビー一人らしいのだけど、今日は無理を言って同行させてもらった。

 

 ちなみに変装もしてるので、周りからは姉妹にしか見えないはず。またしてもお揃いになってるしね。

 

「つーちゃん、本当によかったの?」

「はい。先輩なんですから、ごあいさつしておきたいんです」

 

 ルビーにはそう答えるけど、自分の墓を参るというのはどうかと疑問が残る。

 

 星野アイはもう死んでいて、その記憶を持った私は別の人間。

 

 頭では分かっている。

 でも、それが足を引っ張っている気がする……違うかな。

 

 アイの記憶があるが故に、月代としての振る舞いに違和感を感じてしまうのだ。

 

 今はまだいいかもしれないけど、もっと大きくなると大変なことになる気がする。

 

 墓というのは故人の証のようなもの。それを認められたなら、この齟齬も埋まるかもしれない。

 

『アイはアイ、わたしは、私。分かってるんだけどなぁ……』

 

 言葉で理解するのと、実感するのでは天と地ほども差がある。

 

 そのためのプロセスとも言える墓参り。それまでは関係者でもなかったからどこに埋葬されたかも知らずに断念せざるをえなかった。

 

『今は苺プロの一員だし……』

 

 ちなみに。一大決心をしてみんなに聞いたらみんなからはあっさり了承された。

 

 

『──いいんじゃない? ねえ、ミヤコさん』

『そうねぇ。B小町の新メンバーでもあるし。お披露目しておくのもいいわね』

『いいんじゃね? 俺は別の日にしとくから、引率は任せた』

 

 

 そこまで信用された、というよりは意外と引きずってないと感じたのは嬉しいというか寂しいというか。

 

 

 東京の郊外のとある墓地。

 墓地というのだから、もちろんそんなに賑やかなはずもなく。寒さも相まって静謐とした雰囲気を感じさせる。

 この辺ではそろそろ雪が積もることもあるそうで、今日はそうならなくてよかったとこぼすルビーもホッとした様子。

 

 いくつかのお墓が並ぶ中に、それはひっそりと建っていた。『星野家之墓』と書かれた墓石。

 

 死んでしまえばみんな同じようになると分かってはいても、やはり胸にくるものがあった。それがなんと呼ばれる感情なのかは分からないけど。

 

「……やっぱり、今年も来てたんだ」

 

 ルビーが呟いた。

 

 見れば、お花が飾ってある。お盆に来たとしても汚れてるはずの墓石にほこりは積もっていなくて……すでに掃除がされたあとのように綺麗に整えられていた。

 

 でも、誰が?

 

 アイが埋葬された墓地は公表されておらず、星野という姓だった事も明かされてはいない。

 

 考えられるのは前世の母だけど、田舎からわざわざこんなところまで出てくるとは思えない(そんな事するくらいなら、生きてる頃に何とかしてたと思う)

 

 私が頭を捻っていると、ルビーはお線香の束とライターを取り出した。

 

「よ、よ、」

 

 慣れないライターで火を点けるけど、解いた紙についた火は線香に移らないで消えてしまいそうだ。

 

「るーちゃん、これを」

「おお、つーちゃん、ナイス!」

 

 巻いてある紙だけだと点きが悪いからと新聞紙を貸してくれた霊園の事務所の方、ありがとうございます。さっと出した新聞紙に火を移すと火力が増えたので簡単に線香に火が灯った。

 

 線香の香りが立ち込める中、お水をかけて丁寧に拭いていく。お花は先に飾ってあるのと一緒にして活ける事にした。まだ萎れてないし、せっかくだもんね。

 

 周りを掃き掃除をしたら、一通り終わり。

 

 二人で手を合わせて、冥福を祈る……正直言うと、意味は感じない。

 

 わたしは私として生きている。

 わたしの人生はもう終わっているのだ。

 

 では、ここにいる私は一体誰なのか?

