プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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今回、色んな視点が混ざり合う形になってます。ザッピングとでも言えばいいのかな? 三人称視点が難しいネ(笑)


東京ブレイド 開演の儀

 その日。

 初公演を観に集まった人々の中に、関係者として深く関わった人たちが居た。

 

「スゴい。けっこう入るみたいですねぇ♪」

「プロデューサーの雷田さんから聞いた話だと、初公演は完売だそうよ」

 

 その日以降も完売が続いているらしく、原作の勢いというものが知れる。その原作者は少しはしゃぐようで足取りは軽い。

 

 今回の観劇のために締め切りを前倒して描き上げたテンションのせいか、普段は見ないほど朗らかだ。いつもこうなら、アシスタントといがみ合うことも無かろうに、と頼子は嘆息する。

 

「アビ子先生の作品あればこそですよ」

 

 そこに声を掛ける人があり、人見知りのアビ子は頼子の陰に隠れた。

 

「……わりと仲良くなれたと思ってたんですけどね」

 

 乾いた笑いをする男は脚本家のGOA氏である。チャットで話し合った間柄なのに隠れられるとは思わなかったらしい。

 

「お気になさらず。青春全部漫画に費やしちゃったコなんで、免疫無いだけですから」

 

 そう答える頼子に不満げにするアビ子だが、言い返したりはしない。この場で放り出されたらテンパるのは自分だから。

 

「画面越しに語る先生の姿とはギャップが凄くて、正直可愛らしいと思えます」

 

 はは、と笑いながら言うGOAに、アビ子は赤面する。『か、か、カワイイだなんて、この人タラシなの!?』とか思ってたりもするが、声にはでていない。

 

「そう思うなら、もっとグイグイやっちゃって下さい」

「せ、せんせえ!」

 

 楽しそうに笑う頼子に、アビ子は慌てたように大きな声を上げる。

 

 すると。振り向いた頼子は彼女の肩を掴んでくるんと前に出す。引き籠もってばかりの漫画家とは思えない身の軽さに、アビ子だけでなくGOAも驚く。

 

「恋愛のイロハは教えられても、実地までは出来ないの」

 

 漫画家として師の立場にある頼子とて、その経験は少ない。漫画の作法と実体験は違うのだ。

 

「よかったら、今度お茶でも行きませんか?」

 

 すると。

 少しだけ顔を赤らめてGOAがそう言ってきた。

 

「僕も、文芸にハマって青春逃してたクチなんで。お互いのために勉強ということで」

「! ……そ、そうなんですか」

 

 喜色を取り戻すアビ子に、頼子は肩の荷が一つ降りた事を自覚した。

 

『……私には、いつ来るんだろうなぁ』

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 会場のロビーの一角、平型のソファに座る黒髪の女性が居た。忙しなくスマホを操作しているが、年齢はまだ高校生ほどにも見える。某配信者の付けている角のついたカチューシャからするに、そのファンなのかもしれない。

 

 その少女が、ある一団を見つけて立ち上がって声を出す。

 

「あ、こっちコッチー♪」

「え?」

 

 その一団は男二人に女の子一人という組み合わせ。しかも皆が整った顔をしているため、周囲からも浮いていた。

 

 かくいう少女の方も、目鼻立ちはスッキリしてるし幼く見えて可愛いと呼べる容姿だ。

 

「あの、どちら様?」

 

 黒髪の男子、熊野ノブユキが怪訝そうに言うと、もう一人の灰色の髪の男、森本ケンゴが驚く。

 

「え、お前分かんないの?」

「もう、ノブ君にぶいなぁ」

 

 黒髪ロングの女性、鷲見ゆきが軽く肘打ちするとようやく合点がいったらしい。

 

「おま、……メムか?」

「御名答〜♪」

 

 手を叩いて喜ぶ少女こそ、配信者でありアイドルグループ『B小町』のメンバーでもあるMEMちょ、その人だった。

 

