プロデューサーの娘になってしまった   作:だだ甘鏑木Pすこ

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……少し体調崩してまして、更新が遅れがちです。申し訳ありません。


東京ブレイド 追加部分の儀

 (もんめ)という役の初めて見た時の感想から言うと。それは典型的な『子供』だった。

 

 

 課せられた使命に対して憤り、だからといって反発もせず、唯々諾々と父の命じた通りに鞘姫の一族に仕えている。

 

 反抗期を過ごせずにいた男子そのものだ。自分のなりたいものも分からず、だからといってそれに背くことも選べない。

 

 本来の性格ゆえに剣に対して一歩引いた姿勢にかかわらず剣の才だけは一廉(ひとかど)のものとなる資質を秘めている。

 

 この二つの自己矛盾を抱えるため、戦い方は消極的にならざるを得なくなり、強いにも関わらず刀鬼に及ばない存在として描かれている。

 

『似ている……』

 

 親の、いや祖母の希望によって産科医を目指さざるを得なくなった、何処ぞの男に。

 

 あの人生に意味があったかと言うと、それなりにはあったと思う。

 

 非常に勝手な想い込みながら、さりなという少女の最後に寄り添え、アイという不世出のアイドルの出産に携われたのだ。

 もちろん他の命の誕生や喪失にも関わってはいたが、個人的な思い入れで言えばその二つ以外にはありえない。

 

 それ以外に言うことがない程に、あの人生自体には充実感は無かった。今の人生と比べれば華やかさで言えば段違いだ。まあ、そんな人生だとしても辛いことがないなんてことは無い。

 

 母という存在の消失。

 元より父などどこの誰かも分からない。

 

 そういう所も似ているのだ。

 彼に遺されたのは剣と使命であり、俺に遺されたのはこの体と復讐。

 

 なればこそ、俺はこいつの思いは理解できる。

 

 その身に余る才を燻らせ、彼が追い求めるもの。

 

 刀鬼と鞘姫という主従の(つがい)に対しての、羨望と嫉妬。新宿クラスタという外敵に対する憎悪とグループとしての体質の差による憧憬。

 

 色々な感情が綯い交ぜになった状態であり、それを全て演じるのは無理があるかもしれない。

 

 だが、それをしなければこのキャラは薄っぺらい存在になってしまう。そうは、させたくない。

 

 

『演出。ちょっといいですか?』

『ん、ああ。なんだ?』

『ここの演技なんですが──』

 

 演技における心理描写とは、わりと分かりづらくて面倒なものだ。実際に話を聞く前の演出、金田一敏郎の反応はよくなかったが、聞いてるうちに頷く回数が増えてきた。

 

『いいだろう。上と掛け合ってみる』

『いいんですか?』

 

 言ってはみたものの、通るとは思ってなかった。だが、演出は当然のように脚本に書いたメモを眺めて言った。

 

『俺も妙だと思ってたんだ。こんなガキが素直に言うこと聞くわけねえっ、てな』

『!』

 

 彼も疑問を抱いていたのか。これが原作者の意図した事なら伏せる理由にもなるけど、そうでないなら不自然な描写と言える。

 

『俺の方からも上げるが、本番まで日数も限られてる。非公式なルートが有るならそっちからも(つつ)いた方が早いかもな』

 

 ニヤリと笑って言ってきたのはたまげたが。

 コイツも、一筋縄じゃいかねえタイプ。この業界、クセモノ多すぎだ。

 

 

 だが、概ね望む展開を得ることが出来た。

 

 非公式なルート(吉祥寺先生)からアビ子先生へと話は伝わり、演出との話し合いはスムーズに終わり。後日、脚本に改訂が加えられた。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「……あいつら、来ますよ。どうします?」

 

 渋谷クラスタでの会話。

 匁の言葉に刀鬼は素気無く答える。

 

「どうもこうも。俺は鞘姫の懐刀。主君の(めい)に従うまでだ」

 

 こちらと違い、守るべき存在が確としてあり揺るぎないのが刀鬼である。

 

 だが、匁はそうではない。

 

下僕(しもべ)のあの鬼族でも相当な猛者だったのですよ。正気ですか、刀鬼っ!」

 

 額に脂汗を流し、顔を青ざめさせる匁。先ほどの戦いには勝利したものの、気迫では完全に負けていた。

 

 腕は小刻みに震えその場に立つのも苦しげな様子の匁に、刀鬼は溜息を吐きつつ近寄る。そして胸倉を掴み上げると一気に引き寄せ、唸るように呟いた。

 

「あいも変わらず、小さな肝よな」

「……あなたは、怖くはないのですか」

 

 苦しげに刀鬼を睨む匁。

 その姿にニヤリと笑う刀鬼。

 手を離し、距離を取ると彼は言う。

 

「俺の(いのち)は鞘姫のもの。彼女のために使うのは当然だ。お前とは違う」

 

 侮蔑を感じさせる視線に顔を俯かせる匁。

 だが、刀鬼はせせら笑うように言い放つ。

 

「逃げたければ逃げるがいい」

「な、なに?」

 

 まさかの発言に、驚く匁。

 刀鬼は己の刀の柄を握り、言葉を続ける。

 

「ただし、一つだけ条件がある。鞘姫を連れて行ってくれ」

「なん、だと? あなたは……」

「もしもの話だ。俺が散って、お前が生き残っていたのなら……さやを頼む」

 

 そう語る刀鬼に、先程までの嘲弄するような素振りは見えない。

 