 

 答えは、鏑木月代。

 そんな当たり前な答えしかでてこない。

 

 アイとしての記憶を持っていても、月代とアイには血の繋がりは一切無いのだから当たり前だ。

 

 だから、私は他の方法を以てそれを確かめる。私はルビーに問いかけた。

 

「アイは、どんな方でしたか?」

「……んー。優しい人だったよ」

 

 柔らかく微笑みながら、ルビーは答える。

 

「具体的には?」

「よしよししてくれた♪」

「私だって、してますよ?」

「あはは、そうだねー」

 

 よしよしと頭を撫でてくるルビー。私のことを家族のように接してくれる、この子も優しい子。

 

 もし、アイにいい所があったのなら、それはルビーやアクアを産んだこと。

 

 こんないい子たちを世に生み出せた事は、たぶん誇っていい事だと思う。

 

「アイはねー、私に生きる希望をくれたの。アイドルっていうね」

 

 ただ、この言葉に心がざわついた。

 

「るーちゃんは、アイのためにアイドル、するの?」

 

 ルビーの生きる目的。

 それは大事だけど、アイドルに限る話ではないと思う。

 

 確かにアイドルというのは得難い経験も出来るけど、全てじゃない。生まれ変わってから気付いたけど、この世にはやれることはそれこそ無数にある。

 

 一つのことに懸命になる危うさは、理解しておいてほしい。

 

 それこそ、アイのようになられては嫌なのだ。

 

 私がそんなことを考えていると、ルビーはくすりと笑ってわたしの頬を突いてきた。

 

「あう。なに、するんですか」

「お兄ちゃんみたいな顔してたから♪」

 

 ヱ……そんな、まさか。

 わさわさと頬をさする私に、ルビーが言葉を続ける。

 

「最初は、そうだったよ?」

「……」

「でも、最近は変わってきた。みんなとアイドルしてるの、楽しくなってきたんだぁ」

 

 ニコっと笑うその姿は。

 まるで前世のわたしのようだった。

 

「だから、自分のため。あとはせんせのためかな?」

「……! そ、そういえば。その、せんせ、という方はどなたなのですか?」

 

 忘れてた。

 そういえばミヤコさんにそれとなく聞いておいてって言われてたっけ。ゴタゴタしてたからしょうがないとは思うけど、いい機会かも。

 

「ん? 知りたい?」

「ぜひ!」

 

 口元がすごくニヤけてる。これは遊ばれてるな、という自覚はあるけど仕方ない。

 

 母として、娘の初恋の相手はきちんと把握しておかないとっ!(決意)

 

「ママの墓前で言うのもアレだけど、つーちゃんならいいかな?」

「うんうん、それで?」

「あ、ママって言っちゃった。マズかったかな?」

 

 いまさらだよぉ!

 

「お二人がアイさんの子供だというのは存じてますわ!」

「え、そうなの?」

「隠してるつもり、あったのですか?」

 

 特にルビーなんてどんどんわたし(アイ)に似てきてるし。パパも感づいてるみたいだし。

 

「いやあ、やっぱり出ちゃうのかなぁ〜。アイの遺伝子ってヤツが♪」

「得意満面な笑顔っ! 可愛い!」

 

 墓地だからスマホは出さないけど、写真撮りたいですわ!

 

「後で今の表情、お願いしますっ」

「つーちゃん、ときどき面白くなるねぇ♪」

 

 たぶん、パパの遺伝子のせいっ!

 かわいいは正義、を地で行く人だからねっ!

 

「では、なくてぇ。せんせのお話しなんですぅー!」

「ああ、そうだったそうだった♪」

 

 手をポンと叩いて和むルビー。この表情もいいなぁ。

 

 すると、もう一度墓石を見てからぽつりと呟いた。

 

「……やっぱ、場所変えよっか」

「え?」

「ママに報告するのは、ちょっとアレだから」

 

 アイに隠したい、ということ?