「え、でもその髪……」

「ウィッグだよーん♪ アイドルだもん、変装くらいしないとね」

 

 いつものようににこやかに笑うと、確かにその人だと分かる。

 

「メム、おひさー」

「おひさー、元気だった? その他も?」

「その他言うな!」

 

 鷲見の言葉に答えるメム、そしてその他と言われたことを異を唱えるノブユキ。

 

「ん、? どした、ケンゴ」

「ああ。メムって、やっぱり可愛かったんだなって」

「ええっ!?」

 

 マジマジとメムを見つめるケンゴに、メムは驚いてしまう。

 

「あん時、黒髪だったらもっと押してたなぁ……」

「確かに大人しくて可愛く見えるな」

「そうだねー♪ 今よりもっと子どもに見える。中学生くらい?」

「そ、それは言い過ぎだよおっ!」

 

 三人がそう言うのも仕方が無かった。黒い髪のウィッグはショートボブであり、着ている服装もかなり若者向けなカジュアル路線。原宿などを歩いていたら間違いなく遊びに来た中学生にしか見えない。

 

 だが、内心メムは焦っていた。

 苺プロの面々にはバレてしまっているのだが、今ガチメンバーはまだ高校生(笑)として通っているのだ。

 

『若く見られて心苦しいとは思わなかったー』

 

 良心の呵責に悩まされたメムであった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「パンフレット買った♪」

「後でもいいじゃないの」

「これは先に見たかったの」

 

 ミヤコさんの呆れたような口調に駄々をこねるような私。いつの間にか、本当に親子みたいな会話が出来てる。

 

『アクアが招待してくれたのって初めて』

 

 それまで何度か映画やドラマにも端役として出ていたけど、今回はちょっと違うみたい。

 

「ルビー。私にもちょっと見せて」

「うん、いいよー。でも、曲げないでね」

「やらないわよ」

 

 パンフレットをミヤコさんに渡すと目を落とす所がなくなるので周りを見渡す事にした。よく見れば芸能人とかも多い……あ、ゆきぽだ♪ 周りには今ガチの人もいるし、あの人たちも招待したのか。

 

『ん?』

 

 あのMEMちょのツノ付けた娘、可愛いなぁ♪ まだ中学生くらいかな? 誰かの妹ちゃんかもしれない。

 

「けっこう、芸能関係のひと多いのかな?」

「後ろの席って、やっぱりそういう人が多いらしいわよ」

「へえ〜」

 

 そこで、ミヤコさんがくすりと笑う。

 

「あなたもその内の一人、なんだけど」

「そ、そお?」

「でも、変装とは言え平気かしら? あなた、似過ぎてるから」

「あ、……うん。だいじょぶっしょ♪」

 

 誤魔化すように笑って答える私。

 ミヤコさんの危惧は、私の今の姿に問題があるからだ。

 

 変装のためにキャスケット帽を被り、伊達メガネを付けているけど、念の為にウィッグも付けてたりする。その髪色が、少し青みがかった黒髪……ママと同じなのだ。

 

「さっき挨拶した五反田監督なんて、幽霊でも見た感じだったし」

「ま、まあ。カントクくらいしか分からないよ、うん」

 

 少し前の席に居るカントクは、時折こちらをチラチラと覗いてたりする。気まずいったら無いね。

 

 でも、他の人はそこまでじゃないし。せいぜい見惚れてるくらいだし(こちらを伺うケンゴの視線)

 

 ま、大したことないやろ(笑)

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

『やべえ……マジにアイかと思ったぜ』

 

 内心冷や汗をかきながら挨拶の後に席へと座る五反田。アイの子供たち、という予測は図らずも確信へと変わる。

 

『アイツ。あの企画をやるって言ってたのはコレかぁ』

 

 アイの代わりを演ずるなら、ルビー()しかありえない。監督としての嗅覚がそう判断する。

 