「……それはあなたの役目でしょうっ!」

 

 匁が、苦しげに問いかける。

 懐刀は最後まで主人のために命を捧げるものだ。

 

「共に散るのは忍びない。あれは……妹のようなものだからな」

 

 ふっと、笑う刀鬼。

 それは死を覚悟した男のもの。

 今度の合戦は、命のやり取りになるに違いない。その嗅覚から彼は確信していた。

 

 だが、それに異を唱える者がいた。

 

「……そ、それは出来ません」

 

 顔を伏せ、絞り出すように声を出す匁に刀鬼は怪訝なものを見る。

 

「……お前」

「主君と下僕なら……私も自らの保身のみを考えていました。だけど、肉親の情と言われては応えられない。それこそ、お前の役目だろう、刀鬼っ!」

 

 匁の目に、輝きが戻る。

 と、同時にオーラのようなエフェクトが燃え上がるように現れる。

 

「……まさか剣気が戻るとはな」

 

 そう。これこそが、剣気。

 剣主に(つるぎ)が応えたときに現れる証である。

 

「……あなたたちは、私が守ります」

 

 瞳に輝きを宿したまま、匁は言う。

 

「父を守れずにいた愚か者ですが、此度こそは」

 

 その言葉には自嘲の響きがあった。

 自らに剣を与え、そのために身を守ることが出来なかった亡き父親への贖罪。それが匁の心を縛るものだった。

 

 だが、刀鬼はふっと笑うと彼の肩に手を掛ける。

 

「さやを護るならいざ知らず、この俺も守るとは。大言壮語にならねばよいな」

「……あなたも、ゆめゆめ油断なされぬよう。御身が鞘姫と同義なれば、ですよ」

 

 背を向けて離れる二人をあとに、暗転する舞台。

 

 そこかしこから、観客たちのため息のような嬌声が上がる。二枚目役者二人による共演であった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

『はああ〜♡ たまりませんわぁ〜♪』

 

 舞台袖から覗く光景が尊過ぎて消えてしまいそう……

 

 鴨志田さんの少し荒々しい刀鬼と、心の弱さを見せつつも芯の強さを表現するアクアの匁との絡み♪

 

 はじめはどうかと思ってたけど、やはりイケメンは勝つっ! 顔面至上主義と、どこかの作家さんも言ってましたし(笑)

 

 観客の方々もそれがよく分かっているのか、うっとりとしたため息がちらほらと聞こえてます。

 ああ、やはり同志たちが居るのです。私は、一人ではないのですね。

 

 出来ることなら、観客として見ていたかった……円盤出たら買わないと。

 

 まあ、間近で供給出来る分もあるから良しとしよう。物事はポジティブに考えないとねっ!

 

「月代ちゃん、そろそろスタンバイ入ってね」

「はーい」

 

 声をかけてきたのは化野めいさん。役者としても活動してるけど、今回はさらに声の担当でもある。

 

 そう。私の演じる鞘姫の幼い頃の刀鬼の声を演じているのだ。

 

 男の子の声を演じるのって難しいと思うんだけど、そこはそれ。本物の役者さんは違うなぁ。

 

 ぱたぱたとメイク担当が来て、手早く直していく。舞台ということもあって化粧は少し濃い目。慣れないけど仕方ない。

 

「よし。かわいいよ、月代ちゃん」

「ありがとうございます、いってきます♪」

 

 メイクを直しつつ衣装のチェックも終わり。私は舞台へと送り出される。

 

 さて。

 がんばるぞっ♪

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「新しく家臣となった子がいたと聞きましたが」

『ああ。同い年くらいのだ。剣主として認められていると聞いている』

「まあ……それでは兄さまと同じですね♪」

 

 手を合わせて喜ぶ幼い頃の鞘姫。だが、シルエットの声は懐疑的だった。

 

『だが、アイツは随分と気弱に見える。剣主としてやっていけるのか……些か不安だ』

 

 その言葉に、くすりと笑う少女。

 

『なにか、おかしかったか?』

「いえ……兄さまがわたくし以外に気を掛けるのが珍しくて」

 

 花が開くような笑顔に、シルエットの少年は言葉を詰まらせる。

 

『……そ、それは』

「期待出来る方、ということですわね」

『……スジは悪くない。たぶん、俺よりも強いと思う』

 

 それは、彼女の懐刀という矜持を傷付ける事だった。それでも、認めざるを得なかった。

 

「で、あれば。またお話する時間が減ってしまいますね」

『……すまない』

 

 鍛練に費やす時間を増やすには、それしか方法はない。その事実に少女は顔を曇らせる。

 

「いえ。武家の娘たる者、その程度は覚悟しております。兄さまはご自分の為に時間をお使い下さい」

『うむ。では、さっそく行ってくる』

 

 そう言うと、足早にその場を走り去るシルエットの少年。

 

 一人残された少女にスポットが当たり、彼女は顔を俯かせ。

 

 そして、舞台は暗転する。

 

 

 それをじっと見つめる観客の一人。

 

『……あの年齢でこれだけ出来るとは驚いた。ほぼ一人芝居なのに情景が浮かびやがる』

 

 映画監督としての目が、彼女を見据える。

 

『でも、どっかで見た事あるんだよなぁ……』

 

 その既視感に思い当たるのは、それから随分経ってからになる。




なお、アビ子先生と吉祥寺先生は改訂作業に嬉々として取り組んだと言う話です(笑)
アクア:(この業界。もうダメかもなぁ……)
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