 それがどういう意味なのかは分からないけど。手早く片付けるルビーを見ると、河岸を変えるというのは本当なようだ。

 

 手荷物をまとめ、集めたごみ袋を持って最後にもう一度墓石に頭を下げる。そこに眠るはずの魂は私だけど、これは礼儀だ。

 

「また来るね、ママ」

「……」

 

 気の利いた言葉なんてかけられない。自分が、自分にまたね、という事がどれほど滑稽なことか。

 

 一つだけ分かったことがあった。

 

 墓の前に立っても、特に何の変化もなく。わたしは私のままだったこと。アイとしての気持ちは理解出来るけど、私自身の気持ちも消えはしなかった。

 

 つまり。

 私はやはり、鏑木月代でしかない。

 

 アイという魂は確かに崩れてこの世界を構成するものに還ってしまって……もう二度と、再生成されることは無い。

 

 わたしは、アイではない。

 

 それが分かっただけでも、来た甲斐はあった。まあ、別人だから来る必要が無いとは言わないけど。

 

「わたし。るーちゃんと会えて良かった♪」

「そう言ってもらえると嬉しーなぁ♪」

 

 ルビーが手を出してきたので、手を繋ぐ。親と娘じゃなくても、友達として繋がりあえる。

 

 こんなに、うれしいことはない。

 

 

 

 僅かに滲んだ視界に、こちらへ歩いてくる人影。

 

 私はルビーの後ろに回り道を開ける。サングラスを掛けた方は外国人のようで、鈍い金の髪をしていた。目深に被った中折れ帽が、とても似合っている。

 

 白杖を突いているところを見るに、目が不自由な方らしい。歩き方もぎこちなく、この道を歩くのも難儀そうだ。

 

「だ、大丈夫ですか? お手伝いが必要でしょうか?」

 

 私がそう声をかけた時、手に抵抗を感じた。

 

『ルビー?』

 

 ルビーは手を離さずにこちらを引き留めていた。

 

「ありがとう、親切なお嬢さん。でも、慣れてはいるから平気だよ」

 

 意味を問い質す隙もなく、彼はにこっと笑って断ってきた。

 

「そうですか。差し出口をして申し訳ありません」

「なに、気にしないで下さい。貴女方もお気をつけて。この辺りは寂しいですからね」

 

 私だけでなく、ルビーの方も向いてそう答える。まったく見えない方では無いらしい。

 

「いこ、つーちゃん」

「はい。では、ごきげんよう」

「ああ、ごきげんよう」

 

 中折れ帽を持ち上げて会釈する紳士。その姿が、とても印象的だった。

 

 少し離れた所で、ルビーがぽつりと呟いた。

 

「……あの人。たぶん目、見えてたよ」

 

 その言葉に、少し驚く。

 

「……よく見てますね」

「つーちゃんが声を掛ける前からこっちに気付いてた、と思う」

 

 サングラスだから目線は見えないと思うけど、視線を感じる、ということはある。私は気付けなかったけど彼女はそれを感じたのだろう。

 

「なんでそんな……」

「分かんないけど、関わらない方がいいと思う。いこう」

 

 少し強く握られた手。

 そこには緊張が感じ取れた。

 

 

 

 

・・

 

 

『うわ、間違いないよ。ロリコンてやつだ、アレ。つーちゃんや私に目を付けるとはお目が高いとは思うけど、そーゆうのはNOさんきゅー! さっさと帰ろっと』

 

 大切な妹分なんだから、私が守らないと。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

『ふふ……二人とも。きれいになりましたねぇ……』

 

 花を供えると、手を合わせる。

 こんな事で罪は償えないし、贖える訳はない。

 

 これは儀式だ。

 

 かつて愛した人の墓標に、僕の捧げる叙事詩の一節。

 

 愛娘たちの織りなす輪舞曲(ロンド)を。

 

 どうか、見ていてほしい。

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