 演技力という面なら候補は幾らでもいるだろうが、あの瞳は誰にでも真似出来るものではない。それに幼少期という多感な時期を母であるアイと過ごしていたという大きなアドバンテージ。これは役者としての技術や情報などでカバー出来る類の事じゃなく、(なま)のアイと接触してきたルビーにしか無いものだ。

 

『今のうちに演技を仕込むか? でも、アイドル業の合間を縫って出来るかなぁ』

 

 アイの娘だからアイと同じに出来るかというとそんなわけはない。アクアからのイメージで言えばアイよりもおバカらしい。アイは思考力が育ってないだけで考えればちゃんと答えを出すのだが、ルビーはそうなのだろうか。

 

『機会を作って会っておくべきかな』

 

 最近は鏑木の娘との接点も出来たし、アイツに頼んで連れてきてもらうか。

 

『そういや、その娘……』

 

 あの日。

 大泣きして、べそをかきながら父親の車でアクアと一緒に帰ったが……きちんと回復できてるのだろうか。日数は経ってるし、問題があったなら役を降りてるだろうから大丈夫なんだとは思うが……あの泣き様は一体何だったのか。今でも理解出来ない。

 

『小学生の、泣き方じゃあない』

 

 勝手なイメージだが、普通の子供が泣いても、ああはならない。

 

 有馬の子供の頃の泣き演技とも違う。

 

 なんというか……もっと深い、哀しみを湛えていた。まるで生きていることが罪であると自覚した犯罪者のような、そんな感じだった。

 

 あれが演技だとするととんでもないタマだが、そうではないと思われる。

 

 それはそれとして。

 あの娘なら子供の頃の双子も出来るかもしれない。

 

 それを見極めるためにも来たわけだ。

 決してアクアの事が心配で来た訳では無い。

 

『あの役なら発作は起きないし、ましてや脇役だ。プレッシャーも少ない。今のお前なら、やれるはずだ』

 

 アクアの事は心配してはいない。

 それだけのことは仕込んできたし、このところの仕事のおかげで肝も据わってきた。それだけの自信を持って送り出したつもりだった。

 

 その立役者たる男は、いまここに姿を見せていない。

 

 あいにく初公演は仕事で抜けられないとメールが来ていた。大の男が泣き顔の絵文字とか使うなと言いたいが、年頃の娘と接しているとそうなるのだろうと思うことにした。

 

 鏑木勝也という男。

 アイツに先見の明を見出したのは、その嗅覚からなのか。

 それとも……

 

『んなわけないか。親バカだもんな』

 

 娘の(つがい)にするために鍛えるとか昭和かよ、独りごちる五反田だった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

『うええん。仕事が終わらないよお』

 

 車で移動中の鏑木は、内心で泣き言を漏らしていた。

 

『つーちゃんの、晴れ舞台なのにぃ』

 

 初公演は見られなくとも、公演自体は一月ほどの期間を設けてあるし予約も取れている。だが、晴れの日に付き添えてないという事実が彼を責苛む。

 

『パパ、お仕事ガンバッてね♪』

 

 忙しいだろうにお弁当まできちんと詰めて送り出してくれた愛娘に対して、なんと不甲斐ない。彼方の空から妻が冷ややかな笑みを浮かべているような気がして、それが余計に彼を病ませる。

 

『くそ、仕事なんてやめてしまいたいっ!』

 

 ドットTVとの契約満了が近いために引き継ぎに時間が取られすぎている。独立した際に前職での職場から足を引っ張られては敵わないので足を棒にして働いてはいる。今日の日だけは空けたかったのだが、望みは儚く消え去って職務に従事している次第だった。

 

『アクアぁ……あの、害虫のせいでぇ』

 

 役が出来ないという事情を後から聞いて、雷田との話し合いから各方面への調整と相成り、結果として自身の仕事へのモチベーションが低下したと言いたいらしい。

 

 ひと、それを八つ当たりと言う。

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